お通夜の夜


病院から搬送されてきた時のジジタンは

病人顔だった。でも旅支度をしてもらって

綺麗な着物を着せられたら

今日はお別れの儀式。お通夜です。

大きな舞台に上がって、

ジジタンはみんなを見ている。


ああ・・本当なら旅支度のジジタンの姿は

全身で見てもらいたかったな。

今までは、お別れの時

棺桶の顔の所しか見れなかったから

こういうもんだと思ったけど


実は全身で見せてもらえると

「わああ!タビも履いている。お出かけ」と言う

気分になる。ちょっと明るい気分に

私達も変えてもらえるのを知ったのです。

この変身の仕方は、凄い。マジック。

死化粧はしていないけど

やっぱり、服を着替えたりする事で

外観が変わると、周りに与える影響力も変わる。

本当にそう思った。

ちなみに、納棺師さんからお着替えの時

一瞬、上半身を起こされた時があったのね。

それを親戚がみんな見て

「おお!生きているようだ」

「本当。介護されているみたい」と言った。

亡くなった=寝ている印象の為

亡くなっても、起き上がっているようにされると

現実を覆せるんだなあと、思ってしまった。

でも、現実は何も変わっていないんだけどね。

だってそうなんだもの。

大きな会場は、遠くからも分かるジジタンの顔写真。

沢山の花を飾ってもらった。

先ほど布団で寝ていたジジタンが

今度は大きな舞台に居る。

写真(スクリーン)の下には

棺桶がある。ここにジジタンがいる。

ここまで本格的に準備が整ったら

もう後には引けない。

もう、決められたレールの上を走るだけ。

親戚が揃った。

久々に仲良し従妹にも会えた。

中には挨拶をされたけど、

誰か分からない人もいる。

忙しい中、ジジタンの為に

本当にありがとうございます。



お通夜は、

お坊さんのお経が長かった。

二人のお坊さんが来てくれて

聞いている私達は、

二部合掌のように聞こえてくる。

不思議なんだが、お経を聴いていると

私も浄化されているような気がした。

ハモっているようなお経、

時々、バーンと鳴らすシンバルの様な音。

ジジタンへの懺悔の気持ちが

少しずつ、心を溶かされていくような感覚があった。

DVDが流れた。

ジジタンの好きだった石原裕次郎さんの

「わが人生に悔いなし」と言う曲をBGMに。

お若き頃の仕事仲間との写真、

私とジジタンの2ショットの写真も写った。

親戚と一緒の写真、そして弟の結婚式の時に

ジジタンが映っている写真、

最後はジジタンと母とちぇり(孫)が

映っている写真。

この時のジジタンは、右手を上げている。

まるで「じゃあ!先に行ってるから」と言っているように

私には見えた。

喪主の弟の言葉を最後に

お通夜は無事に終了した。

親戚と顔を合わせると

「ため息しか出ないね」

「本当に急だったね」と

何度も言い合った。

会食で親戚でテーブルに着く。

今はコロナ対策の為、一つのテーブルにならず

オードブルではなく、お弁当式になった。

あまり食欲もないけど食べないと。

この2〜3日、睡眠時間が3時間だな。

今夜は眠れるかな。

明日はジジタンの骨を拾うんだから

ちゃんと寝て明日、しっかりしないと。

・・・そんな事も思いながら食事。

その後、私の職場の人達が

お通夜に来てくれた。

「大雨だったのに、一瞬だけ雨が止んで

無事に会場に来れた」と上司。

おお!そんな事が!?

次から次へと私と働いた事のある人達が

来てくれた。

「次々来るよ」と言われた。

お通夜もお葬式の件も

各店の人達には知られないように

してもらったのに

こうやって来てもらえると

有難いと思った。

さらにビックリしたのは

お通夜に前の店で一緒だったエースが

参加してくれた事。

皆さん、ジジタンの為にありがとうございます。

私も、いつもの自分になり

来てくれた職場関係の人達が

ご焼香をしてくれる為、

2階に案内をする。

そして亡くなった話や

救急車で運ばれた話などをする。

何位人にも同じ事を話し、

さらに階段の上り下りをしているので

いい運動になってきた。

「ジジタン、〇△□さんが来てくれたよ〜」と

写真の所で声を掛ける。

みんなに「みかりんさん、ジジタンに

似てないですね」と言われる。

うん。似てなくて良かった!←

「今日は店、忙しかったんですか?」と

聞いたりしてると

自分もお通夜の暗さに

どっぷり浸かる事もなく

むしろ「来てくれて有難い」と言う気持ちが勝ち

私も笑顔になれた。

早く普通に仕事をしている自分に

戻りたい。

そして、このジジタンの死を

忘れて、以前のような生活がしたい。



ジジタンは暫く「STAY HOME」だった。

そして、緊急事態宣言が解除されたら

私は別な意味で「新しい生活式」が始まった。

そのスタートが、ジジタンの死。

コロナは関係なかったけど・・。





明日、火葬。


とうとうジジタンの肉体が


消滅してしまう。