温泉ストーリー


母が「明日、お風呂入りに行くんだけど
良かったら混ざらない?」と誘われた。
母のお友達三人で、温泉に向かうと言う。
私は仕事が休みだったので
混ぜてもらう事にした。

断水も5日を過ぎると、
水が心の奥底から欲しくなる。

こないだてっちゃんが
近くの温泉に行った話しを聞いた。
職場のメンズ達もお風呂に行ったし、
彼氏も隣の県まで行って温泉に入ったと言う。
私は行きたかったけど、
女の事情で無理だったのだ。
でも、そろそろ体の芯まで温まりたい。

蒸しタオルで髪を拭くのも
顔を蒸すだけの洗顔も
そろそろ限界だ。

私は明日の準備をする。
大きめのタオルと小さいタオルを用意する。
こんな時に役立つシャンプーとリンスの
サンプルもあった。
すごく有難い。
基礎化粧品のサンプルも
あったので
それを全部バッグに入れた。
このバッグは
水着を入れていたビニールバッグだ。
何故かハイビスカスのピンクだ。



明日は温泉♪どこに行くのかワクワクして寝た。


朝、8時半に集合した。
母のフレンド車を運転してくれるSさんと
ご近所さんOさんと、母と私で4人で出かける。

これから向かう温泉は旅館で
体の吹き出物にとても良く効くお湯で
Sさんはいつも通っていると言う。
回数券まで持っているので
そうとうのお気に入りと見た。
其の場所はどちらかと言うと
マニア向けらしい。


人の車に乗せられて
ちょっと小旅行気分。
嬉しいなあ。
車の中での会話は

「亭主元気で留守がいい」
「なんか毎日顔合わせていてイラつく」
「ちょっとは黙っていてほしい」

と言った内容だった。
「歳を重ねるとだんだん丸くなるって言うけど
あれって違うよね?

だんだん諦めるようになるの!!」
お母様達が言う。

ほほう。そうか。
さすが君麻呂さん世代。

「でも、地震の時はただ居てくれるだけで
安心感があるから
そ〜ゆ〜時はいいね」
「うん、ちょっとだけね」
「そう。ちょっとだけ。」
「丸一日なんて居たくないでしょう」
「どこの おやんつぁんも同じ扱いよ〜」

・・・私の中で
結婚願望が60パーセントになった所に
熟女達の発言は大変毒ですぅ。


さて。面白いホンネの話を
聞きながらあっと言う間に
目的地に着いた。
初めて来たので新鮮。
昭和を思い出させる建物に
昭和40年代を思わせる。

坂を下って温泉に向かう。
向かう先にはカワイイ梟の石が
お迎えをしていてくれた。
玄関を開けるとすぐフロントだった。
回数券を私らもSさんから
もらってお風呂へ行く。


入り口で、熱気を感じる。
中は15〜6人位入れる小さな温泉だったが
ガラガラだった。
私ら4人と、先客のお客さんがいた。
早速服を脱ぎ、お風呂へ向かう。


緑色のお湯が見える。
シャワーのお湯が
久々に体を流れて行く。
すごく温かい。

お湯が使い放題で嬉しい。
お風呂は泳げそうだ。
足首からお湯を感じる。
体中の血液が熱くなる感覚。
なんだか・・嬉しい。
お湯は私のハラ、胸を温め
一息つく。
体中にお湯の温かさ・・
いや、もう熱さに近い温度を
肌で感じる。

縮まっていた毛穴が
広がっていく。
なんて幸せなんだろう。
腕を上げると水しぶきが

ピチピチとはならない。
でも久々にお湯に体中温められた。
このお湯を溜めるのに
どの位水を使うのだろう?と
考えしまう。

これは生活習慣と言うのだろうか?


髪を洗っても
お湯が沢山使える。
リンスもトリートメントもしても
お湯を気にしないで済む。
流れるお湯は
トイレ用にしなくて済むのが
嬉しい。

洗顔もちゃんと30回
バシャバシャできるのが
有難い。

体も洗えた。
お風呂で平泳ぎも出来た。

水があって当たり前と
思って生きていたが

そうではなかった!

ここまで困らないと
水の有難さを実感しなかった。

母と何十年か振りに
一緒にお風呂に入った。
幸せ2倍だ。

いつまでもあると思うな
親と水!と思う今日この頃だ。


この温泉に毎回来ているお客さんと
「あんたら何処から来たの?
断水してるの?」と声をかけられた。
こないだ来た人たちも
お風呂入れなくて来たと聞いたらしい。
話せばこの女性は
温泉の近くらしく
年齢は60歳。娘3人いると言う。
「お年寄りがいるから
自由になれない立場なの。
この温泉に来るのも
人目を忍んできているの。
内緒だからね。」と言う。

・・・でも、その割には常連。
なかなか面白いオバサンで
一緒にそのまま私らと合流。
何の違和感もなく
今日からお友達みたい。

お風呂を上がった後
お茶をみんなで飲んだ。
そして話をしていくと
一緒に来たOさんの
共通する人と
常連オバサンは
知り合いだったと言う事が判明。

「世の中狭い〜!」と言いあっていた。
「人って、何処で誰と繋がるか
分からないものね〜」

私はちょっと席を立った。
そして、フロント付近の
お菓子を見ていたら
「ん?なんだあれは」と
壁を見てビックリした。
その壁に貼ってあったポスターは
私の働く職場の2階に居る従業員さんの
着物姿だったからだ。
え〜!?なんで?


・・私はいつも職場で
挨拶をしていたこのポスターの人が
「家が旅館なんだって」と
誰かが言っていたのを思い出した。
もしかして・・この旅館?
温泉の旅館の娘?
私は常連のオバサンに聞いた。


「そうだよ。ここの娘さんだよ。
あんたもあの店の人だったの?」
きゃ〜!私とも繋がってしまったわ。

「世の中狭いですね」
「そんなもんだよ。ほら
あの奥にいるのが娘の父親」

まさかこのような形で
お世話になるとは
夢にも思っていませんでした。
お湯はとても気持ちが良く
断水していた私にとっては

最高のオアシスでした。

今度 職場でお会いしたら
お礼を言おう。


本当に世の中
誰と繋がるか分からないものですね。

だれにお世話になるか
分からないものですね。