THE 女歴(おんなれき)



鏡の前で、ドキドキしながら真っ赤な口紅を引いたのは子供の頃。

大人になったら、真っ赤な口紅が似合うようになるのだと信じていた。


学生の頃、制服を脱いだら 

化粧して好きな服が着れるのが嬉しかった。

異性に目覚めて、自分が女だと思い始めた頃

髪形とメイクは比例するので、どうちらかだけが一歩出てしまうと

チグハグな印象になると思った。

どこをどんな風にすればいいのか、研究の毎日だった。

(・・・と、言っても雑誌をみるとか、バイト先にいるお姉さまに

アイシャドーの色の使い方を教えてもらうとか


服や下着をもらったといった事しかない。)

ファンデーション一つで、化粧映えすると知った私は

この白粉箱一つで、世の中の景色が変わってみえた。

当時は、真っ赤な口紅ばかりが出回っていた頃で

この色が、似合うようになるのはいつかな?と思っていた。

17歳。ドキドキして口紅を塗ってみた。すると

なんだか顔から
口紅の色だけが浮いている顔を発見する。

これでは、デートに行けない。

私の基本は、夜中 
家を抜け出して深夜のドライブ

出かけるコースがメインだった。

どうせ夜なのだから、化粧なんてしたかしないか

分からない。それはそうなのだが
女心があるでしょう?

私は鏡の前で「まだピンクの方が似合ってる」と

自分に言い聞かせ、今日も
台所から抜けれる夜を待っていた。

靴箱と言う名のタンスに、ヒールのある靴を待たせておいた。



そんなデートを繰り返しているうちに、

化粧を落とさないまま眠りにつく夜(・・・と言うか朝)

目が覚めると 肌は「化粧をしていたのか、していないのか

分からない」と言う状況になる。

鏡をみたら、起き抜けの顔なのに、

ちゃんと大人顔になっている。

化粧は便利だなあ。と思った私。

しかし、私の枕やシーツは、肌色とピンク色に埋もれていた。

今 思うと、下地なんて気にしないで

メイクを乗せる事で精一杯だった。

何処のメーカーが良いとか、これは合う!と言う視点ではなく

自分のバイト代で、手に入れられるメイク道具だけで

十分だった。


さて。20代になり、基礎化粧品の使い方を

ノ○ビア化粧品にて勉強会をする。

当時肌のトラブルもない私は、やはり、基礎化粧品より

コスメ自体に魅力を感じていた。

新色の色がキレイ。こないだ買った服に合いそう。

世の男性は、いい人ばかり。年上の人が沢山いる。


20代前半は、ありとあらゆる誘惑が多い時期である。

お金が自由になって、まだ世の中も良く知らなくて

恋愛や、お金と言った幻覚に心を委ねたい年齢である。

好きなように過ごせて、時間も自分の為に使える。

そんな中で私は

真っ赤な口紅が似合う自分に出会えた気がした。


20代後半。

眉の描き方、アイシャドー、アイラインの入れ方、口紅

チークと言った仕上げの完全メイクをマスターし

思う存分 活用をさせてもらっていた。

しかし。この頃から私は現実に直面する事になる。

吹き出物に悩む。大人のニキビと言えば

まだ響きは良いが、ハッキリ言うと


「女性ホルモンが少なくなった」と言う悲しい現実である。

肌の水分が少なくなってきたのが

原因。あああ〜!!心のオアシスは何処!?

私の肌に潤いが少ないのは、何故?

「20代前半の女性が、キレイなのは

コラーゲンが沢山あって、そしていつでも恋をしているからよ」

そう美容部員に言われ、私はガタガタと落ちてしまった。

そう、女性ホルモンが減ると同時に、私は

「・・・この恋愛、後先見えてきた」と言う、


悲しい女の第六感を

発達させてしまったのである。


そして30代。

基礎化粧品をランクアップし、

肌のトラブルなしになった自分に満足。

毎日、7分 顔のマッサージをし

一週間に3回のパックをする時間が幸せ。


メイク力も「素顔は別人」と言いきれる程、

技術も上達したつもりである。

真っ赤な口紅より、ワインレッドの方が好きになった。

その時の流行もあるんだろうけど

基本的には、濃い目の色でグロスを塗る唇が好き。


32歳、独身。

気が付くと、女より母になっている人が多い中

私は母にならないままOLをやっている。

結婚して子供がいる人が、

社会に認められている大人なのではないか。

最近、そう思う自分がいる。

恋愛と結婚、仕事、自分の求めている将来、

色んな出来事が、複雑に絡み合って

世の中が成立している。

みかりん、32歳。

そんな社会の狭間に、自分の拠り所と、

私に合うサムシングを

いつも求めている。