疑われる女


それは一本の電話から始まった。仕事から帰宅し

夜ご飯を終え、何気なく電話をみると

会社からの着信が残っていた。なんだかイヤな予感がする・・・。

変な胸騒ぎを紛らわすように、タバコに火を付けながらコールバックする。


「みかりんちゃん!実はレジのお金が合わないんです」

MMはそう言う。「31.500円合わないんです。足りないんですよ」

足りない?どうして?現金とクレジットの区分を間違っているのではないか?

「それもチェックしましたが、問題なしです。」

お金が合わないと、清算できない。彼女らも帰れない。

「みかりんさん、今日 両替に行きませんでしたか?」MMは早口で言う。

「行ってないですよ〜。今日は間に合っていましたもの」

私はタバコを吸いながら言う。


「本当に両替、行ってませんでしたか?MM、今日 みかりんちゃんが

オレンジ色の封筒持って事務所に行ったと記憶しておりますが・・」と言ってくる。


ちょっと待って!両替に今日は行ってない。行ったのは昨日。

昨日は確か500円玉を5枚に替えた記憶がある。でも、それは昨日。

きっと 昨日・・。ああ。でも もしかしたら 今日 両替に行ったかな・・・。

MMに「オレンジ色の封筒持って」と言われると、私もあいまいな記憶になる。

もし。その31500円が両替に行った私が原因なら?

私に電話が来る。レジに入れ忘れたのか?

じゃあ、そのお金は何処にあるのだ?


まさか・・私が盗んだとでも思っているのか!?

冗談じゃない。私は金に困っていない女である。


すると それを察したのかMMは言う。「みかりんちゃん、もしかして両替したまま

トイレにでも お金を置き忘れたのじゃ・・・」

私はタバコの灰が、どんどん長くなっていく事に気づいた。

そう言われてみると 確かに私は両替に行きながら


事務所のトイレに行っている。

しかも その日は生理用品に気をとられていてた。

もしかしたら・・・私は 自分の身だしなみを気にしていて

トイレの横に両替したお金を放置PLAYしてきたのだろうか?


でも、待て。待て! みかりん

1万円札を何枚か持って 両替には

行くけど、いつも区切りのいい数字だ。


何故31.500円なのだ?この端数は私を悩ませる数字である。

でも 私も このお金合わない事件に

半分以上 絡んでいる事になっている。

「J上司も思い当たる事がないので、みかりんちゃんなら

何か知っているかと思って電話しました」MMは焦りながら話す。



今夜はMMとJ上司が遅番だった。

早番の人達は もうすでに帰っていたのだ。

私はボスにも連絡したのか聞いた。とりあえず事情は伝えたとの事。

でも原因不明。私は電話代がかかるので「今から職場行きますから!」と言って

電話を切った。


別に私が職場に向かったからと言って、この件が解決するワケではない。

でも、不安がって話しをされていると、どうしようもない。

疑われても、MMは私の可愛い妹分なのだ。


車のエンジンをかける。にぎやかなBGMを聴きながら

私は夜の出勤である。

・・・事務所のトイレの横に、お金を置きっぱなしにしてしまったのだろうか?

もし、お金をトイレに放置していたら、事務所の人が気づいてくれるだろう。

それか掃除のおばさんも気を利かせてくれているだろう。

もし、其のテナントで働く人が、私の後に個室に入ったとしても

みんないい人ばかりだから、お金を取っていったりする事はないだろう。

いや、絶対ない!と信じたい。



赤信号で止まる。私の心も止まる。私は本当にオレンジ色の

封筒を持って両替に行ったのだろうか?

もし、私の得意の放置PLAYが原因だったら、お金を弁償だろうか。

職場に向かう、この行為は

疑われ、
容疑者扱いを受けている自分を「白です」と主張したい気分が

車を走らせていいるのだろうか。


信号が青になる。私は一直線の道を ぶっとばす。

ああ。私は疑われているんだなあ。ツイテルなあ。

疑われる女なんて、ちょっとカッコいいんじゃない。悪女みたいじゃない。

ツイテルなあ。でも悪女より、小悪魔の方が響きはいいなあ。

つり銭が31.500円も合わないのか。ツイテルなあ。

日本語が合わないが、こう言ってみたら解決するんじゃないか?と思い

ツイテル事にしながら、アクセルを踏む。


職場の駐車場に到着。私は今から売り場に向かう事を

伝えようと電話を見る。するとMMからメールが入っていた。


「すみません。ありました。本当にすみません」と書いてある。

私は気が抜けた。そして、笑った。ツイテルじゃない!


売り場に「おはようございます〜」と私が入っていくと

「みかりんちゃん。ごめんなさい」とMMが言う。

J上司も「だから、来なくても良かったんだよ」と笑いながら言う。


何処にあったのか私は聞きたい。私が原因?

すると、現金はレジにあったと言う。


「実は、レジのずっと奥に31000円、もぐりこんでいたんです。」

お札が盛りあがっていたので

レジが開くたび、上に上がっていって 中に埋もれてしまったらしい。

お金の入る部分を取り出し、箱をみたら、笑いが止まらなかったと言う。



「だって、私らが 斜めにならないと見つけられないんですよ。

お金も斜めになっていたんだよ・・。きゅうくつそうだった・・」

J上司は笑顔で言う。

「MMも見つかった時、笑いました。
ああ。あったって!」

そう。じゃあ私の疑いは晴れたのね?

「いや〜。みかりんさん。疑ってましたよ!すみません」とJ上司が言う。

「いいんですよ、私もボケてましたから。今日 両替に行った気分に

なってました。」私も安心した。怒る気もない。あ〜バカみたい。と笑った。


・・・・で。31000円は解決。所で500円は?

「実はMMが、数え間違ったんです!」

「そう。それで また区切り良く31.500円なものだから」

そうでしたか。それはそれは。

奇遇ですねえ。


ボスにも連絡をしたとの事。

「思ったより、早い解決で良かった。もっと長引きそうだったら

全員巻きこむ所だった」とJ上司が言う。

そうだね。幸い私の所で解決して良かったね。

これ以上 疑われる人が増えたら、お互いマイナスだもんね。


さっぱりした気分で、私は

冷蔵庫に置き去りにしていた 午後ティーを持ち

帰宅した。


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