お墓詣りの後


祖父の命日の10日前

私は両親を車に乗せ、

お墓に向かう。

その間、約40分間、車内は無言。

私は不機嫌であった。

理由は私は

「11時に家を出る」と言っていたのに

「11時にはお墓に付く」と勝手に

父が解釈を変えたせいである。

ジジタン(父)は、前の晩は

遠足気分で「最初にお墓によって

後はみちのく駅に行って、

最後にラーメンを食べる」と

計画していたらしい。

私も母もラーメンは食べたかったが

歯のないジジタン(79歳)は、

(入歯が合わなくなった)←

ラーメンは食べずに、飲む気でいた。

ジジタンは、私の運転でお出かけ

出来るのを心の奥底から

楽しみにしていたらしい。

しかし。10時半になっても

車を出そうとしない私に

イライラしていたらしい。

「え?11時って言ったよ?」と私が言うと

ジジタンは、機嫌を損ねて一人で

車でどこかへ行ってしまった。

朝からムカつく!!

私は母と二人で

お墓詣りに行った方が

楽しいし、買い物もできるので

ジジタンを放っておこうと思った。

そして、そう思った頃、見事にジジタンが


帰って来た。時間厳守。

しっかり11時ジャストだった。

そして、無言で私の愛車クロの

後ろの席に座った。

線香と花を持った母は助手席。

私も朝から面白くないので

運転中は、無言。

BGMはジュリアナ東京。

後期高齢者の両親を乗せている車が

バリバリのテクノ。似合わないBGM。

いつもは爆音だが、

テンションも上がらないので

低めに音を出した。

どうせ、ジジタンは耳も遠いので

聞こえないから爆音でもいいかと

思ったが、「うるせー!!」と


文句言われるのが

目に見えていたので、このまま

親子三人、何も言わず無言。

そんな中で♪じゅりあな〜ときお〜♪と

言うジョンロビンソン様の声だけが

明るく聴こえる。

私の気分とはウラハラに

めっちゃ天気がいい。


「最初にお墓に行くぞ」と

ジジタンが初めて車内で

言葉を発した。

「その後は、みちのく駅だ」と

指示をされた。

そして、暫くクロを走らせた後

お墓に到着。

車を下り、急な坂道を歩く。

ジジタンは、歩くのが遅い。

さすが後期高齢者。

私はツカツカと先頭切って

坂道を歩いた。

私に、ジジタンを気遣う様子はなし。

すぐ後ろには母が居た。



祖父のお墓に到着。

私は昨夜

祖父の怨念(と、勝手に思っている)で

肩が重かったんですが!

祖父のお墓に付いて


「頼むからもう変な怨念送らないで

ください!!」


目を閉じて、手を合わせた。

「あと、ジジタンに疲れました。

なんとかしてください」とも

心の中で言った。

線香は燃えているが、

今日は風が強いので

何かあったら困るからと言う事で

火を消した。




そして、ジジタンの指示で

みちのく駅に寄り〜の

ラーメン屋に入り〜の(←若い人の書き方まねっこ)

ここで!すごいお墓詣り効果が

現れたのです。



毎回、行っていた其のラーメン屋は

この1〜2年、改装をして

毎回お昼時間には

「30分待ち」と言われる。

私は何度か

「じゃあ車で待ってます」と

言った事がある。

そのラーメン屋に入ったら

また「12組待ってるので、

30分かかる」と


言われた。

ジジタンは、きっと「それなら帰る」と

言うのかと思ったら

「いい。待ってる」と言った。

どうした?いつもなら待てないでしょう?

自分は歯がないので、

ラーメンを食べるつもりはない。


だけど、ラーメンを食べたい、

私と母を気遣っていたのか?


私達親子は、車の中で

順番が呼ばれるのを待っていた。

そして、思ったより早く

「中にどうぞ」と呼ばれた。



中に入ったら、カウンターの席に

案内された。

目の前には、「お待たせしました」と

笑顔で迎えてくれたスタッフの皆さん。

目の前でチャーシューを

切っている厨房の男性は

オーナーさんだろうか?

たぶん、そうだろう。

調理場からジジタンに


「その席ですと、

外からの風が入って

来ますから、

ご移動しましょうか?」と声を

掛けてくれた。

私は周りを見渡した。

周りの人達も何故かこちらを見ている。

オーナーさんの気遣いが

周りにも聞こえたのだ。


満席でいっぱいなのにそれは

無理でしょう?

だけどこの言葉が嬉しくて

ジジタンは満面の笑みになった。


「お気遣い、

本当にありがとうございます!」

私は周りに聞こえるように

少し声を大きめに言った。

そして、ジジタンがラーメンではなく

飲み専門だと察した

そのオーナー男性は

ジジタンが湯豆腐と、


餃子とビールを頼んでるのを見て、

「良かったら、

これラーメンの具ですが

おつまみにどうぞ」とネギとメンマを

サービスしてくれた。

えええ!なに!?今までそんな

サービスされた事なかったのに!

このオーナー男性は

私ら親子が入ってきた瞬間に

人を見抜いたのかも。

うちのジジタンは面倒な人と

見破られた(笑)のか

それとも、居酒屋辺りででも

働いていて、「飲む人」と直感で

分かったのか。


あ、歯がないから分かったのか?

とにかく、こういう

ジジタンみたいな客は

敵に回すより、味方にして

いい口コミをしてくれた方がいいと

私も思う。




そして、そのオーナーさんの気遣いは

私ら親子だけではなかった。

2〜3歳の女の子を連れた若い親子が

会計を済ませて、店を出ようとした時

オーナーさんが「ちょっとまって」と

女の子に声を掛けた。

「あのね、飴あげるから

好きなの選んでね」と言ったのだ。

おおお・・またまた周りの人達が

目をまんまるくして

オーナーさんと、女の子を見ている。

すごい。今までラーメン屋と言ったら

食べたらすぐに出る。


お店の人も、周りの人も関係ない。

そんな感じしか印象になかったけど

このオーナーさんは、人柄を売っている。

そして、私達は胸を打たれる。


ジジタンも、その姿に感動して

ビールを3杯飲んだ。←

ラーメンより高くついた。(笑)

「ビールの泡が多かったから

すこし沈めてました。」とご丁寧に

言ってくれて、そこにまたまた

ジジタンは感動。

私は母と頼んだ中華そばを食べる。

ご機嫌になったジジタンは

オーナーさんのお蔭だと

心の奥底から感謝した。


そして、ジジタンが「おめえも

ぎょうざ、食え」と私に

餃子をくれた。

遠足気分でワクワクしていた

昨日のジジタンは、こういう

嬉しい日があるのを

予期していたのか。

私も気持ちがラクになり

「オーナーさんのお蔭で

父はご機嫌です。本当に


色んなお気遣い

ありがとうございます」と

また周りに聞こえるように言った。

本当に接客業のお手本と言える男性。

ちょっとした仕草も見逃さない。

それも調理をしながらだもの。

すごい洞察力と、人を見抜く力が

ある人なのではないですかね。


そして、スタッフも70代くらいの人も居て

その人達のフォローもしている。

私たち親子の姿は、「なんかこの人達

仲悪いんじゃないの?」と一瞬にして

見えていたのかもね。

別に私、無愛想にして店に入ったりは

しないんだけど、

なんとなく、雰囲気で分かるでしょ。

それを修復してくれた感じでした。

私がラーメンを食べ終えると

ジジタンが「おめえ先に車に

戻ってスマホみてろわ。」←と言った。

私も「そうだね。まだお客さん待っているし

私がいなくなったら、一人座れるしね。

うん、じゃあ。」と言った。

オーナーさんに丁寧に頭をさげ

「ご馳走様でした。父がすごく喜んで

くれました。ありがとうございます」と


伝えた。


10分後、ジジタンは母と

私の車に来た。

そして「あのラーメン屋のオーナー

いいなあ。俺、ビール3杯飲んだわ」と言った。

そしてまだご機嫌だから

家から持ってきてた缶ビールを

飲みながら帰ると言う。

・・・勝手にしてくれ。・・・


私はクロを走らせて

天気のいい道を

低めのジュリアナ

東京をBGMに運転する。

そしてジジタンが一言。

「みか、おめえは


他人には優しい」←

私は、その言葉を聞いて

ゲラゲラ笑った!!

いや〜。ジジタン、図星ですよ。

ええ。私はそういう女ですよ。

「おれは、11時にお墓詣りすれば

1時には帰って来れるなあ

と思っていた。」と言われた。


うざい!と思ったが

私も素直に

「うん。分かった。ジジタン

ごめんね」と言った。

良く考えてみたら

ジジタンは、私の運転を

配慮してくれていた。


回る順番も、先にお墓に行った方が

スムーズに済んだ。

反対車線走ったりしないで

ラーメン屋にも入れると思って

指示をしてくれたのだ。

ジジタン、ありがとう。

お墓詣りで、祖父がミラクルを起こして

くれたよ。










その後は車内が

ジジタンの演説会で

賑やかになった。



ブチッ。