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思いっきり見栄


優越感とは、他人と比較した時に感じる感情である。

ほんの少し、「いい気になってる」そんな事だと思う。

私は思うのだが、優越感と言うのは、

一種の麻薬効果があるのではないだろうか?

麻薬効果とは、快感に繋がっているのではないか?

別に私は、麻薬を打った事はないが、

気分がいい。ちょっと酔ってしまった。そんな気分なんでしょうね。きっと。


その日の私は、ある資格を受けに、その会場に行く予定があった。

方向オンチの私は、タクシーでいい。お金がかかっても正確に

目的地に着ける。確実な手段であると感じていた。


並んだタクシーを見て、目が合った運転手さんがいた。

大変紳士的な男性であった。

私は、観光タクシーで良かったのであるが、その紳士的な運転手さんは

ドアを丁寧に開け、「是非、どうぞ!!」と私にWELL COMEであった。

高級車である、その真っ黒の車は勿論「個人タクシー」である。

ちょっと待て!私はその様なリッチな女ではない。

個人タクシーなんて高いではないか!!!


しかし、目で訴えられた私はそのタクシーに乗ってしまった。

なんとも紳士的なんだろう。話す言葉一つ一つに気品を感じる。

そして普通なら、そのような形式的な人は近寄りがたいが

とても自然に話を返してくれるのだ。


私は、金額が気になった。何処を見渡しても

「金
額のメーター」が、ない。

これは、もしかしたらBIP席を感じさせる演出なんだろうか?

「私は、貴方の運転手です」と言う気分を味わせる空間を

作ってくれてたのだろうか?


後頭の席から窓の外を見る。

なんとなく「特別扱い」をされてる気分だ。

アーケードの赤信号で立ち止まってる人達が、なんとなく自分を

「リッチな人」と言う目で、見ている様な気分になる。

勿論、この錯覚は「金を使っての優越感」である。


目的場所に着くと、車のダッシュボードの中から「金額メーター」が出てきた。

そして、私が運賃を払い終えると、紳士的運転手さんが自ら

私の席のドアを開けに、運転席を降りてきた。

そこまでしてもらう必要は、全くない。

しっかり見送ってもらい、路上で深々と頭を下げ

お辞儀までされた。


見知らぬ人達の視線の数だけ、リッチな自分を錯覚できた。

しかし、これは精一杯の私の見栄である。

お金で買った、あの空間だけでの「優越感」である。

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