SO REAL


「この写真、修整かかっているね!」

「自分で撮った写真と、人が撮ってくれた写真では

随分違うね!」

・・・いつのまにか そんな冷静な言葉が

ネットに限らず、平気で口にされる事が多くなった。


プリクラだって、出来た当時も

肌がきれいに映っていて凄いと思ったけど

この10年くらいでさらに

修正がすごいと思う。

一時なんか黒目が

大きくなるように撮れていて

元々目ん玉の大きい私は

宇宙人のように映っていた。

上の方から撮影されるから

可愛く撮れるし、歳も誤魔化せる。

詐欺ショットで当たり前の世の中なのか。

でも、「実物と違い過ぎる!」と言われるのも

キツイと思う。



ケータイやスマホで撮る画像って

自分でいくらでも修正出来る。

私も、肌の色を修正して

友達に画像を送った事がある!

なんで、笑顔になると

目じりの要らない小じわが

映るのか!(怒)

これを消したい!


魔法のように消えてください。

こうして美白度が最高の所で修正される。

私たちは、このようにして

肉体年齢の本当の姿を

忘れて過ごしていた。(一緒にするな!って?)

そして、私は今回

自分の現実と直面する事になる。



今から5年前、私は免許更新であった。

免許書に映る顔は、決して笑顔になっては

いけないと言う。

笑顔になると

人相が変わってしまうかららしい。

証明写真は「真顔」が勝負なのか。

笑顔で骨格を上げて映りたい私は、

どうしたらいいのか。

笑顔にならない自分は、自分じゃない。

要は「歯」を見せなければいいのか。

私は歯を見せない口元だけを

上に上げて撮られるのなら

大丈夫ではないかと

思った。


しかし、これが最悪の結果を残した。

仕上がった免許書の写真は

最悪な自分が映っていた。

良いだろうと思って作った、歯をみせない

謎の微笑みは

不自然に顔の輪郭がゆがんでいた。

歳の10歳老けてみえた。

ショックを通り越して

面白くなり、みんなに見せた。

みんな大爆笑だった。


自分が見ても笑えるのだから

他の人が見て、笑わないわけないだろう。


見せる人達みんなに笑われる度

自分は
「見た目が面白い方の人間」に

移行していくような感覚に陥る。

「うん。確かにこれは変だよね?」と

言ってくれる人達の言葉に

客観的に見ても、

ひどいショットなのだと実感する。


しかし、このショットが自分の人生を

救う事にもなるのだ。

自分が鏡を見て

「今日の自分は不細工だ」と思った時に

この免許書のショットを見るのだ。

もっとひどい免許書の写真を見て

「この写真に比べたらマシ!」と

励まされる結果になったのである。


人間は、特に自撮りの時

一番いいショットを残すものだが


最悪な写真も、使いようによっては

自分にエールを

ビジョンから送る事が出来るのだ。




あの最悪ショットの免許書から

5年が過ぎ、私はまた免許更新の

お知らせが来た。

この・・5年間・・・

ブックオフに

本や服を売りに行った時、

身分証明書で、免許書を見せるのが

どんなにイヤだったか。

きっとこう思っているのは

自分だけで、他の人から見たら

どうでもいい事であるのは確か。

自分が気にするほど、

他人は気にしないものである。


世の中そんなものである。

だけど、私はこの免許書の

写真から解放される喜びがあった。

「もう二度と、微笑にはならない」


こう決心したのだ。

そして、今度は口元すら笑わない

真顔で写真を撮られる事にした。


そして、免許更新の日。

とりあえず、肌の調子のいい日を選んだ。

午前中が理想的だったが

込み合うだろうと思って午後に行った。

受付を済ませ、名前や住所の用紙を渡される。

その後、視力検査。

これが終わると、写真撮影が待っている。

順番に呼ばれる。

今度こそ、笑わない!と心に決めていた。

私の番が来た。肌映りが良いように

椅子に座ると

白いハンカチなどをスカートの上に置いてみた。

今日の39歳の自分より

少しでも若く撮れてください。

この新しい写真で、5年過ごすので

44〜5歳の自分が見ても

まだ「イケテル」と思えるような詐欺ショットで

お願いします!


私の切実な願いは

カメラに届いただろうか?

「はい。撮れました」と言われた。

その後は、免許書が出来るまで

30分の講習を受ける。







やがて、この講習を終えると

新しい免許が渡される。

名前を呼ばれて、免許書を受け取り

そのまま帰宅できる。

「免許書が仕上がりました」と講師が言う。

これを受け取ったら、免許更新は

全て終了だ。

これで、あの5年間

私の嫌だった写真から解放される。

この支配からの、卒業♪


私より先に名前を呼ばれた人達が、

新しい免許書の自分の写真を

確認して、ドアの向こうに消えていく。

この時、自分の名前や住所のチェックより先


写真の顔をみて、自分の免許書かどうかを

見るのは私だけではないはずである。

私の名前も呼ばれた。

並んでいる免許書の中から、

自分のショットを探す。

あ、あった。あれだ。

でも、待って!ちょっとこれは・・!


・・・・私は新しい免許書の写真を見て

またまた愕然とした。



せっかく、5年前の失敗

怪しい謎の微笑みを止めてみたのに

今度は真顔過ぎて不気味だ。

しかも、今回の私は

青白い顔をしている上に

目の下のクマがシミのように見える。

顔が白いのはまだいいが

決してこれはライトを浴びた白さではなく

「病人風の白さ」!

言わば「不健康そうな私」である。


顔の輪郭はまだ前回よりは良いが

肌ツヤのなさと、コラーゲン不足が

歳の10歳老けさせた。


ガーン!とても現実的に

5年経っている分、前回の写真より

歳を取っている。

しかも、前回の方がまだ

まともに見えた。あれでも。


私は、またこの写真を

ブックオフで何か売るたび見せるのか!?

私は、最悪ショットと名付けて

「イケテない自分」である時に

この写真を見て、自分を励ますのか?

私はこのループから、エンドレスに

解放されないのか?



あああああ〜〜〜〜

うおうおうおうおうおうお〜〜〜


私は心の底から叫びたかった。

私は、また5年この最悪ショットを

自分として認めないといけないのか〜!


「真正面」から、自分をみると

こういうクマがあるのか!?

今回は、前回よりショック過ぎて

誰にも晒したくない。

・・・本気でそう思った

39歳の夏の出来事であった。

チーン。