メイド服でパーティー


それは、昨年のクリスマスパーティーである。

毎年恒例のこの「コスプレ大会」は、


私と類友ばかりの集いである。

今回の私のスタイルは、メイド服である。

「私は、ご主人様に従う子うさぎちゃんよ。」と言いたげな

あの、「萌な人」になれるのである。

マスターに用意されたメイド服を着て、レースのカチューシャを

頭に乗せて見た。全身を鏡に映し出すと私は

「ぎゃはははははは!」と笑った。

隣で着物のN子も一緒に笑った。

この笑いは意味不明である。

こうしてエプロンを持って「いらっしゃいませ〜」とやってみると

とても心が穏やかな気分になれるのだ。

いつもより、ゆるい巻き髪で。(←仕事でバタバタ走り回った後だった)

いつもより、薄いメイクで。(←もうバケの顔が取れて、テカってる)


いつもの自分じゃない自分になりきって

「おかえりなさいませ。ご主人様。」と鏡に向かっていってみる。

思わず上目遣いで、「私は可愛い可愛いメイドさんなの。」と

言いたげなブリブリな自分を演じてみる。

おお。自分で言うのもなんだが

かなりイケているではないか。

よし、このままぶっ通して行くぞ。


私は控え室から出た。みなさん席についていた。

ピエロになっているマスターとママ二人から

みなさんに向かって最初にN子を紹介をした。

そして次に私が紹介された。

見知らぬ人達にデジカメを向けられ

思わずポーズをとってしまうアホな私である。

「可愛い!」と言ってもらえたが、よく考えて欲しい。


これは、衣装が可愛いだけである。

そして、ここに集まっている人達は

コスプレと音楽と踊りが好きな人の社会だ。


そう、私を受け入れてもらえる人種しか集まっていない

ワールドなのだ。


開始予定時間より、3時間遅れて到着した私。

N子と二人で席に着くと

みなさんはすでに食事済みだった。

残り物を食べていると、隣に見た事のある男性がいる。

「あれ?前に会った時、チャイナドレス着てた方じゃない?」

私にそう声をかけてくれたのは

2〜3年前、この会合で会ったグループだった。

「あ!ヴィーナスを演奏してくださったK・Kバンドですね!」

私はそう言った。

「久しぶりですね!今日はメイドでしたか!」

「はい。みなさんお変わりないですか?

またヴィーナスお願いします!」

「あはははは!音合わせするの久々なんだけど〜。」


そう。此処はバンド活動をしている人達が

集まって演奏をしてくれるパーティーなのだ。

バンド系はノーマルスタイルだが、観客(私ら)と

此処の
オーナーは仮装大会が趣味!

書くのが遅れたが、オーナーは絵の具で顔を描き

紫色のカツラで、ピエロになっている。

奥さんのママも同じピエロである。

さすが似たもの夫婦だ。私もそんな旦那と一緒になりたい。

周りを見渡すと、
ブタさんやサルさんがいる。

私の向かい側には、
バカボンのパパがいる。

N子の隣には、友人Lと


バカボンになっているLの彼
がいる。

角の生えたオレンジ色と、

赤の髪をしたカツラのお姉ちゃんもいる。

このような個性とりどりの中にいると

私は、一般人になるのである。


デザートを食べていたら

ブタさんに「いっしょに おどろう」と言われる。

初対面のブタさん。どうやらサルさんと夫婦らしい。

ブタさんと写真を撮っていると


ブタさんは、女に見られたくない女性で

腕に「おやじ」と書いてある。


バカボンパパとみんなで普通に

踊っていると、ブタさんは「どじょうすくい」をしていて

違うウケで笑いを誘う。

観客のN子は、すかさず写真を撮る。

「メイドさん、メイドさん、お名前なんて言うの?」

「はい。みかりんです。」

名前を教えるまで、私は「メイドさん」と呼ばれていたのだ。

私も名前の分からない大半の人達を


男性は「ご主人様」と呼び、女性は「お嬢様」と

呼んでいてメイドになりきっていたのだ。

だから「ちぇい〜す!」とも言えなかったのだ。

(これは、ひそかにストレスである。)


タバコも吸わないでいたのである。

(あ・・いや、1本だけ吸ったかな?)



しかし。こうやって演奏してくれるバンドと

一心同体になって踊って盛り上がっていると

天国って、こんな場所なのだろうか?と思う。

K・Kバンドにヴィーナスも演奏してくれて

ブタさんと踊ったら

「ともだち、できた。うれしい。」と言われた。

私も嬉しかったのだ。

そうそう。実は、ブタさんは太鼓を叩く人だったのだ。

今度はその太鼓に合わせて

マスターやみんなで踊ると

「インドの踊り」をする、角の生えたカツラのお姉ちゃん登場。

みんなで真似をして踊る。

本当に楽しい。



さて。踊り疲れた後、私はケーキを人数分 皿に分けて

配っていると、今まで感じた事のない

温かい視線を感じたのである。

それは「メイドさん、可愛い〜。」と言う「萌え」な視線である。

酒を持って歩いていても「お水風」と思われない

「ビールを持ってきてくれたメイドさん」と言うキャラになれているのだ。

これはきっと、この「メイド」と言う役割と

そして
貴方のひざに絡みつく子犬の様に〜♪と言う

「恋の奴隷」のイメージが作り上げた幻覚である。

この錯覚のお陰で、私は今まで生きていて、

微笑ましい視線を向けてもらえたのである。



さらに。メイド服効果と言うのはすごい。

自分の身の振舞い方一つにも

常に可愛さを意識したくなる。


まるで「忘れかけていた可愛い心を取り戻せ〜!」と言う

今の私への「メッセージ」のようである。

そうか・・
世の中の一般に言う、可愛い女とは

この様な
温かさと「この人、癒してくれるだろうな〜」と言う

錯覚に似た妄想によって、

男性に見られているのか。

なんて得なのだ。
妄想させておけばいいのだ。

メイド服を着て、私はそう感じたのである。

そう解釈すると、私は

このスタイル、たまんね〜よ!と思う。


さて。こうしてブタさんやサルさんに

囲まれてケーキを食べていると

まるで
「3年2組の仲間達」と言う気分になってくる。

(・・・覚えているであろうか?

20年位前にあった、動物のオモチャのキャラである。)

公衆の場では出来ない、この参加者みなさんのスタイル。

私には、心地の良い場所と人達。

ずっと、ここに居たい・・・。

来年もまた、ここで会おうね。そう約束をした。



翌日 仮装パーティーの写真を私は職場に持って行った。

映っている写真はすべて笑顔である。

改めて客観視すると、私は普通の人に見えてくる。

ブタさんが、男役になって

私に絡もうとしている写真もある。

みんな陽気に映っている。素敵なクリスマス。


この素敵なひと時をみて、ボスは

「みかりんさん、
女装したのか??」と言った。