レディースルーム


「個室」と言う言葉に、秘め事を感じるのは私だけだろうか。

個室の中は人目につかない。

それが怪しい魅力を放っている気がする。

また、狭い四角の箱の中で

女性が1人で排出する行為とは

大変興味をそそるものなのだろうか。そう言われてみると

人間とは人の目に触れない部分が好きだ。

だから普段、目に付かない場所だから魅力を感じる、

太ももフェチも存在するのではないか。

「見えない場所」・・・・・・・

そこは「本来の姿」があるだけの話なのに。


客も引いた日曜の夕方。勤務中の私はふとトイレに行きたくなった。

「9番に行ってきます」(←トイレと言う言葉が禁止なのだ。)

私は「日曜ならお客さん使用の

1階の出入り口のトイレが混んでいない。」と思う。

向かう先はいつジュースを買っても「当たり」の出た事のない、

自販機
の側にあるお客様出入り口のトイレ。

私がトイレに行くと、三個並んだトイレの真ん中がふさがっていた。


しかも、そのドアの前にはご年配の男性が!

あの・・ここは女性用のトイレですよ、と言いたかったが

もしかしたら。。この男性の奥さん(こちらもまたご年配)が

1人で用足し出来ないから仕方なく一緒に

女性トイレに来たのかもしれない。

車椅子専用のトイレもあるけど、

見つけられなかったのかもしれない。

と、瞬間的に思い、私は何食わぬ顔で


左の個室に入った。

この年配男性と私が目の合う事もなく

(勿論、意図的に目を合わすはずはないだろうけど。)

私は個室で気の済むままに用を足す。

ふと、トイレットペーパーをガラガラ回す私は天井を見て思う。


・・・私、若い頃 トイレでしゃがんでいたら

上からカメラ撮影されて、思いっきり声上げて売り場に

走って行った事あったよな〜。。。(←ちゃんと拭いたか思い出せない)


あれは怖かった。しかし今でも思う。

あのアングルで何を楽しめる写真だったのだ?

まあ、小型カメラで個室で撮影されたワケでもないから

いい事にするか・・・と古い出来事を思い出していると!

「おい・・ちゃんとたれたか?」と、ドアの外にいる、

ご年配男性がノックしながら声をかける。

ノックの音は勿論、真ん中のトイレに向かってである。

あ〜・・やっぱりご年配女性を気遣って入ってきたんだ。


この男性は今から下の世話をするかもしれない。

私、さっさとこの場を離れた方がいいよね?

個室に二人でいるのを勘違いされたら

彼は気の毒だ。そう思いレバーを引こうとする私。

しかし、ここで私は耳を疑う事に遭遇する。


「さっぱりたれね〜よ!ばーか。」

こう答えたのは、真ん中の個室に入っている人。


しかも、この返答したのは明らかに男性の声!

うそ〜!!何してんの〜〜!

もしかして私、また撮影される??

そんなに私の放尿シーンが見たいのか!!!

・・・小型カメラでも取り付けに来たのか!?

「ちょっと待ってろ」

そう言い、年配男性はドアを開けた。

真ん中のトイレに入って行くその間に


私はトイレを出て、右手だけ洗いダッシュで逃げた。


売り場に走って行って、私はボスに

「ボスボスボス。。トイレ、男、二人、お〜う。の〜う」

と、言いたい事が上手く言えずにいるとボスは

「なぬ?いっつも あんたはワケ、わかんね〜!!」と言う。

ワケが分からないのは確かにそうだ。私だってあのトイレの

ワケが分からない。世の中も私のアタマも

ワケが分からないのだ。


ボスは「なぬ?男二人組みが女子トイレに居る?

警備室に連絡しろ」と言う。

でも、警備室もみんな男性ばかりで、女性トイレに行くのも

困るのではないか?


「ここは女性用のトイレですよ。どうかしたんですか?と

一言声をかけてみれば良かったのに」とボスは言う。

当たり前の提案をされたが、あの状況で

何しているんですか?と聞くのは勇気が要る。

まるで泥棒がいるのを自宅で目撃してしまい

叫び声を上げれない女性と同じ心境だったのだ。

だって変に声あげて殺されたらイヤではないか。


しかし、まだあのトイレで遭遇した女性が

私だけで良かったのかもしれない。

お客さんが見たら叫んだかもしれない。

でも、このまま長居されては女性がトイレに入りにくい。

私はもう一度勇気を出して先ほどのトイレに

まだ彼らがいるかどうか見に行く事にする。

「ボス、万が一私が10分以上帰って来なかったら


迎えに女子トイレに来てくださいね。」

「俺が女子トイレに行けか〜!」



私はもう一度、トイレに向かった。

今、私は世の為、人の為、女性の為にトイレに向かう、

勇気ある戦士である。どうせ戦士なら

セーラームーンになりたい。

トイレに行って、あの二人組みがまだ居たら


「月に変わっておしおきよ」と決め言葉を言ってやる。


トイレの出入り口で

先ほどの二人組み男性らしき人に遭遇。


彼らは、ごく普通のおじさん(60代後半)で

酒に酔っているような顔をしていた。




私は自分がセーラームーンになったつもりだったのも

忘れ、決め言葉を言えないまま売り場に戻った。