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車の鍵


「あれ?車の鍵、何処かな?」

彼女の、急用である仕事の電話を横に、私は思った。

晴れた昼下がり。ランチを食べ、いつもの様にファミレス2時間当たり前の

私達は、今の自分の生き方や、価値観について語り合っていた。

しかし、彼女との会話から離れた瞬間に私は、いつも目の届く場所に

置いているはずの、車の鍵がない事に気づいた。



何処に置き忘れたのだろう?さっきキャッシュコーナーに寄ったな。

写真の事ばかり気にしていて、キーを忘れてしまったのか?

ああ、彼女の車に置いてきたのかな?私の帽子の横にあるかな?

うん。きっと助手席にある・・・きっと。

彼女が電話を切ると、不安そうな私の表情を見て

鍵の心配をしてくれた。私が不安なのは、鍵をなくした事ではない。

ヴィトンのキーケースが、なくなってしまったかもしれない事である。

それを現実として受け入れるかもしれないからだ!

車の鍵など、スペアがあるから良いのだ!

甘酸っぱい炭酸を飲み終えると、彼女と私は駐車場に向かう。


しかし!こんな時に限って知り合いに会う。

「今日、いい天気ですね。変わりないですか?」

変わりありますよ、私の大切なヴィトンのキーケースが

なくなってしまったかもしれませんよ。

などとは
馬鹿らしくて言えたもんじゃない。

笑顔であればあるほど、切り上げるタイミングを失う。

私は今、接客の延長気分である。
こちらの事情で動けない。

目の前の人を、大切にしているつもりである。

腹が痛くても、耐えて作り笑顔をしてる心境である。

今、大切な事で取り込んでます!!と言えない。

ここが
友人と知人との違いなのか?


なんとか切り抜け、駐車場に着いた。

助手席を確認すると、あった!!あった!!

あ〜、良かった。ヴィトンのキーケースがあって良かった。

「これで、車に乗れるね。」そう彼女が言った。

・・・そうだったのである。
本来の目的

車の鍵の紛失問題である。

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