ゆがむ。


人間の顔は左右対称ではないと言う。私もそう思う。

耳の位置だって、左右とも微妙に1ミリくらい上下がある。

眉の描き方だって、必ずしも左右対称になるワケではない。

テニスをやっていた昔の友達は「右腕だけ太い」と嘆いていた。

そうだ!人間は必ずしも左右が一緒ではないのだ。


今日の私は鏡を見て、落ち込んでいた。

何故なら、左右の目の大きさが違うからである。

左半分で見ると、変わりのないいつもの目玉なのに

右半分を見ると、目がいつもより横に流れ、しかも釣りあがっていて

黒目の大きさが2ミリくらい凹んでいるのである。

なんという悲劇。顔を半分半分で見ると、「そういう人」で通るのに

正面からみると、
アンバランスな目玉をした怪しい女である。


事の始まりは、朝の出勤の出来事である。

風の強い今日。小雨も降っていた。

私は車が少し左に傾くのを感じながら運転していた。

ワイパーも時々動かしている。

斜めに降る雨が、大雨じゃなくて良かったと思っていた。

駐車場に着き、私は車のドアを少し開ける。

傘が一本入るくらいの隙間を作り、

ボタンを押して傘をさした。

その瞬間、風の勢いで車のドアが一気に開いた。

と、同時に傘を持つ部分が私の右目に

ガチャリと当たった。

なんとかドアの向こうに出たら

車のドアが風の力と逆行しているせいで

なかなか閉まらない。

目は痛いし、お気に入りの傘は壊れたし

髪のセットは乱れるし、最悪である。

ムカついた私は山に向かって

「目ん玉痛いのじゃ〜!」と叫んだ。

いいのだ。どうせ叫んだって

風にかき消されるのだ。

従業員は幸い誰も居なかった。

これぞ不幸中の幸いである。


私はそのまま売り場へ行った。

鏡で自分を見てみる。

目が腫れている。
なんだか世の中が斜めに見える。

これは
私の目のせいではなく、思考回路の問題か?

とりあえず、買ってきたアルフェミニで

目を冷やしてみる。遅番で来た事と

売り場が混んでいたので、私の目については

あまり気にされる事がないまま過ぎた。



夕方、ランチになってボスと一緒にバックルームに居た。

私はボスに
「いつも私もっとプリチーなのに

今日の私は不細工だと思いませんか?」と真顔で聞いた。

するとボスは
「あ〜?不細工なのは今日だけが?」と言う。

「性格ブスなのは認めております。」

私の一言に
ボスは否定もせず

タバコを吸いながら、横目で私をみて

ただうなずくだけである。

ここで、私が何かを言ってもいいのだが

これ以上、評価が下がると私も困るので

あえて何も言わないことにした。


「目の大きさ違うってか?大丈夫だ。みんな

そこまで暇じゃね〜から わかんね!」とボスは言い

その場を去った。



それにしても。

顔は左右対称ではない。と言われていても

いつも見慣れている目の位置が

微妙にズレると、

「本当は左右対象じゃないのか?」と

思えてしまう私であった。