加藤先生 私が初めて一人暮らしの男性の部屋に足を踏み入れたのは、 14歳の時だった。 中学3年生の春休み。自分の家以外の人の鍵を渡され、 深い意味などないのに「ちょっとアダルト」な気分になったのだった。 私はいつも見せている制服を脱ぎ捨て モノトーンでシックさを強調。今日はオムライスを作る予定。 待ち合わせは中学校。自転車を置く場所は、自分専用の場所。 早く来ないかな〜〜。 「みかり〜ん。待った?」 「ううん、みかりんも今 着いた所だよ。」 今、私が会話を交わしているのは、友人Iちゃんである。 「M、まだかな。」「本当。Mは卵担当だから、 卵を忘れたらオムライス出来ないね。」 「Iちゃん、みかりん、お待たせ〜!」 「あ。来た。」 今日はクラスメート女三人で、 数学の加藤先生(仮名 独身 25歳)の家に勉強会と言う名の 雑談会をするのだ。 私達三人組は、先生の家にお邪魔するのは実は2回目。 中学校で待ち合わせをして、先生の車で先生宅まで向かう。 中学生の私達に、車でお迎えしてくれる男性は、ちょっと魅力的。 私の彼は原チャリ乗り回していて、タバコを吸いだしているし 1年前と違う人みたいで、ちょっと距離を置いている。 本当は彼と会う予定だったんだけど、一緒にいると 私の知らない一面ばかりを見て、悲しくなるから キャンセル。 両親もIちゃんとMと遊ぶって言うと、安心するし。 勉強会って言って、パフェをご馳走になったり テストに出る場所を何気に教えてくれたりする。 こないだはふざけて 「加藤先生、私を連れて逃げて〜!」と言ったら (↑今でも誰かに言ってみたい。) 「いいよ〜!暇だから。いつでも来なさい。」と 言われたし〜。(←モテモテ?←バカ) 加藤先生は、私ら生徒から見ると 年令も近くて、一緒に話をしていると楽しい。 でも、LOVEではなく、LIKE。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 こないだ私達三人(森三中ではない。)に 加藤先生は 「俺の家はボロいアパートだよ。」と言った。 しかし、まもなく目的地と言う時 リッチなマンションを目の前にして「ここだよ」と言う。 「うそ〜!センセ!こんな高そうな所に住んでんの?」と 三人でキャ〜キャ〜悲鳴を上げた。どこがボロイんですか、先生! 貴方の目ん玉は節穴ですか! すると「そっちは違うよ。左の ボロい建物の方なんだけど。」と言うではないか。 なるほど。節穴だったのは私達であった。 先生の目は正しかった。 この紛らわしい道路。 右はリッチなマンション。左は先生のアパート。 鍵を開ける。「お邪魔しま〜す。」遠足気分の私達。 部屋は暗かった。昼だけど電気は何処だろう?と探した。 台所は黒い板が床になっていた。冷蔵庫の中は何もなかった。 テーブルには給食の残り物のパンが、3個あった。 昭和初期のようであった。 ここに居ると、自分がレトロな女に思えてくる。 女の気配を感じる置物もない。(風呂場にならあるのか?) 殺風景。この言葉がピッタリ。 弟の部屋の方が、まだまだイケテルと思った。 彼氏の部屋の方が、明るくてオシャレだと思った。 「彼の部屋≧弟の部屋≧加藤先生の家 」である。 14歳の私達に、この物件は痛かった。 社会人男性の悲しい実態を目の当たりにしてしまった私達。 14歳で、お金の切なさを知った私達。 「せ・・・先生・・。いつも何食べてるの?」 「いつも給食の残り物ばかり?」 「自分でご飯作った事ないの?」 私達は、「料理をしてあげよう!」と話が決まったのである。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 この日も先生の車で、先生宅に向かった。 BGMは、先日 生徒がダビってくれたプリプリ。 キレイに収納されたカセットテープたちは、全て生徒達による プレゼントであった。そう、加藤先生は 私達生徒に支えられて レンタル代が浮いていたのである。 リッチなマンションを横目に目的地に到着。 暗いアパートにまた私達が来た。先生が 「おお、あけみ。」と言う。 誰?先生の女?あけみって「明美」って書くんですか? 見渡す私達。誰も居ない。先生の足元を見る。 「あけみ」とは、猫の名前らしい。 「近所の猫なんだけど、給食の残りのパンをあげたら なついてきた。」と言う。 私達は、あけみちゃんとみんなで先生のアパートに入った。 近所のおばさんが私らを怪しげに見た。 挨拶もしないで「せんせ〜!今日はオムライスだよ!」と話をしている、 陽気で、礼儀も知らない私達。 台所女三人。気分は調理実習。 「こないだ家庭科の時、作ったメニューだね!」 「あの後、宿題でオムライス親にも作れ!って言われたでしょ。 感想書いてもらえないと点数もらえないよね。」 「字が違えば大丈夫。私、左手で書くかな。 妹に作って食べさせた事にして!」 オムライスとスープを作って、みんなで食べる。 先生は、手作りに大喜び。 模擬テストに出やすい数学の問題を教えてもらう。 分からなかった2次方程式をもう一度教えてもらう。 「なんでXとyなの?」「別にAでもBでも○でも×でもいいんだよ。」 「先生!また怖い話して〜」「今度は笑わない怖い話だよ!」 なんて平和な日曜日。 その後、何気にテレビの下から ある雑誌をMが発見。 エロ本だった。 「うわ〜!先生、こんなの見てるの〜!」 「なになに?わ〜!胸おっき〜!」 「このとじ込みの所、まだ切ってないね。」 悪たれ中学生3名に、密かな先生の楽しみが見られていく・・。 キャピキャピ騒ぐ私達に先生は一言。 「・・・君達も、裸の写真を撮られてみたいって思うもんなの?」 真顔で聞いてきた。おい。先生の この本についての使用目的や、活用方法等に関しては 具体的な説明をされる事はない。 しかし、気になる焦点は ぼかさずに質問してきた。 「え〜?別に撮られたいなんて思わないよねえ!」 三人で口を揃えてそう言った。 先生は、その後、エロ本を発見された事を黙っていて欲しくて 私達にパフェをご馳走してくれた。 その時、入った場所がまずかった。 彼氏の友達がバイトしている店だった。 私はそれを知らなかった。彼の友達がメニューを持ってきてくれた。 私に声をかける事もなく、私も知らん振りをしていた。 私は今、先生と一緒で、クラスメートも一緒なんだから 別に怪しまれる事ないでしょ?そう思ってチョコパフェを食べた。 IちゃんもMも「みかりん、ちょっとまずくない?」と言う雰囲気を出す。 「先生って言ったって、男だよ!」 「男と出歩いてる!浮気してる!って彼にチクられるよ!」 予想通り、デートをキャンセルして その日は先生と友達らと遊んでいた事を 問い詰められました。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 そんな思い出もあったな〜・・・。あれからもう何十年も経って 加藤先生は、先生を続けているのかも分からず。 Iちゃんは山形県にお嫁に行って 彼は福島県に行って、子供が二人いるそうです。 私とMは相変わらず ずっと釣るんでいて 思い出話に花を咲かせています。 「先生って、あの当時は大人に見えたけど 今の年令から一回りくらい上だと、すごい上って感じにも思えないね。」 「うん。そう私も思う。それに先生って不思議。何年経っても あの当時のままの顔しているよね!」 加藤先生。今思うと 子供のままごとみたいな 私達の料理を食べてくれて ありがとね。 せっかくの休日まで、私達と話してくれて 自宅にまであげてくれて ありがとう。 エロ本の口止めのパフェは 当時の私には、ちょっと苦いチョコ味でした。 |