窓辺の思い出


「はちみつレモン」と言うジュースが昔、流行っていたのを

貴方は覚えているだろうか?

缶全体が青空色で、白い雲が浮かんだ爽やかな背景に

みつばちハッチとは違ったハチが

デカデカと描かれていた。

私はそのイラストが私は好きだった。

「はちみつレモン」!読んだままの味のするジュース。

私の記憶では炭酸入りと、炭酸無しがあった。

初めは炭酸無しを飲んでいたのだが、

炭酸水の方がのど越しが良くて

自販機でみかけては買っていた。

珍しいモノトーンのはちみつレモン。

一見、ビール?と思ってしまいそうなその

横じまのラインにちょっと心が奪われた。

私にとっての、はちみつレモンの魅力は

豊富なイラストだったのだろうか?

私はいつのまにか、はちみつレモンの缶が

コレクションになっていた。


そして気が付くと、私の部屋の小さな窓辺には

このシリーズが1列に並んでいた。

友達が遊びに来ると必ず

「缶すごいね」と言われた。

私の部屋に来て
一番最初に目に入る光景だったようだ。

そんな私も「これは初期の缶で、こっちが新しい缶だよ」と見せる。

左から新しい順に並んでいるので、

いちいち解説するまでもないのだが。

1列ぎっしり並んでいると

「このまま増やすつもり?」と聞かれる。

「2段にしてもいいよねえ」私はそう答える。



しかし、窓を掃除しようとした時、

一番左側の缶がホコリがかぶっていた事に気づいた。

ついでに窓を開けた時、この缶のシリーズが

屋根に落ちてしまった。

・・私のコレクションが・・、

カラコロと音を立てて落ちていく。

はちみつレモンの缶は、その後も良く見かけた。

だけど、パッケージが欲しいだけで

すごく飲みたいジュース私のランキング3に入る事もなく

自然と大人になるにつれて

ジュースの缶が、カクテルの缶に変わっていった。

初めは、「入れ物が可愛い」それだけだった。


制服姿のまま平気で「ピーチカクテル」を買う私。

その缶も可愛くて、全色集めたいな〜と思う。

アルコール4度の軽い甘い誘惑。

いつのまにか、はちみつレモンシリーズに加えて

カクテルの缶が混ざってきた。

お酒の缶の方が綺麗だと思った。


気が付くと、私の周りには楽しい事を教えてくれる、

沢山の人がいた。

お酒がハイテンションにさせる魔法だと

教えてくれた素晴らしい先輩達。

また、「ウィスキーのコーラ割り」と言った

苦くて甘い飲み物を教えてくれた大昔の彼。

その味をしめ、私もこっそり宅飲みで

友人達にそれを教えた。

「うちにウィスキー、1本あるから持って行くよ!」

友人にそう言われ、女友達4人で日曜日の昼間から

私の部屋で遊ぶ。私はコーラだけ用意して待っていた。



面白い事を始めると、連鎖反応なのか

友達ルートで、どんどん輪が広がっていく。

(不)健康的な繋がりで出来上がる人間関係。

私らの間で「バイオレットフィズ」と言う一瓶当時680円くらいで

買えるカクテルがあった。これを炭酸で割って飲む。

この瓶も1個、また1個と増えていく。

私の部屋の窓辺には、はちみつレモンの缶と

2段目に重なり合ったお酒の缶。


だけど、瓶は窓辺では危ないので

控えめに棚の下。

この頃の私は「缶が可愛い」だけで集めていたつもりは

40パーセントしかなく、

「大人の味体験」のカクテルに変わっていた。

友達らと日常のどうでもいい会話をネタに

陽気に泡が入った紫色の水を飲む。

愚痴さえも面白い話に変わる。これぞ科学反応!

酔った頭で何故かオセロゲームなど始める。

今日も楽しいね。昼間までは・・・。

だけど、一人になると泣きたくなる。


その頃の私は、一人でベランダに出て

チューハイを飲みながら泣くと言うのが日課になっていた。

好きな男性を思って泣いている自分に

酔っているのが心地よい。

しかも、自分の心情にピッタリの歌で

感情移入して泣く自分が良い。

頭クラクラ、体フラフラ。もうどうにかなってしまいたい!と

現実逃避している感覚も心地よい。

これが青春だと思っていた。

今日もこの楽しい仲間と騒いで陽気に

ハイテンションになった後

夜は一人で月を見て泣く。

お酒は感情を2倍、大きくしてくれる。

楽しい時はそうだけど、その反動で切なさも2倍。

悲しいか、楽しいかのどちらかだけに片寄っていて、

普通の状態のお酒を知らない。

そんな時期を過ごす青春時代。

学校では味わえない感情を

仲間達と過ごし、恋と友情を満喫する。


窓辺に並んだ缶も、とうとう3段目。

いよいよ窓を開けると、半分以上が屋根に落ちる。

母の提案により「セロハンテープで止めたら!?」と言われる。

それは名案だと思い、1段目の半分をピチーと止めた。

懐かしいデザインのはちみつレモン。

もう随分買ってないなあ。

気がつくと、お酒の缶が増えている。



日曜日。私の部屋で集まって宅飲み。

こないだの美術の時間にもらった

ガラスの棒があった。それを最大活用して

カクテルと炭酸水を合わせて混ぜている私。

酒作ってるな〜。

「この棒、ガラスだし、いいよねえ」

「うん。スプーンで混ぜるよりいいよね。」

平和な乙女達の会話。明日も学校。


そんな単調だけど、毎日を一日一日

楽しい事、切ない事を噛み締めて生きていた。

だけど、この生活から開放される日が来る。

それは他ならぬ「掃除の日」に起こった。


「もう!いつまでもこんな缶ばっかり集めていないで

少しは真面目に勉強したらどうなの!?」

母はあの缶が、ジュースだけでない事を知っていた。

冬休みになり、赤点オンパレードの

私の成績を母は知ってしまった。

休み中に学校に行かないと

進級できないのだ。

「部屋を掃除して、もっと健康的にしなさい!このバカ」と

本当の事を言われた。



こうして私の集めたコレクション

(プラス お酒の瓶)は

燃えないゴミの袋にまとめらてた。

スッキリした窓辺に戻った。

しかし、良く見て見ると

缶の丸い跡が、左側だけ濃く残っていた。