少年ジャンプ事件


私が通っていた高校には

「伝説の少年ジャンプ事件」と言うのがある。

これは都市伝説ではなく、

うちらの世代の前後1〜2年だけが

知っている事件である。

実際に、私も当時(高校2年生)

この事件を目撃した一人なのである。



事の始まりは、午後1番の授業であった。

めちゃくちゃ怖いと有名な I先生と言う男性担当の

地理の授業だった。

私はお昼のお弁当も食べて、眠かったが

好きな人の事を考えるだけでワクワク。

授業のノートは、こっ恥ずかしいポエムで

埋もれていた。

今日も私は怪しい乙女心満載のポエムを

思い浮かべて書いていたら


怖い顔のI先生が、教科書を持ちながら

教室内を歩き出した。

私は、ヤバい、ポエム読まれたら困る!と思い

ノートを教科書で隠そうとした次の瞬間

I先生の大声が教室中の響いた。


「なんだ!お前は!オレの授業も聞かずに

机の下で漫画本読んでるのか!!」


私らクラスメートは一斉に、

その声の元に顔を向けた。

視線の先には、色白だけど、

ちょっと太目の男子生徒A君が


少年ジャンプを開いたまま硬直していた。

「うわ。まずい!まずいよ、A君」

これは生徒みんなが思った事。

「よりによって、なんで学校1怖いI先生の授業の時に

少年ジャンプ読んでるんだよ!!」

誰もがみんなそう思った。

そして、次の瞬間 I先生はA君の

少年ジャンプを取り上げたかと思ったら

そのジャンプで、頭を大きな音を立てて


バシ!!バシ!!バシ!!と、三回叩いた。

「うわ〜〜」とみんな思ったけど

誰一人、声を上げる事もなく

私はその叩かれる音が力強く、怖さを感じて

目を伏せていた。

A君も痛いとも、なんとも言えずにいると

今度はI先生、その少年ジャンプを

ビリビリビリと、音を立てて、真っ二つにした。

おお・・あな恐ろし。



私はその後、自分のこっ恥ずかしいポエムの事も

すっかり忘れ、授業の内容も元々頭に入ってないけど

この時の
少年ジャンプで、バシ!バシ!バシ!

ビリビリビリ!の事だけが、印象に残った。

今まで平和で明るく楽しい学校だと思いながら

過ごしていたけど、さすがにあの怖いI先生は

顔が怖い&存在感が怖いだけじゃなく

やる事も怖い!と言う印象だけが残った。

今、思い出してみるけど、あのジャンプが

ビリビリになった後は、何事もなかったかの様に

淡々と授業が続けられた事だけは覚えている。

色白のA君のチャレンジャー精神も

アッパレだったけど、少年ジャンプを見る度

トラウマになりそうだね!

今の時代に「少年ジャンプ事件」をやったら、

大問題だわ。


・・・と、言う話を、高校時代一緒だったS君と

「こんな事あったよね。同じクラスだったよね?」と

27年ぶりに、懐かしい話をしていた。



「ううん。みかりんとはその時、違うクラスだよ」

「あれ?そうだっけ?でもなんで知ってるの?」

「だってその話、有名になったもん。」

「うそ!?有名になってたの?」

「たぶん、隣のクラスの友達から聞いたんだよ」

「そうか。それで知ってたのね」

所が、話はそれだけで終わらなかった!



S君は高校時代、柔道部に所属していた。

当時、「少年ジャンプ事件」は

S君の部活の先輩たちにも伝わり

そこからさらに、広まって行ったと言う。

「うちら、柔道部だから、もしかしたら

そのジャンプのビリビリビリを

やるにはどの位、力が入るのか?と言うのを

みんなで試していたんだよ」
と言った。

私は、目が点になった。

「え?あの分厚い少年ジャンプを真っ二つに

手で裂けるかどうかチャレンジしたの?」

「うん。みんな力ある!

よし!やってみるか!って

みんなでやってみたんだよ」


「おお!それでそれで?ジャンプは

ちゃんと手で裂けた?」

「それが、全然ダメ!もう、男の俺らがやっても

裂けなかった!あのI先生は

どこからあの力が出たんだよ〜〜!?って

みんなで言ってたもん。」

「ほほう。じゃあ、よっぽどムカついたんだね。

まあムカついたからビシ!ビシ!ビシ!!

ビリビリビリ!だったんだろうけど。」


「伝説の少年ジャンプ事件」は

こうやって名づけられ、

真似する生徒が居たと言う事まで

発覚した。


私は、上記の話を職場のボスと

Sさんに伝えた。

「え?少年ジャンプをビリビリにするの?

半分に開いていたら、出来るよ?」

「あれって、分厚くないですか?」

「そんなに分厚くないでしょ。半分にすればね」

「でも、ビリビリビリ出来なかったって言ってたんですよ」

「あ〜!じゃあ、

一冊ごとビリビリ出来なかったって事じゃない?」

「横にしてなら、まだイケルかもしれないね」

「でも、縦にやるとなったら、きついんじゃない!?」

おお!そうか!


私は当時、I先生がどんな状態で

少年ジャンプをビリビリビリにしたか

目を伏せていて、耳だけで聞いていたものだから

良く分からなかったけど、

そうか、そうか。

読んでた所を閉じられて、少年ジャンプ1冊で

バシ!バシ!バシ!

その後、そのまま縦にビリビリビリ!!か。

・・・改めて想像し直すと

やっぱりあな恐ろし!!

柔道部のメンズ達でも、叶わない

ビリビリビリ・・・。



「そのI先生って、今何してんの?」

「すでに退職していて、3年前、同級生が

居酒屋でI先生と遭遇したって言ってました。」

「じゃあ、その今ならもう

そんな力ないだろうから

仕返しするなら今だ!!」



私は、3年前に居酒屋で撮ったI先生だよ・・と

私も画像を見せてもらったが

髪も真っ白になっていて

誰だか分からなかった。

あの怖い面影もどこにもなかった。

もし、I先生が、私の職場にお客さんとして

現れても、名前を聞かないと気付かないと思う。

その位、容姿が変わってしまったけど

「伝説の少年ジャンプ事件」は

今でも私達の中では


あの、大きな音ビシ!ビシ!ビシ!!

ビリビリビリ!の擬音語だけが

頭の奥に響いている・・・・・・。