真っ赤な自転車


私は車の運転に

慣れてしまってから

自転車に乗るのが

怖くなってしまった。

四輪車で、安定感のある車が

とても心地よいので

2輪車が不安なのである。


今思うと私の愛車と言えば

子供時代から

学生時代まではチャリだった。

真っ赤な自転車。

後ろに二人乗りが出来る。

♪真っ赤な自転車二人乗り

真っ赤な自転車風になる♪

おニャン子の歌う通りの

自転車は!

車の運転する事など

ずっと先の将来!と

思っていた子供の頃には


自転車の二人乗りに

憧れるものであった。


彼の自転車に乗る、

未来の可愛い私!

しかもその乗り方は

自転車に横に座るのだ!と

思い描いていた。



私が小学生の頃

学校帰りに道を歩いていた。

道行く高校生くらいのカップルが

二人乗りをして

後ろに乗っている彼女が

きゃーきゃー言っている。

そんな二人が

ランドセルを背負っている私を

追い越して行く。

私は二人乗りのカップルの

後ろ姿を見て

大人になったら、あ〜ゆ〜事が


出来る!早く大人になりたいと

思っていた。

ロケットみたいなダサい頭を

していた10歳の私。


未来を夢みていた。

私のその願いは

真っ赤な自転車に託されていた。


だけどこの夢はあっけなく

壊される事になる。



中学生になって、

自転車通学になった。

念願通り、

二人乗りの出来るチャリで。

そして私を好きになってくれた

先輩も自転車通学だった。

ここまでは良かったのだが!

二人乗りをすると言う夢は

無理になってきた。

まず、学校帰り一緒に

帰ってこれても


二人乗りが出来ない。

さらに、2列になって

走れない。

極め付けが

ヘルメットをかぶって通学する事!

ガーン!


ロケット頭のダサい自分を

卒業したのに!

今度は安全ヘルメットですか!

好きな先輩と仲良く


ヘルメットをかぶるのは

イヤなのである。

私の中でこのヘルメットは

スーパーマリオに出てくるキャラの

「メット」であった。


♪真っ赤な自転車二人乗り♪

♪真っ赤な自転車風になる♪

おニャン子の歌ばかりが


私に頭の中で回る。

二人乗りの夢が壊れる・・

そしてそんな時、もっと

切ない事に気づいた。


それは!先輩のチャリは

ギア付きで、坂道も

軽々と登れるのだが

二人乗りできるスペースが

なかったのである。

ガーン!

それでは、これは休日に

私のチャリで、二人乗りで

安全ヘルメットなしで

お願いするしかないか!と

思う13歳の私。

そして今日も先輩の提案で

「じゃあ、自転車に乗らないで

引きながら一緒に歩いて帰ろう」

と言われる。

「はい。」と素直に従う。

(今では考えられない素直さ!)

せっかく制服着ているのに

二人乗りが出来ない。



この件だけではなく

幼い乙女心にも

他にも悩む事はあった。

「トイレに行きたいのに

トイレと言う言葉を言いたくない」とか

「ピザまん買って食べて帰りたいけど

良く物を食う女と思われたくない」など

こんな時、女友達だと

こういう面で気を使わないわ〜!と

思っていた。


彼氏と言うのは、こんなにも

気を使う存在なのかと

思った。



話は戻るが

チャリ通は、雨の日になると

カッパ着用なのだ。

(おしゃれに言うならレインコート)

カッパ着て、ヘルメットかぶると

雨が少ししのげる。

だけど、この姿って


宇宙人が沢山いるみたいに見える。

なので、好きな人には

なるべく見せたくない姿であった。




月日は流れ、高校になると

車のある人がとても

魅力的に見えた。

「バイクの後ろに乗るのと

車の助手席、女の人って

どっちがいい?」と

男友達が言う。

「バイクの後ろ」とは

高校生になった私にとっては

「自転車の二人乗り」

ちょっとパワーアップバージョンに

思えた。・・・・しかし

「夏はいいけど、冬寒いから

車の助手席がいいと思う」と言った。

この頃には自転車の二人乗り

と言う事に憧れはなく

(ヘルメット、カッパ着用など

夢を砕くアイテムばかりが

私の中でクローズアップした為)


自分にとっての

「アシ」がチャリと言う位置づけに

落ち着いた。



そんなチャリだが

高校3年生の頃には


私は「手放し運転」が可能になった。

両手を放して

自転車を走らせても

直進の道ならば

転ばない自信があった。

背筋を伸ばし、両手を広げれば

バランスを保てる。

両手を広げなくても

転ばない感覚が分かる。

あれは10代だから出来た。

坂道も自分の限界まで

チャリで上る!と意気込んでいた。

下り坂は、当然自転車に乗ったまま

下っていた。



所が40歳も過ぎると

2輪車の感覚が怖い。

前と後ろのタイヤしかないので


ママチャリの3輪車が

とてもうらやましい。

(まだあるのかな?)


坂道を下る時は

ブレーキを掛けながら降りるが

この時、ブレーキの効き具合と

自転車のスピードが

一定にならないので

怖くて降りる。

ここで転んで鼻血ブーになったり

膝小僧が擦りむけたり

バッグが転がったりする位なら


潔く降りてやる!と思う。

かつては乙女だった41歳。

こうして下り坂をチャリ引きながら

歩いていると、

後ろから来たチャリに乗っている

70代くらいの女性に

抜かされる。


ああ、私、負けたんだ。

チーン・・・。



私は思った・・・。

車に乗らないで、ずっと

チャリで生活していれば

きっといくつになっても

坂道は怖くないのだろう・・と。

だけど、たまにチャリで

動くのもいいかも。

あまり使わない筋肉を

使うし、ダイエットにもなる。

そして、たまにペタンコの靴で

チャリを引いて歩くと

見ていた景色が5センチくらい低い。


目線が下がると言う事は

子供の頃の歩いていた時の

景色とちょっとダブルかも。


(本当はあと10センチくらい

下だったんだろうけど)

そして、大人になったら

二人乗りが出来る希望を

抱いていた淡い子供時代を

思い出す。


大人の今となっては

車の便利さなどを

思いながら歩く。



・・・そう言えば車通勤していると

目の前には沢山の

数字の書かれたナンバープレートが

自然と目に付く。

「今日はナンバーズ3、

168を買おうと思っている」と

思いながら運転している。

そして、偶然にも車の番号で

「168」を見かけると


「その数字は絶対に来ない」と言う

ジンクスを作ってしまった。


四輪車で安定しながら

運転している毎日。

好きな音楽を爆音で

好きな数字を考えて

寒い日は車内を暖かく

雨や雪が降ったら

「動く箱」の中に居れば安全。



歳を重ねると

見ている事も

考えている事も

変わっていくものである。


そして私は

自動車≧自転車になった。

真っ赤な自転車は

風になり、どこかの

ワンダーランドへ

行ってしまったのである。