親知らず抜いた


丸くて大きなライトが私を照らす。「では、口を開けてください」

縁なしメガネをかけた先生が私を見つめる。

横になった私はリラックスできるワケがない。何故なら此処は

歯医者だからだ。先生のメガネが汚れている。ああ。あれは

患者さんの口の中の「返り水」を浴びたのかな。

私は今日、親知らずを抜くのだ。

婦長のOさんが「大丈夫ですよ」と

笑顔で声をかけてくれる。

白衣の天使とはどうやら歯医者さんでも

通用するらしい。



「まず、表面に麻酔を塗りますね」と言われた。

にがい味がするが、香りはバナナ風と言うアンバランスな物を

歯茎に塗られた。「どうですか?しびれませんか?」

う〜ん。別になんとも。「では、もう少し塗ります」

そう言われた。

注射が麻酔かと思っていた。しかし、これは二段攻撃だったのだ。

「いよいよ注射を打ちます」キラリと光る縁なしメガネの先生。

歯茎にチクッと刺す痛み。4箇所。しかし一瞬で良く分からない。

「これは痛くないですか?」どうやら「なんか動いてるなあ」と思うこの感覚。

私は、このまま放置される。


ああ。なんだかこうして窓の外を見ていると

舌が、しびれてくる。右半分の顔も腫れているのではないかと思う。

どうやら、これは麻酔が効いた作用らしい。

「これから肉に埋もれた部分を切開します」と言われた。

・・・説明なしにしてくれ〜!!その方が幸せである。

でも、いいのだ。みんな
平気に生きている。

生きた証人
も数えたら12人いたわよ。

「ああ。麻酔ってユーウツな気分にさせるのですね」と

私が言うと「はじめて麻酔打ったんですか?」と言われた。

そうよ〜。だからこれもホームページのネタにするのだ。

もう、私の日常全てがネタなのだ。

これでいいのだ。(←バカボンのパパ風に)

「では、痛かったら教えてください」

・・って事は痛いんですね〜。

「痛い」と言われたら「痛い」と思うではないか。

もう説明しなくていいのよ。縁なしメガネのS先生。

私は口を開け、先生を下から覗き込んだ。

ああ。なんだか逆光に映っている。そうだ。照明が眩しいのだ。

言っておくが、これはS先生の頭が眩しいのではない。

S先生は若人で、私の学生時代の友人の旦那さんだったのだ。

本当に世の中狭いものである。口の中も狭いものである。

・・・と、その時!深く刺さる痛みが。私は眉間にシワを寄せる。

そんな事をしたら、顔が歪む!ああ。でも今日は
美容整形よ!

「痛いですか?では、ゆっくり鼻から深呼吸してくださいね」

痛いと言っても一瞬だった。そう、切開している時だけだった。



麻酔の効いてる私は、全てが麻痺している。

自分の話す言葉すら、あやふやな言語に聞こえる。

「では抜きます」と言われた。

そうですか。いよいよですね。これがメインなのですね。

しかし道具が沢山あっても、なかなか私の歯は掴みにくいらしく

あれよこれよと銀色に光る工具を替える。

これからもまた痛みが来るのかな?そう思った瞬間

「抜けましたよ」と優しい声がした。

私の目の前にあったのは長細い
血まみれの歯。

肉に埋もれた場所が、黒くなっていた。

見えなかったけど虫歯になっていたんですね。

「記念に持ち帰りますか?」と言われたが

見ると運気が下がりそうなので、処分してもらう事にした。

私の場合ストレートに生えていたので、一瞬で済んだらしい。

30分で済んだとの事。


ナナメに生えていたり、根元が二つになっていると

抜いている途中で折れたりする事があるらしい。


それにしても、親知らずを抜くとは

意外と原始的な作業なんだなあ。と思った。

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