冬の怪奇現象


それは、私が帰宅する夜の話であった。

愛車のクロのエンジンの調子が悪く

修理から戻ってきたばかりだった。

代車とは違う、今まで通りの乗り心地に

安心して運転していた。

今夜は雨が降っている。

ワイパーを動かしながら

いつもと変わらない2車線を走っていた。

BGMは、もう何年も

ヘビーローテーションしている懐メロである。

今日も工藤静香を聴いている。

聴いていると、いつも一緒に歌っている。

私は運転をしながらカラオケと

モノマネをかねて練習しているのだ。

歌っていると、結構カロリーが

消費すると言うのを

最近改めて実感していた。


それにしても、

雨は強くなるばかり。

ただでさえネオンの少ない道路を

走っているのに

なんて視界が悪いのだろう。

赤く連なるテールランプが

滲んで見える。

まだ雨だからいいけど

雪になったら道路が怖い。

そんな事を考えながら

赤信号で止まっていた。

暗くて、周りには良く見えないだろうから

また工藤静香の曲を一緒に歌う。

ビブラードがどんな所で


使っているのか考えながら歌い

モノマネをしている。

そんな姿は周りからは

見られなくて良い。

信号が青になった時

後ろから一台のバイクが

私の視界に入ってきた。

私の後ろを走っていたバイクが

私を追い抜いたのだ。

このバイクの主には

私が騒音で工藤静香を聴いているのが

モロバレであろう。

そして、この若い男性は


この曲(メタモルフォーゼ)など

知る由もないだろう。

懐メロとは、聴く曲で

その人の年齢がばれてしまうのである。

クロを追い抜いた男性は

私が結構いい歳であろう事を知っただろう。

・・・と思っているのは私だけで

実際は「ただ外まで音が漏れていて

うるさい車!」としか思っていないかもしれない。

それにしても・・・


車に乗っている立場でいると

バイクと言うのは

大変危ない存在である。

渋滞の時に、スルスルと抜けれるのは

羨ましい様な気がするが

普通に車に乗っている自分が

バイクを追い抜かそうとすると

後ろのタイヤに巻き込んでいないか

すごく神経を使う。


これは、車を運転する人達が

追い抜いた後に

バックミラーを見て確認しながら

いつも思う事である。



今回の怪奇現象は

ここから始まる。


私は、自分の前を走るバイクを

抜かそうと愛車を走らせる。

夜の雨の中、視界が見にくい。

それでもなんとか抜かした後

サイドミラーと、バックミラーで

そのバイクを確認する。

よし。大丈夫だ。

あのバイクの人は巻き込まずに

無事に走っている。


一安心した。

そして私はまた

ビブラードの練習をしながら

歌を歌っていた。

そんな時、私は自分の後ろに

オレンジ色に光る何かが

後を付けていているのに気づく。

なんだか、バイクのライトにも

見えてくる。

丸くて小さな光は

バックミラーにしっかりと映っている。

雨のしずくたちの中に埋もれながらも

しっかりとオレンジ色に光っている。


赤信号で止まった。

もう一度、その光をじっと見て見る。

そして、後ろも振り返って後頭部も

しっかり見た。私の後ろには

車が並んでいる。

でも、その車のライトとは違う光。

もしかしたら、先ほどのバイクの人が

私の後ろに赤信号で止まっているのかも

しれない。


助手席側を見たが、

バイクらしい人はいない。

私の盲点になっている所に

バイクの人がいるのだろうか?

そう思っていると

また青信号になった。

発信すると、またオレンジ色の光が

付いてくる。

私は、たまたまこのバイクの男性が

同じ方向に行く人なのだろうと

思った。

もう、バイクに乗っている人が

私の車の後ろ横にいるのだと

思う事にした。

それにしても・・・どこまで同じ道を

走る人なのだろう。

私が右に曲がれば

バックミラーに映る光も

右に曲がってくる。

試しにコンビニのある左へ

曲がってみた。

オレンジ色の光も曲がった。

私は怖いけど

そのバイクの人が誰なのか

確認したかった。

そして、コンビニの駐車場で

運転席から周りを見て見ると

誰もいない。


あれ?じゃあバイクの人は

いつのまにか

はぐれた?

私は車を降りて、

クロの後ろをタオルで拭いてみた。

雨の滴の集まりが

無くなった。

もしかしたら、
オレンジ色のライトは

雨の滴に反応していたのかな?

私はバイクの人もいないし

これで一安心した。



所が、クロを走らせると

またまたバックミラーに

オレンジ色の光が映る。

なにこれ!?

私はこの光がもしかしたら

人魂なのではないか?と思えてきた。



もう30年以上も前なのだが

私の親戚が「人魂」を見た事があると

言っていた事があったのだ。

なんだか夜、ローカル道を

歩いていたら、明るい所があって

なんだろう?と思って帰り道歩いていたら

赤い人魂だった・・と言っていた。

普通に宙に浮いている光らしい。

私は、その時「ふ〜ん。そんなことあるの」と

聞いていたのだが

その親戚(叔父さん)は、

3回も見た事があって

その後、身近な知り合いなどが

亡くなるので

(3回とも!)

「虫の知らせ」みたいに

思っていたらしい。

そんなことを私は

工藤静香の曲を聴きながら

思い出していた。


もう、ビブラードどころじゃない。

このオレンジ色の光って

「人魂」かもしれない!


私の帰り道を暖かく

見守ってくれている光が

(不思議と恐怖心はない)


もしかしたら・・誰かの死の前兆!?

そんな〜!それはイヤ!

私はこの追いかけてくる光と

同じ方向に道を走らせる。



そして、一度弟の家に寄って

ちょっとこの光を見てもらおうと

思った。


もしかして私だけが見えている光?

弟には「なにも見えない」と言われたら

私は、また一人で怪奇現象!?

弟の家の前に着いた。

弟を電話で呼び出し、事情を話した。


もともと私の事は

オカルト姉
だと思っている

弟は、別になんともない顔で

玄関から出てきてくれた。


私は「あのね!ずっとオレンジ色の光が

付いてくるの!

コンビニでエンジン切った時は

消えたんだよ!?

でも、またエンジンかけたら


出てきたの〜〜〜!!」

弟は冷静な顔で、車の運転席で

エンジンを切った。

そして、またかけてみた。

バックミラーに映るオレンジ色の光を

弟も確認出来た。

「まぁちゃん(私の弟のニックネーム)も


見てたよね!?あれよ、あの光よ!

人魂だと思う!?」


・・・弟は冷静に一言。

「姉ちゃん、あれは人魂じゃないよ。」

え!?じゃあなに!?

お化けじゃないの?

「ここだよ!」と言って

弟が指差した。

私が視線を向けると


どうやら、そこは

ナビのライトのついているランプで


そのランプがオレンジ色なので

そこがバックミラーに反射していた・・

ただそれだけの話だと言う。

な〜んだ!

バイクの人でも、人魂でもなく

単なるランプのオレンジ色!!



・・・私は柔らかい暖かい

オレンジ色のライトに包まれて

無事に帰宅したのであった。