大冒険


だめだ。間に合わないかもしれない。

さっきまでチラついていた雪が、斜めに降っている。

フロントガラスを白く染めているせいで

標識が良く見えない。

私は今、お客さんの商品をお届けに、

外に出ているのである。


売り場を離れて、好きな音楽を聴きながらドライブ。

なんて快適な気分なのだろう、と

浮かれていたのも つまのま。

どうやら、私は目的の場所を通り過ぎてしまったようである。


・・・確か、この道を走っていくはず・・。しかし。

目安にしていた店を、見逃してしまったのである。

しかも、周りは雪景色。そして、大渋滞。

ここでバックしたい。

しかし、そんな器用な事は出来ない。何処かでUターンできないだろうか?

私はこのまま、一直線の道に従って走らなければならない。

テールランプの並ぶ車を、背伸びしてみてみる。

ああ。ダメだ。もう15キロで運転している。何処まで続くのだろう。

早く商品を届けないといけないのに。



車に一人の私は、心細くて泣きたくなる。

私はワラをつかむ気分で

ケータイをつかむ。。

「みかりんさん、どうしちゃったんですか〜!

そんな泣きそうな声出さないでくださいよ!」

MMがそう言ってくれた。

こんな暗い見知らぬ土地で

迷子なんて 冒険気分だ。

私は受話器の向こうの、暖かい肉声に

元気を取り戻す。この元気をもらう為の電話なら、ケータイは有難い。

人と接点が持てる 
ともし火の 燃え燃えパワーである。

できるなら、この走行中の私を
「罰金ですよ!18000円」と

おまわりさんに、捕まえてもらいたい。


この心細い現状なら

「罰金、有難く払いますよ。

ありがとうございます!」と感謝して、

私の目的地の場所を教えてもらいたい。

降り続く雪に埋もれていきそうな、私の不安な気持ちを

温かく溶かしてほしい。


でも。このままワケの分からない道で、

生きて帰れなくなるようなら

いっそ 悪さをして、警察に捕まってしまいたい。

帰宅道を教えてもらって、毎日 カツどんを食べて過ごしたい。

今の私は、そんな気分なのである。

この雪空の薄暗さは、私の心境そのものである。


MMと電話を切った後、思った事は

とりあえず、トイレに行って置いて良かった。そして

ガソリンを満タンにしておいて良かった。

そして何より、
ケータイが普及した世の中で良かった事である。

私は涙目になりながら、

わ〜ん!暗いよ〜!狭いよ〜!怖いよ〜!と叫んでいる。

そんな時、ふと 左に曲がれる道を発見。

そこを通ると、
現地人(←通行人)発見

私は「やった!ツイテル!これで道を教えてもらえる!」と

心が明るくなる。しかも おじさんだ。

おじさんとは、優しい生き物である。



「あの!すみません。○×町まで行きたいのですが、

通り過ぎたみたで迷子になりました(←アホ)

Uターンしたいんですけど、どう行ったらいいか

教えてもらえませんか?」

私はワラにすがるつもりで、現地人をみつけて

安心して涙目である。すると おじさんは

そんな私を見て、
今にも笑いそうだ。何故じゃ?

「あの・・・○×町は、もっと先ですよ。

まだ通過点なんですけど。」


「ええ!通り過ぎたと思ってました!(←アホ)

では、私は また

あの渋滞の道を走るんですね。。。」


「戻らないで、裏道あるから教えてあげましょう」

おお!さすが現地人。(←通行人である。)

「ここを降りていって、まっすぐ行くと合流しますからね」

おじさんは、雪が降る中、親切に私に道を教えてくれた。

ああ。なんて有難いのだろう。ここを偶然歩いていたなんて。

私に道案内をする為に、貴方は歩いていたのですね。


ありがとう。もう私は たった今から

走行中 電話をして
警察に罰金を払いたい夢

生きて帰れなくなる不安から、悪さをして

刑務所で、カツどん生活を送る淡い願望

雪と供に 消え失せたのである。

ああ、おじさんよ、貴方は今日から私の中で

「雪道案内人」と名づけよう。

私は、人生を救われた気分になり、

おじさんにお礼を言って

アクセルを踏んだ。



とりあえず、地元人にしか分からないような

細い道を走り、不安になりながらも

目的地にたどりつける道を走った。

青い標識を見ながら、右折したいとウィンカーを出すと

軽自動車に乗ったおばさんが、親切に道を譲ってくれた。

こんな時、大きい車は勝つのか。いや、そういう問題じゃない。

人間さと、相手を思いやる気持ちである。

余談だが、この様に車を入れてもらえた場合

私達は、後ろの車に「ありがとう」の意味で

ハザードを出す習慣がある。

これはトラック業界の挨拶から来たものらしい。

しかし、これが通用するのは、東北だけだと

教えれた。


そう言われてみると、自動車学校で 

そんな説明受けなかったのである。

まあ、それはいいとして。



雪道を走る事15分。どうやら合流する道路が見えてきた。

ああ!あれだ!私は嬉しくなった。

これで、目的地につける・・・。一気に体中から力が抜けた。

約束の時間に間に合いそうだ。

ほんの30分ばかりの、みかりんの大冒険。

不安と恐怖で心をおだてて、精一杯の迷子体験。


あの時、左折しないで走っていたら

あまりの渋滞さに、もっと不安になっていたであろう。

雪道案内おじさんに、感謝である。