バリウム初体験 2


バスの中に入ると、椅子に4人座っていた。

私はその人達と反対側の椅子に座った。

私の向かい側にいた60代位の男性が

バリウムを飲む所だった。

なんともいいタイミングで私が次にする手順を

見せてもらっている気分だ。

白い白衣を着た女性が、

細長いスティックのような物を

飲むように話をしている。

あれは一体なんだろう?

その後、紙コップに

茶色の瓶に入った液体を入れている。

あの液体が、私が今まで見たことも

飲んだ事もない事だけは確か。

あの原液が、カルピスや

ウィスキーじゃないのは確か。

今度はその紙コップの物を

飲むよう話をしている。

今の私にその光景は、得体の知れない物を

飲まされているようにしか見えない。

数秒で飲み干した男性は

その後、眉間にしわを寄せて下を向いている。

その表情を見た私は・・

よっぽどマズイ飲み物で

水割りにでもしたかったのだろうと映った。

すると、男性は1分もしないうちに

名前を呼ばれた。

その後ろ姿を見ている私。

男性は「使用中」と赤い字でランプが付いた

ドアの向こうに姿を消した。



「次の方」と言われ、

私のバリウムを飲むの順番が来た。

ああああ・・・あのドアの向こうに消えた男性の

バリウムを飲んだ顔が忘れられない。

私も同じ物を味わうのか・・

「あの〜・・何味ですか?」私が聞くと

「味はしないです。

だた風味はヨーグルトです」と言われた。

スティックの袋に入った錠剤を渡された。

これを口に含んだ後、紙コップを渡すので

一緒に飲むよう指示される。

どうやらワンセットのようだ。

「下剤を一緒に居れて

飲んでもらいます」とも言われた。

ここの検査方法は、

下剤入りなので

検査が終了したらコップを

2杯以上飲むらしい。

「おなかはゆるい方ですか?」と聞かれる。

私は便秘で悩んだ事がないくらい

下りやすいハラを持つ女なのだ。

この事は大変自慢出来る事だと思ったが

自慢する場所が違うので

あえて控えめに

「・・はい。おなかはゆるい方です」と言った。

「では、下剤の量を

調整して1錠にします」と言われる。

通常は2錠、下剤を入れるらしい。



私はスティックの袋を開け、

中身を口に入れる。。

一体、どんな得体の知れない物が・・・。

飲む瞬間まで

その不安感は消えなかったが

私の口に入った瞬間

シュワシュワとした感覚。舌の上で

弾いているこれは一体なんだろう?

子供の頃食べた炭酸のガムのような感じ。

確かパチパチって言う名前の

ガムだったような?

そのまま紙コップの謎の液体を一緒に

飲む。一気に飲まなくてもいいとの事。

またまた初めての試み!

私の喉を通った謎の液体は

弾ける炭酸水のイチゴジュース!

美味しい!
なんだこれは!?

どうやら、パチパチは炭酸の役割で

紙コップの液体がイチゴ味か。

一緒にMIXされて飲むのか。

朝起きてから、

一滴も水分を取ってないいないから

喉を潤してくれてなんだか助かったし

本当に飲みやすかった。

まずくなかった!


むしろこれならいくらでもOK!

飲み干した。

「ゲップしないように、下を向いて

唾をのみこんでいてください」と言われた。

これがゲップをしないコツらしい。

思っていたより炭酸はきつくなかった。

私は、スプライトやコーラみたいな

炭酸をイメージしていたので、意外だった。

あのきつめの炭酸は

ゲップ後、鼻にツンとくるものがある。

でも、私が今飲み込んだ謎の液体は

そこまでではなかった。

体験して初めて分かった炭酸具合である。

この位なら、ゲップは我慢できるかも。

まだ私の中では許容範囲かも。

そう思いながらも、「ゲップしたらおかわり」と

みんなにさんざん言われてきたので

頑張ってこらえた。

私も下を向いている時、

眉間にしわを寄せていたかもしれない。

これから飲む人は、私の表情をみて

私がバリウムを飲んだ男性を見た時と

同じ心境に陥ったに違いない。



「使用中」の赤ののランプが消え

先ほどの男性が出てきた。

今度は私の出番。いよいよ第二関門。

ドアの向こうに見えたのは

人が一人 入れるような電話ボックスのような

狭い箱。そこに入るよう指示される。

またまた紙コップ発見。

両手にポールダンスのような棒がある。

目の前には四角のレントゲン。

無機質な器械の中に

すっぽり私が埋まる。

私はこの世にも奇妙な空間で

人生初のバリウム体験をするのだ。


男性の声がマイクを通して聞こえてくる。

「その紙コップの中身を飲んでください」

ええ!?さっき飲んだのにまた飲むの?

今度こそ、味も匂いもない

無機質な液体だった。

もしかしたら、これこそが

「バリウム様」であろうか?

さっきのは

胃を膨らませるだけの物だったのか?

とりあえず、この謎の白い液体を飲む。

・・・水でもない牛乳でもない

でも、ややとろみのあるこの液体が

私の喉を通っていく。

特に不快感もなく、すんなり飲めた。



「レントゲンを取るので、顎を

その台の上に乗せてください。」

私は男性の声に従う。

顎を乗せる。

これは普通にレントゲンを撮る光景だった。

「今度は両手で棒を握ってください」

指示通りに棒をつかむと

ゴーとする音がして

体ごとアタマから逆さまに動かされた。

うわ〜なんじゃこれは〜!

これがみんな言っていた「意外と体力使う」と

言う行為か!?

とにかく私はゲップをしないようにだけ

必死になって眉間にしわを寄せながら

目を閉じていた。逆さまにされても

アタマに血が上るほどではなかった。

まだ耐えれる。

「右を向いてください」

ええ?右?

「そっちは左です。逆です」

ああ、本当だ。本当に右と左が分からなくなる。

これが噂の検査の行為か。

マイクの男性に「右」と言われりゃ

右向いてなんて幸せ〜みたいな歌があった。

「右」と「左」私は恋の奴隷のように

従う(←あまり私は従う人じゃないらしい)

グルグル回っていると

だんだん自分が何をしているのか

分からなくなる。

「息をして!目を閉じないで!」と

言われた。

顔の表情と、呼吸をしていないのまで

チェックされいているのか〜〜!

だけど、私はとにかくゲップをしないように

する事で精いっぱいになる。

「右に回って!」

右に回ってみる。右回り。

「左を向いて」

さっきと反対か。

なんだか、犬になった気分だ。

ご主人様の言う事を聞いている気分だ。

「次、また右を回って」

右?また右って言ったか?

一回転して

ワン!



だんだん自分が何をしに来たのか

分からなくなる。

自分は一体人間なのか?

恋の奴隷なのか。ワンコなのか。

とりあえず、ゲップさえしなければいいのだ。

「呼吸して!息を止めないで!」

また同じ事を言われた。

息を吸ったり吐いたりしたら

ゲップが出るかと思ったのだ。

でも、呼吸を止めて1秒♪ならいいが

検査中、ずっと呼吸をしないと

余計なエネルギーを使っているような気も

してくる。

私は、鼻呼吸ならいいのか

口呼吸ならいいのか

冷静な判断も出来ないまま

通常の鼻呼吸をしていたと思う。


「はい、終了です。」と言われた。

私のバリウム体験は終わった。

終わったと思った瞬間に

ゲップが出た。



ドアを開けると、先ほどの看護婦さんが

「大丈夫でしたか?」と声をかけてくれた。

「はい。ありがとうございます。

思ったより楽しかったです。」と私が言うと

「それは良かったです」と返された。

もしかしたら、この検査って

痛くもないし、不快感もない。

様々な検査の中で、

「面白い検査ナンバー1」に

選ばれるのではないか?とさえ思えてきた。

思ったより、ゲップを抑える事は辛くなかった。

思ったより、炭酸もきつくなかった。

この検査を恐れていたこの2〜3年は

一体なんだったのだろう?とすら思えた。

「もし、バリウム飲みたくないなら

健康診断の時、

町で受けましたからとでも言って

逃げてきたら?」とアドバイスを

もらった事もあったが

一度経験すると、恐怖心が小さくなるのだと

分かった。


そのまま着替えて、鏡に映る自分をみたら

口に真っ白い粉のような物が付いている。

先ほどの「とろみのある液体」が

こうして固まったのか。

ちょっと力を入れないと、落ちない。

グロスをつける前に、落として

コップで水を飲む。

水を飲んだ瞬間、炭酸が胃から

押し上げてくる。

シュワシュワとしたあの感覚。

とりあえず、これで第二関門も

無事に終了した。

晴れ晴れとした休日。

天気もいい。

まだAM9:00



私はこれから、第三関門の

「バリウムを出す」と言う体験に

直面する。

この話は、次回まで持ち越す事にする。

私の胃の中に溜まったバリウムは

次回まで滞在する事にする。