私の16歳。


高校生と言えば、もう半分大人である。

自分が16歳の時は、
左足の付け根までは大人だと思っていた。

しかし、年齢を重ねるごとに

「大人と思っただけの、子供だった」と気づいたのは

私だけではないはずである。



先日、接客したお客さんは現役バリバリの女子高生であった。

こうして面と向かって話しをしていると、
自分の年齢の半分の女性だと

悲しい位 実感すると同時に、自分が

男の視線で目の前の女の子を見ている事に気づく。

まだ十分ブラウスでもOKなこの時期。

首の下につながる肌を見ながら、ちょっと胸元が気になる。

当時の私も、そう見られていたのだろうか?

何にもしなくても、張りのある肌。おお、これをピチピチと言うのか。

・・・・・なんだかここまで書いていて悲しくなってきた私である。


話を戻そう。私は女子高生の持っているカバンにふと目を向ける。

リュックサックに、キノコのアクセサリーが付いている。

もしかして、あれはドコモのキノコだろうか?

ジャラジャラと付いているのは

ケータイだけではないらしい。


思い起こせば、私も現役16歳の頃

ケータイは勿論なかったけど、通学バッグはカバンじゃなかった。

始めのうちは、制服に黒の薄いカバンが

女子高生スタイルっぽくて、好きだった。

しかし、そのスタイルを
邪魔するモノがあったのである。

それはお弁当である。あんなノートしか入らないようなカバンに

この横に太い弁当を、どうやってしまえと言うであろうか?

カバンを胸元に持って、目をウルウルさせて

「好きよ、キャプテン」と言ってみたかった私には

お弁当は背景に置いてならない主義だったのである。


しかし、私は母の手作りのお弁当なしでは

過ごせない女だったのである。

何故なら、
私の通った高校には食堂がなかったからである。

唯一、オアシスの売店
は、休み時間には人気殺到。

売店のおばさんを誰よりも早くGETして、食い物を手に売れるのは

誰もが認める日課であった。


当時、勉強の出来ない私だったが、

本当はちょっぴりアタマが良かったのである。

「お姉さん!ピザマン二つ!」と私が叫べば

おばさんは頬を赤くしながらも、生徒達の波をかけ分けて

私にピザマンを「はいよ!二つで160円だよ!」とくれたのだ。

30過ぎた今の私としては、この売店のおばさんの気持ちが

切ないくらい分かるのである。

今、私は時間を越えて、乙女心を共感しているのだ。

またまた話は脱線したが、

食べ盛りの女子高生に、
お弁当+ピザマン2個の私に

カバンだけ持って「好きよ、キャプテン」は

もう無理な話である。

そこで私はリュックサックなら

お弁当をしまえて、しかも両手が開く事に気づいたのである。

そう。両手が開けば、「キャプテン」の胸に

飛び込んでいけるではないか。

これはイケル。



私が髪の色に合わせて、茶色のリュックを持って通学する頃

周りも、みんなリュックサックになっていた。

どうやらみんな、男子の胸に飛び込みたがっているようである。

気が付くと、私のリュックは勉強道具が入る事は

まずなかった。

リュックの中身は、一番下にお弁当。

ここで三分の一のスペースが占領される。

縦に入れるのは、

回し読みしている雑誌
(おちゃっぴー、POPTEEN、エルティーン)

バンドのスコアのコピー。

こないだ隣のクラスの男子から貸してもらった

「THE 森高」と、ジッタリンジンの薄いCD2枚。

M先輩に貸してもらった山下久美ちゃんのCDも。

丁寧にカバーをかけてある「ホットロード」の漫画本も貸りた。

あと、
音が孫になっているようなカセットテープ

(ゴーバンズと スタークラブ)も入っている。

カセットテープは本数が増えるほど危険である。

何故なら、リュックを背負うと

カセットケースの先が

背中を突き刺すので、注意が必要であった。


また、お菓子の存在を忘れてはならない。

お昼前にハラが減るので、みんなで食べる予定の

プリッツ サラダ味を一番上にしまう。これはスマートで良い。

ポテトチップスだと、リュックに入れた時

袋の空気が邪魔をして、リュックが閉まらないのだ。


勉強しに行くつもりが、いつも遠足気分。

いつもお菓子が入っている。

これが私の素晴らしい学園生活であった。



また、制服のポケットにも、アメやガムが入っていた。

私は、この手の小物的なお菓子は

持ち歩きしていない女だった。

しかし、一緒のグループだった友人が

「これ、梅味のガム」だの「懐かしい三色の紅茶のアメ」だのと

近所のおばさんのようなノリで渡してくれていたのだ。

先輩達に会えば会ったで、グミをもらったり

学校とは、お菓子の世界なのか〜と思っていた。

そこで1学期が終わる時、制服をクリーニングに出そうとすると

あらゆるポッケから、噛み終えたガムのゴミやら

アメの紙が「これでもか〜!」と言うくらい出てきた。

これではもう、四次元ポケットである。

こんなゴミだらけの制服を着て

「好きよ、キャプテン」は ないだろう。

そう、私が付き合う人は何故か

校外の人ばかりだった。

きっと、この本性がバレていたせいだと思う。



こんな回想モードに思わず浸ってしまったのは

私の年齢半分の女性を目の前にしたからである。

そしてきっと、この女の子も

あのリュックサックの中に、

沢山のお菓子と希望を胸に抱いている。


今しかない思い出を作るのだろうなと思い、

私は「ありがとうございました」と後姿を見送ったのである。