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イスラム編つづき
そんな人達の中で、特に印象に残っている人物がいる。
ヨルダンから英語で歯科医の免許を取るためにやって来た、その名も「アハメット」( 彼の国にはアハメットやらマハムットがとにかく大量にいるらしい。
そのおかげで誰が誰を呼んでいるのかもはや分からないんだそうだ。) 三十歳、ジーンズと皮ジャケットを着こなす、長身で目の澄んだマスターチの似合うハンサム歯科医、、、、、、、、しかし悲しすぎるほどに髪が後退していた。

私はイスラム教の詳しい決まりなど知らないが、彼の守っていた規律はとりあえず「禁酒。豚肉は食べない。」であった事をよく覚えている。彼が礼拝をしているところは見た事がなかった。

「色々いるんだ。信仰の深い、きちんと戒律に従う奴らもいれば、酒飲んだくれの奴らもいる。」

私は彼ともう一人、小さくて姉ゴ肌のインドネシア人「イエッシー」とよく三人で遊んでいた。

実は世界的大宗教の三つがそこに集結していたのである。私=仏教(信仰度10% : 行事のみ参加) アハメット=イスラム教(信仰度50%) イエッシー=キリスト教(信仰度70%)
この三つの文化の違いがハッキリと出るのは何を隠そう食事直前時である。

私→ 「いただきまーす。」

イエ→「、、、、、、。(お祈り中)」

アハ→「ガシャ ガシャ(もう食ってる)」

そんな食事を三人で取っている時事件は起きた。アジア料理を食べた事がなかったアハメットは喜んでチャーハンを食べていた。もう半分も終わろうとしていたその時である。

私 「なかなかうまいやろ。」

アハ「ああうまい、、、、、ところでこのピンク色の物体は何だ。」

イエ「あ、それ豚肉よ。」(彼の守っている規定に反する)

可哀相にこのオジサンは半泣きであった。両手を天に掲げ、

「オーマイガーッ」

まさにそのセリフ、その通りである。とどめを刺したのは無償の愛を捧げるクリスチャンであるイエッシー。

「初めて食べた豚肉はどんな味だった!?(興味津津)」

彼は頭を抱え込み悲痛な面持ちで、全く正直に感想を述べた。


「鳥肉と牛肉とは違う味だ、、、、、。」


それからというもの彼は知らない国の食べ物には手を出さなくなったのである。

初めて帰国した時、伯母に「留学して何が一番変わった?」と聞かれたことがあった。私はその時「価値観かな」と答えたのを覚えている。

例えばどんな、と聞かれてその時は言葉にする事ができなかった。
今でも返答に困る。

衝撃的に自分の物の見方が覆されたわけでもなく、ただ「そうか」と妙に納得させられた感じと言えばいいのか。

私が出会ったイスラム教の人達なんて彼らのほんの一部にすぎない。
けどあのテレビ討論で「色々いるんだ」と訴えていた事は「知っている」というより「理解できる」という意味で、その通りだなと思う事ができる。

ところでこのアハメット、実はイエッシーに求婚し、見事に当たって砕けた。どうもそれが理由の一つで国へ帰ってしまったのだが、今や私の出した手紙やメールも届いているのかも分からない状態。

彼が元気にしていることを、無神教の私は祈るばかりです。

それではまた。
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