それでは、まずちょっとテングワールについていろいろ。


テングワールには、たくさんいろいろな書き方がある。
このパスポートでは英文を書いてあるわけだけれど、テングワールの英語モードには何種類かある。英文の書き方は1種類じゃないのだ。点(テフタ)をつける書き方と、点々なしの書き方がある。

点ありモードは、トールキン自身のと、息子のクリストファさんのはちょっと違う。でもまぁ基本的に同じ。
点なしモードはトールキン自身が書いたものがずいぶん出版物の中に含まれていて、何種類かに分かれる。ざっと見て4種類くらいはある。これは、トールキン自身が書いたパターンによるもので、クリストファさんのものは入っていない。クリストファさんの書いたので公開されてるのは、点ありモードのだからね。

で、そのいろいろあるのは混ぜこぜにしない方がいい。点ありモードの父上バージョンとクリストファバージョンは基本は同じだから両方を参考にして書くのは構わない。
でも、点なしモードのいろいろなのは別物になる。点なしのAタイプ、Bタイプ、Cタイプ、Dタイプは違うのだ。点ありモードとも、もちろん全然違う。 あ、このABCDは、グワが勝手にそう呼んでるだけです。

英文点なしは、その4つのどれにも該当しないのもあって、なかなか複雑だ。母音のaeiouを表す字がいろいろになって、これは、ほんとは別物というより、地域差のようなものなのかもしれない。母音だけじゃなく、細かいいろいろな書き方が違う。

何にしても、「よし、このパターンで書くべ!」って決めたら、その文書の中ではそれで通さないと、読む人やエルフやドワーフやナズグルや鷲なんかは非常に困ることになる。

次ページ以降の説明の中には、英文点なしモードの話が結構出てくる。まだこのサイト内では解説してないから、わかんないと思うけど、そういうのがあるのか、と、とりあえず納得してください。

で、パスポートに書いてあるのは、点々ありのと点々なしのが混ざってる。英文の点々ありモードはトールキンが書いておいてくれた用例が少ないというか、もっとあるんだろうけど、そんなに公開されてないから何かと困るんだけどさ。でも混ぜない方がいい。 混ぜない方がいいっていうより、混ぜると意味不明になる。

このパスポートにあるテングワールの問題点の筆頭は、点なしモードの書き方を点ありモードに混ぜてしまったということだ。

それに加えて、英語モードだけでなく、エルフ語のシンダリン式の書き方まで混ざっている。もう、なんか、何でもあり、って感じ。
何とかモードなんて関係なしに、とにかく用例の中から使えそうな綴りを拾ってきて、てきとーにつないじゃいましたぁ!ってことらしい。

英語のテフタあり、テフタなし数種類、シンダリンモード、それぞれ同じ字でも読み方が異なるのに、それをごっちゃにしたから何が何だかわからなくなっている。

いや、これはそういう方式なんだ!と思えばいいかというと、そうでもない。同じ字なのに途中で使い方が変わってしまう。これでは読み手はどうすればいいのかわからない。

書式がゴチャゴチャしてるのに加えて、間違いもいろいろある。
ざっと見ただけでも、よく出てくる綴りが変になっているから、きっとテングワールのことはよくわかってない人が、いろいろ頑張ってつなげたんだろう。パスポート企画のスタッフなら、仕方ないかも。 っていうか、そういうスタッフさんが頑張ったんなら、まぁ上出来かな。よくここまで書けたなぁ、と思う。

あのパスポート、何て書いてあるの〜?って何人もの人に訊かれて、はいはい、と解説しようと思ったら何だか添削みたいになっちゃった。間違い探しばっかしたくないんだけど。

こういう指摘をすると、限りある命を持つ者は何かと間違うものだから、それにテングワールで英語を書くのは、ゴンドールの人間が英文を書くならこうしたかも、ってことだから、変でもいいのだ、みたいな声もある。
そりゃうっかり間違うことは誰でもあるけどさ。でも、わかってないのに勝手に変な風にいじくりまわすのはよろしくない。それは、うっかり、っていうのとは違う。

クリストファさんの書いたのも、時々おかしなところもある。点の場所が違ったり、ウンバールがウンダールになってたりとかね。b の線一本忘れると d になっちゃうから。
そういうのは、うっかり、と言う。多少はうっかりがあった方が古い本のような味わいが出ていいかもしれない。
うっかりはあれど、父上のスタイルを踏まえた上での、独自のスタイルが構築されている。

三男のクリストファさんは父上の世界の理解者で、トールキンの没後、たくさんの原稿を世に出してくれた。そしてテングワールもいろいろ書いている。
クリストファさんが本のタイトルページに書いているのは、テフタつきの英文で、父上のパターンとはちょっと違うところがある。基本的には同じなのだけれど、これがクリストファ流だぜ!!という一本筋の通ったものがある。それはそれでいいことだと思う。
クリストファ流は、父上の書き方の進化形なのだ。他のファンがいろいろ書くのとは違う、由緒正しき家系に基づいたスタイルだ。

言語に限らず、何事にも、スタイルというものがある。そこからわざと外れて独自の世界を拓く芸術家ならともかく、そうでなければ、形式に則って、それを踏まえた上で自己表現をするのが一番美しい。形式美ってやつかな。ダンスでも音楽でも基本がしっかりしているのが一番美しい。美術、建築でも同じ。数学、物理の式も美しい。世界は美しい。
一番いけないのは、根本にあるスタイルがわからないまま、わかってなくてそれから外れてメチャクチャになることだ。わかってて外れるんならいいけどさ。
このパスポートを見ると、ちょっとしたかじりかけの知識のまま書くとこういうことになっちゃうんだな、というのがよくわかる。
英語でちゃんと書いてあるのがついていたから読めたし、どういうつもりの間違いなのかもわかったけれど、これで英文がついてなかったら、何て書いてあるのか、これではきっと、全部はわからなかったに違いない。

言葉というのは、世界中どの地域でも、どんどん変化していく。字も変わっていく。
テングワールもトールキンの没後、一人歩きを始め、世界中のファンが独自にいろんな書き方をして楽しんでいる。
これがわたし流!っていうのがあってもいい。眺めていれば、あぁ、この人は、こういうときにはこう書くのだな、というのが見えてきて、何て書いてあるのかわかる。ただし、1つの文章の中では一貫していてくれないと、どう読むのかパターンがわからない。

このパスポートでは、2行しかない中で、いろんなことが起き、法則も主義もポリシーも、わたしはこうしたいんだ!っていう主張も感じられない。

間違えてるところが、うっかりなのか、わかってないのかは、見ればわかる。大体、テングワールは似た字が多いから、何度も見直しても、線が一本なかったり、多かったり、向きが上下逆だったり、テフタをつけ忘れたり、いろいろする。だからちょっとのことは誰にでもある。しかし、パスポートのは、そういうのとは違う。

テングワールはトールキンが作った文字で、要するにトールキンのお遊びだった。みんなトールキンの世界が好きになると、テングワールも好きになる。お遊びだからどうでもいいじゃん、っていうんじゃなくて、お遊びだからこそ、みんなの大好きな指輪の世界の文字だからこそ、スタイルに則って、トールキンの本家本元の書き方を覚えてほしい。
自分でいろいろ書いて遊ぶだけなら変でもいいけどね。印刷物では多少間違いはあっても、変なのの山にしてほしくない。

たとえDVDのオマケであってもだ。
一応、これは映画の公式グッズなんだから、テングワールも本家本元の公式の書き方がいいなぁ。
このパスポートは、みんなミドルアースが好きで好きで、映画劇場公開中は映画館に通えば観れたけど、上映終了で、どうがんばっても観れなくなって、さんざん待たされて、やっとDVDが出たっ!!!と皆が飛びついて買って、それにオマケでついていて、結果、日本語を母語とするかなりの数の指輪ファンが持っていて、影響力は多大なのだから。

Telcontar王朝のSecretaryが書いて発行したという趣旨になってるけれど、馳夫さん配下の役人がこんなテングワールを書くわけがない。ということは偽造パスポートだろうか。そりゃそうだ。なんつったって、DVDのオマケだもん。(^^;;) ちゃんと書いてある方がおかしいのだな。あまりにカンペキだと、悪質な偽造になる。間違えてた方がカワイイのだ。これなら捕まっても執行猶予で済むかもしれない。

さて、これって、DVDのグッズになるんだし、パスポート持ってるPJやヴィゴが出演したDVDが特典で貰えたんだし、映画の中ではいろいろ文字も出てきて、製作スタッフの中にはテングワールを書いてる人(ダニエル・リーヴさん)もいたわけだし、だったら、書いた画像送ってチェックしてもらえばよかったのにな、とも思う。
それか、いっそ、初めから頼んで書いてもらっちゃうとか。 お金はかかるだろうけど。チェックしてもらうだけでもかかるだろうけど。でもDVD売れてるんだから、そのくらい予算回してもよかったよな〜

とは言っても、映画に出てくるテングワールの綴り方は、トールキンの綴り方の例にあるのとはちょっと違う。結構違う。だいぶ違う。すんごく違う。
テングワールが見えたら、それは即エルフ語かというと、そういうわけではなく、結構英文がある。
それらを見てみると、字の当てはめ方も違うし、英文点ありモードの場合、点の付け方はシンダリンみたいに次に行かないで、クゥエンヤみたいに前の子音の上にしているときもある。
点ありの場合、the や and はトールキン式の略し方だけど、of はトールキン式じゃなくて普通に並べている。でも点なしのときは、and も略さず書いている。
点ありの場合、閉塞音の n は、線にしないで字にしている。でも、点なしの場合は線になってる。使い分けてるらしい。
字の当てはめ方は、たとえば普通は h はだけど、映画では点ありの場合、が h で、は x になってる。このパターンは、SEEの特典ディスクでちらっと出てくる。
点なしモードのときは、は普通に h になってる。ところが普通は r のが w になっていて、それがわかってないと、読んでて右往左往することになる。

初めて読んでみたときには、ほんとに右往左往して面白かった。読めたときには感動だった。
普通の綴りを見慣れている目には、いろいろと、すごーく不思議に見える。どうせなら、本物らしく書いてほしかったな。

しかし、それはそれで、綴りの方式は一貫していて、「は?」「え?」になることはない。しばらく眺めていれば、どう書いているのか自然に見えてくる。
発音がどうあれ、元の綴り通りに並べるのが映画流。初心者にはああいう感じの方が楽なのかもね。
映画は、話の流れもいろいろ変わって、ややこしいところはカットで、なるべく単純にわかりやすく!って感じだったから、テングワールも同じ方針だったのかもしれない。

とことん、元の英語のアルファベットの綴り通り!! この字がこれ!と決めたら、どこまでもその字はそれなのだ。発音がこうだからこうする、とかってややこしいことはなしなのだ。
だから普通と違うところがあっても、ちょっと見ていれば、あー、これがこれなんだぁ!とすぐにわかって、機械的にするすると元のアルファベットに直すことが出来る。非常に単純に出来ている。

きっと、製作側にチェックを頼んだら、映画式の綴りになったことだろう。映画のDVDのオマケパスポートだったんだから、それでもよかったと思う。映画のオマケなんだから、映画式で統一するべきだったかもしれない。映画のテングワールは、ダニエル・リーヴ・モードなのだ。でも、しつこいけれど、あれは本式ではない。

本式ではないダニエルモードは、一応、主義一貫しているから読める。何が書いてあるのかわかる。

一方、パスポートはと言うと、主義一貫していない。眺めれば眺めるほど、混乱してくる。どーしてそーなっちゃうのさ!って感じ。さっきはこうだったんじゃん!!って。
初め、パスポートにテングワールが並んでるのを見たときには、映画製作側に頼んで書いてもらったのかなと思った。でもよくよく見ると、製作側の字の担当者が書いたのでないのは明らかだ。これを書いたのは、どう考えてもダニエルさんではない。

ダニエルモードの解説はそのうちするから待っててね。 それにしても、あれだけ大変な仕事はしたのはすごい。字、綺麗だよね。すごく綺麗。
ダニエルモードの解説なら、この字はこれで、だからこういう並び方になっております、ってだけで済む。

パスポートは、そういうストレートな説明では済まない。書き方が統一されてないから解説のしようがない。で、添削になってしまった。

ってことで、映画のキャンペーンで発行された偽造パスポート、怪しいテングワールを検証したいと思います。

で、グワならこう書くな、っていうか、トールキンならこう書くよな、っていうのも併記してあります。
基本的に父上本人の書き方に準じてあります。

パスポートのを直しながら、いろいろと話をしていきます。

テングワールの書き方は、この単語なら絶対こう、っていうのも多い。でも綴りによっては何種類かの可能性がある場合も多い。例えば、テフタつきの書き方で keep を書くとすれば、でもでもでも、どれでもOK。 これはどれもeeを表す。2つ並んでてキープって伸ばすしさ。あんまり迷わない。
じゃあevenならどうか?イーヴン。はじめのeは1つだけど伸ばす。綴り通りならだし、発音通りならで、どっちも間違いじゃない。エーじゃなくてイーだから、はじめをにする人もいるかもしれない。
書き手の感性によったり、見た目で選んだりとかで、いろいろになる。そんな自由があるのがまた素晴らしい。

だからここでグワが並べたのが全て絶対ではないけれど、参考にしてね。


ではパスポートを開いて、始めよう!!



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