9本指のフロド

滅びの山、サウロンの溶鉱炉、サンマス・ナウア。
大変です。はるばる捨てに行ったのに、やっとこ着いたのに、最後の最後でフロドは「これはわたしのものだっ!!」なんて言っちゃって指輪を填めてしまい、その後の展開はご存じの通り。
いや、ご存じじゃない人もいるだろうからここでは詳しく書くのはやめときますが、その結果、フロドは9本指となる。

それで、どの指がなくなっちゃったのか。
これは結構世の中いいかげんと言っちゃなんですが、いいかげんです。

原書と訳書と映画はみんなバラバラ。いいんでしょうか。

サムが目を覚まして、隣のフロドを見たところ。
はい、まず原文。

  It was the right hand, and the third finger was missing.


次、訳書。

  それは右手で、中指が欠けていました。


で、映画。
さて、どうなってるのか、わかんない人はDVD見ましょう。


手はこうなっている↓
日本語だと、それぞれいくつも呼び方はないけど、英語ではいくつもある。
まぁ日本語でもいくつもあるけどね。中指はお兄さん指とかね。




英語のfingersの中には親指は入っていない。え゛〜、お父さん指なのに?!
あれはthumbであって、何とかfingerとは言わない。あー、お父さんは別格なわけか。
面白いねぇ。たしかにね、一本だけついてるとこ、違うしね。
で、だから、fingerを数えるときは、人差し指がfirstになる。3番目の指、third fingerは真ん中じゃないんですね〜
ring fingerにカッコをつけたのは、現在の英語では左手の場合のことを言うことが多いから。
小指は口語ではpinkieとも言うし、中指はlong fingerとも言う。


訳書はこの部分、誤訳。3本目ってことで、単純に真ん中にしちゃったらしい。新訳の時に直せばよかったのにな。
訳本読んだ日本人はみんな中指だと思いこんでいる。

ということで、ほんとはどれがなくなっちゃったのか、わかりましたね?

映画はどうしてああしたのかな。
あの方が、あの後のシーンを撮るときになくなっちゃったふりをするのが楽なのかな。
でもそういう理由でもないかもね。他のシーンでもthird fingerじゃなかったし。
左にしたのは、右利きで右でいろいろするのに、右が一本ないふりするのはやりづらい、ってこともあっただろう。


指の数え方は、人によって意識が違うのかもしれない。
ピアノを弾く人間にとっては、世界共通で親指が1で、人差し指が2、中指3、薬指4、小指5が当たり前だけど、ヴァイオリンの場合は弦を押さえるのに親指は使わないから、人差し指が1で、中指2、薬指3、小指が4となる。ギターもそうだ。

日本人ならピアノ式の数え方は別に何とも思わないだろうけど、英語で育つとこれはもしかして違和感があるのかもしれない。ピアノ式だとfirst fingerが2で、secondが3で、third は4になるんだから、なんとなく変なのかもしれない。どうなんだろう。
英語の指の呼び方はヴァイオリン式と一致している。

他の言語でも世界中で数え方はいろいろ違うのかもしれない。おもしろい。
日本式感覚だと、やっぱり間違えやすい。人差し指から1、2、3、って数えない国だと、ここは誤訳になりやすいのかもね。
難しい単語をたくさん知ってても、こういう日常的な言葉がわかってないと、それでそういうのって簡単な言葉だから調べないと、こういう間違いをする。
他言語の指輪を持ってる人、ここのシーン見てみて、訳がどうなってるか、ぜひ報告してください。

試しにいろいろ辞書をめくってみると・・・
小学館のランダムハウス英語辞典では、fourth fingerは薬指だと書いてある。こらこら。
そして、third fingerも薬指だと書いてある。小学館さん、さぁ、どっち?
研究社のリーダーズ英和辞典では、ちゃんとfirstが人差し指でsecondが中指、thirdが薬指でfourthが小指となっている。

fingerは絶対親指を入れずに数えるのかというと、そういうわけでもない。やっぱり指は10本、っていうのが普通の感覚ではある。9本指のフロドだって、Nine-fingered Frodoであって、thumbが2本にfingerが7本のフロドとは言わない。
セサミストリートの英語辞典 を見ると、fingerは左右5本ずつで全部で10本ありますよ、と書いてある。今売ってるのはCDがついてるらしい。いいな。グワの持ってるのは昔ので、CDなんてついてない。でも昔のは表紙がアーニーとバートで気に入っている。セサミで一番好きなのはアーニーさ。あの性格はサイコーだ。

指は10本だから、人差し指がsecondとする言い方もあるらしい。するとthirdは中指になる。でもそういうのは医学用語で、普通の言い方と違う。


ってことで、普通、third fingerと言えば、薬指のことです。世の中そういうもんなのです。

他の指は、数的な言い方より他の呼び方をすることの方が多いように思う。たぶん。
人差し指はforefingerで、中指はmiddleで、小指はlittle。
と思ったら、掲示板の情報によると人差し指はindex fingerが普通のようです。ぞっこんさんありがとう。

で、他のは数字で呼ばないけど、薬指は普通thirdと言う。ring fingerと言うと左手の指ってイメージになるし、左右どちらでも使える薬指の呼び方はthird finger。

まぁ、そんなにうるさいこと言わずとも、フロドがなくしたの、どの指でもいいではないか、という人もいるかもしれない。しかし、どの指でもいいわけではない。
トールキンは意味のないことは書かない。

どうしてフロドが失ったのは薬指だったのか。
third fingerには古来、不思議な力があるとされ、だから指輪をつけるのはこの指になる。昔から指輪には魔力があることになってるからね。これは別にトールキンの世界に限ったことではない。

そして、不思議な力があるから、医術を行う(薬を混ぜたり溶かしたりつけたりする)のもこの指で、だから日本語では薬指と言う。薬指って一番言うこときかない、動かしづらい指だ。それをわざわざ使う。
こういうのは、洋の東西を問わず同じで、どうも不思議な力に関係することは薬指ということになっている。医療関係、魔術関係、愛情関係、とか。口紅塗るのも薬指。昔の絵や時代劇なんかで出てくるね。化けるとき(いえ、美しさを追求するとき)にはやはりこの指を使う。

今はring fingerというと左手の指で、結婚指輪をつけるからそういうことになってるけど、それは英語圏での話で、国が違うと左とは限らない。左っていうのは、古代エジプトが元らしいけど、右という地域もある。日本は開国時アメリカとべったりだったから左になっている。
ちなみに薬指は環指ともいう。わっかをつける指だから。

右も左も薬指は不思議な力を持つ。世界各地でそうだから、これは迷信とかではなく、いろんなことに敏感だった昔の人たちの知恵なのかもしれない。

で、だからやっぱり映画のフロドは間違えたのだ。あれは、魔力のある物を、ちゃんとその働きをするようにつける指ではない。まぁイライジャは現代っ子だから、そんなことわかんなくても仕方がない。

そして評論社の訳本も、あれではそういう深い意味が失われてしまう。
指、どれでもいいわけじゃない。
ちょっとした間違いが別に影響もなくて大して構わない軽い話と違って、トールキンの場合はちょっとしたことに見えても深い深いところで影響が大となる。


the third finger がmissing だったのは、指輪を填めるのはthird fingerが当たり前だから、あの時もフロドはその指に填めたのだ。
トールキンにしてみれば、そんなの、当たり前のことで、「どの指にしよっかなぁ」なんて考えるまでもないことだ。
魔力を司るthird fingerに指輪を填め、そして魔力を司るthird fingerを一本失ったことで、フロドの人生はずいぶん変わってしまった。


薬指以外に指輪があると目立つ。中指におっきなのをしてるとカッコいいし、ピンキーリングもかわいいし、人差し指に綺麗なのが光ってると印象に残る。
薬指に指輪をしているのは普通で当たり前すぎて、あまり目を引くこともなく、印象に残りにくい。
逆に言うと、薬指というのは、何かつけていると「しっくりする」のだ。つけている側も、見る側も、違和感がない。それは薬指がやはりそういうものをつけるのに適しているんだろう。指輪が一番落ち着く指ということだ。
まぁそりゃ、違う意味で目を引くことはあるけどさ。薬指に指輪してると、え〜、○○ちゃん、カレシ出来たの?!とか。 いつもしてるのがないと、え〜、どしたの、ケンカでもしたの?!とか。


映画は、あのシーンだけじゃなく、一作目から指輪は薬指に填めてもらえないでいる。結局、三作合わせて一度も薬指は使わなかったんじゃないかな。

映画ではみんなして人差し指にバシバシ填めていた。
サウロンもthe first finger、
川に飛び込むイシルドゥアもthe first finger、
木の根っこの下に隠れたフロドが突っ込みそうになるのもthe first finger、
ブリーで放り投げて突っ込んじゃったのもthe first finger (しかしあの後、どうして騒ぎにならなかったんだろう)、
アモン・スールでもthe first finger、
オスギリアスでも危うくthe first finger、
最後の最後もthe first finger。
そうだ、アラゴルンのバラヒアの指輪も人差し指だった。

せっかくの映画出演だというのに、指輪さんは相当イライラしてたに違いない。ちょっとぉ、ここじゃないんですけどぉぉぉっっ!!って。
まぁ映画は何でも目立たせなきゃならないから仕方ない。手を撮るときにも一番目立つのは人差し指だからね。薬指だと陰になってわからなかったりする。


ちなみに、green thumbは、植物を育てる才能がある、という意味になる。ちょっと発音違うけど、やっぱりサムはサムなのだなぁ・・・
みどりのゆび って本、知ってます?





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