牝牛が月を跳び越えた!
小馬亭でフロドは皆の目の前で指輪をはめて消えてしまいます。
映画では放り投げちゃって、それを受け取ったら指に入っちゃった。
原作では、ポケットに入れてあった指輪をいじってて、テーブルから落ちたときに、はめちゃった。

どっちが面白いかといえば、やっぱり原作。映画では、いちいち歌を歌ってる時間がないので、放り投げて、指に入って、あら消えちゃった・・・となりました。

本、読んだ人なら結構ここは印象に残るシーンでしょ。
ピピンとメリーは飲み過ぎて、喋っちゃいけないことまで言いそうになってる。
なんとかしろとアラゴルンに言われ、フロドはあわててテーブルに飛び乗って、皆の注目を自分のほうに集めようとします。
周りのおじさんたちから、歌だ! と言われて、昔ビルボが作った歌を歌い始めます。これがまた楽しい。訳わかんないから余計楽しい。

さて、ちょっと話が飛びますが、ビルボは赤表紙本というのを書いてます。表紙が赤いから、赤表紙本。自分の冒険、そして指輪戦争のこと、それからのこと・・・ フロドが受け継いで書き足して、それをサムが受け継ぎ、それをサムの娘のエラノールが受け継ぎ、代々伝えられ、写本も作られ、ずっとずっとずっとずーーーーっと残されて・・・・で、それを手に入れたトールキンが現代英語に訳した。

・・・というのが、指輪物語です。 ・・・ということになってます。
わかります? 指輪物語はトールキンの創作ではなく、ビルボやフロドが書いた昔々の本にあったいろいろな出来事を、トールキンがみんなにわかる今の言葉に訳したものなのです。

・・・と、トールキン先生は仰っているわけです。
実話なんだよ。ほんとなんだよ。ホビットはほんとにいたんだよ。エルフもほんとにいたんだよ。
・・・という、雰囲気、信憑性をもたせるために、そういうことになってるのです。

実際、指輪物語、はじめのところ、誕生日のパーティに入る前、長々とホビットがどうしたの、なんのかんのと説明が続きますよね。あれもその信憑性、実際の歴史の雰囲気を出すために前置きされているもの。

で、そういうスタンスで書かれたこのお話、小馬亭のところでもそういう仕掛けがしてあります。

それが、フロドの歌う歌。
それはビルボが好きな歌。ビルボが作った歌。宿屋の歌。
結構長いです。本、持ってるひとは、開いて読んでみましょう。読み飛ばした人、多いかもねぇ。

その歌に入る前の文。
Here it is in full. Only a few words of it are now, as a rule, remembered.
「これがその歌の全部。 今では一般に、このうちのわずかな部分が伝わっているだけである」

ビルボが作った歌は長くて、今でも歌われているけど、でもほとんど忘れられちゃって、みんなが憶えているのは少しだけ、ってことですね。

今でも、なのですよ。
これはほんとに楽しい仕掛けで、英語圏で育ったひとなら絶対知ってる歌、ディドゥルディドゥル。マザーグースの中の一曲ですね。マザーグースと呼ばれる歌は、たーくさんあって、有名なものを挙げなさいと言われれば、絶対このディドゥルは入ってきます。マザーグース関係の本、CD、この歌は入れとかなきゃ、っていう存在です。
日本語で育った人でも知ってる人は知ってるでしょ。(そりゃ知ってる人は知ってるさね)
短くって、すぐ終わっちゃうけどね。訳わかんなくて、楽しいの。

そのみんなが知ってる歌が、実はビルボが作ったものなんだよ〜〜、と、トールキンは言ってるのです。ほらほら、こんなに長かったんだよ、でも今はちょっとしか憶えられてないんだよ、それをみんなが歌ってるんだよ、って言ってるのです。

日本の歌で言えば、例えば、かごめとか、ずいずいずっころばしとか、そういうのを長くして登場させた、って感じでしょう。それで、実はかごめはミドルアースの時代のもので、今ではその少しが伝えられているのである・・・と。 え〜〜、そうなのかな、そうだったらすごいな、って思うでしょ?

さて、そのビルボ作の長いのを簡単に言うと、

宿屋でビールを飲みに月の男が降りてきて、
宿屋の猫が五弦のヴァイオリンを弾いちゃって、
小犬は陽気な奴で、笑ってばかりいて、
牝牛もいて、踊っちゃって、
銀の皿に銀のスプーン、ぴっかぴか。

・・・って感じで、とにかく長い。今の普通のヴァイオリンは4弦だけど、ここで出てくるのは5弦。
で、後半、猫のヴァイオリンは最高潮。ノリノリ。

ディドゥル、ディドゥル、
小犬が吠える、みんなは踊る
弦が切れたっ!
牝牛が月を飛び越した!
小犬はそれみて大笑い
土曜の皿と日曜のスプーンはどっか行っちゃった

↑ここら辺が、今も歌われているっていうところ。

で、歌はもう少し続いて終わります。

それをテーブルの上でフロドが歌って、牝牛が月を飛び越したぁっ!というところで調子に乗ってジャンプしたら落っこちて、その拍子に指輪をはめちゃって、フロド消失事件となります。

猫がヴァイオリン弾いて、牝牛が月を飛び越して、小犬がいて、スプーンとお皿が出てきたら、もうこれは、みんなが知ってるディドゥルディドゥル。
トールキンはそれを面白可笑しく引きのばして、なんとビルボの作にしてしまいました。

で、でもさ、ほんとにそうなのかもよ・・・・ねぇ?

はい、今、歌われているものはこちら。
原書を持ってる人はトールキンが引きのばしたのと比べてみよう。
Hey diddle diddle,
The cat and the fiddle,
The cow jumped over the moon;
The little dog laughed
To see such sport,
And the dish ran away with the spoon.
ヘイ、ディドル、ディドル
猫にヴァイオリン
めうしが月をとびこえた
小犬はそれみて大笑い
お皿はスプーンと一緒におさらばさ〜♪

実際は、猫はエリザベスT世のことで、お皿とスプーンは女王の召使いで・・・という説もあるようです。だからほんとは、16世紀頃の歌なんでしょう。

歌詞、なんか意味わかんないよね。まぁ、こういう歌は楽しきゃいいわけ。
月の上を牛さんが飛んでたり、お皿とスプーンに足がついて走っていたり、猫がヴァイオリン弾いてる絵、イラストがあったら、この歌のことです。気をつけていると結構見かけますよ。

こういう伝承歌は、いろいろなバージョンがあって、メロディも拍子も違うパターンのものがありますよね。地域によって少しずつ違ったりする。

では、はい、☆グワイヒア特製、ディドゥルディドゥルの楽譜☆です。4種類載ってます。とりあえずグワイヒアが知ってるメロディです。ぐわたんはねー、初めのが一番好きだな。2番目と3番目はほとんど同じ。4つ目も終わり方が気持ちいい。

英語のネイティブのお友だちがいる人は、歌ってもらって、どの楽譜と同じか見てみよう。人によって違うよ、きっと。この4つの中にないので歌う人もいるかもよ。単語も違うパターンだったりするかもよ。トールキンは、sportをfunで書いてる。

こんなの知らなかったな、って人も、これを機会に覚えて歌おう!
テーブルの上で歌って、The cow jumped over the moonのとこでパーッと飛び上がって、落っこちてみよう!


楽譜、ちょっと重いです。664KB。

楽譜のファイルを見るには、アドビ社のアクロバットリーダーのインストールが必要です。PC関連雑誌のおまけCDに入ってますし、Adobe社のサイトからもダウンロードできます。たいていはインストール済みだと思いますけどね。
用紙サイズに合わせるにチェックを入れれば、印刷サイズは思うがまま!



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