バラヒアの指輪
原作ではそんなに目立ってませんが、映画ではしょっちゅう映って、しまいにはレプリカまで売られる始末。映画館で売ってたのは安いやつ。一方、本物天然石で18金で何十万もする立派なものもネット上に出回りました。グワイヒアはひそかにミーハーなので映画館で安いのゲット。(爆)

映画のアラゴルンの手が映る度にバラヒアの指輪が目立つ。
手が映ればバラヒアの指輪。
いつでもどこでもバラヒアの指輪。
アラゴルン→手→バラヒアの指輪。アラゴルン→手→バラヒアの指輪。アラゴルン→手→バラヒアの指輪。
映画二つの塔では、馬に乗ってアイゼンガルドに逃げ込んだグリマが「妙な指輪をした人間が・・・」とサルマンさまに告げ口する。

エドラスでセオデンに叩っ切られそうになったところをアラゴルンが助けてくれた。アラゴルンもわざわざ指輪してる方の手を差し出して見せるのがいけない。っていうより、わざとらしいことこの上ない。ほれほれ、バラヒアの指輪ですよ、見ましたか?見ましたね?はい、行ってよろしいです、グリマさん。ちゃんとサルマンさまに報告するんだよ〜〜!

見てると、アラゴルンの指輪が映るたびに、非常に気になる。右にしてたり左にしてたりする。左にしてることが多いかな。

あ、左。
       あ、右。
あ、左。

あのねぇ、王さま、そんなにしょっちゅう外して付けかえてたら、そのうちなくしちゃうよ。
映った方の手にしてなくても、別に、いいじゃん。カメラ映りばっか気にしてないで、もすこししっかりしてくれよ・・・

なくしたら大変なんだからさ。

そうだ、なくしたら大変なのだ。バラヒアの指輪は、この上ない宝なんだから。

さて、そのこの上ない宝のバラヒアの指輪とは、なぜこの上ない宝なのか。


はい、むかーしむかし、フィンロドというエルフがおりました。フィンロド・フェラグンドは、ノルドール族で、フィナルフィンの長男で、ガラドリエルのお兄ちゃん。
あの指輪の蛇の図柄は、フィナルフィン王家の紋章なのです。


シルマリルの物語、第19章に拠れば、
the green jewels gleamed there that the Noldor had devised in Valinor.

ノルドールがヴァリノールで作り上げた緑の石がきらめいていた。

それで、その緑の石は複数なのだ。あ、じゃあレプリカのデザインはうそ?!
石、ひとつしかついてないもんね。やっぱ偽物?

For this ring was like to twin serpents, whose eyes were emeralds, and their heads met beneath a crown of golden flowers, that the one upheld and the other devoured.

この指輪は双生の蛇の姿で、蛇の目はエメラルドだった。その頭は金の花々の冠の下で出会い、片方はそれを支え、片方はむさぼっていた。

で、ですね、花も複数なんだよね。蛇の目はエメラルド。緑の石が複数。きらきら。
その蛇さん2匹が複数の花の下にいて、片っぽが花を支えて持ち上げて、片っぽは食べてる。
その持ち上げられて、食べられている複数の花で出来てる冠は、単数。だから金色のところは一ヶ所だ。でも映画の指輪は蛇の頭の上にそれぞれちっちゃい金色の部分がある。

だから、映画でアラゴルンがつけてたのは、どうも形が違う。だいぶん違う。あれは偽物なのか?!
どうもそうみたい。そっかー、本物はなくすと大変だからね。旅に出るときは偽物なのかもしれない。だからしょっちゅう右だの左だのと付け替えても大丈夫なのだ。


本物は、ヴァリノールで作られた緑の石、ってことは、もう一体何年経ってることかわからないくらい古い。エルフたちは太陽が昇ると同時にミドルアースに着いた。
ヴァリノールでということはつまり、こちら側に渡ってくる前、まだ太陽がなかった頃の作品なのだ。太陽がなかった頃は、時間が計れず、その前の歴史は、もうどのくらい長かったのか、くらくらするほど、わかんないくらい長い。

蛇の目がエメラルド!なんという細かい細工物だろう。映画のやつは、真ん中にどどんと石があって、蛇さんは両側にちょこんとついてて、目を石にするなんて難しいことはやってられません、ま、こんなんでどーでしょ、って感じだった。
というか、デザインした人は、目を石にしてもスクリーンで目立たないから、石はどどんと大きく真ん中にしたのかもしれない。
しかしだ! 蛇の目を石にして、それをキラキラさせて、目立たせるところがプロではないか。どどんとすればいいものではない。デザインによっては、蛇の目をもっと大きくも出来る。頭大きくすればいいんだもん。
で、本物の左右の2匹は、ポーズもやってることも違うからオシャレなのだ。芸術的だ。
偽物は左右同じだった。ううむ。


さて、フィンロドに話を戻そう。

太陽さんが登場して455年目のこと。
フィンロドは、モルゴスとの戦争のとき、敵に囲まれて危ないところを人間のバラヒアに助けられ、あぁ、ありがとう!ありがとう!これを受け取ってくれ!ということで、この指輪をバラヒアにあげたの。
キミの一族が困ったときは、今度は僕が助けるぞ!っていう約束のしるし。

フィンロドは昔、人間のベオルと仲良しだった。ベオルはフィンロドに仕えていた。
ベオルがその生涯を終えたとき、エルフたちは人間の死というものを目の当たりにして、考え込んだ。自分たちは普通は死なないから。
でも普通じゃない状況で、殺されそうになったところで、その人間という種族に助けられる。

フィンロドを助けたバラヒアは、ベオルの子孫になる。フィンロドは、ベオルの家系との強い繋がりを身にしみて感じ、死の意味を噛み締めたことだろう。


バラヒアって、あの有名なベレンのパパね。ベレンってルシアンのカレシ。だからバラヒアはルシアンのお舅さん。

バラヒアはその後サウロンの手下に殺されて、指輪が手についたまま腕だけ持っていかれたところをベレンが指輪を取り返した。
その後ベレンは何年も一人きりで辛い旅をして、そしてルシアンとの運命の出会いとなる。

ラブラブになったルシアンとベレン、しかし、ルシアンのパパは、娘が欲しいのなら、モルゴスからシルマリルを取ってこい!と無理難題を突きつける。大体、こういう出来そうもないこと言って、出来たら望みのものをやろうとかいうロクでもない約束をすると、結果は自分の思った通りにはいかなくて、大事なものを取られちゃったりするな。何のお話でもそうじゃん。ルシアンのパパは昔話の研究が足りなかったらしい。

バラヒアの指輪を持ったベレンはフィンロドのところへ行って、フィンロドはバラヒアとの約束を果たすべく、ベレンと一緒にシルマリルゲットの旅に出る。指輪を渡したバラヒアの息子なのだ。助けなければならない。そしてフィンロドは、かつて自分を救ってくれた者の息子、ベレンを守ろうとして命を落とす。涙。

で、シルマリルゲットの顛末に関してはシルマリル本を読んでもらうことにして、バラヒアの指輪を追って、次。


ベレンの曾孫になるエルロンドとエルロス。エルロンドはエルフの道へ、エルロスは人間への道を選ぶ。
そしてバラヒアの指輪はエルロスにくっついてヌメノールへ渡る。やっぱ、元は人間へ贈られたんだからエルロスが持ってるべきなんだろう。

そしてヌメノールで指輪は代々受け継がれる。
エルロスの子孫の家系はいろいろに分岐するんだけれど、バラヒアの指輪がリレーされたのはアンドゥーニエの家系。
これが違う系列だと映画館で売ってることにはならなかったのだ。ううむ、運命を感じますな。
アンドゥーニエっていうのは地名ね。港町。指輪さんは潮の香りを楽しみつつ、のらくらと(?)お過ごしになりました。

アンドゥーニエの家系は延々続いて、そして、あのエレンディルに行き着く。
エレンディルはヌメノール水没の時、脱出してミドルアースへ! おぉ、バラヒアの指輪さん、帰ってきましたですよ!何千年ぶり? 上陸した時はきっと、「おぉぉぉ!!!」って叫んだでしょうねぇ。そうですよ、指輪さんがですよ。

この辺↑の詳しいことはシルマリル本をどうぞ。

次↓は、追補編をどうぞ。

その後また代々受け継がれ、しかしアルノール王朝の末期、指輪はまた危機に瀕する。
北方王朝の王アルヴェドゥイの乗った船は氷の海に沈み、指輪も一緒に失われるところだった。でも船に乗る前にアルヴェドゥイは、世話になったロスソス族にバラヒアの指輪を渡す。これには何の力もないけれど、我が王家の者たちにとってはかけがえのないものだから、我等が買い戻す際にあなたの利益になるから持っていなさい、と。
そのおかげで、バラヒアの指輪は助かった。後にアルヴェドゥイの言った通り、ドゥネダインが買い戻す。

そして、このようにいろいろあった末、指輪は、裂け谷のエルロンドの館で、「ほーーーー・・・」or「ほへ〜〜〜・・・・」or「ふぅぅぅぅぅ〜〜〜・・・」or「はぁ〜〜・・・・・」or「ふにょ〜〜〜〜・・・」or「ぐで〜〜〜・・・・」の、いずれかはわかんないけど、とにかくゆっくり休むことになる。

そして、アラゴルンが20歳になったとき、エルロンドはこの指輪を彼に渡す。お前は、この歴史ある貴重な指輪を受け継ぐ家系の者なのだ、ってことで。


で、原作ではアラゴルンはアルウェンにこれを贈る。結婚の約束したときね。年表に書いてある。2980年。
婚約指輪はバラヒアの指輪。なんとすごいお宝!!給料の3倍どころの騒ぎじゃございませんよ!!
代々受け継ぐんだから、アルウェンの子が自分の子だってのはもう確定、ってことだ。でなきゃこの指輪は渡せない。いくらエルロンドが反対しようが、ロリアンでの婚約の時点で2人は100%本気だったのだ。
で、だから、アラゴルンは、映画みたいに指輪戦争のドタバタの時には、この指輪は持ってない。

映画じゃエンゲージリングはなしだった。映画のアラゴルンは、あげるの勿体なかったのかもしれない。そうだ、やっぱエオウィンが気になって気になって・・・
バラヒアの指輪を渡さなかったということは、映画のアラゴルンは100%本気ではなかったということになる。いや、本気かどうかというよりも、アルウェンは西の海の彼方へ旅立つのがよい、とかいうイライラするよな弱気なことになってるから、これを渡すと話の展開がおかしくなる。
映画のアラゴルンにとって、アルウェンの子=自分の子、っていう公式は確定ではなかった。
アルウェンの子≒自分の子、または、アルウェンの子≠自分の子、って感じ。
だから、自分の血筋に受け継がせるべき緑の石の指輪は渡せなかった。これはこれで自然な流れになっている。


それで、ですね。
トールキンの指輪の世界において、一番古い指輪はこれなのですよ。サウロンの一つの指輪なんて、話にならんほど、このバラヒアの指輪は由緒正しく、とてつもなく古く、エルフと人間の絆を示すものなのですよ。

エルフと人間、2種族間の絆の象徴。

もうそれだけで、魔法の力なんて必要ないのだ。それがあるということに意味がある。

世の中、そういうものだ。あるというだけで、その存在があってくれさえすれば、それでいいのだ。
魔法なんか要らない。ガンダルフだって、魔法は極力使わない。魔法なしの自分の力が一番大切だから。

このバラヒアの指輪には、そんなトールキンの思想が表れているんだと思う。黒魔術系のホウキに乗って飛んでしまうような魔法使いは、正しい在り方ではない。ガンダルフはそのようなチャチな存在ではない。
サウロンの指輪は消滅し、エルフの指輪もミドルアースを去る。しかしバラヒアの指輪はミドルアースに残る。いつまでも受け継がれる。
エルフのフィンロドの、人間への想いがこめられた指輪は、どんな魔法の指輪より大切なのだ。

ガラドリエルにしてみれば、自分の兄ちゃんが人間に渡した指輪が巡り巡って、もうわけわかんないくらい巡りまくって、何千年も経ってから、自分の孫の手に渡される。

計算すると、フィンロドから出発してアルウェンに至るまで、ざっと6500年以上は経っている。第一紀は年表もないし、はっきりわかる年とアバウトにしかわからない年がある。
フィンロドがバラヒアに指輪を渡した年は、太陽の第一紀455年で、ちゃんとわかるんだけど、そもそも第一紀が何年に終わったのかがあいまいで、読む人によって解釈が違う。だから、大体のことしかわからない。

で、ま、とにかく、バラヒアの系列からフィンロドの系列に指輪は戻った。
元は男の友情の証(?)だったのが、今度は愛のしるしとして♪

そして、その愛はエルフと人間の間のものなのだ。やはりバラヒアの指輪は、エルフと人間の間をつなぐ、超重要アイテムと言える。

こんなに小さなものが・・・・・!!!って感じ。

サウロンの指輪は、やたらとそのパワーが派手だけどね。派手ならいいってもんでもない。このバラヒアの指輪と比べたら、サウロンさん、品がないよな〜、と思う。

バラヒアの指輪は、何の力も持っていない、ということになってるけれど、実は誰も感じることのないパワーがあるのではなかろうか。
なくなりそうで、なくならないし。
バラヒアが死んじゃったときも、危うくサウロンのところへ持っていかれそうになって、ベレンが取り返した。
ヌメノール沈没からもちゃんと脱出したし。
それにエレンディルが死んじゃって、あの頃は誰が持ってたのかわかんないけど、イシルドゥアが死んじゃってもちゃんと受け継がれてるし。
船が沈んでさよーならだったかもしれないのに、ギリギリあぶないところで避難出来たし。


やはりこの指輪には品のよい意識があるように思える。サウロンの指輪のようにメラメラしてる意識ではなくて、程良く、品良く、周りを見ている。そして、ちゃんとうまく回っていくのだ。

あちこち、地道に、じっくりと旅をした末、ちゃんとバラヒアの遠い遠い遠い遠い遠ぉぉ〜〜い子孫であるアラゴルンの手に戻った。
ガラさまはアラゴルンを助けてくれる。アルウェンとくっつけたのもガラさまのようなものだし、フロドたちとロリアンに寄ったときもいろいろ援助してくれる。
その昔、フィンロドがバラヒアに約束したように、フィンロドの妹のガラさまは、いつの間にか、ふと気がつくとバラヒアの子孫を助けている。切っても切れない何かがあるんだろう。

トールキンの世界は、サウロンの指輪じゃなくて、このバラヒアの指輪周辺の話と言ってもいい。太古から、ずーーーーっと、第三紀まで、バラヒアの指輪の周りのお話になっている。
シルマリルから、ロード・オブ・ザ・リングまで、これこそ、「指輪物語」、と言える。


そして今は、この指輪はどこにあるのだろう。ゴンドール王家がどこまで続いたのかはわからないけれど、きっとバラヒアの指輪は代々受け継がれたに違いない。

そして、やっぱあの指輪のことだもの、きっとまたうまいこと、何とか生き長らえているに決まっている。どこか、古い家系でリレーされていることだろう。
エルフと人間の絆の証である指輪は、今も世界のどこかに・・・ え、持ってる? だってそれ、レプリカでしょ。グワも持ってるもん。え、本物かもしれない? でも本の記述と模様が違うからさ。なに、古文書なんか当てにならない? そうだよねぇ。 じゃ、あの模様でもいいことにしよう。

ってことで、皆さん、
映画でアラゴルンの手が映ったら、

あぁ、この指輪は何という歴史を見てきたのだろうか!!
何と長い時間を経てきたのだろうか!!
何と多くの人たちの手を受け継がれたのだろうか!!
何とたくさんの美しいもの、輝くものを見、そして辛いことをも見てきたのだろうか!!!

・・・と、いちいち感慨にふけってください。
映るたびに、ですよ。よろしいですね?
想像を絶する人生ですよ。いや、指輪生ですよ。素晴らしいですねぇ。


それと比べて、サウロンの指輪の何と大したことない人生、いや指輪生だろうか・・・ 楽しい場所にいたのはシャイア時代くらいだもんね。なんか可哀相な感じ。ほんと、あれは悪の象徴になっちゃって、本人はそんなつもりで生まれてきたわけじゃなかったろうに、ロクでもないパワーを持たされていて、可哀相な人生、いや、指輪生だった。

ではバラヒアの指輪のレプリカを持ってる皆さん、もしかしてこれって本物かしら、と連日連夜、どうぞ悩んでください。






トップへ戻る