ここは灰色港。
ピンポンポンポ〜〜ン♪
お客さまのお呼び出しを申し上げます。ホビット庄からお越しのドロゴの息子フロドさま、ホビット庄からお越しのドロゴの息子フロドさま、いらっしゃいましたら、至急第3埠頭までお越し下さいませ。繰り返しお客さまのお呼び出しを申し上げます。ホビット庄からお越しのドロゴの息子フロドさま、ホビット庄からお越しのドロゴの息子フロドさま、いらっしゃいましたら、至急第3埠頭までお越し下さいませ。
ピンポンポンポ〜〜ン♪
サム フロドの旦那、呼ばれてますだよ。第3埠頭ってどこですだ?
フロド 第3ってことはいくつもあるんだよねぇ・・・呼び出されたってことはここは第3埠頭じゃないわけだ。
ん? あれ、くいつきじゃないか。こんなとこで何してるんだろう。
サム あいつはどこでもウロウロしますで、知ってるかもしれませんだ。ちょっくら訊いてみましょう。おーい、くいつき、ここは何てとこだね?
くいつき わん!
サム フロドの旦那、第1埠頭だそうですよ。
フロド ほんとかい? 日本語と英語とごっちゃになってるんじゃ・・・
サム とにかく第3埠頭を探しましょうや。
ピンポンポンポ〜〜ン♪
お客さまのお呼び出しを申し上げます。ホビット庄からお越しのドロゴの息子フロドさま、ホビット庄からお越しのドロゴの息子フロドさま、出航時間が迫っております。いらっしゃいましたら、至急第3埠頭までお越し下さいませ。ホビット庄からお越しのドロゴの息子フロドさま、出航時間が迫っております。いらっしゃいましたら・・・・・
サム フロドの旦那、出航時間って何ですだ?
フロド サム、僕は西の海の向こうへ行こうと思うんだよ。
サム 何ですと! だめですだ!
おら、旦那はホビット庄でずっと静かにお過ごしになられるもんだと思ってましただ!
フロド でも中つ国での僕の仕事は終わったんだよ。ここでは傷も癒えることはないし。ヴァリノールに行けばいい温泉があるってガラさまが・・・
サム 温泉なんざ掘ればどこでも出ますだ! 掘っても出なけりゃ入浴剤入れればいいんですだ! おらが一生懸命お世話しますで、行かねぇでくだせぇまし!
おい、くいつき、ここは何てとこだね?
くいつき わん!わん!わん!
サム ほら、フロドの旦那、ここが第3埠頭だそうですだよ。
フロド だってさっきは第1だって言ったじゃないか。
サム いいや、ここが第3埠頭ですだ。船が行っちまうまでここで遊んでましょうや。
フロド お前、言ってることが矛盾してやしないかね。
サム おら、むじゅんなんて難しい言葉はわかりませんだ。
フロド 矛盾ていうのは、矛と盾のどっちがどうとかいうことで・・・
サム ほことたて! おら、もう武器を見るのはたくさんですだ。
フロド 僕だってそうだよ。だから海の向こうでゆっくりしようと思ってこの・・・えっと何だっけ。お前がごちゃごちゃ言うからわからなくなったじゃないか。
たしか、ルーン・・・
くいつき わん!
フロド
+サム
ルーン湾! 
と、盛り上がっているうちに船はフロドを置いてけぼりにして行ってしまい、西の海の彼方へ旅立つ予定で書かれていた赤表紙本は、修正液も修正テープもないので旅立つという話のままとなり、サムがてきと〜に辻褄合わせて残りを書き、今に伝えられているのでした。


えー、そういうことで、灰色港は、一カ所に固まってちょこっとあるわけではなく、離れた場所に分かれてて、いくつも船着き場、停泊所があって、それを引っくるめてその一帯を灰色港と呼びます。そのはずです。何と言っても、何千年も続いているエルフの港なんだから。
キアダンがが治める一大港。船大工はキアダンだけじゃないし、住みついているのは船関係者だけではないだろうし、灰色港近辺にいるエルフはかなりの人口になるはずだ。
第3紀末、フロドの時代には、船に乗って去ってしまうエルフが増えて、人数はかなり減っていただろうけれど、港湾施設や周辺の街まで船で引っ張っていくわけにもいかないから、建物はそのまんま。

ここは昔からなかなか大きなエルフの街だった。ヌメノールからもたくさん船が来た。ミドルアースへ行くって言えば、まずは灰色港だ。船乗りとしては、キアダンに会わなきゃ話にならない。
1個所だけ船着き場があって、ちょこっと港になってるような、ちゃちい場所ではない。

このルーン湾のあるリンドンという地は、ベレリアンドの一部だったところで、沈まずに残った場所なのだ。だからエルフたちにとっては特別の土地で、第2紀にはフィンゴンの息子ギル=ガラドが王となって、多くのエルフがいた。湾より北はフォルリンドン(北リンドン)、湾より南はハルリンドン(南リンドン)といって、それぞれ北港、南港があった。そして、一番重要だったのは湾の一番奥の、キアダンがいる灰色港。

映画の灰色港はなんか狭かった。湾も狭かったな〜 すぐそこが外海って感じで。
でも地図を見る限り、ああいう狭さではない。湾も外海に出るまではかなりの距離がある。


この灰色港、英語、っていうか共通語では、the Grey Havensとなる。複数形です。
なぜかというと、複数だから複数なんだろう。トールキンはハッキリしたビジョンもなく書いたりしないから。
船の発着するところが何カ所かあるわけだ。
複数なのはシリオンの港と同じだけど、ちょっと風景は異なる。シリオンでは、支流がたくさんで、葦が茂ってて、停泊する場所は河口近辺にあちこち散らばっていて、雰囲気としてはどこでも泊めちゃうみたいな感じ。
灰色港は、ルーン川は分かれずそのまま湾に注ぐし、きちんと港としての工事がされている。

そして主要な停泊所が分かれて複数ある灰色港はHavenではなくHavensとなる。
指輪物語の本に載ってる地図には、2個所に●がついている。湾の北側と南側。ルーン川が流れ込んで、湾に注ぐ。その河口の北側と南側に港の施設がある。そして、わざわざ複数にしてあるっていうことは、その他にもちょこちょこ発着所があるっていうことを示唆しているんだろう。

港と言うときは、havorの方が普通で、havenはどっちかっていうと詩語で、あんまり使わない。
だからエルフの港を呼ぶにはhavenの方がぴったりする。

トールキンと仲良しだったC・S・ルイスの「ナルニア国ものがたり」にもhavenがつく場所が出てくる。
朝びらき丸東の海へのNarrowhaven。 Narrowhaven! 思いっきりlondだなぁ・・・
これは日本名、いりみなと町。 ちなみにナルニアの訳者も指輪と同じ瀬田さん。
この、いりみなと町はドーン島っていうところの中心となる町。単数で表す。
次、Redhaven。 日本名、赤間が港。ブレン島の港。 これも単数。
港の名前が港町の名前になっている。

例えばデンマークのコペンハーゲンもこのパターン。ハーゲンの部分はデンマーク語ではhavnと書くんだけど、このhavnはhavenのこと。商人の港っていう意味なんだって。言葉の出来方としては、灰色港とコペンハーゲンはお友だちなのでした。

トールキンの地名では、havenがつくものがいろいろあるけど、ほとんどが複数だと言っていい。Havens、になっている。
いくつにも分かれている、という港の造りをイメージしていたから、複数で書いたはず。


だけど、この鷲の解釈でいいのだろうか・・・
このhavenの単数と複数、ネイティブの人たちはどう感じるのか、トールキン協会へ訊いてみた。

I don't know of any specific tradition that requires havens to be in plural form, so must deduce that they were called the "havens" because there was a northern and a southern settlement on the firth.

複数にするのはどういう習慣かわかんないけど、北と南に発着所があるからなんじゃないのかな、ってことです。
うん、そうだ。分かれてるから。

Also there is the implication that there may have been a number of smaller landing areas or sub-havens in the settlement, if it was large enough, which it probably was.

うん、これが大事。
a number of smaller landing areas or sub-havens in the settlement、発着所が他にもいろいろ小さなところがたくさんあるよ、というimplicationが感じられるのだ。

よしよし。いいみたい。


さて、ここからが本題。

この灰色港、エルフ語では何というか。知ってるよねー、そうです、ミスロンド。ミスユニバースじゃございません。

Mithlond、と書く。
mithは灰色の、とか、霧に煙る、とかいうこと。
londは「せ〜〜まいのね、せ〜まいのね♪」


< 灰色港 = the Grey Havens = Mithlond > という公式が成り立つ。

これをルーン湾の公式といいます。テストに出るかもしれないから覚えよう。

言語が異なると、100%イコールな訳はなかなかない。どこかが違う。どこかが違うけど、その言語に移すなら、こう言うしかないべ、というのが翻訳です。

こう言うしかないべ、ってわけでもなくて、直訳してもいいけど、それよりこう言った方がいいな、ってことで、意訳してしまう場合もある。
同じ対象を指すのに、言語によって全く違う表現になったりする。

Mithlond は Grey Havens となるけれど、これはイコールではない。


さて、日本語の港は、これだけだと単数なのか複数なのかわからない。日本語では、単数複数は必要じゃなければいちいち言わないから。
灰色港は Grey Havens を訳したものだ。

一方、英語やエルフ語では単数複数はハッキリ分かれる。
Havenを使った英語では、灰色港は複数になる。

一方、エルフ語では、lond。
londは船着き場ではなく、狭い水路、細長い湾という意味。
で、the Grey Havens は複数形だけど、Mithlond は単数形。もしこれが複数なら、londはlyndになって、ミスリンドとなる。ミスユニバースじゃございません。

これがもし、湾になっている部分が2カ所あって、どっちもミスロンドっていう名前であれば、両方合わせてミスリンドだけど、灰色港はそういう形状じゃないんで、単数しかあり得ない。大体、湾が2つあれば名前が同じわけがない。

で、灰色港はMithlond。普通に単数。


これがルーン湾。
ミスロンド、フォルロンド、ハルロンドの3つの港がある。
一時期は多くのエルフがいたこのリンドンだから、フォルリンドン、ハルリンドンからミスロンドまで行かずに気軽に使える港がフォルロンドとハルロンドだったと思われる。


拡大すると、こういう感じ。
londとは、細い湾とか水路で、要するに周りに陸が迫っていて、外洋より陸の方に引っ込んでいる部分のこと。
外洋より陸側に引っ込んでいるのを湾というわけで、だからこのルーン湾は全部まるごとロンドなんだけど、全部まるごと港という形容をするにはちょっと広すぎる。だから港と呼んでいるのは、湾の中で引っ込んでいる場所なわけ。
本に載ってるこの地図は、3カ所とも、ちゃんとロンドの地形になっている。

この地図にはGrey Havensの場所は2カ所に印がついている。メインとなる船着き場は北側と南側、どちらにもある。黒い●がついてて、その辺りに固まって港湾施設があるわけだ。

このフォルロンド、ハルロンド、ミスロンドの中で一番知られているのはミスロンド。
Forlondはエルフ語で北港ということで、Harlondは南港。
で、この2カ所は英語(共通語をトールキンが英語に訳したもの)ではどっちも単数。 North Haven と South Haven という。だからきっと、Grey Havensと比べると小規模な港のはず。

つまり北港および南港と、灰色港は違う。
北と南は対の言葉だし、これはセットなわけだ。フォルリンドン、ハルリンドンがセットなのと同じ。で、どっちの港も単数なのさ。

もう一度上の地図を見よう。名前の単数複数だけが違うわけじゃあない。
3つともロンドはロンドなわけだけど、形がちょっと違う。

北港、南港は形も似た感じでお友だち。一方、ミスロンドはほそ〜〜くて、ちょっと違う。川が流れ込んでて、北港南港みたいにポコっとまぁるい地形ではない。

フォルロンドちゃんとハルロンドちゃんは丸っこくて仲良しで、ミスロンドちゃんだけオシャレにスマート。

さて、この3カ所のロンドは、最終的には仲良くみんなでロンドになったけど、初期の段階ではちょっと違った。
Forlorn, Harlorn, Mithlond だった。(TI301,302,423)
北港南港は lorn なのに、ミスロンドちゃんだけは気が強いのか、我が道を行く性格なのか、ひととおんなじなのはキライなのか、1人で lond になっている。

で、注釈がある。 
「lorn は、haven である」 ふーん。そりゃそうさね。港の話してんだから。

続いてこう書いてある。
「londe は gulf である」 ふーん。そりゃここは湾だからね。せ〜まいのね、せ〜まいのね♪だもん。

丸っこい北港南港はlornでhaven、逃げ込むには打ってつけ。
スマートな灰色港はlondでgulf。切れ目っていう 形状的に、なかなか納得できる分け方だ。MithlondはGrey Havens じゃなくて、Grey Gulfという意味。と書いてある。灰色湾!!

lond は haven ではない。これはぜひ押さえておきたいですな。テストに出るかもしれませんぜ、旦那。
これは、訳すときにしょうがないから、っていうか、英訳においてはその方が適しているから、havenにしてるだけの話で、イコールじゃない。
haven とイコールになるのは、lorn なのだ。

でも最終的には、lorn は使わないで、lond に統一になった。陸が迫っている湾、海での通り道、という意味の言葉にして、英訳ではhavenとした。

つまり、
共通語 エルフ語
gulf lond
haven lorn

となって、北港南港灰色港の3カ所の名前を統一する際には、ケンカにならないように(?) 湾と港の片方ずつを使うことにしたらしい。
この水色のところが採用になって、haven と lond が使われている。

Mithlond と Grey Havens は、違う。 指している対象も違えば、聞いたときに目に浮かぶ光景も違う。片っぽずつ使ったのは、その方が表現の幅が広がるからなのかもしれない。


このルーン湾の南北に延びる青の山脈は、遥か昔の第1紀にはかなり内陸の山脈だった。
ベレンとルシアンの物語も、ゴンドリンの王国の栄華も、グラウルングが暴れたところも、みんなこれよりずっと西が舞台だった。

キアダンは、その時代から、西の端の海辺でずっと港を切り盛りしていた。ベレリアンドが沈んで、内陸部だった青の山脈が沿岸になってしまってからも、またその新たな西の端で船を造っている。
キアダンが造るのは、自分のための船ではない。戦いにも使われた。味方を助けるためにも、敵から逃げるためにも使われた。他の種族にも船の作り方を教えた。ヌメノールからやってきた船乗りたちもキアダンの弟子となり、いろいろなことを教わった。皆がファラスリムの船に助けられた。

キアダンの船がなければ、数々の戦いでの敗北の回数はもっと増えていたに違いないし、海路を活用しての発展は大幅に遅れただろう。ヌメノールは島だったから、船がなければどこにも行けない。

港は、物語の中心になることは少ないけれど、なければ文字通り話にならない重要地点なのだ。誰かがそれを存続させねばならない。
昔の悲しい記憶を持ちながら、地形が変わった後も西の海辺で港を守り続けてきたキアダンの心中は計り知れない。
ルーン湾はそういう場所だ。

そんなことを想うと、灰色港に吹く風も何だか違って感じる。 




南港とは