突然ですが、ここはエグラレスト。
タイムスリップして下さい。第1紀でございます。
エレイニオン(後のギル=ガラド) キアダン、荷物を取りに鳥が来ましたが。
キアダン 鳥に取りが? ん? 取りに鳥が? ちょっと待て、わからなくなったぞ。
エレイニオン わしわしヤマトの宅急便ですよ。
キアダン ああそうか、取りに来てくれって言ってあったんだった。荷物はこれだ。手伝ってくれるか、これとこれと、持っておくれ。
エレイニオン はいはい、よっこらしょ。
   段ボールを抱えて外に出るキアダンとエレイニオン。
ソロンドール 良いお日和で。いつもご贔屓にありがとうございます。わしわしヤマトの宅急便、社長のソロンドールでございます。
キアダン おや、直々に社長のお出ましか。
ソロンドール そりゃもう、ファラスの領主の荷物とあらば、若いもんには任せられませんので。
キアダン すまないね、これとこれとこれと、4つ頼むよ。
ソロンドール ええと、トル・シリオンに1つ、バラール島に1つ、トル・エレッセアに1つ、アルクウァロンデに1つ・・・・重量オーバーはしてませんね?
   ちょいちょいとくわえて持ち上げて重さを量るソロンドール
ソロンドール はい、大丈夫です。壊れ物はございませんか?
キアダン 一応、壊れ物扱いにしてもらおうかな。
ソロンドール かしこまりました、では、シール貼っときましょう。ペタ、ペタ、ペタ・・・
えーと、料金ですが、トル・シリオン宛とバラール島宛は1500ワシワシ、アルクウァロンデはアマン側遠距離料金で3000ワシワシ、トル・エレッセアは遠距離3000ワシワシに離島扱いで1000ワシワシプラスで4000ワシワシになります。
エレイニオン 飛んで行くのに離島も何も関係ないんじゃないの?
ソロンドール 宅急便とはそういうもんですよ。全部一律料金じゃ面白くありませんでしょう。
エレイニオン これは離島じゃないわけだよね。
   伝票を一枚指さして言うエレイニオン。
ソロンドール はい、あそこは島といっても川中島ですからね。
キアダン 川中島!! なんだ、信玄か? 謙信か? べんせい〜〜しゅくしゅく〜〜
エレイニオン そうじゃなくてトル・シリオンの話ですってば。 キアダンさん、歴史物の読み過ぎですよ。
ソロンドール 信玄、じゃなかった、オロドレスさんはお元気ですよ。
キアダン それはよかった、よろしくいっておくれ。
ソロンドール かしこまりました。
エレイニオン それで、バラール島は離島扱いじゃないのかい?
ソロンドール バラール島は離島じゃございませんので。
エレイニオン 一応、離島じゃないのかなぁ。島なんだから。海だし。
キアダン 1500ワシワシでいいと言っとるんだ、余計なことを申すな。
ソロンドール 世の中に離島はトル・エレッセアしかございません。
キアダン そんなバカな! 島はいくらでもあるぞ。バラール島だって離島ではないか。
エレイニオン 1500ワシワシでいいって言ってんですから、いいじゃないですか。
キアダン それならトル・エレッセアも離島扱いなしにするべきだ。
エレイニオン ファラスの領主がみみっちいこと言っちゃいけませんよ。あそこは遠いんですから高くても仕方ないでしょ。
キアダン アルクウァロンデだって遠いのは同じではないか。 社長ともあろう者が、離島は世の中に他にはないなどと、いい加減なことを言ってはいかん。
ソロンドール そう仰られましても、離島はあそこだけですので仕方ございません。当社の規定におきまして、バラール島は1500ワシワシ、トル・エレッセアは4000ワシワシです。
エレイニオン はい、全部で丁度1万ワシワシ、どうぞ。
ソロンドール 毎度ありがとうございます。はい、領収書をどうぞ。では確かにお預かり致しました。またのご利用をお待ちしております。バサバサバサ・・・・・・
   集配袋に入れた荷物を首から下げて飛び去るソロンドール
キアダン うーん、納得がいかん、納得が・・・
エレイニオン 荷物が着けばそれでいいじゃないですか。
キアダン まったく、お前はボンボン育ちで困るな。そんなことでは後で苦労するぞ。
エレイニオン あれ、何か下の方に書いてありますよ。
キアダン 下の方? おぉ、地図ではないか・・・ん、わがファラスが何だかずれているのは何故だ?許せんぞ!! 担当者出てこい!


はい、担当者です。ずれてるのはしょーがないんです。
ここら辺りの地図はですね、HoMEの4、5、11に載ってます。

で、なぜトル・エレッセアだけが離島扱いで高くなるのか知らない人は、下の方に書いてありますので探してください。
上のやり取りが何が何やらわからなかった人は、シルマリル読みましょう。


さて、このページは第1紀のお話です。第1紀ですので、モルゴスさんなんかもいらっしゃいます。おっかないですよ。あのサウロンの親分ですから。

それで、エグラレストとは、ベレリアンドにあった港です。
ベレリアンドとは、モルゴスさんとドンパチやったおかげで、どどどどどど・・・・・と海に沈んじゃったところです。ホビット庄とか裂け谷とかローハンになったところはもっと奥地だったので沈まなかったわけです。

で、とにかくその、沈む前の話。

ファラスというところがある。Falas。海岸地帯。
ファラスとは元々「泡」のことで、「海辺、岸、浜」のこと。ざざざざざ・・・・・と白い波が立って泡に見えるから。
海辺なので、そのまんまの名前。
領主はキアダン。

このファラスには主な港が2個所ある。Havens of the Falas という。


これはトールキンが書き残したものを息子のクリストファーさんがきれいに書き直したもの。もっと周りも続いてて、いろんな地形が書いてある。字も線も出来るだけそのまんまになぞって書いてあるそうです。でも、木の一本一本までそのまんま同じとは保証致しません、とクリストファーさんは書いている。(爆)

途中でずれてて何だかちゃんとつながってないのは、グワが無理矢理つなげたから。これは2ページに分かれて載ってて、丁度このファラスの辺りで切れてんの。本が結構厚いんで、本壊さないと真っ平らにならないの。だから線もここでは真っ直ぐじゃないんですが、ほんとは真っ直ぐなんです。川の名前が書いてあるところも入れたかったので、つないでみました。

シルマリルの本についている地図はこれを元にしてクリストファーさんが書いている。あれはすごーく素敵だよね。訳本の地図もいいけど、アルファベットで書かれているのはほんとにいいよ。ぜひ原書の地図を眺めてみてください。

さて、ここに載せた地図、字がとにかくちっちゃくて何だかわかんないので、大きめの色つきの字を入れました。
ちゃんとブリソンバールとエグラレストが書き込まれている。ここでは切れちゃってるけど、Realm of の先にはナルゴスランドと書いてある。岬の先にはTower of Tindobelがある。これは、後に呼び方が変わって、バラド・ニムラス Barad Nimras となった。だからシルマリルについてる地図にはバラド・ニムラスで載っている。
Tower of Tindobelは草稿集には結構出てくる。Tindobel は、starlit village のこと。星明かりの村。なんとロマンチックな。だから、星明かりの村の塔。Nimrasは、ニムは白い、ラスは角、だからバラド・ニムラスは白角塔。

では港について。この2ヶ所は大抵セットで出てくる。ブリソンバールとエグラレスト。並べるときはこの順番でどうぞ。言ってみるとなかなかリズムがよくていいセットになっている。
ブリソンバール
Brithombar
ファラスの港。北の方。
ブリソン brithon は、小石、砂利、ちっちゃい石がじゃりじゃりじゃり、という意味。ブリソン川のこと。(LR353) じゃりじゃり川。
バール bar は住むところ、って意味。
川の綴りはBrithonで、港の綴りはBrithombar。n と m の違いに注意。b の前で口を閉じなきゃ次の b が言えないから m になるってわけでもなくて、bar は元々 mbar なのだ。
水のことでなくて河原の砂利のことを言っているのが面白い。石投げして遊ぶにはもってこいの川だったのかも。
じゃりじゃり川の河口にある住むところ、っていう意味。
エグラレスト
Eglarest
ファラスの港。南の方。
エルフの川の渓谷という意味。
レストはイムラドリス(裂け谷)のリスと同じ意味で、狭い渓谷のこと。
エグラeglaは、eglorで、Elf-river エルフの川。(LR356) 上の地図にも書いてある。
でもこのエグロール川ってのは、ないの。というかその、あるんだけど名前が変わっちゃったの。
Eldor → Eglor → Eglahir → Nenning と名前が変わっていって、最終的にネンニング川となってます。Nenning。nenは水、ningはわからない。クゥエンヤにninqeというのがあるからこれかもしれない。白いという意味。シンダリンでninnというのもある。これは細いという意味。白い流れor細い流れかな。
レストということから、あまり大きな幅のある川ではないことがわかる。
その河口にある街。

このHavens of the Falasは両方ともただの港じゃなくて、港町。立派なの。綺麗な石造りでね。なんとなく港になってるんじゃなくて、きっちり城壁が巡らされて、堅固な街が出来ている。
キアダンが治めるこのファラス、泡という名から美しい海が見える。音も聞こえる。
そんなに美しい場所だったのに、モルゴスのアホンダラが攻め込んで、廃墟となる。
キアダンは南へ逃れてバラール島に本拠を置く。この時、あのギル=ガラドも逃げて助かっている。

2つまとめてHavensだけど、1つだとHaven。
the Haven of Eglarest があるのは、ネンニング川のmouth。
havenもmouthも単数。

ネンニング川はフィンロドのナルゴスロンドの王国との国境にもなっていた。
で、その川より南へずーっと行くと、シリオン河がある。

じゃあ、次はシリオンの周りを見てみよう。

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シリオンっていうのは、そのまんま「河」のこと。大河の意味。ベレリアンドを東西に分けるおっきな河。
アンドゥインも大河ってことだけど、この2つの大河は言葉の出来方が違う。sirは元々は「流れる」という意味が根底にある言葉で、duinは水と川という意味がある。
ホビット庄を流れる川、あの粉ひき小屋のある川は、単にthe Water って名前で、だからどっちかっていうと、アンドゥインと同じ系の名前になる。

で、その、流れという意味のシリオンの河口にはシリオンの港がある。
Havens of Sirion があるのは、Mouths of Sirion 。 どっちも複数。

シリオンの港、このHavensが複数なのは、ごくごく自然なことで、単数だとおかしい。
シルマリルの物語、第20章にはこう書いてある。
they kept a foothold also at the Mouths of Sirion, and there many light and swift ships lay hid in the creeks and waters where the reeds were dense as a forest.
彼らにはシリオンの河口にもまた足がかりがあり、その葦が森のように生い茂る数々の入り江や支流には軽やかに速く走る多くの船が隠してあった。
creeks and waters のあちこちに船がある。だからやっぱり Havens となる。
そしてその河口は、Mouths となる。
シリオン川は大河なんだけど、一本まんま、どぉぉっっっ、っと海へ流れ込むわけではなくて、幾筋にも分かれたデルタ地帯があった。だからMouths、複数になる。


こんな感じ。

これもトールキンが描いたものをクリストファーさんがキレイにしたもの。
シリオンの流れは河口でいくつもに分かれている。周りにチョンチョンとついているのは、葦の茂る地で、リスガルズ Lisgardh と呼ばれた。
シルマリルについてる地図にはリスガルズの文字はない。このチョンチョンのところには、Mouths of Sirion と書いてある。
ここに載せた地図には、Waters of Sirionって書いてある。

このシリオンの河口は、ゴンドリンの滅亡後、トゥオルとイドリルがエアレンディルを伴って逃げ、南下してきて落ち着いた。でもトゥオルとイドリルは船で旅立ってしまう。そしてエアレンディルはパパとママが出かけたまま帰って来ない後、エルフたちをここで治めていた。エアレンディルが結婚した相手は、ドリアスからこの地へ逃げてきていたエルウィングだった。シリオンで生まれたわけではなく、同じように追われてきた2人の目に、この辿り着いた海辺はどのように映ったのだろう。

トールキンの思い描いていたこのシリオンの河口は、美しい地だったようだ。葦の生い茂るこの国は、北の恐怖から逃れてきた者たちの安息と癒しの場所だった。(UT34 邦訳56)
UTに載っている原稿によれば(249 邦訳348)、イドリルが持っていた緑の石、エレサールは、彼女が旅立つときにエアレンディルに渡し、シリオンのリスガルズの地では、北から辿り着いた傷ついた者たちはエレサールの力によって癒されたという。エルフも人間も、獣たちでさえも。それを聞くと何だかこちらまでホッとする。
シルマリルの物語の中ではその記述はない。シルマリルの力がどうのこうのと書かれているけれど、同族でない者たちまで癒したような書き方ではない。
一時の安息の地となったのであれば、エレサールがあったのだろうと考えた方が自然なような気もする。
シリオン河口は、緑の石のことが書かれているだけで、もうそれだけで瑞々しい光景が広がる。幾筋にも分かれ海に達する川の流れ、風に揺れる葦、そしてこの地に辿り着くことの出来たたくさんの仲間が笑顔を取り戻す。
all things were for a while green and fair.
すべては、しばらくの間、緑で晴れやかだった。

そしてエアレンディルがキアダンに助けられつつ造った船で航海に出た後(エレサールは持って行っちゃったからシリオンにはない)、シルマリルを巡る争いで息子のエルロンドとエルロスはさらわれてしまう。海に身を投げたエルウィングは白い鳥となってエアレンディルのもとへ飛び、エアレンディルは結局シルマリルを身につけ空を航行することになる。
2人の息子、エルロンドとエルロスは、the reeds were dense as a forest (S196) 森のように茂る葦が風になびく the Mouths of Sirion シリオンの河口で生まれ、その景色を眺めて、その中で育ったのだ。そして父母と離れ離れになったのもこの地だった。まだ子供だったのに。

ずっとずっと後の時代には裂け谷を治め、ミドルアースにおけるエルフの最後の時代の支えとなったエルロンドの原風景は、葦の茂る海辺の、複数で表される河口だった。
既に海に沈んで存在しないにしても、その緑広がる美しい地で父母と過ごした記憶はいつも裂け谷の主の心の底にあったに違いない。

バラール湾にあるバラール島は、トル・エレッセアの切れっ端。
トル・エレッセアは、海の真ん中にあったやつをウルモがひっぺがして動くようにして、引っ張って船代わりにしてエルフを乗せてヴァリノールへ連れて行った島で、ヴァンヤール族とノルドール族を連れてった後、またテレリを迎えに来て連れて行った。そしてヴァリノール側に固定されて、トル・エレッセアって名になった。

トル・エレッセアとは離れ島という意味で、エレEreとは、エレボール(はなれ山)のエレと同じで、aloneとかisolatedとかってこと。
つまり、離島っていう、そのまんまの意味。だから荷物を送るときには離島扱いで高くなったりする。(爆)

で、その船代わりのおっきな島をシリオンの河口へ引っ張って来たとき、浅瀬に乗り上げちゃって、それをウルモさんが「えいっ!」と引っ張ったら、東の端っこがちぎれて残ったのがバラール島。
ここはファラスの港が壊滅した後、キアダンとギル=ガラドの拠点となった。キアダンがバラール島を選んだのは何となくではないだろう。
対岸のシリオンにいる者たちを助けながら、トル・エレッセアの名残である島にいて、海の向こうに渡った同胞のことを想っていたのかもしれない。
この島をウルモが残して行ったのは、たまたまちぎれて残ったんじゃなくて、後々のキアダンのためだったのかもしれない。仲間たちがいるトル・エレッセアとかつてはくっついていた土地は、キアダンにとってかけがえのないものだったに違いない。


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じゃあ今度はファラスよりもずっと北。
ドレンギストの入り江というのがある。ラムモスとネヴラストの間ね。
あのフェアノールがフィンゴルフィンやガラドリエルたちを置いてきぼりにして船でやって来て、上陸して、置いてけぼり組を迎えにもやらないまま、船を焼いたところ。ひどいなぁ。

the Firth of Drengist。 
草稿には、Drengist is along firth which pierces the Echoing Hills of 〜なんたらかんたら、と書かれているところがある。(WJ17)
pierceの意味を持つ語幹でtre、tri、teren っていうのがある。このtがdになったのかもしれない。

the narrow inletと書かれているところもある。(SM268, LR117)

そして、意味がハッキリ書かれているところがある。(SM210) 古英語で。(^^;) せんせ〜い、普通に書いてよ・・・
Nearufleot で、nearuはnarrowで、fleotはarm of the sea, ertuary, firth だそうです。
要するに、狭い入り江なわけですな。
こんな感じで↓ これもトールキン先生の描いたのをクリストファーさんがなぞったもの。

ほんと、piarce!って感じだね。
ここは北方だし、モルゴスさんちも割と近いし、海だけどアロハシャツ着て歩くような雰囲気じゃない。
その、陸へ狭く切り込んでいる場所へフェアノールたちノルドール族の乗った船は着いた。そして船を燃やした。もったいないなぁ。海の向こうではテレリ族を殺して来た。そして近しい仲間のはずのノルドールの親戚たちを北の海辺に置いたまま自分たちだけこちら側に来た。
海の向こうには仲良しもいたのだ。迎えの船には誰が乗って行きましょうか、とマイズロスは言った。でも船は燃やされた。
着いたとき、彼らはどんな気持ちで岸を見ただろう。陸へと切り込んだ狭い湾は彼らには暖かく見えただろうか。希望が見えただろうか。燃え上がる船の記憶はこの湾と切っても切れず、その光景も波の音も心に深く刻み込まれたことだろう。
この湾は、その後キアダンの船団が急ぎ遡り、フィンゴンを救ったこともあった。

黒い●になってるところ、何なのか気になる。これには何も書いてない。WJに載ってる地図には、ここにFalasquil って文字がある。Falasquilとは、トゥオルがしばらく住んでいた洞窟のこと。あぁ、トゥオルはここから海を見ていたんだな・・・と思うと感慨深い。でもそれは初期の草稿だけで、後の原稿には出てこない。でもトールキンの頭の中では、トゥオルはこの辺に住みついていた、という流れがあったのは確かなのだ。●までつけてるし。ここ!って感じ。
この形状だと、ドレンギストの向こう岸も見えるだろう。こうした入り江の入り口付近だったというのは、ただ真っ直ぐの海岸線にいるのとはまた違って、なかなか絵になる風景が眼前に広がったことだろう。


こんな風に、第1紀の海辺にもさまざまな出来事と想い出が溢れている。



せんぞうくんとは