垣根の垣根の曲がり角♪ たき火だたき火だ 落葉たき♪ (野火にならないよう、バケツに水を用意しておきましょう)


さて、バックランドと古森の境には、防備のための高い生け垣がある。何からの防備かというと、東側からの防備。丸見えじゃ安心できないから。古森は変なとこだから。木が襲ってきたりもするから。こわ。

これは、邦訳では
「かれらの住む土地はもともと東からの敵にぬかりがありました。そこでかれらはそちら側に生け垣を作りました」となっている。
しかし、原文では「東からの敵」という書き方はしていない。unprotected from the East と書いてある。fromはprotectにくっつけて言う言い方で、東からくる敵ではない。まぁそりゃさ、仲良しや味方から守ることはないわけで、protectする相手は敵になるんだからいいんだけどさ。
でも東の敵と書いてしまうとモルドールを連想してしまう。高垣を作ったホビットたちはそこまで考えてないはずだ。
これは、バックランドの東は外から丸見えで、誰でもどこからでも入れてしまうのは危ないんでないかい、ってことだ。
だから訳せば、「東側は無防備でした。で、生け垣を作りました」程度がいいかと思う。

で、この生け垣、High Hay という。ハイホーではない。それは白雪姫。 ではなくて、ハイヘイ。 飲み過ぎてハイになってる塀ではない。生け垣である。

では、そのHay関係の話いろいろ。

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バックランドの東側は、ずーっとずーっと北の端から南の端まで生け垣が続いていて、その長さは20マイルを超えるという。
20マイルは約32km。なかなか長い。結構広い。バックランドは縦に長い地区なのだ。そこに点々と集落がある。

トールキンはこの距離をいろいろ考えて、初めはもっと長く、40マイルくらいとしていた。そのうち気が変わって、半分の20という数字にした。
ところがメリーは、渡し場からブランディワイン橋、つまりバックランドの中間辺りから北の端まで20マイルあると言っている。
全長が20で、その半分が20ということはあり得ない。

これはトールキンが全体の長さを変更したのにメリーのセリフを直すのを忘れたからだそうで、おかげでバックランドの大いなる謎となり、うちのクイズのネタになり、テレビのミステリー特集では常に取り上げられ、ミナス・ティリス大学の物理学部では、「ナズグルの存在によって生じる空間の歪みによる距離の伸縮と、それを利用した遠距離瞬間移動の可能性」について論文をまとめるのが必修となっている。

ま、メリーはおぼっちゃまだし、ホビットだし、細かいことは気にしないだろうし、てきとーに言ったのかもしれない。フロドはバックランドで育ったんだし、バックランドの地理にはそれなりに詳しいはずだし、橋までどのくらいあるかくらいは当然わかってるのに、20マイルと言われてそれを否定しなかったのは、余程気が動転していたのに違いない。

邦訳では、「20マイル北へ行けばブランディワイン橋がありますよ」となっていて、あそこだけ読むと、フロドは橋のことも距離のことも知らないように感じる。あれは知ってる人が知らない人に教えている言い方だ。
でもメリーは、「馬は川を渡れるかな?」というフロドの問いに対し、「20マイル先の橋まで行けばね。それか泳ぐかどっちかだな。でもここを馬が泳いだってのは聞いたことがないよ」って感じの答えをしてるだけで、要するに「大丈夫だよ」と言ってるだけ。
橋が遠いからとりあえずは大丈夫、って話だ。大丈夫なためには1センチでも遠くの方がいいわけで、それでトールキンの潜在意識はここを直さなかったのかもしれない。

馬が泳いで渡ることはないだろう、ってメリーは言ってるけど、草稿ではガンダルフがナズグルを追っている時、ナズグルはボートに乗って対岸に渡ってしまい、ガンダルフの馬は川を泳ぐ。(TI68) えらい。
このお馬さんは、お名前をGalerocという。駿足ですごいのだ。名前の意味はわかんない。でもエルフ語で gal は光で、rochは馬、ってことだから、たぶん、光馬くん、かな。かわい〜

草稿のバックランドでの展開は、決定稿とはかなり違い、いろんなバージョンがある。決定稿よりも、いろんな出来事がある。いろいろ書いたということは、書けば書くほど見えてくるわけで、トールキン自身、バックランドの地理、事情にはそれだけ詳しかったということだ。田舎だけれど、ここは大事な土地なのだ。

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で、話を戻して、南の方でハイヘイの終わるところは、Haysend という。hay が end するところだから。そのまんま。

で、反対の北の方では、そのハイヘイの終わる少し手前は門になってて、Hay Gate という。hay の gate だから。そのまんま。
この門は、North-gate 北門ともいうし、Buckland Gate バックランド門ともいう。

このバックランド門は、邦訳では、「バック郷にはいる門」とか「バック郷の門」となっていて、固有名詞扱いされていない。でも原文では the Buckland Gate でgateは大文字だし、これは固有名詞。
邦訳のおかげでこの名前は日本語サイトではあまりお目に掛かることはない。

高垣は、ブランディワイン橋まで続いている。いや、橋のところから始まっていて、と言った方がいいのか。
それで、門は東街道に面したところにある。門番がいて、街道からバックランドに怪しい者が入らないようにしてある。

評論社の追補編の索引では、この Hay Gate は垣出 Haysend にあると思われると書いてあるけど、それは違う。

正しくは、

the North-gate = the Buckland Gate = the Hay Gate

・・・となる。これをバックランド入り口の公式という。赤ペンで線を引いておくように。これは、世界的にトールキン業界では普通に通用する公式である。
北門だけgateが大文字じゃないのは、- でつないであるからだ。

どうしてこんなに呼び方がまちまちなのか。
これは、会話の中で門が出てきたその状況によって、わかりやすい言い方で言ってるのだ。

北門、北門、と言ってるときは、バックランド内にいる。バックランドにいるのにバックランド門と呼ぶのはどうもしっくりしない。北門と言った方が自分のいる場所からの位置関係も感じられていい。

バックランド門と言ってるときは、バックランドにいない。別の場所で北門がどうのこうのと言うより、バックランドという地名をつけた方がわかりやすい。

ヘイゲート、垣門の場合は、垣根のとこにいるはずの人がどーしてここにいるの、と言ってて、あんたがいるべきなのはここじゃなくてHayでしょ、ということで、Hayというのがポイントになる会話だから、北門とかいう言い方よりもこっちの方がセリフが生きる。

この3つの名前、それぞれ本文のどこで出てくるか、わかるかな〜〜?? わかってない人は探そーね。

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で、その Hay Gate があるのが Haysend じゃないのは、地理がわかっていればわかること。

バックランドの南方面には、地図には道は書いてない。Standelf までは書いてある。言っておくけど、これは立ってるエルフではない。立て!エルフよ!という命令文でもない。エルフを立てとくスタンドでもない。でもエルフを立てとくスタンドがあったら売れるだろうなぁ。エルロンド用とレゴラス用があったら、どっちが売れるか・・・え、考えるような問題じゃない?

えっと、そうじゃなくて、Standelf は、古英語で stan と delf で、stone-quarry のこと。採石場。これは、イングランドのウォーリックシャーに Stonydelph という地名が残っているそうだ。(RS304)
で、このスタンデルフは、邦訳についてる地図の訳では採石場となってるけれども、HoME では village となっているから、集落らしい。グワ訳では石切村とする。


さて、その石切村よりもっと南、High Hay の南端には門があるのだろうか。
しかし門というのは出入りするためにあるものだ。
バックランドに出入りするため、バックランドの境界線上にあるはずだ。Hay Gate とは Hay についてる Gate なわけで、Hay はバックランドの境界となっている。

垣根の端っこに門があるという場合、どういう状態で門があるかが問題だ。

高垣の北と南は、その端っこの終わり方が違う。 北は門がある。ちゃんと門が設置出来る向きで終わっている。南は門はつけられない状態だ。

トールキンは、その門のところの垣根の向きをちゃんと考えて書いている。

これ↓ 
え、わかんない?
初めに緑の線のところを書いて、
あぁ、これでは門がつかない、と気づいてピンクの線を書いた。んだろう。

詳しく見ると、
青いのがブランディワイン川、
赤いのがブランディワイン橋、
そこを通っている茶色が東街道、
オレンジがバックランド内に入った道、
緑が初めに引いた高垣の線、
ピンクが直した高垣の線、
そして、黄色が門。

緑の線のままでは、街道からすぐ入れるように門をつけられない。

バックランドは、東は高垣、西は川で、守られている。街道からバックランドに入るには、高垣の門を通るしかない。

ナズグルは、フロドたちが渡し場で向こう岸に行ってしまい、追っかけるにしても川を泳ぐ気はなく (この根性なし!)、しょーがないんでぐるっとまわって橋まで行って、北からバックランドに入ろうとした。メリーは、暗いうちは門番は彼らを通さないだろう、と言っている。明るくなっても通さないかもしれない、って。
このHay Gateは、バックランドの守りの要なのだ。バックランドに入るルートは、まぁどこからでも入る気になれば入れるんだけど、普通はここか渡し場しかない。

南のHaysend は川と川の合流地点で、その辺りには橋はないし、道があってもなくても行き止まりだ。そもそも門は設置のしようがない。

こういうかんじ↓

緑の線が高垣。Haysendはその一番南、一番下のところ。
青い線は川。左のがブランディワイン川。右上から斜めになってる細めなのはWithywindle、柳曲川(枝垂川)。その合流点がHaysendになる。

オレンジの丸をつけたところがStandelfで、そこまで道が続いてる。この道は北門からずっと続いている、バックランドの本道。
その先に細い道があるんだろう。まるっきり道がないとは考えにくい。

川の左側の線は道で、左下にごちゃごちゃ見えるのはDeephallowの集落。
でもそこら辺では橋もないし、舟がないと渡れない。
この辺りは、両岸にちゃんと船着き場があって、行き来が出来る。
でも門をつける必要性はないと思う。

誰が見ても、この川の合流点、Haysendの辺りはあんまり人通りはないと思われる。
高垣が必要なのはここまでで、この端っこまでくれば大丈夫だから生け垣はここで終わりとなる。

この向きの垣根にどうやって門をつけるのかわからない。
古森側へ出入りするための門かな。でも門を通ったらすぐWithywindle川になる。
高垣の東、古森側には船着き場があるから門をつけてもいいけれど、通るにしても、この辺にいるホビットが通るだけだし、あまり意味はない。

門柱だけの門は、境界を示すだけだけど、扉つきの門は通り道を遮って「通せんぼ」する役割がある。
この場所では、外から入って来る者は川で通せんぼされてるから、門は要らない。

Hay Gateは南にはない。北門の別名がヘイゲート。ヘイジュードではない。それはカブトムシの歌である。しかし、ビートルズはザ・Beatlesで、テストでカブトムシを英語で書けと言われたら(そんなテストがあるだろうか)、そのままBeatleと書いてはいけない。先生は大喜びして、即座に×になる。カブトムシはBeetle。あれはビートとカブトムシを掛けている。グワは、カブトムシの角からお尻へ弦を張ってはじいてみたことが・・・・ないな。しかし、ビートルズはあんなに有名なのに、カブトムシ型のギターを作って売ろうとするメーカーがないのが不思議でしようがない。え、売れない? いや、足をつけるとちょっと気持ち悪いだろうから胴体と角だけで。だめ?

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で、話を戻して、瀬田訳の旧訳では、ヘイゲートは、まぐさ門だった。新訳では、高垣門になっている。

この「hay」という語は、いろいろ意味がある。
辞書を引くと、真っ先に出てくるのは「干し草」。
それから、「ダンスの一種」。
そして、「生け垣、垣根」。これは古い言い方だから、大きい辞書でも載ってないのもある。

初め、瀬田さんは、干し草のことだと思ったらしい。それで、まぐさ門になった。
でもこのhayは、垣根のことなのだ。そしてめでたく直されて、高垣門になった。

「たかがきもん」だと言いづらいし、Highもついてないから、ぐわ訳出す時は、垣門にしよう。

それから、そこで門番してるホブは Hob Hayward だ。hayward とは、これも古い言い方で、生け垣の管理人のこと。ward は区とか避けるとかって意味だけど、古い使い方では門番とか守備とかって意味になる。
瀬田訳では家畜番になってる。垣根は家畜を通さないためにも使うから辞書には家畜の文字もある。それで家畜番になっちゃったらしい。

でも、ホブはHay Gate垣門の門番。家畜番のホブではない。gate の文字は入ってないからどうしようか。垣番のホブ、かな。
Hayward と大文字になってるから、これはただホブの仕事を言ってるんじゃなくて、苗字というか呼称になってるのだ。ホブのうちは代々門番なのかもしれないし、そうではないけどバックランドじゃ門番にこのHaywardをつけて呼ぶ習慣なのかもしれない。家名だとすれば、垣番家のホブになる。
ホブはその後転職してHayじゃなくてBridgeの番人になった。ゴタゴタが全部済んだ後、Hay Gate に戻ったのかな。そうだといいな。


バックランドと Hay垣根は切っても切れない関係にある。



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