さくっぴさまが図書館で岩波の「世界児童文学集だより」というのを発見、コピーを送ってくれました。
93年の4月発行。
「岩波 世界児童文学集」の第1巻「星の王子様」に挟まってるものだそうです。
このパンフ、表紙がホビットの冒険の挿し絵で、配本が同時だったホビットにも同じものが挟まってるようです。初版にしかついてないパンフらしいです。

よくよく読むと、この文学集は毎月2冊ずつ出て、全30巻。第1回配本は、第1巻の星の王子さまと、第6巻のホビットの冒険。なんで6が1と一緒なのかよくわかりませんが。 第2巻のクマのプーさんは3ヶ月目の配本。ま、そういうもんなんでしょう。
これって絶版かなぁ、と思って探したら、あった。でもその93年のは絶版らしい。それが新装版として復活したのが
岩波世界児童文学集 Aセット15冊(小学生中級・上級向き) 新装版
岩波世界児童文学集 Bセット15冊(小学生上級・中学生向き) 新装版
のようです。
ホビットはBの方に入ってる。

で、このパンフ、前半はトールキンについて、後ろの方が星の王子さまの話。 読んでみると、前半の方が内容が深い深い。やった!(何が?)
脇明子さんと吉田新一さんの文が載ってます。
今の版にもついてるかなぁ。解説ってことで後ろに載ってるかな。持ってる人いたら教えてね。

著作権あるから全文は載せませんが、引用ということで、ぐわのおしゃべりを交えて少しどうぞ。


物語るという冒険   脇 明子
私の本棚に並んでいる宝物のひとつに、トールキンの画集がある。クロス張りの表紙には、トールキンの頭文字であるJRRTを組み合わせて作った美しいマークが金が型押しされていて、中には彼が自分の物語のために書いた挿絵や、登場人物たちのために作った紋章、自分の子どもたちのために書いた絵手紙などが、ぎっしりと詰まっている。 グワイヒアの本棚に並んでいる宝物のひとつに、トールキンの画集がある。
そーです、これ持ってるよ。グワの本棚で一番の宝物。絶版だし、すんごく貴重。箱入りで、立派。
今売ってる図像世界の本は、解説がメインで、絵があんまり大きく載ってない。原書はまだいいけど邦訳なんてほんとに小さい。あれはね、買うなら原書がいいよ。読むのが大変だけど。
一方、このクロス張りの画集は大きいの。絵も大きい。解説はちょっとで、絵がメインなの。図像世界にない絵も載ってるしね。
緑豊かなホビット庄のながめ、エルフの王エルロンドの館のある不思議な谷の風景・・・丁寧に丁寧に描かれたそれらの絵を見ていると、トールキンが自分の物語の中で遊ぶことをどんなに楽しんでいたかがよくわかる。 うんうん。(^o^)
それよりもっとすごいのは、「指輪物語」の挿絵に使おうと思って作ったという、焼け焦げた本のページである。それはトールキン自身が考案したエルフ文字で書かれ、ちゃんとまわりを焦がし、穴をあけ、血のような染みまでつけて作られている。しかもそのエルフ文字はでたらめではなく、画集には、まるでそれが本物の古文書であるかのように大真面目で解読してみせた説明さえついている。 いや、そりゃ、ほんとに古文書なんですから。はい。(^^)
私はこれを見ていると、なぜかいつもランサムの「ツバメ号とアマゾン号」に出てくる少女、ティティのことを思い出す。「ツバメ号とアマゾン号」は、夏休みに子どもたちがくりひろげる楽しい冒険を描いた物語で、トールキンの物語とは全然違う種類のものだが、その中でティティが遊びに見せるこだわりは、まさにトールキンが物語りの世界を作るときにこだわりにそっくりだからだ。 出た! ツバメ号とアマゾン号 !!
読みましたよ、子どもの頃。絵がまた良くてね。
このシリーズはたくさんあって、これはその1作目。グワは全巻は読んでない。読んでない人は1作目だけでもいいからぜひどうぞ。気に入ったら全巻どうぞ。すんごく気に入ったら、オババさま(Foggy Scillyさんorかおるさん)のサイトのここへ行って、全人類ランサマイト化計画に報告してあげてください。手紙を入れて流せるようにちゃんと瓶が用意してあります。
ツバメ号の旗、欲しいなぁ。時々、作ろうかと思って、作ってないんだけど。
海賊ごっこをしていて条約文を書くことになったとき、ティティは緯度と経度を書かないと正式じゃないと主張するが、トールキンも子どものときにはきっとそんなふうだったことだろう。 はいはい、本を引っぱり出してみました。
ツバメ号とアマゾン号、第10章、休戦交渉のところ、ツバメ号とアマゾン号のクルーが初めて会うところ。

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「われ、ツバメ号船長ジョン、ならびに、われ、アマゾン号船長ナンシイは、われらの船ならびに乗組員のために、ここに攻守条約を結ぶ、1929年8月、ヤマネコ島なるこの地において署名封印されたり。」
ナンシイはその紙を、ほかの子どもたちにわたした。
「これでよさそうだよ。」と、ジョン船長が言った。
「"8月"じゃなくて、"この8月"とすべきだわ。」とティティが言った。「それに、緯度と経度がかきこんでないわ。どんな場所だってかならず書くもんよ。」
ナンシイ・ブラケットは紙を受け取ると、"8月"という字の前に"この"をかき入れ、"島"という字の後に、北緯7度西経200度と書きこんだ。
(岩田欣三・神宮輝夫 訳)
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こういうのは、自分に大切なことなら、全部きちんとしないと気が済まないわけで、ティティにとってはこだわりとかいうんじゃなくて、当たり前なのですねぇ。
ちなみに、北緯7度西経200度とは、あり得ない場所で、何があり得ないかと言うと、経度は地球を半分こに割って半周ずつ計るから、180度までしかない。200度もありということにして、西経180度を20度超えると東経160度になる。北緯7度東経160度・・・世界地図を引っぱり出して探すと、丁度その辺りにポナペ島というのがある。ミクロネシア連邦の首都パリキールがある島。わー、首都があるんだって。メジャーじゃん。ヤマネコ島ってポナペ島だったのか?知らなかった。
もちろんランサムは、こういう言い方はしないのをわかっていて、面白い経度の書き方をしたんだろう。誰かこれについて詳しい人がいたら教えてください。
ホビットのビルボ・バギンズや魔法使いのガンダルフのように忘れがたい人物たちをこの世に送り出すには、作家もまた自分で作った世界のルールに従いながら、言うことを聞いてくれない人物たちと根気よくつきあい、わくわくするような思いつきをなんとかうまく形にするために知恵をしぼり、思いがけない展開に目を見張り、何よりも、この先どうなっていくやら見当もつかない物語のまっただなかにいることを、夏休みの愉快な冒険をしているティティたちのように、心から楽しまなくてはならない。 ふむ。ランサムとトールキンの両方のファンって結構いるらしい。
そういうところに共通点がありましたか。
ツバメ号は、現実の世界にいるんだけど、自分たちの世界を作って遊ぶんだよね。その気になれば、その場に行って、自分でも出来る。
そこが指輪と違う。いいな。ティティたちの地図やネーミングや冒険は魅力的だ。
トールキンが素晴らしいのはそこのところであって、器用に物語を作ってのける作家ならたくさんいても、物語るという冒険をこれほど真剣に楽しむ才能に恵まれた作家は、二人といないのではないだろうか。だからこそ、「ホビットの冒険」や「指輪物語」は、一度読んではらはらする冒険のなりゆきが全部わかってしまっても、また何度でも読み返したくなる豊かなおもしろさにあふれているのである。 ほんとにねぇ。何度でも読んじゃう。っていうか、何度も読まないとわからない。
映画もそうだったね。何回観たんだろ。(^^;;)
トールキンの世界、ランサムの世界、それぞれの素晴らしさを比較しつつ、魅力にあふれるミドルアースとそれを創り上げたトールキンの才能を語っている、とても暖かく素敵なエッセイです。


次、もう1つ。 インクリングズがよく集まっていた「鷲と子供」について。写真はここここをどうぞ。

トールキンたちの愛用したオックスフォードのパブ  吉田 新一
私がそのゆかりのパブを訪ねたのはもう20年以上前です。ルイスは没していましたが、トールキンはまだ健在、といっても南英ボーンマスに移り、オックスフォードにはいませんでした。
パブの入口は小さくて半間の扉が一つ。中は普通のパブと特に変わりありませんでしたが、ずっと奥の方に長方形の箱のような一室がありました。真中に長いテーブル、それを囲んで三方の板壁に作りつけの板の長い腰掛がありました。店の主人チャールズ・ブラグロウヴが特定の顧客だけに、暖炉に火を燃やして提供する特別室とのこと。インクリングズはそこに集まりました。私の訪ねた1971年初めにもうすでにその小部屋の壁に小さい板のタブレットが掲げられ、「C.S.ルイス、J.R.R.トールキン、チャールズ・ウィリアムズほかの友人たちが毎火曜日午前、この奥の部屋で会っていた」と記されていました。
特定の顧客だけ! いいなぁ!
今ではこのthe Rabbit-Roomは、普通のお客も使えるようです。
店の表には、ギリシア神話でトロイの美少年ガニュメデスがワシにさらわれ天上でゼウスとその客人の酌をしたという故事からとられた店の名前どおり「ワシが子どもを連れて空に舞い上がる」絵看板が掲げられています。その絵を見て、正面のThe Eagle and Childの文字を見ると、Childの前にtheがないので、これはThe watch and chainが、「時計と鎖」の意ではなく「鎖のついた時計」の意味になるように、単に「ワシと子ども」じゃなくて「子どもをつれたワシ」乃至は「子どもをさらうワシ」が正しい、などと英語教師じみた解釈をしました。 theがない!
そうか。単純に鷲と子供じゃないのか。
わかってませんでした。吉田先生、ありがとうございます。そう、片方にtheがないと意味変わるんだよねぇ。
これって、a がついても同じ。セットのときに使う。両方に冠詞がつくと別々なの。初めだけだとセット。
a cup and saucerとかさ。受け皿つきカップ。
a watch and chainは鎖つき時計。
あ、グワは子供さらったりしませんので、よろしく。

しかし、じゃあ、このパブで飲むってことは、ゼウスの宴で飲んでることになるのか? ゼウスはスケベジジイだぞ。そんなとこに出入りしていいのか?
え、あんまりマジメなのは面白くない?うーん、そりゃそうだけどさ。でもゼウスのスケベ度はあまりにもムチャクチャだ。
それに、ガニメデにしゃ、子供がやけに赤ん坊すぎるんじゃ・・・・
とか思いますが、そうです、違うのです。

あの看板で鷲が連れてる子どもはガニメデではない。
しかし、ガニメデであると書いてある本もある。カーペンターの インクリングズ。 信用のおけるちゃんとした本だ。のはずだ。
その立派な学者さんに逆らうのも何だが、しかし、それでもあれはガニメデではない。
じゃあ誰かと言うと、あれはレイサムさんちのイザベルちゃんのパパなのだ。
は??????? となった人は、こちらへどうぞ。

ま、これは英国人にとっては結構知られてる話なのかもしれないけど、日本ではそうでもない。でもギリシャ神話ならお馴染みだから吉田先生がこう書いているのは仕方ない。それとも吉田先生はカーペンターの本を読んだのかな。あれは初版が78年だから、そうかもしれない。
地元民はもっと口調のいいThe Bird and Babyという愛称でこのパブを呼んでいました。 通はそう呼ぶ。みんなも真似しよう。
インクリングズの方々もそう呼んでたそうだ。頭韻を踏んでて気持ちいいのだ。
しかし、ぐわ的にはEagleと言ってほしい。
この店の樽出しの林檎酒(サイダー)は特に芳醇美味で、それがインクリングズのご贔屓の本当の理由のようでしたが、戦争中はよく「ノー・ビアー」の掲示が張り出されて客たちをがっかりさせたそうです。 林檎酒!! あ〜、よだれが・・・・
メンバーは止むなく、ボドレイ図書館の向かいの「王の紋章」亭、ブロード・ストリートの「白馬」亭、マイター・ホテルのバー、ブラックウェル書店近くの小さなパブなどへ行きました。しかし、「ワシと子ども」亭の次にインクリングズの贔屓のパブは、町の北のゴドストウにある「ニジマス」亭だったそうです。 王の紋章!白馬!なんかミドルアースそのものですねぇ。
そしてマス!!
ニジマスね、釣ったことあるよ。塩焼きにすると美味しいんだよ。知り合いのおじさんが釣りが好きで、ニジマス釣りまくっては薫製にしたのをくれるんだけど、これも美味しい。パブとは関係ありませんが。一応。
という感じで見てみると、店の主人チャールズ・ブラグロウヴが暖炉に火を燃やして提供する特別室の話も、樽出しのりんご酒も、戦争中はよく「ノー・ビアー」の掲示が張り出されたのも、「王の紋章」亭をはじめとする他の店の説明も、みんなカーペンターの本にそのまま同じ(!)フレーズで書いてある。

やっぱりガニメデの話も、誰かが違うことを書くとそれをまた書く人がいて広まって悪循環、というパターンなのかもしれない。
それを読んだグワがここで、へーそうなんだ!あの子はガニメデなんだって!すごいすごい!と書いたら、うちに出入りしている人みんなにその情報がインプットされてしまう。こういうことはよくよく気をつけねばならない。これは教訓ですな。

カーペンターはトールキン研究では有名で、あの本はインクリングズの資料としてピカ一のものとなっている。目を通すのは当然だ。ま、ガニメデの話は本がいけない、ということだろう。
しかしですね、さらわれた時、ガニメデはもう大きくなってたはずで、赤ちゃんではあり得ない。そこで何かおかしいと気がついてほしかった。

ま、グワも、うちの常連さんたちが店に行ったときに写真を撮ったり資料を貰ったりしたのを送ってくれなかったら、この話の真相は知らなかったな。赤ん坊なのはおかしいと思っても調べがつかなかっただろう。みんなに感謝。

theがない話は発見だったし、吉田先生が昔行かれた時のことを懐かしんでいるご様子が伝わってきて、味わい深いエッセイでした。(^^)



さくっぴさま、すごく興味深い、すてきな内容のパンフの報告、ありがとう。(^o^)





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