ベオウルフのDVD、日本版は、日本語字幕と日本語吹き替えがついてます。当たり前か。

しかし、字幕だとよくわかりません。吹き替えの方が話がわかります。たぶん。
でも吹き替えでもわかんないところも多々あります。

何か意味不明のとこが・・・ 前後のつながりが不明だったりする。
意味がすんなり通らなくて、ちぐはぐな会話になってると、わからないから面白くない。つまらない。

日本版DVDを観て、ベオウルフってつまんなーい!って印象を持ってしまうのは、もったいない。実はたくさん面白いことを言っている。

よくわからないのは、カットになったシーンが多いのも一因だ。映画を作るときは、何の映画でもこうなのかな。いろんなシーンを撮って、そこから選んでつなげるんだろうし。

脚本を読むと、あぁ、こういう事情でこうなったのだな、ってのがわかるんだけど、映画だけだとどうもわかりにくい。

字幕と吹き替え担当の訳者さんは、たぶん脚本を読んでいない。絶対読んでいない。
この仕事が回ってきたときには、とっくの昔に脚本はアップされてたはずだ。映画は2005年公開だったんだから。
ちょっと見に行って、ざーーっと読んどけば、変な間違いはしないで済んだのに。

それに、読まなくても、映画だけでも、絶対おかしいのはわかる。

グワは初めに観たとき、よくわからなかった。は???って感じのところが何ヶ所もあった。

わっかんないよな〜、どうして? これは何か複雑な意味があるのだろうか・・・それとも指輪の時みたいに単なる誤訳なのだろうか・・・?

それに加えてこの映画は、スタンダードな発音じゃない感じで、割ときれいに普通に聞こえるのはセルマくらい。もひとつおまけに言い回しが昔風にしてあるみたいで、何を言ってるのかさっぱりわからない。
脚本がなかったら、そして英語字幕のあるドイツ版がなかったら、謎のまま終わってたかもしれない。


絶対おかしい部分の他、間違いじゃないけど意味が伝わりにくい部分など、いろいろですが、以下、参考にしてください。
読むの面倒な人は、一番下のが一番問題だから、そこだけでもどうぞ。




ベーオウルフは海で舟がひっくり返って、岸に辿り着く。そして漁師のおっちゃんと喋る。
ああいうおっちゃんは、すぐひとをからかって遊ぶから困る。

で、この会話、どうもちぐはぐでわからない。

ずぶ濡れのベーオウルフ相手に、おっちゃんは楽しそう。

セリフ グワ訳 字幕 吹き替え
You do this a lot? こういうことはしょっちゅうかね? よくやるのか? 泳ぐの好きか?
I take what comes. 何が起ころうが乗り越えるまでだ。 必要ならば 必要ならな
Good. Then you'll have no qualms if supper tastes like you. よし。じゃあ、夕飯がお前さんみたいなひどい味でも、大丈夫だろうて。 よし。何が材料でも文句はないな? よし。そんなら夕飯にも文句は言わんでくれよ。

漁師のおっちゃんは、「よし、じゃあ夕飯に文句つけんなよ」と言うけど、なんか前の会話と噛み合わず、まぁでも、トシだから少々おかしなこと言っても仕方ないのかと思ってしまう。

特に吹き替えはわけがわからない。どうして、泳ぐのが好きなのと、夕食に文句つけないことがつながるのだろう。

ベオウルフは、何が訪れても俺は受けて立つ、と言う。
それに対し、おっちゃんが言ってるのは、今のお前みたいな状態のひどい料理が出てきても、こんなもん食えんとは言わないな、ということだ。

なんかエオウィンのシチューを思い出しますが・・・(^^;;) おっちゃん、アラゴルンにも言ってやってください。




そして、それに続くおっちゃんのセリフ。

セリフ グワ訳 字幕 吹き替え
Eat.
Be yourself.
食いな。
お前さんみたいだろ。
食べろ
遠慮は要らんぞ
ほら、もっと食ってくれ
ぐへへへへへ♪

この、「ぐへへへへへ♪」が、なぜ「ぐへへへへへ♪」になるのか、日本版では全くわからない。

ここは、脚本のト書きには、おっちゃんは自分の冗談に笑う、とある。おっちゃんは、ひとりで冗談飛ばして、ひとりでウケてるのだ。


be なんとかセルフ、というのは、気取らず、自分自身のままで、飾らず、自然体で、とかってことだ。
だから、おっちゃんの言ってるのは、「そう堅くならんで、ゆっくりしろや」ということになる。

しかし、これが冗談で、ぐへへへへ、となったのは、この前のシーンで、お前みたいなひどい味がするかもしれんぞ、と言っていたからだ。

どんどん食べてね〜、と言ったあとで、おまえ自身のを、って意味にも取れる yourself を使った言い方をして、笑う。

ベーオウルフは、言い返しもしないで、おっちゃんの料理をおとなしく食べている。




それに続く会話。
おっちゃんは、急に詩人になる。

セリフ 意味 字幕 吹き替え グワ案
I'm in your debt. 借りが出来たな。 借りができた 借りが出来たな。 借りが出来たな。
I'm in the fish's. わしは魚に借りがある。 わしは漁師だ 俺ゃ、漁師だ。 漁師もな
One of these days, they'll come for theirs. 近いうちに、魚たちが取り立てにくるだろうよ。 自然の意に従って生きてる ただ魚と生きてくだけさ 魚に借りがあるのよ

字幕と吹き替えのおっちゃんは、ここもやっぱりベーオウルフのセリフとつながらない。借りが出来た、ありがとうと言われて、照れて違うことを言っているようにも見える。

本当は、ベーオウルフはおっちゃんに世話になったけど、おっちゃんは魚に世話になってる、ってことだ。
be in 誰かの debt という同じ言い回しを使って、おっちゃんは答える。同じ言い回しで返すときは、訳も同じ言い方にした方がいい。

みんな誰かに借りがあるのさ、と言ってるのだな。

字数、時間制限はあっても、2ヶ所を混ぜてしまえば何とかなる。

こんな感じで見てくると、おっちゃんの出ている時間は短いけれど、セリフはなかなか凝っている。おっちゃんは頭が相当いいらしい。相手の言葉に対して、すかさずひねりを加えたのを返す。う〜〜む。田舎のおっちゃんを軽く見てはいけない。




火を囲んで、イェーアトの男たちが盛り上がる。王妃さまは品よく同席なさってらっしゃいます。

トルケルが何のかんのと喋る。詩人は、人が集まればこうして語って聞かせたのだ。

で、お喋りのうるさいブレカがどうこうと言って笑わせる。

次に標的になるのはホンドシオーホだ。

でも、日本版はホンドシオーホの名前はカットになってて、だから引き続きブレカのことを言ってるように聞こえる。

鳥とビールがどうのこうのと言われてるのは、ブレカじゃなくてホンドシオーホです。よく聞くと、ホンドショーって聞こえるよ。
で、そこでホンドシオーホが映って、ホンドシオーホが喋る。



ベーオウルフのスピーチ。

グレンデル退治に出かけるわけですが、字幕と吹き替えのベーオウルフさんは、同行する人数がご不満のようで・・・

10人かそこらで行くんだけどさ。でもほんとは200人くらいは欲しいらしい。

セリフ 意味 字幕 吹き替え
Well as we've done these last few years, this sail holds grim bliss for me. ここ数年、我らが成し遂げてきたように、今度の航海も私には過酷という至福であるのだ。 ここ数年の経験と同じく、厳しい航海になるだろう。 これまでと同じく、この戦いもまた、辛くて厳しいものになるだろう。
A thing that takes two hundred in arms is no small thing. 200人もを抱え込み殺したという奴は、ただ者ではない。 本来なら200人の兵士が必要だろう。容易ではない。 本来は200人の兵士が欲しいところだ。敵は手強い。
But I will see Valhalla or that thing's head on a pole. しかし、私がヴァルハラを目にするか、かの者の首が槍に吊すかのどちらかだ。 だが俺は必ず巨人の首を取る。 しかし化け物の首は、必ずやこの俺が取って帰る。

ヴァルハラってのは、戦いで死んだ人がいくところ。連日宴会があるらしい。
ベーオウルフが死ぬか、グレンデルが死ぬか、どっちかだっ!と仰ってます。

問題は中段。

これは、デネからの噂では相当多数の者が殺されているらしいということで、200人も殺した奴、ということだ。

これは漁師のおっちゃんとの会話で出てくる。でもその部分は映画ではカット。
80人らしい、って話をおっちゃんがする。80かよ?!と驚くベーオウルフに、おっちゃんは、20と言う人もいるし、200というのも聞くぞ、と言う。

その数字がここで出てくる。

でも、脚本を読んでなくてもおかしいのはわかる。
200人連れてかないと敵わないと思われるのに、それなら船団を組んで、国を挙げて行かねばならないのに、なんであんなちっちゃい舟で、少人数で行くのか?

そんな状況でベーオウルフにデネに行ってこいという王さまはひどいではないか。王よ、ベーオウルフは甥っ子でしょーに!! 大軍団つけてやってくださいよ!!ケチケチしないで!!王さまでしょ?

話がよくわからない人は、200人でも簡単じゃないと言ってるのに、次のシーンでショボい舟が映って、へ?と思ったかもしれない。あまりに落差が激しすぎる。

それに、この時代の戦いは、基本的に一対一で決着をつけるから、いくら大軍率いて行っても、そんなに意味はない。相手は1人だからね。

なんか変だよなと思ったら、訳がおかしいのだった。この英文はそんな意味ではない。

thing って、グレンデルのことだ。人間じゃなくて怪物だから、物扱い。後でも何回も出てくる。200人を腕で取ったthingは、ケチなthingではないぞと言っている。




ドカドカと現れたブレンダン神父。
王の前に歩み寄り、自分にトロル退治をさせろと言う。

しかし、ブレンダンは一向にグレンデルとやり合う気配はない。大体、剣も持ってないのに、どうやって退治するのか? それにキリストの僕なのに、そんな物騒なことを言っていいのか?
英雄ならともかく、神父が怪物退治をするのは珍しい。

セリフ 意味 字幕 吹き替え
My gods don't ask me to bow. わしの神々は頭を垂れろとは言わぬ。 我々にも神々がいる か〜みだったら、我々にもいるぞぉ
And nor should they dare if they won't protect you.
To face God's foes is an honour.
I've come to drive this evil out.
あなたを守ってくれないのなら、そんなこと言えないでしょう。
神の敵に対するのは栄誉なことだ。
私は災いを払うために来た。
巨人から守ってくれますか?
私は怪物を追い払うためにここに来たのです。
その神は巨人から守ってくれますか?
神に従うのは名誉なことです。
私が巨人を追い払いましょう!
With a stick? うはは、杖でか? その杖で? うはは、その杖でぇ?
With the fire of Heaven! 天の火でだ! 天国の火で 天国の火で!
Well, if your heaven's on fire, you'd better look to that. いやはや、お前の天が燃えてるなら、気をつけた方がよいぞ。 天国を焼かんようにな 天が燃えてるなら、すぐ消しに行くがいい
You leave me on a dish for the troll, then!
Leave me!
そう言うなら、私をトロルの餌食に差し出せばよい!
差し出せ!
その巨人は私にお任せください 巨人退治をやらせて下さい。
お願いです!
And if I don't see man's dawn, I shall see God's!
I shall see God's!
私は人の世の夜明けを見れずとも、神の夜明けを見るであろう!
私は神の夜明けを見るのだ!!
あなた方に見せましょう
神の夜明けを!
あなた方にぜひともお見せしたいのです!
神の夜明けを!
バタっっ・・・

キリストに従えば祝福がありますよ、と言うブレンダンに、「か〜みだったら我々にもいるぞ〜」というノリの、吹き替えフロースガール。(爆) 王さま、態度悪くて素敵だ。

まぁねぇ、全体の意味はそんなにずれてはいないけどさ。
でもブレンダンは、自分は死んでも、そういうことで死ねば神の夜明けを見れるからいいもんね、と言っていて、あなた方に見せてあげるとは言ってない。

それにここは、北欧の神々は、キリスト教の神とは傾向というか種類が別で、祈って服従すれば助けてくれるとかいう教えとは違う、ということを言ってるのだ。

助けてくれないような神さまたちだから、祈れなーんて偉そうにあなた方に言えないんでしょーよ、というブレンダンを、フロースガールはギロリと睨む。

宗教の根本的な違いが、ここで提示される。

だから、みんな改宗していく。キリスト教は、信じれば救われる、って教えだから。



吹き替えのウェアルフセーオウは、なかなか威圧的だった。こわい。エラそう。セルマを脅しているみたい。王妃さま、恐喝はいけません。
訊いてることに答えればいいのよっっ!!ってそんな、王妃さま、落ち着いてください。

特別おかしいわけじゃないけどね。字幕もいいし。しかし、吹き替えの王妃さま、落ち着いてください。

セリフ 意味 字幕 吹き替え
Selma, should I fear for my husband? セルマ、夫のことが心配なのよ。 セルマ、主人は平気なの? セルマ、わたしの夫は大丈夫なの?(コワイ)
You've got nothing better to do? あんた、他にすることないの? ヒマな人ね あんたもヒマ人ね。
Sweet, don't play the bitch with me.
I don't ask much and I don't ask often.
No one dares dirty your name around me.
いい子だから、あばずれみたいな言い方はやめなさい。
私はあれこれとは訊かないわ。
私の周りでお前を悪く言う勇気がある者はいないのよ。
教えてちょうだい。
私の周りであなたを中傷する者はいないわ。
あたしをからかうのはおやめ!(ますますコワイ声色で)
訊いてることに答えればいいのよ!(脅すような調子で)
お前の評判は悪くはないんだから。
Nor yours around me.
Hrothgar dies happy... in a sleep.
私の周りでも、あんたを悪く言う勇気のある者はいないわよ。
フロスガールは幸せに死ぬわ。眠ったままでね。
私の周りでもね。
王は幸せな死を迎える。眠りの中で。
あんたのもね♪
王は安らぎの中、死を迎えるわ。
That's a lift.
Selma, I could find a place for you inside.
気が軽くなったわ。
セルマ、よければ、私の近くに居場所を見つけてあげられるのよ。
安心したわ。
内地に住む場所を見つけてあげるわ。
ほっとしたわ。
(急に馴れ馴れしくなって)
セルマ、良ければ村に家を用意するわよ。
We chose our beds a long time back. ずいぶん前に、わたしたちは自分の寝床を選んだでしょ。 自分で選んだ寝床よ。 自分の寝床は自分で選ぶわ。




デネに到着したベオウルフ隊を警備兵のエリクくんがお出迎え。

怪しい一団を前に、威勢がいい。
さっさと名乗らないと矢の雨が降るぞ、と仰る。こわいこわい。

セリフ 思い切り直訳 字幕 吹き替え
Two blows from this, and 50 men will be on this beach before your next breath. これを2度吹けば、お前たちが次の息をする前に、50人の兵がこの浜に現れるぞ 一瞬のうちに50人の男たちがこの砂浜に降り立つ 俺の合図ひとつで、瞬く間に50からの兵士がここに現れることになるぞ

別に間違っちゃいない。吹き替えも自然な日本語になっててすごくいい。
でも、字幕も吹き替えも、「Two」が入ってないのさ。Two blowsが、吹き替えは「合図」で、字幕は丸々カット。

エリクくんは、「これを2度吹き鳴らせば」って言いながら角笛を振りかざす。

そこへ、ホンドシオーホがチャチャを入れたもんだからカチンと来て、おう、それが返事なら、こうしてくれるわ、って角笛を口に持っていく。

そして、俺はベーオウルフだ、というのを聞いて角笛を降ろす。

字幕は、その50人はどうやったら現れるのかわからない。でも、映像を見ていれば、角笛を見せつけながら言ってるからわかる。字数制限あるしね。カットでも仕方ないな。

でさ、でもさ、なんでどっちも気になるかって言うと、この後、「!」って思うから。

俺の合図ひとつで!って言ってたエリクくん、角笛吹いちゃうんだから。えー、合図しちゃったよ〜〜 矢の雨になっちゃうよぉ!

って思う人はあんまりいないでしょうが。

合図ひとつのひとつは、1回って意味じゃないのはわかってますよ。合図さえすれば、ってことだよね。
合図しちゃったじゃないか。大丈夫?

2回だの何だのがわかりにくければ、 「これの吹き方によっては」 でもいいんじゃないかな。どう吹くかが問題なわけだから。

そうすれば、エリクくんが合図をしても、敵襲来ではなくて、お友だちがいらっしゃいましたという吹き方をしたのだろうと思う。




グレンデルがヘオロットに来て、襲わずにトイレだけ済ませて帰った次の朝。

ベーオウルフたちが神父と話した後、ウンフェルスが言う。

ウンフェルス 自分は、ずっと、オーディンが死をもたらしてくれるのを待っている。
でもそうはしてくれない。
ホンドシオーホ そりゃ、オーディンが、それが一番と思ってるからだろ。

このホンドシオーホのセリフは、In his wisdom で、一見、いい答えのように思える。オーディンがあなたを生かしておいてくださるのは、彼のご英知によるものでしょう、だから頑張ってね、ってことで。おぉ、いいこと言いますね、ホンドシオーホさん。

しかし、In his wisdom って、皮肉らしい。
そりゃ、皮肉じゃなくて真摯な意味で使うことも、もちろんあるだろうけどね。
この場合は、脚本にも wry とあって、ウンフェルスはバカにされたと思って憤慨するけれど、気持ちを抑えて歩み去る、とある。

ウンフェルスは本気で悩んで言ってるのに、ホンドシオーホは軽く扱うだけ。

当時の考え方としては、生かしておいてくれるのは別に素晴らしいわけではなく、戦いで戦い抜いて死ぬことが英雄として栄誉なことで、戦って死んだ戦士はオーディンの宮殿に迎えられ、贅沢なもてなしを受けることが出来る。

そうなりたいのに、オーディンはそうしてくださらない。

あ〜、そりゃね、オーディンがその方がいいと思ってるからでしょ、あんたはヴァルハラに呼ぶような英雄じゃないっていうかさ、ここにいるまんまにしといた方が・・・神のご英知ですよ。

って言われれば、そりゃバカにされたと思うだろう。

字幕は全然違う意味になっている。吹き替えはいいね。

もともと 字幕 吹き替え
I have been waiting for Odin to bring me my death. He hasn't. 俺は待ち続けているんだ。神の啓示を。 俺は最高神オーディンのもたらす死を待ってる。なのに死ねん。
In his wisdom. 本心か? 神の意志さ。

神の啓示っていうのは、何かこう、すごーい真理を神さまが教えてくれる、ってことでしょ。おっきな天使とかが現れてさ。こうこうこうなのだ!って言われて、ひれ伏したりして。
そういうのって、北欧の神さまたちの話にはどうもそぐわない。キリスト教系の言葉だと思うな。

この字幕だと、ウンフェルスは改宗したがってて、ホンドシオーホはそれを聞いて、「お前さん本気でクリスチャンになる気かね?」って返してるように見える。

神父はへらへらしてて信用出来ない印象だし、ベオウルフも神父はどうかしてるというし、それなのにウンフェルスは神の啓示を待ってると言う。それに対して、おいおい!やめとけよ!っていう会話みたい。

それでも意味が通ってしまうのが問題だ。
ホンドシオーホに「本心か?」と言われたウンフェルスは、あぁ僕の心を誰もわかってくれない、みたいな顔をして去り、フロースガールはそれを見送り、しばらく後のシーンでは、ウンフェルスは川で洗礼を受け、フロースガールは、まぁそれもよかろう、と言う。

啓示を待ってて、啓示があったのだろうか?
それとも神に近づくためにちゃんとクリスチャンになろうと思ったのだろうか。
それとも、気持ちがキリスト教になびきかけていたところで、ホンドシオーホに「へー、ほんき?」って言われて、頭にきて決心してしまったみたい。

・・・とかいう解釈も成り立つ。

本当は、ウンフェルスは戦って死んで、つまりオーディンが自分に死をもたらしてくれて、それでヴァルハラに行くのが望みだったのに、その北の神々を捨て、全く別の神にすがることにする。そういう人々の変化をフロースガールは止められない。

グレンデル襲撃でウンフェルスが1人だけ助かったのは、ここのセリフのためだったのだ。

ただ何となくクリスチャンになっていくのではなく、その前に「オーディン」という確固とした神が根付いていたというのを語っているシーンだ。オーディンさまがいるのに、それでもクリスチャンになっていくというのは、一応、事件なんだから。





エリクがベオウルフ隊を連れて山に行くシーン。

セリフ 字幕 吹き替え
This is where the blood trails led. 血痕が続いてる 血の跡がずっと続いてるぞ

さて。 これがおかしいのは、中学生でもわかる。

led って、過去形だもん。それがどうして現在形の日本語になってるのだろう。
直訳すれば、「ここが、血の跡がずっとついていた場所です」、となる。

このセリフは脚本通りで変わっていない。このまんまだ。言っているのもエリクの声だ。設定は脚本も映画も同じ。

過去形を現在形で訳したり、その逆をしたり、っていうのは、場合によってはあり得る。その方が日本語として流れがよければ。でも意味が変わっちゃうことをしてはいけない。

ここを見て、は?と思ったのは、前の晩、グレンデルは誰も殺していないはずだから。
ヘオロットに来て、外にいた神父には手を出さず、玄関を開けようかと思ったけど、中の匂いがデネ人じゃないのに気づいて、お○っこしただけで帰ってしまった。

それなのに、血痕があるぞと言われると、は?となる。
大体、仮に血痕があるとしても、あんな広いところで都合良く見つけるなんて、野伏でも難しいだろう。

たしかにここのシーンは、前のシーンがカットされてるから、前後がつながりにくくなっている。

カットになってるのは、
ベーオウルフ  奴がどこに住んでるかわかりますか?
フロースガール   以前、血の跡を辿って行ったら、崖の下に出た。

・・・というところ。
なんでこれを入れなかったのかなぁ。何秒もないだろうに。ねぇ?

これが入ってれば、流れが自然になったのにな。
でもカットだから仕方がない。

そして続きのシーン、エリクがベーオウルフ隊を案内して、その崖に行くのだ。そしてエリクのセリフ、「ここが血の跡があったところです」となる。

いきなりだとしても、「ここが、血の跡がずっとついていた場所です」って言われれば、あぁ、前に探したことがあったのだな、と推測がつく。製作側は、そのつもりで山のシーンに飛んだんだろう。

ということで、あのシーンは、血痕はもうないはずです。警察に来てもらって鑑識が調べれば反応は出るでしょうが。



セルマとベーオウルフが会ったところ。
トロルがどうやって死ぬか教えてくれ、と頼むところ。

ここは別にいいんですけど、せっかくロキの名前が出たのに、ロキって出してもらってなかったから、一応。
出してあげればいいのに〜〜 吹き替えは火の神。

そりゃねぇ、日本じゃ北欧神話は馴染みが薄いから、ロキって言われてもわかんない人が大多数でしょうが・・・ でも、ロキはワルいから、ちゃんと出してあげないと、何されるかわかりませんよ・・・

字幕は、前後の流れがよければってことで、言い替えてしまっている。そういう方式なんだろうから、いいけど。

セリフ 意味 字幕 吹き替え
In some things I'd rather be blind. 見えない方がいいこともある 知らない方がいい 知らない方がいいこともあるさ
You're worse than Loki with your sheepshit twining. あなたって、クソ絡んで、ロキよりワルね。 知るべきこともある。 あなた、火の神よりもひねくれてるわねぇ。





ベーオウルフは、グレンデルと話をしてきたと王に言う。
お前があいつと話しただとぉ?! 王は驚く。

グレンデルはなかなか襲ってこない。来てくれないと退治できない。

セリフ 意味〜直訳 字幕 吹き替え グワ案
I fear he just waits for us to go. 彼は、我々が去るのを待っているのだと思います。 奴は機を伺ってる 奴は俺が去るのを待っています。 奴は我々が去るのを
Same thought gnaws on me. 同じ考えが、わしを苦しめている。 そのようだな わしも、それが心配だ。 待ってるのだ

そりゃ、争いとなれば、誰でも機を伺うでしょう。なんで当たり前のことをわざわざ言うのか?字幕だと、何か無意味なことを言ってるようで、つまらなく感じる。

吹き替えはバッチリ。これを聞けば、おぉ、と思う。そうか、グレンデルはそういうつもりか!って。
グレンデルはデネ人しか襲わない。ベーオウルフ隊は関係ないから。グレンデルとしては、さっさと帰っていただきたいのだ。そして、帰ったら、また館に来るつもり。

ここのやり取りは大事だ。
グレンデルは関係ない者は襲わないということにベーオウルフは気づき、王もそれを認める。
っていうのを入れれば、観てる方もその後の展開がわかりやすくなる。

字数がねぇ。入らないんだよね。こういうときは、2人で分けて言えばいい。そうすれば王も同じ考えだとわかるし。




グレンデルの父を殺したことをベーオウルフに話す王。

子供がいたのに気づき、その場で殺せたのに、そうはしなかったと話す。

セリフ 意味 字幕 吹き替え
Weakness stopped my sword. 弱さが剣を止めた。 弱気が剣を止めた 弱さがわしを止めた。
Or kindness. 優しさとも言います。 優しさかも 優しさでは?
Then it's the hardest kindness I know! それなら、これほどに無情な優しさは他にはない! それが遺恨を残した ならば愚かな優しさだ!

まぁ間違いはないけど。

ただ、字幕、それが遺恨を残した、っていうのは、ちょっといろんな意味で浅くなっちゃう。

「それが遺恨を残した」だけだと、グレンデルの気持ちだけ、それも恨み辛みだけになる。he hardest kindness がカバーするもろもろのことに気持ちが向かなくなる。

ここは、話の流れとして、重要なセリフだと感じるから、元の意味は消さないでほしかった。

吹き替えはいいね。





これも別にいいんだけど、でも気になった。

グレンデル退散祝勝パーティで、王さまが乾杯の音頭をとる。

セリフ 字幕 吹き替え
To the end of gloom! 暗闇の終わりに 暗黒の終わりに
そこで一同が唱和。
To the end of gloom!
暗闇の終わりに 暗黒の終わりに
フロースガールはベーオウルフと乾杯。
ベーオウルフも言う。
To the end of gloom.
乾杯 闇の終わりに

ぼーっと吹き替えで見てて、暗黒の終わりにかんぱーい!!で、ところがベオウルフだけが違うことを言う。「闇の終わりに」。 びっくりするじゃん。

ちょっとー、あんた、カッコつけんじゃないですよ。王さまの仰った通りに言いなさい!乾杯ってのはそういうもんでしょーが。ほら、王さま、なんだこいつはって顔してるじゃないですか。ひとりだけ目立とうなんて、これだから英雄はヤだなぁ。

とか思った。
脚本にはベオウルフが何と言ってるかは書いてない。
しかし、よくよく聞くと、ベーオウルフは同じことを言っている。ドイツ版が届いてから確かめても、やっぱり同じ。

くらやみ、くらやみ、と聞こえた後で、やみ、とくればまだいいけど、

あんこく、あんこく、と聞こえた後で、やみ、とくると、かなり違って聞こえて、え?って思う。

同じ方がいいな。でないと、カッコつけんじゃないよ!って感じるのはグワだけじゃないと思うな。



これもまぁ、大したことではない。

セルマの小屋に行ったベーオウルフ。

食事は? と訊かれたのに、友が恋しい、と答える。

アンタねぇ、おなかすいてるのか、すいてないのかくらい答えてから、話題を変えなさいよ!

・・・と思った。だってそうでしょう。会話のマナーってのは時代も国も関係ないでしょうに。
いきなり話が変わると、「?」と思う。

ところが、ちゃんと会話はつながっていたのだった。

セリフ 字幕 吹き替え
Aren't you missing the meal? 食事は? おなかはすいてない?
Guess I miss my friend, more. 友人が恋しい それより、友が恋しい。

セルマは、ごはんを食べ損なってないのかと訊いている。つまり、普通の日本語なら、食べたの?ってことだ。
miss を使って訊いて、miss を使って答える。ベーオウルフがmiss しているのは meal じゃなくて friend なのだ。miss の違う使い方をうまく生かしている。食べ損ねたんじゃなく、ホンドシオーホがいなくて寂しい。
こういうのを日本語で同じ単語で返すのは難しい。

しかし吹き替えは、「それより」が入ってるから意味が通じる。

字幕は字数制限があるからなぁ。でも、吹き替えのように「それより」を使って、「それより友が」なら6字で済む。




ここが一番すごい。

セルマにえっちなことしようと思って寄ってって、ひっぱたかれたベーオウルフのセリフ。

セリフ 字幕 吹き替え
Where did that have its birth? ここで産んだのか? 誘ったんじゃないのか?

字幕と吹き替え、同じセリフを訳したとは思えない。

字幕、このシチュエーションで、それは意味が通じない。

吹き替えは、うん、意訳としてオッケーでしょう。

これはちょっと変わった言い回しなんだろう。古風にしてあるのかな。わかんないけど。
普通なら、Where did that come from? とか、たぶんそんな感じ。なんでそーなるんだよ!ってことで。どっからどーしてそーゆーことになるわけ?って意味だな。直訳すれば、それはどこからやって来たのでしょう?になる。ひっぱたかれた原因はどこからやってきたのでしょう?

だから、ベーオウルフが言ってるのは、ひっぱたかれたことの生まれはどこなのでしょう?ということで、どうしてひっぱたかれたのでしょう、なんで?ってこと。
って意味でいいと思うんだけど。違うんだろうか。

大体さ、ここのシーンで「ここで産んだのか?」とか言われちゃうと、へぇ、産んだって、グレンデルの赤ちゃんが出来たわけ?とか思っちゃって、グレンデルの子がセルマの子なんだ!っていう発見がなくなるでしょーに。あんなにスタッフが苦労して(たぶん)、あの子をわざわざセルマに似せてあるのにさ。

グワイヒアも、ここの字幕のおかげで、あ!そうなのか!あの子が!っていうオドロキが半減しましただよ。



さて、一息入れてボーリング。