なぜ、グレンデルはフロースガールを襲わないのか。
そりゃさ、フロースガールがさっさと死んじゃうと話が成り立たなくなるから、というのが一番の理由なんだけど。 それを言っちゃあ、おしまいなわけで。
だから、それは言わないで話を進めよう。(^^;;)
普通に考えると、次の2点かな。
1 あの日、自分を見逃したから。
2 本人はそのままにしておいて周りを攻撃し、残された者がどれだけ辛いか思い知らせるため。
どっち? 両方?
あの日、全ての発端の日、グレンデルがデネの兵士たちの中で唯一、兜を取った素顔を見たのはフロースガールだけだ。
そして映画の前半、館を襲いだしてしばらくしてから、王はふらふらと外に出て、トロルよ出てこいと叫ぶ。そして、炎を挟んで2人は向き合い、目が合い、両者の心にはあの日のことがまざまざと甦ったことだろう。
忘れっこない、フロースガールの顔。
そして、あの殺したトロルとそっくりなトロルが目の前にいる。
しかしグレンデルはフロースガールには手を出さない。部下の兵士は殺されて王の方に投げつけられる。
映画の後半、グレンデルが死んだ朝、フロースガールは、ベーオウルフからグレンデルは自分に害をなした者しか襲わないと言われ、それなら真っ先に自分がやられているはずだと言う。グレンデルのパパを殺したんだから。
でも子供は殺さなかった。
フ 弱さが剣を止めた。
ベ 優しさとも言います。
フ それなら、これほど無情な優しさは他にない!
Then it's the hardest kindness I know!
誰がハードなことになってるかというと、グレンデルとフロースガール両方なんだろう。
それと殺された者たちも。その家族も。グレンデル騒ぎで疲弊しきったデネ全体も。巻き込んでしまったベオウルフ隊も。
グレンデルは目の前で父を殺され、ひとり残された。パパの首を大切に毎日を生きる。そんなことにしたのは無情極まりないことだ。しまいには人殺しまでさせた。
あの日殺してしまった方がよかったのか? でもそれはフロースガールには出来なかった。
一体、どうすればよかったのだろう。
あの状況では、もうどうしようもなかったんだけど。どっちに転んでも大変。
全てがめでたしめでたしで終わるのは、おとぎ話だけかもしれない。
そして王は、後悔にさいなまれ、罪悪感に満ち、グレンデルに対してだけでなく、民の死も自分のせいと思い、神々にも見放されたと感じ、どんどん不安定になってゆく。
それは弱さじゃなくて優しさだと言うベーオウルフに、噛みつくように叫ぶフロースガールは、全部自分独りで背負ってしまう。
このフロースガールは、不器用なのだ。
グレンデルが死んじゃって、あ、片づいた、らっきー♪ とは思うことが出来ない。ずっと、背負い続け、泣く。
ひとりで立っていられなくって、神々にすがりたくても神々は助けてはくれず、異国の神にもすがってみる。
一番ハードなことになってる王。 それはグレンデルに殺されるより残酷なことだったのかもしれない。
まーそりゃね、命あっての物種ですけどね。
そして、この後、夜になって宴会になる。
フロースガールはベーオウルフと飲み、喋る。思いっきりアホなことを言って、ガハハハと笑う。
ここのシーン、泣き出したフロースガール、好きだな。一生懸命バカな話をして、ぐははと笑って平気なふりをしてたけど、でもベーオウルフの前では泣いてしまう。
そして、もう終わったんですと言うベーオウルフも、好きだな。グワは、ここのシーンのベオウルフが一番好きだ。
そして、王妃さまはちゃんと後ろで見守っている。バカな話をしているときも、心が崩れそうなのをバカを言って誤魔化してるのがわかるから、後ろから離れない。
今までのことを全部ひとりで抱え込んでいたけれど、心に押し込めていた悲しみと辛さが止めようもなくなって流れ出す。
グレンデルが死んで、よかったはずなのに、王は喜べない。余計に辛くなる。
心から溢れ出そうなのを、アホな話で懸命に堰き止めていたけれど、限界になる。
王の心も、周囲の人々の状況も、そしてベオウルフの気持ちも、
Then it's the hardest kindness I know!
この一文に尽きる。
この人も大変。