エレン シラ ルメン オメンティエルボ。 すらすら書けるようになった。 めでたい。

意味は、
われらのあい出会う時、一つ星が輝く。
A star shines on the hour of our meeting.

これは知ってる人多いよね。 
じゃあ、どこがどういう意味なのか。これが結構ややこしい。
簡単と言えば簡単なんだけど、ニュアンス的にむずかしい。

それからクゥエンヤでは、とにかく語の後ろにいろいろくっつくの。英語の前置詞にあたるものも全部後ろにくっつく。くっついてくっついて長くなる。 いくつも言わなくても、一言で済んじゃうの。 面白いね。

じゃ、ひとつずつ。


 エレン 

elen。これは星のこと。単数。

この挨拶は、初期の草稿では、Eleni 〜 だった。eleniって、複数。
だから、「われらのあい出会う時、星々が輝く」 だったんだよ。
この初期の頃はフロドの名前はビンゴだった。そしてビンゴのいとこがフロドだった。
ビンゴはオドとフロドを連れて旅に出る。この頃はトールキン自身、話がどう進むのかわかってなかったらしい。指輪本編がまだ手探りだった頃から、この挨拶の言い回しは存在したんだね。


 シラ 

次、 sila。 i には上に ' がついてる。
sil は動詞で、輝くってこと。 shineだね。シルマリルのシルだよ。 これを現在形または進行形にするには a をつける。で、i が長音になって、' がつく。 ' がついてない sila は命令形で、輝け!って意味になる。
i の上が ' になってるsilaは、つまり shines または is shining ということ。


 ルメン 

lume は time のこと。u の上に ' つき。
lume に -nna がついて lumenna に変化して、次との都合で(母音が続いて言いづらいから) a が省略になってる。
WJ 367には、省略しないで、aがついてるlumennaの形で書いてある。
-nna がつくと、to とか toward とか into とかの意味になる。その時に向けて。

ここは、初期の草稿では、lumesse だった。-sse がつくと、on や in の意味になる。その時に。

この2つの形、どう違うのか。
-sse は所格といって、位置とか場所を表す。
-nna は向格といって、字のまんま、向かうっていう方向性を示す。
こういうのはフィンランド語に見られるものだそうで。 トールキンはフィンランド語が好きだったんだって。

方向性のニュアンスが加わると、「いまこの時に向けて特別に光ってます〜」って感じが強まる。

WJに載ってる訳は、
A star shines upon the hour of the meeting of our warys.
現在の指輪本編では、
A star shines on the hour of our meeting.

このuponとかonは、慣用的に英語ではそう言うからそうなってる。
でも原文では、lumesse じゃなくて、lumenna 。


 オメンティエルボ 

omentielvoは、3つの言葉が合体してるのだ。
omentie + lva + o なのだ。

omentieは、meeting のこと。omenta っていう動詞に ie(単体ではeの上に・・がついてる) がついて、動名詞になる。
で、o〜って始まる語は、2つの物、2人、2つのグループが接点を持つという意味があることが多い。(WJ367) だからこの omentie の meeting は、3つのグループが出会ったときには使えない。

別方向からバラバラに来た3人またはそれ以上の人、もしくは3つ以上のグループが出会ったときは、yomenie というのを使う。(WJ407) これもmeeting という意味。

ここではフロド、サム、ピピンのホビットたちと、ギルドールの一行という2つのグループの出会いだから、yomenie じゃなくて omentie を使うわけ。
ここにもしグワが「ど〜も〜♪」って乱入してたら、3グループになるからyomenieになって、ヨメニエルボかと思いきや、ちょっと違ってヨメニエルモになってたわけ。yomenie+lma+o。

omentieって、次の lva との関係で、これは2つのグループの出会いじゃなくて2人の出会いってことになるんだけどね。


ではその lva について。
lva は、our のこと。
でもただの our とはちょっと違う。
our にあたるクウェンヤはmma と lma と lva の3つがある。
え〜、3つもあるの〜 ひとつでいいのに〜  ねぇ? 
でもこうやって分かれてると、便利は便利なのだ。 いちいち詳しく言わなくても、これだけでどういう our なのか判るから。

じゃ、ちょっと例を。「わたしたちの」じゃなくて「わたしたちは」になっちゃったけど。

mma は「わたしたちはあなたと会えて嬉しい」って感じで、聞き手の「あなた」を含まないour。
lma は「わたしたち、一緒に食事しましょうか」って感じで、聞き手を含むour。
lva は、「あなたとわたし、2人きり〜 」って感じで、自分と聞き手の2人しかいないour。

この lva みたいなのを複数と区別して両数という。対になってる言葉に使う。双数ともいう。2という数を扱うときは両数なのだ。

むかーしの古い系列の言葉にはこういう両数っていう概念がある。サンスクリットやギリシャ語にも両数があるらしい。
古代エジプト語にも両数はあった。腕とか目とか、2つで1セットっていうものは両数で表した。普通の複数とはちょっと違うのだ。ヒエログリフで書くときは両数はしょっちゅう出てくる。
21世紀において両数が使われている言語はそんなにないらしい。大体は普通の複数に吸収合併されてしまっている。合理化されるのは企業も言葉も同じなのかな。
さて、クウェンヤはピラミッドよりずっと古い言葉だから、両数があっても全然不思議ではないのだ。さっすがトールキン先生。

さて、ここで困るのは、この聞き手包括か、聞き手除外か、両数かという解釈が研究者によって違う。上に3つ並べたのと違う考えの人もいる。困るよね。
先生がちゃんと書いといてくれなかったのがわるい〜!! 

聞き手除外一人称複数 mma lma
聞き手包括一人称複数 lma lva
一人称両数 lva mma

1が上の方で説明したもの。こっちが一般的。なぜかというと、書簡集の注に書いてあるから。ただし、この注は編者のカーペンターさんが書いているもので、トールキンが書いたものではない。
2は一部研究者さんの説。

ここのページでは、一般的1の方で話を進めるよ。

初期の草稿では、omentiemman となっている。mmaがついてる。聞き手除外で、これだとこの場合は文が成り立たない。
トールキンは作っていく途中で文法変えちゃったりするから、これを書いたときは、聞き手包括複数か両数のつもりでいたはずだ。

で、めでたく指輪本編が出版された時には、omentielmo オメンティエルモだった。エルモもいいけどグワはアーニーが好きさ。 あ、セサミストリートの話。 関係なかった。
えっと、何だっけ。
だからつまり、初版の指輪物語では、

フロドは頭を下げて言いました。
「エレン シラ ルメン オメンティエル
ギルドールが笑いながら言いました。
「仲間たちよ、気をつけなさい! 内緒話はできないよ。古き言葉の大家がここにいるぞ」

・・・だった。 というわけだ。

omentie + lma + o になってたから、omentielmo だったのだ。
トールキンは息子のクリストファーに宛てた手紙でもこの形で書いてる。(L205) この手紙は1958年、指輪が出版されたのは54年。だから出版後しばらくはやっぱりだったんだ。
それが66年のSecond Editionの際にに直された。

で、どうして初めにオメンティエルモだったのかというと、赤表紙本にそう書いてあったかららしい。ってことになってる。いや、だからそうなんだよ。
フロドが書いてサムに残していった赤表紙本は、その後写本がいろいろ作られた。元々の原本はなくなっちゃってて、トールキンが手に入れて英訳した(ってことになってる)のは写本なわけだ。
で、写本ではオメンティエルボに直されているものがあって、それで先生は途中であぁそうか、と思って、 lva に変えたものらしい。
つまり、フロドは原本で omentielmo としていたらしいんだよ。それが後に写本が作られる過程で、こりゃ変だよな、と直された。

omentielmo は、フロドたち3人のホビットとギルドールの一行をひっくるめて指すことが出来る。聞き手も全部含めた複数だから。
一方、omentielvo は両数だ。喋ってる本人と聞き手のみを指すことになる。つまり、フロドとギルドールの出会いを言っている。

1の説が正しいとすると、トールキンは、みんなひっくるめての出会いではなくて、ギルドールとフロドの出会いに絞っての挨拶に変更したわけだ。
これはどっちでもいいというか、どっちかっていうと包括複数の方がいいようにも思えるけど。

でもこの言い回しは慣用的なもののようだから、両数のomentielvoで言うのが普通なんだろう・・・ とグワイヒアは思うな。
普段、挨拶するときって、自分と相手だけだよね。だからオメンティエルボが決まり文句なんだよ、きっと。
どっちでもいいように見えるけど、先生、こだわるから。

フロドはその決まり文句を間違えて覚えてたのかな。ギルドールはそれをわかってて、「フロド、すごいね〜! エルフ語出来るんだね〜!」って言ってくれたんだよ。
なにせホビットだから、間違えても仕方がない。まぁその、言葉なんてものは、多少間違えても通じればいいんだ! ギルドールはゴチャゴチャ言って直すより、とりあえずは褒めて伸ばす先生なのですな。
それともフロドは文法知っててわざわざオメンティエルモに言い換えたのかもしれないけどね。でも写本作るときに元に戻されちゃったってわけ。

2の説だと、オメンティエルモだった初版の文は成り立たなくなる。聞き手のギルドールを含まなくなっちゃうから。だからlvaに直さなきゃならなかったのかもしれないけど。

oはof 。〜's ってこと。 複数では〜onになる。
ここでは「omentie」という単数が属格になってるからoがつく。
onがついてるのは、シルマリルリオン。これはシルマリルの複数(3つあるから)の Silmarilli に on がついたもの。だからあの本は、「シルマリルs!」って意味。3つのシルマリルのこと、ってこと。

オメンティエルボの場合、o がついて lva の a が省略されている。



 まとめ 

分解すると、
elen sila lumenn omentielvo
sil +a lume +nna omentie +lva +o
omenta +ie
star shines
or
is shining
time toward meet ing our
(dual)
of


はい、全訳。

説1
別方向から来たあなたとわたしの2人が出会ったこの時に向かって、一つの星が輝いています。

説2
別方向から来た2つのグループである、わたしたちとあなた方。
聞き手であるあなた方をひっくるめたわたしたち全部が会ったこの時に向かって、一つの星が輝いています。

ちょっとやりすぎ。(^^;)
うーん。でもやっぱ、こうしてみると、1の両数の方が挨拶としては一般的かな。普段、2は使わないね。決まり文句としては、1が正解でしょう。


 われらのあい出会う時、一つ星が輝く。
 A star shines on the hour of our meeting.

この中には、こういういろいろな意味と、先生のこだわりと、指輪本編成立の歴史が含まれてるのでした。




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