フロドたちがロリアンに寄ったとき、珍しく金星さんの記述がある。あのガラドリエルの鏡のところ。

さて、トールキン先生は、夜空に関することはイマイチわかってなかったらしい。
お月さまの描写もどうもおかしい。変なところがチラチラとある。先生は、月のことを調べなきゃって手紙に書いてたりもする。(1944年、4月) 調べてもまだわかってなかったらしい。
タイムマシンが出来たら、ちょっと行って、先生をつかまえて、月だの金星だの、動き方を教えなきゃ。だーから違うってば!!ってやってるうちにお互いイライラしてケンカになりそうだけど。 パイプが飛んでくるやも知れぬ。気をつけねばなるまい。

で、金星も、宵の明星なのに rise と書いてある。西の空では昇らないんですけど。

鏡を覗く前。
The evening star had risen and was shining with white fire above the western woods.
宵の明星が昇り、西の森の上に白い炎となって輝いていた。
訳しても変だよな。宵の明星が昇ることはあり得ないから変に感じる。
そしてフロドとサムが鏡を見て、その後。
水盤を見て、ひぇ〜〜!!ってやってるうちに、どのくらい時間が経ったのかよくわからないけれど、宵の明星は沈むんだから、西の森に隠れて見えなくなってゆくはずなのだ。

しかし、次ではaboveと書いてあるから、あまり時間は経ってなかったのかもしれない。
それとも先生が勘違いしてて、宵の明星は昇ってしまったのかもしれないけど。
Earendil, the Evening star, most beloved of the Elves, shone clear above.
エアレンディル、宵の明星、エルフたちが最も愛する星は、高く、煌々と輝いていた。
やっぱり昇っちゃったのかな。そうかもしれない。当時はそういうもんだったのかもしれない。そういうことにしとくか。

で、その高いとこにいるエアレンディルさんのおでこについてるシルマリルの光は、ガラさまの指輪、ネンヤに当たってキラキラする。

ガラさまは、東に向かって手を広げる。手の平を東に向けると、指輪の石は西を向く。そこへ西にいるエアレンディルの光が当たるのだ。うーん、すばらしい。
そして、それを見たフロドは、おぉぉ!と思う。読んでるだけでもおぉぉ!と思うんだから、目の当たりにしたらさぞ、おぉぉぉ!!!!だったことだろう。

皆さん、読むときは、方角、位置関係をよく味わいつつ、おぉぉぉ!!!と感じ入ってください。(^_^)v

んで、とにかく金星は高いところにいる。しかし金星はそんなに高くは見えない。
だってほら、


←こうなんだから、軌道を離れてこれより上には行けないのだ。
内惑星は、東と西の低い位置にしか見えない。

一番高く見えるときは、最大離角といって、半シルマリルになるときだ。



赤が太陽。
青が地球で、水色の縁が地球の軌道。
黄色が金星の軌道内。

で、線を引っ張ると、青の線が最大離角。中央の太陽に向かう赤の線と一番離れる時だ。
線を引かずに金星の場所だけ見ると、緑の線のときが一番離れてるように錯覚するけど、青い線のときが一番角度が大きくなって、離れて見える。
地球から見て、一番太陽から離れるから、大まかに言えば、地平線上に一番高く見える。

そして、黄色の丸の縁を進む金星が光っているのは、太陽に向いてる黄色の丸の中。水色の側は暗くて見えない。
だから、地球から見ると、青の線の延長上、最大離角の時は、半月状態になる。半シルマリル。





一番離れて見えるときには、太陽からの線と地球からの線が直角になる。それで半シルマリル。

一番長い時間見える。


これだけ見ると、最大離角のときが一番高い。

ところが困ったことに、ことはそう単純ではない。シュミレーションしてみると、最大離角で直角になるときが一番高いわけでもない。え゛〜、なんでぇ?

これは、季節による。地球の地軸は傾いていて、斜めにくるくる自転しているから、空の太陽さんの通り道は時期によって低かったり高かったりする。
太陽が低いところを通っているときは、近くでウロウロしている金星も低くなる。太陽が高いと、金星もまた高くなる。

この図の矢印はどちらも同じ長さ。矢印のラインで太陽が沈むとすると、日没時、太陽から遠い左の金星より、太陽に近めになった右の金星の方が高く見える。

地球と金星が最大離角になるとき、地球の地軸が太陽に対してどういう向きになっているかは、春かもしれないし夏かもしれないから、そのときによる。だから同じ最大離角でも、その年によって、見え方は変わるのだ。
まー、直角になった頃、その前後が、金星さんは一番高めで、長い時間見えますよ、ってことだ。


最大離角のときは半シルマリルだった。

緑の線上のときは、もっとデブる。
地球から見えるのは、斜めの紫の線より地球側。
ちょっと欠けて、半分以上が見える。

半シルマリルのときより太陽に寄って見えるから、そんなに高くは見えず、見える時間も短い。



ってことで、ガラさまの指輪を照らしたエアレンディルは、ピンクの矢印の辺りにいたはずだ。
西の空で、一番高く見えるとき。
そして、半シルマリルくらいだったのだな。ううむ、感慨深いですねぇ。


あの日に、あの時に、西の空高くにエアレンディルさんがいたというのは、実はすごいことなのだ。なぜなら、そうそうしょっちゅうこういう位置関係になるわけではないから。

金星も地球も太陽の周りをぐるぐるしている。公転周期はそれぞれ違う。お互いバラバラなスピードで動いていて、同じ角度に見えるところにくることは、あんまりないのだ。

くるくるしてるうちにどこかでまた同じ角度になる。その周期を会合周期という。金星の会合周期は584日!ってことは、1年と219日!ってことは、約1年7ヶ月! 前後何週間かは大体同じ感じとしてもですよ、何だかんだいって、その時期を逃すと、1年半くらいは待たないと同じ状況にならないわけですよ。

地球も動いてるんだけど、地球を常に手前に固定して見たらどうなるかを眺めてみよう。
内側の円が金星の軌道。
実際は、地球を固定して空を見ると、金星を引き連れつつ太陽も動くから、空を見上げれば、金星はこんな風に等間隔に空を移動しなくて、かなりメチャクチャな動きをする。でも軌道を上から見ればこんな感じ。

太陽と並ぶ付近にいるときは見えなかったり見づらかったりする。見えるとき、この図で右側にいるとき、左側にいるときはそれぞれ8ヶ月くらいずつある。とりあえず8ヶ月くらいは西に見える。でも高めに見えるときは限られる。エアレンディルさんは出来るだけ高いとこにいて、ガラさまを照らさなきゃならないのだ。

裂け谷を出るのが遅かったとか、カラズラスで山小屋を見つけて(←ないない)しばらく避難してたとか、モリアでゆっくりし過ぎたとか、モリアを出てから迷子になったとかで、ロリアンに着くのが遅れていたら、金星はぐんぐん動いて地球に近づき、宵の明星はどんどん細く低くなる。

で、もたもたしてると、そのうち太陽の右側に行ってしまい、夕方でなくて夜明けに東に見えるようになり、西の森の上には見えず、ガラさまの指輪も照らせず、ノルドールの姫はワガママだから、「あらいやだ、すてきなシーンにならないじゃない?すてきな演出にならないと、わたくしイヤだわ。ねぇフロド、1年半待ちましょ。それまでゆっくりしてらっしゃいな」ってことになって、指輪の仲間はロリアンにずーーっと足止めになり、指輪戦争は一体どういう展開に・・・・

あのロリアンでのガラドリエルの鏡のシーンは、なかなか貴重なシチュエーションだったのだ。たまたまその時期だったとは、なんとすごいことだろう。

しかし、ロリアンにいたのは2月だった。冬じゃん。太陽は春に向かってだいぶ高めのコースを通るようになってるとはいえ、夏みたいな感じじゃない。
おまけに、水鏡があったのは、低い場所だった。下に降りていくんだもん。周りが高くなっている。金星は余程高くにいてくれないと見えない。ガラさまをビカー!と照らせない。

うーむ。やっぱり昇っちゃったのかなぁ。そういうことにしとくか。

シルマリルの物語にもエアレンディルさんはよく出てくる。エアレンディルさんがいないと話が成立しないほど。でも星としては、やっぱりそんなに出てこない。

シルマリルを額につけたエアレンディルは空を航行する。船の名前はヴィンギロト。これは別名ロシンジルという。ヌメノールではそう呼ばれた。人間たちは、ヌメノールに行くとき、光り輝くエアレンディルを目標に進み、海で迷子にならずに島に到着する。
ヌメノールは西にある。エアレンディルさんは西の空で、「ほれ、こっち、こっち」と、シルマリルが効果的に光って船からよく見えるよう、おでこの向きを変えつつ(?)、燈台代わりになってくれてたのだ。

で、シルマリルの物語の本のアカルラベース、ヌメノールの没落のところ、邦訳では433ページ、そのことが書いてあるのだが。しかし。おぉ。
But so bright was Rothinzil that even as morning Men could see it glimmering in the West, and in the cloudless night it shone alone, for no other star could stand beside it.

しかしロシンジルは、そのあまりの明るさのため、朝方であっても西に輝くのを見ることが出来た。雲のない夜に輝くのはロシンジルただひとつであった。その傍らに佇むことの出来る星など他にはなかったからである。
朝、西にいたんですか! トールキン先生!! 明けの明星ってのは東でしょーに。 いやきっと、あのヌメノール移住はアルダの一大イベントだったから、そんなことに構っちゃいられなかったのだな。ヌメノールに着くまでは、とにかく目印になって「はい、こっち、こっち」とピカピカしてないとならなかったのだ。朝だからって東に出てしまうと、船団はそれにつられてUターンして、ミドルアースに戻ってしまう。

それに当時は、ヌメノールが沈むずっと前で、世界は丸くなかった。ってことになっている。ヌメノール水没という天変地異のとき、世界はすっかり変わってしまったのだ。
だからその前は、金星の軌道だの地球の軌道だのは関係なかったわけで、朝に西の空にいても全然おっけーなのだな。

しかしそれ以降は、太陽の運行その他は今と同じはずで、だからガラさまを照らすエアレンディルさんがあんまり高いとこにいるのは・・・・ いや、あれも特別に高度を上げたんだろう。ああいうシーンはなかなかあることではないから、劇的演出をせねばならない。エアレンディルさんはケータイか何かを持っていて、はいそこで昇ってくださいって連絡を受け、親戚のおばさんのためにビカーー!!としたのだ。

エアレンディルは、ガラさまのいとこの子供の子供。ややこしいな。数えると、6親等かな。
それと同時に、エアレンディルは、ガラさまの娘のお舅さんになるのだ。あぁなんとややこしい。わからん。



ダンナや奥さんや兄弟姉妹まで全部書いてるとますますわかんなくなるから、必要最小限だけ並べてみた。

こうして見ると、エルダリオンの曾爺ちゃんが空でシルマリルをキラキラさせているのだ。

あー、みんな親戚なんだなぁ・・・というのがわかる。
エルダリオンは、お正月にはさぞかしたくさんお年玉が貰えることだろう。

エアレンディルも、普通ならガラおばさまからお年玉が貰えるような立場。でも空にいて降りてこれないから、年上の方々のお財布は助かっているのだ。

エルロスとアラゴルンは点々でつながってるけど、6000年以上昔のご先祖さまなので、血はだいぶ遠い。でもつながってることに変わりはない。

って感じで、エアレンディルとガラさまは結構近い親戚になる。だからやっぱり、エアレンディルさまとしては、ガラドリエルさまの見せ場には協力せねばならない。縁戚の円滑なる関係のためには、柔軟な対応が必要だ。理科の教科書通りに動いてはいられないのだ。ええい、構わん、昇ってしまえ!!ってことだな。きっと。うん。

さて、では西の森の上のエアレンディルさんでも眺めるか・・・と思って、ロリアンのあの日のシュミレーションを・・・じゃなくて、写真を撮りに行った。あれは2月14日。グレゴリオ暦に直せば2月4日。
2月4日の金星で、宵の明星で、BC6500年前後で、なるべく高い位置にくる年は・・・・おぉ、あったあった。6494年。もうちょっと高く見える年はないかな。と思っても、ないんだ、これが。大体同じで。6502年。同じ。6510年。同じ。

現在、2008年からの動きを見ると、こうなる。これは全部1月10日。なぜかというと、この図を作ったのが1月10日だったから。

こんな風に、キレイな八芒星を描く。毎年、同じ日を追っていくと、いつの時代でもこういう形になるのだ。

何年もロリアンでねばって観察すると、1、2、3、4、5、6、7、8、同じ。1、2、3、4、5、6、7、8、同じ。1、2、3、4、5、6、7、8、同じ。
8年ごとに同じ感じになる。同じ感じっていうか、同じ。まぁ、長い年月のうちには少しずつずれてはいくけどね。8年サイクルが5回くらい重なると少しずれてくる。

1年毎に8年で八芒星になる。見える角度は毎年違う。毎年違うけれど、8種類しかない。朝か、夕方か、ほとんど見えないかのバリエーションの中での8種類だから、西の空でもうちょっと高くとか、もうちょっと低くっていうように細かくいろいろは選べない。
BC6500年前後の2月4日、いや、いつの時代の2月4日でも、宵の明星で高めの位置にくるのは8年毎のサイクルのうち、1回しかない。

じゃあ、次は8年で五芒星の話。