地図

地図で間違いがある、というのは、どういうことか。

まず、トールキンの描写や、指輪本についているオリジナルの地図と相違がある、ということだ。要するに描き方がおかしいってやつ。
オリジナルの地図があるのになぜ間違えるのかというと、それはあまりにミドルアースが広すぎて、描いてるうちにわかんなくなるんだろう。

次は、訳したときに間違えた、という点だ。訳語がおかしい。
邦訳での地名などは、評論社の瀬田訳が基本となっているから、瀬田訳で出てきたものは、訳語がちょっとおかしいものも、そのまんまになっている。それはそれで構わない。ある程度は仕方ない。でも絶対間違いなのがわかってるものは、直してほしかったな。ニンダルヴが白鳥沢とかさ。あれは見る度に気になる。でも出版社が同じだと、同じにしなきゃならないという事情もあるだろうから、仕方ないのかもしれない。しかしちょっと発音を変えてあるのもあったりして、だから瀬田訳と同じにという強制はなかったのかな・・・・とか思うけど。まぁいいや。人間の世界はいろいろあるんだろう。鷲でよかったな。

で、地名を変な風に訳すとどうなるかというと、なんか風景が違って見える。第一、迷子になったら困るではないか。地図というのは山歩きでは生命線になるのだぞ。ミドルアースではケータイもなければナビもなければGPSもない。頼りは地図だけだというのに、遭難者が出たらどうするのだ。それでまた、救助隊も同じ地図を使ったら二次災害が起きるではないか。

邦訳が出ている地図は、「歴史地図」と「フロドの旅」の2種類。下で散々文句は言ってますが、日本語で読めるのはやはりありがたい。しかしやっぱり気になるところはある。
でも国内では日本語の方がいいわけで、邦訳が出たというのは素晴らしいことだ。これも映画のおかげだね。

間違い、変なとこは、まだまだ他にもあるかもしれません。あるでしょう。ぜったい。
以下はグワイヒアが気がついたところです。

それぞれの項にページ数があるのは、
中つ国歴史地図 (評論社)
ATME 歴史地図の原書、The Atlas of Tolkien's Middle-earth
フロドの旅 (評論社)
JoF フロドの旅の原書、Journeys of Frodo
ということです。
Journeys of Frodo は、ページ数が振ってなくて、何番目の地図、ってことになってます。

訳語がおかしいものについては、他のコーナーでいろいろ書いてあるので、ここではいちいち取り上げてません。あくまで、地図に出てくるものでの気になる部分です。


◆ 逸れる ◆ [ フ ] p.11、109
グワイヒアが喋ると、どんどん話が逸れて長くなり、いつ終わるのかわからなくなる。ってのは、このサイトにちょくちょく遊びに来る人ならよく知ってるだろう。

で、逸れちゃうとですね、どっか違うとこに行っちゃって、迷子になるわけですよ。

フロドの旅に逸れ村、ってのが出てくる。
村が逸れちゃうのか? それともここの住民は迷子になりやすいのか?
これはたぶん、オランダ語のdwalingは誤解とか、脱線ってことで、脱線だから逸れ村になったのかもしれない。

これは、共通語のところに入れようかと思ったんだけど、和書では地図にしか出てこないので、こちらにしました。

Dwalingは、指輪の原書の地図には載ってる。原書持ってる人は見てね。初めの方にあるシャイアの地図の上の方ギリギリのとこにDwaling って書いてある。ペーパーバックだと、もうなんだか、字がちっちゃすぎて読めないくらい。
で、あんまりギリギリ上にあったもんだから、評論社の指輪物語では、ちょん切られてしまったらしく、載ってない。評論社さん、載せてあげてください。他の村は書いてあるのに、これだけ消しちゃ可哀相です。

で、瀬田訳本にないから、フロドの旅では独自の訳になっている。歴史地図では「ドワリング」。わかんないときは下手にいじらず、そのまんまにするのが安全というものだ。

これは気になって、古英語の辞書など見ると、

dwael
dwel
dull, foolish, stupid
とんま
dwel
dwol
dwola
error, heresy
dwale
間違い、異端、
ベラドンナ

・・・とある。
ベラドンナって何だ?と調べると、お花。 きれい。ほら。←変な絵も出てくるけど。
だからドイツ版指輪ではそのベラドンナの独語名になっているそうだ。


リーダーズ・コンパニオンには、Dwaling とは、Dwale ってニックネームのホビットが住んでたところ、ってことですよと書いてある。たんじゅん。わかりやすい。
トールキンがそう書いているものがあるらしい。
dull って呼ばれてたホビットがいたところ、そしてその子孫のいるところ。

訳せば、とんま村。 漢字にするか。 頓馬村。 うん、いいかも。

それとも、鈍村、かな。どんむら。

フロドの旅は、リーダーズ・コンパニオンが出る前の出版だったので、この部分がちょっと違うのは仕方ない。


◆ 深くないんです〜 ◆ [ フ p.53]  [JoF 22番目]  [歴 p.99]  [ATME p.85]

これは本によって見事にバラバラ。 とても同じ地名とは思えない。

アンドゥインの途中にある Undeep。 知ってる? 北と南と2ヶ所あるんだよ。

数ある和書の中で、このUndeepは、ちゃんとしてたり、何だかよくわからなくなってたりする。
ちょっと調べればすぐわかることなんだから調べてほしいな。自分の勝手な解釈でてきとーに造語してはいけない。

あー、いいなぁ♪って思うのは、ミドルアース言語ガイド。これはすごい。賞賛に値する。地図の本ではないんだけど、訳が花マルだったから取り上げてみよう。

この本は、RPGの解説書で、ゲームをする上ではエルフ語の解説はそんなに必要でもないんだろうに、ここまで徹底した本が出回るというのもすごい。

これは原書もすごいけど、訳書もすごい。余程のトールキンマニアで、それもいい加減な奴ではなく、きちっと、ちゃんと仕事の出来る方がやっているのがわかる。Translaionは、Yasuhiro Satoh とある。拍手!
これを訳すのは相当大変な作業だったはずだ。それも昔のことで、今みたいにちょいちょいと調べられる解説書なんかなかったから、原書できちんと理解して、調べ物がちゃんと出来る人であるのがわかる。
要するに、ズレてないの。合ってるけどなんか違うよなぁ・・・って感じがない。そうそう!そうだよね!っていちいち嬉しくなる。

原書は持ってて、買う前は、所詮ゲーム本だろ、と半分バカにしてたんだけど、これがどっこい、なかなか詳しく、便利で驚いた。訳書は買ったのはずいぶん後だった。散々探し回って新品見つけたの。へへ。在庫って、あるとこにはあるんだな。ゲーム本なら訳もてきとーだろうと思ったら、これまたどっこい、ちゃんとした本になってた。鷲はRPGはしないから、そういう世界はよくわからないんだけど、ミドルアースのファンというのはどういう分野にいてもなかなか奥が深い。
ゲームの副読本(?)なわけだから、原作追求にはこれだけでは足りないとはいえ、これはこれでかなりきちんとした解説書になっているし、何がどこに書いてあるか調べるのにも便利。よくまぁこれだけの量をまとめたものだ。
皆さん、見つけたら、買い!ですよ。訳書の表紙の絵は「?」ではありますが。

で、ミドルアース言語ガイドでは、Undeep の訳は「浅場」になっている。どんぴしゃり☆ その通り♪ 訳語もいいと思う。雰囲気が出る。
この本は、原書の説明がちゃんとしているからというのもあるのだけれど、訳語のセンスがどれも素晴らしい。


UTの訳書、河出書房の終わらざりし物語では、「浅地」になっている。でも川のことを「地」とは言わないなぁ。UTにはちゃんとUndeepの説明が詳しく載ってるのにな。
ミドルアース言語ガイドの原書の説明は短いけど、訳語はズレていない。UTには詳しく載ってるというのに、浅地になっちゃったのはもったいないな。


歴史地図では、「北の低地」「南の低地」。 undeep がどうして低地になったのかは不明。わからない。
ところが、索引では、「北の浅地」「南の浅地」になってる。こりゃどういうことかいな・・・
訳者さんが浅地としたのを、地図に文字を入れたのは別の人で、浅を低と間違えたのだろうか。それで校訂作業で引っかからずにスルーだったのかな。

どっちにしても違うけどね。浅地は合ってそうだけど、違うな。地じゃないからさ。川のこと言ってんだからね。低地なら意味はわかるけど違う。浅地じゃ意味がわからない。


一番問題なのはフロドの旅。 「北の湿原」「南の湿原」になっている。こらこら。
それも、書いてある場所からして、川の東側が湿原になってるらしい。
undeep で、un は否定の接頭辞で、それがdeep についてるから、deep じゃない、深くない、ってことで、深くないんなら、水がびしゃびしゃしてる程度の湿原でしょう・・・という発想なのかもしれない。たぶん。

しかし、ロリアン出立後の本文の描写を読んだ人ならば、あの辺が湿原でないのは知ってるはずなのだ。進行方向の左側、つまり東側は荒れた土地で、湿原なぞない。水気があるのか、ないのかというと、ない。乾いた土地だ。舟の上から眺める景色は、とにかく東側は寂しく、植物もなく、なーんにもなく、だからBrown Landと呼ばれる。
読んだ人なら頭の中に自分なりに風景があって、間違いようがない。分かってないのに勝手に解釈するとこういうことになる。
河の右岸は、葦原があったりして、左側とは景色が違う。ごっちゃにしてはいけない。
フロドの旅を持ってる人、そこは湿原じゃありませんので、書き直しといてください。

要するに、川のことじゃなくて、陸地のことと思ったんだろう。でもこれは川のことなのだというのは、ちゃんと本に書いてある。

Undeepがどんな場所なのかは、UTに出てくる。アンドゥインのこの辺は、浅いところが多くて、渡りやすい場所で、浮き台や筏が装備された軍ならば、うりゃぁーー!と渡ることが出来、特に西へ大きく曲がっている2ヶ所がそうで、それでそこを the North and South Undeeps と呼んだのですよ、と。

浅場は2ヶ所。北のと南のと。2ヶ所あるっていうのがまたいいな。地図上でも河の曲がり具合が芸術的になる。

アンドゥインは大河だから、そうそう簡単には渡れない。軍が大挙して渡るとなると、大工事をして橋でも架けねばならないけれど、なかなかそうもいかない。第一、うっかり橋なんか造ったら、どうぞここから攻め込んでくださいと敵にお願いしてるようなものだし。
Undeepの2ヶ所では、そんなにムチャクチャ深くはないから、ちょっとしたはしけ、船橋があれば軍でも渡れたのだ、ってこと。もし落っこちても底に足が届く程度だったのかもしれない。うわうわうわと流されても浅いところで引っかかるとか。アンドゥインの北の方では、ここら辺しか渡る場所がなかったのだ。深くて流れが速いところじゃ危なくて、軍が渡るのは無理だから。

2ヶ所のUndeepのうち、北を使うか、南を使うか、それはその時の戦況にも拠るだろうし、水量の加減にも拠るだろう。浅くても、あの辺とあの辺は急に深くなるから気をつけろというのもあったろう。でもまたそういうのは、大水の後には川底の状況が変わるし、長年の経験と情報の蓄積が物を言う。

北浅場。南浅場。 あー、なんかいいな。こういう場所があるだけで、トールキンはいいな、と思う。

一番古くて、一見、一番アヤシそうな本が、唯一マトモなことになっている。


◆ 西の谷 ◆  [歴 p.102、103]  [ATME p.88、89]
これは、原書がおかしい。だから訳書もそのままになる。

Westfoldは谷じゃない。でも線で谷間を指している。ここですよ〜、って。

Eastfoldの方には矢印らしきものはないけれど、山の際ギリギリに書いてあるから谷のつもりなのかもしれない。

この訳の問題はローハン語のところにしつこく書いたのですが、地図に線が引いてあるので、こちらにも入れました。

◆ グランドゥイン ◆ [フ p. 9、107]  [JoF 初め(1の前)、49番目]
グランドゥインとは、川の名前。
ここは言葉がどうこうじゃなくて、場所が違う。原書が違う。あれえ?
Journeys of Frodoがおかしくなってるから、その訳書フロドの旅もそのままだ。

この川は、大河であるグワスローの上流下流の名前の分かれ目を作るという意味でも重要で、グランドゥイン自身でも下流では名前が変わり、そういう名前を見ているだけで光景が眼前に広がる、という素晴らしいところなのだ。話の中にはそんなに出てこないのに、この川周辺の景色は名前だけで分かるようになっている。トールキンはすごい。

で、それがさ、その場所が、てきとーになってるわけ。

グワスロ川に合流する地点の書き方はこれでいいけど、源流のところが違う。

グランドゥインは緯度的にはロリアンと同じくらいのはずなのだ。それがずいぶん下にある。

1番の地図の前に載ってる地図、つまりこの本の最初の地図、広域図には、原書もちゃんとグランドゥインの文字がある。でもなんかおかしい。

もう1ヶ所、原書の49番目の地図には、グランドゥインは線で書き込まれてはいるけれど、名前は書いてない。
フロドの旅、107ページの真ん中辺、8月28日って字のところ、ちーっちゃく「白鳥川、グランドゥイン」って書いてある線は、それはグランドゥインではなく、その上の9月13日って字のところの線がグランドゥイン。・・・のはずだ。緯度的には。 だって、グランドゥインはファンゴルンの西側ではないから。

グランドゥインは、霧ふり山脈を挟んでロリエンの反対側にある。
指輪についてる地図では、その源は、ニムロデルより北になっている。
Journeys of Frodo では、グランドゥインはかなり南にあって、その北ではミスエイセルに西から東から別の川が合流している。でもそういうのはオリジナルの地図にはないのさ。

まぁそりゃね、ひろーいミドルアースだから、ちっちゃな川はちょこちょことあるんだろうけどさ。
でも主な、長い、ある程度の大きさで、広域図に書き込むような川で、ミスエイセルに流れ込むのは、まずブルイネン、次はグランドゥイン。グランドゥインの下流域はニーン=イン=エイルフと呼ぶけど、まぁグランドゥイン。
そしてその先は、ミスエイセルではなく、名前が変わってグワスローと言う。

Journeys of Frodo では、グランドゥインより、その北の2本の方が大きく見える。そんな立派なやつに名前がないのはおかしいしね。
オリジナルにないのを描き込んだために、位置関係がずれたんだな。

UTには、一番初めの地図ではグランドゥインの名はなかった、とある。ポーリン・ベインズの地図作成の時、トールキンが追加するように言って、書き加えられ、でも場所がおかしくなっていた、って。

でも、今見れるベインズの地図は、今のグランドゥインの場所そのまんまで、ちゃんとサルバドの北でグワスロに合流するようになっている。この地図はいいね☆ 大好きだ。ここの画像はクリックすると大きいのになるから、どうぞ印刷して部屋に貼ってください。

グランドゥイン、ニーン=イン=エイルフ、グワスローの名前については、エルフ語の地名のところをどうぞ。

ここら辺の名称は、関連書を見ていると、どうもちゃんとわかってないような感がある。
グランドゥイン=白鳥川となっているようなのが多い。でもイコールとは違うな。グランドゥインの下流域がニーン=イン=エイルフで、そこを共通語ではSwanfleetと言う。
ニーン=イン=エイルフは、グランドゥインの下流じゃなくて下流域。ま、下流なのは確かだけれど、「域」って言いたいのは、湿地帯が広がっているからだ。

つまり、しつこいですが、グランドゥインは下流では湿原になる。そこ一帯をニーン=イン=エイルフという。白鳥たちの水辺という意味になる。湿地帯、水郷だ。

白鳥川の名前については、また別の項に書こう。


◆ 銀筋山? ◆ [歴 p. 95]
えーと、銀筋山ってのは、ないはずです。あはは。いや、笑っちゃいけないけどさ。でもこれを間違えたのはわからなくもない。すぐそばに銀筋川があるから。(^^;;) こういうおっちょこちょいなことは誰でもやるし。

歴史地図の95ページ、銀枝山が銀筋山になってる。
他の図や、本文中ではちゃんと銀枝山になってるから、わかってなかったんじゃなくて、うっかりミスなんだろう。持ってる人は、直しておこう。
やっぱりこの本は、地図中の文字を入れた人は訳者さんじゃなくて、別のスタッフなのかもしれないな。

これはまぁ、笑い話で済む部類。







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