薄暗い室内。

ダイスケは、椅子に座ってゲームをしている。

「あっ、くそっ、負けたっ」

ボ〜ン、という音とともに、画面に『GAME OVER』の文字が表示される。

「またここですか? 進歩しませんね〜、いくらタダとは言っても、もうちょっと進歩して欲しいものですね」

ダイスケの後ろから、男が画面を覗き込んで言った。

「う、うるさいっ、大体このゲーム難しすぎるんだよっ」

「そうですか? そんなに難しくないと思いますが・・・・・・」

背が高く、メガネをかけた彼は、知的なその表情を崩さず、首をかしげた。



モモとゲームとダイスケと


モモは、買い物にきていた。

今日の夕飯はハンバーグ。

「お肉は買った、たまねぎも買った・・・・・・・ん〜と、次は・・・・」

モモは商店街をとことこと歩いている。

右手には買い物袋、左手には買い物リストのメモを持っている。

「ん〜と、ん〜と、次は・・・・・・・・」

と、その時、モモを呼ぶ声がする。

「お〜い」

しかしモモの耳には届いていなかった。

「お〜・・・・・あぁっ、もうっ」

その呼ぶ声の主は、意味無いと悟ったのか、モモのところにやってきた。

「おいっ」

ダイスケがモモに声をかける。

「きゃぁっ」

突然声をかけられ、モモは小さな悲鳴を上げる。

「おっす、夕飯の買い物か?」

ダイスケはモモの両手の荷物を見て言う。

「だ、ダイスケ君・・・うん、今日のご飯ハンバーグだから・・・・」

ハンバーグと聞いて、ダイスケは。

「ハンバーグかぁ・・・・・いいなぁ、俺んちは多分今日はピーマンの肉詰めだぜ」

「ぴ、ピーマン嫌いなんですか?」

「あったりまえだろ、あの苦くて緑でつやつやしてるもの、好きな奴いね〜っての」

「そ、そうなんですか・・・・・・」

「うん・・・っと、そうだ、今ちょっと時間ある?」

「え・・・・?は、はい、ちょっとだけなら」

「だったらさ、ちょっと寄っていかない?ゲーセン」

クイクイ、とダイスケはゲームセンターを指差して言う。

「え・・・・ゲーム?」

モモは電子機器が苦手。

「あ、あの・・・・モモはゲームとか電子機器は・・・・・」

しかし、ダイスケはモモの言葉を無視する。

「さ〜て、いこいこ〜」

ダイスケはモモの腕を引っ張ってゲームセンター内に連れて行く。

「うぅ〜」





「さ、騒がしいですね」

と、モモは言うが、ゲームの音にかき消されて、ダイスケにはよく聞こえなかった。

「あ?なんだって?」

ダイスケが聞き返すと、さっきより少し大きな声で

「ゲームセンターの中って、いつもこんな感じなんですか?」

と、モモが言う。

「あぁ、いつもこんな感じだ。な〜に、慣れりゃたいしたことないさ」

ダイスケはモモの腕を引っ張って、店の中を進んでいく。

と、クレーンゲームにモモの目が止まる。

「あ・・・」

「ん?どうした?」

「な、なんでもないです」

「なんだよはっきり言えよ、どうしたんだ?」

「あ・・・あれ・・・・・」

と、モモはクレーンゲームを指差す。

そのクレーンゲームの中には、動物のぬいぐるみがたくさん入っていた

イヌ、ネコ、サル、キンギョ、ウサギ、ネズミ・・・・・・

モモはそのぬいぐるみの山のてっぺんにある、サルの人形を指差した。

「なんだ?あれが欲しいのか?」

ダイスケが問うと、モモは無言でうなずく。

「ふ〜ん・・・・・・よっしゃ、俺が一肌脱いでやる」

「え・・・・?」

「お〜い、あんちゃ〜ん、ちょっと来て〜」

ダイスケが大声で呼ぶと、しばらくの後、男が出てくる。

「なに?またなにか?」

「ん〜、ちょっとよろしく〜」

ダイスケがクレーンゲームの台を指して言う。

「はぁ・・・・・クレーンゲーム?君これできないでしょ・・・・とと、ダイスケ君の彼女ですか?」

その男は、モモをみて一言目がそれであった。

違うわっ

ダイスケは力いっぱい否定する。

「なんだ違うのですか、からかうネタができたと思ったのですが・・・・・・』

といいながら男は、クレーンゲームのフタを開き、中の機械をいじる。

「これでよしっ。どうぞ」

彼はクレーンゲームをお金を入れなくてもできるように設定した。

「よ〜し、待ってろよ〜、俺が取ってやるからな〜」

といってダイスケはサルのぬいぐるみを取ろうと挑戦する。

一回目

『ボトッ』

二回目

『ポトッ』

三回目

『ポロッ』

一向にダイスケはサルのぬいぐるみを取ることができなかった。

「あ、あの、もう良いです・・・・」

と、モモが言おうとしたとき。

「ダイスケ君、ちょっと貸してください」

男がそう言うとダイスケをどかせる。

そして、レバーとボタンを巧みに操り。

――ウィ〜ン、ガシャンッ、ポロッ

一発で取った。

「君、進歩しませんねぇ』

男がダイスケに言い放つ。

そして、取ったぬいぐるみをモモに渡す。

そのぬいぐるみを受け取ると、モモは嬉しそうに微笑んだ。

「う、うるさい、次は取れたかもしんね〜だろっ」

ダイスケが男に言うと、彼は首を振って言った

「無理です、無理、君には無理。と、もう呼ばないでくださいよ、これあげますから」

といって男はダイスケに一枚のカードを渡す。

「なんだこれ?」

ダイスケはカードを手でもてあそびながらためつすがめつする。

「この店のゲームがすべてタダになる夢のようなフリーパス。ただし今日のみ、要らないのなら返してもらいますよ」

「何言ってやがる、これは俺のもんだ」

男がダイスケの持ってるカードに手を伸ばそうとすると、ダイスケが取られまいと体をねじった。

ため息を1つだけし、男は言った。

「君だけしてはダメですよ、彼女にもさせてあげなさいよ』

だから彼女じゃねぇっつのっ






かくして、ダイスケとモモは無料フリーパスを手に入れた。

ダイスケが言う。

「さてと、あんちゃんに良いもの貰ったことだし、まずは何をするか」

「あの・・・あんちゃん・・って?」

「あぁ、従兄弟のあんちゃん。一応この店の店長、本人もゲーム作ったりするらしい、結構ヒットしてるらしいけど、タイトル教えてくんね〜んだ」

「そ、そうなんですか・・・・」




「さてと、ゲームっつったらまずはこれだろ」

といってダイスケはレーシングゲームの前に立つ。

「二人プレイできるからやろうぜ、おまえはそっち座れよ」

横に並べてあるレーシングゲーム機。

右の赤い機がダイスケ、左の機がモモ。

「あ、あの・・・モモは、電子機器は」

「別に感電するわけでもね〜から心配すんなって、ほらっ」

ダイスケはモモにハンドルを握らせる。

そして、カードをお金を入れるところのくぼみに差し込む。

ピー、という音がして、コインを入れたときと同じ画面になる。

「うわ・・・ほんとに使えたよ、ラッキ〜」

半信半疑だったようだ。

ダイスケは自分の機にもカードを差し込み、起動させる

「まずはマシンを選択だ、適当に自分の気に入ったものを選べ」

「あ、あの、どうやって選ぶんですか?」

「ハンドルを回せば動くよ、やってみ」

といわれて、モモはハンドルを回す。

すると、ガシャンッ、というゲーム音と一緒に、画面の車が移動する

「・・・・・楽しい・・・・」

「ん?なんか言ったか?」

「う、ううん、なんでもない」

「?そうか?車選んだか、んじゃコースだな、どこが良い?」

「一番短いところが良いです」

「一番短い、か、これだな」

といってダイスケはコース選択をする。

そして、ゲームスタート画面。

「ランプが赤から青になったら、足元になんかあるからそれを踏め、進んだらそれがアクセルだ、進まなかったらブレーキだ」

「は、はい」

至極当たり前で簡潔にダイスケが言うので、少しモモは戸惑う。


ピッ、ピッ、ピ〜ン

ランプが青に変わると、モモは足元のペダルを思いっきり踏み込んだ。

「!!えいっ」

なぜかモモのマシンはバックした。

ダイスケは目を丸くして言った。

「・・・・・・・・なんでバックするんだ?」

「・・・・わ、わかんないです」





結果は、ダイスケが三位。

モモはドンケツの八位だった。

「ま、まぁ、初めてはこんなもんだろ、次行くぞ

意気消沈しているモモを励まそうと、ダイスケはそう言うと二人は場所を移動する。






「レーシングの次はシューティングだろ」

シューティングゲーム機の前にダイスケは立つ。

「これもさっきみたいに機体を選べ、これも自分が好きな奴で良いから」

ダイスケは青、モモはピンクの機体を選んだ。

キュンキュンキュン、ピュンピュンピュン、二人ともいい調子で敵を撃墜していく。

と、その時、ボスが出てきた。

「よ〜し、ボスだぞ〜、結構強いんだぜ〜」

ボスがホーミングレーザーを撃って。

「モモっ、避けて弾を打ち込め!』

「は、はいっ」

ひゅんひゅん・・・・ピュンピュンピュン

ボ〜ン

モモの機体の撃った弾が敵を撃墜する

「やったぁっ」

モモは思わず大声を出して喜ぶ。

「よし、次のステージだ、だんだん難しくなるからな〜」

「はいっ♪」

電子機器が苦手といいながらモモは楽しそうにゲームをしている。

結果、最終ボスのところまで行ったものの、やられてしまった。

「あ〜ぁ、惜しかったな〜、あのボムさえ決まってれば・・・・」

「あ、あの、ごめんなさい、モモが足をひっぱってしまったせいで」

モモがダイスケに謝る、しかしダイスケは。

「な〜に、初めてであれだけできれば良いもんさ、次行くぞ、次」

ぽんぽんと、モモの頭を叩きながら、ダイスケはそう言った。






「今度は音ゲーだな」

音ゲー、通称音楽ゲーム

そのエリアの前に二人は立つ。

「あ、あの・・・音ゲーって・・・・?」

モモがそう聞くと。

「音楽に合わせてボタンとか押すゲームだ、ボタンじゃなくて専用コントローラーがあったりするけどな」

二人はDDSの前に立つ

「やっぱり代表はこのダンスダンススペシャリストだな」

「あ、あの・・・これはどうやって遊ぶんですか・・・・?」

「ん〜、説明するより見たほうが早いかな」

といってダイスケはDDSにカードを差し込み、起動させる。

「こうやって、自分が好きな曲を選んで、矢印の通りに足元のボタンを踏んでいくんだ」

といってダイスケは一番難しいタイプのを選んでやってみせる。

終った瞬間、モモが拍手する。

「すごいです、まるで踊っているみたいでした〜」

「だろ、さらにこのゲームがすごいところは、家から音楽CDを持ってきて、差し込めばその歌にあったモードができるんだ』」

といってダイスケはポケットから1枚のCDを取り出して、差し込む。

数秒後、音楽が流れる。

『しっ○〜のある天使たち〜、全員集合○○人』

ダイスケはそれも見事に踊ってみせる。

再びモモの歓声と拍手が上がる。

ダイスケは少し照れくさそうにしている。

とりあえず、これはモモにはできなさそうなので、二人は次に進んだ。




「さて、最後の締めくくりは格ゲーだよな」

といって二人は格闘ゲームコーナーに立っている。

「あの・・・格ゲーって?」

「自分が選んだキャラを操作して戦うゲームだ、面白いぜ」

そして、ダイスケは男キャラ、モモは女キャラを選ぶ。

戦闘開始

「ふっふっふ、俺はこのゲームは何度もやってるから強いぜ」

ダイスケが不敵に笑う、モモは苦笑しながら言う。

「あ、あの、お手柔らかに・・・・・・」

バシッ、ビシバシバシッ、ドゴッ

超必殺技

キィ〜〜〜ン・・・・・ド〜ン

YOU WIN

「やったぁ〜〜っ、勝ちました〜」

「がぁ〜〜〜っ、超必殺〜?なんでそんなもん出せるんだよ〜、俺でさえろくに出せないっつ〜のに」

「えへへ〜、わ〜い」

モモは満面の笑みを浮かべている。

「ち、ちくしょうっ、もう一回だっ。

モモの笑顔に顔を赤らめながら再び戦闘開始

バシッ、ビシビシッ、バシッ、ドコドコドコッ、バキッ

超必殺技、再び

ドシュドシュドシュ、ズシャシャシャシャ・・・・・・ドォ〜ン

「わ〜〜い♪」

「ちくしょぉ〜〜〜っ」

ダイスケはゲーム台に突っ伏して悔しがる。

と、その時、モモの背後から声がする。

「おぉ〜、よえ〜よえ〜」

モモが後ろを振り向くと、後ろに見るからに『人生後ろ向きでバックダッシュ中です』が当てはまるような格好をした男が三人立っていた。

「あ・・・あの・・・・」

モモは怯えた声を出す。

人生後ろ向きでバックダッシュ3人衆がニヤニヤと笑う。

「お嬢ちゃん強いね〜、こんなザコと一緒に遊ばないで俺たちと遊ばない?」

「そうそう、こんなヘタクソなんかとさ、俺たちと遊ぼうよ〜」

「あ、あの・・・・・・ダイスケ君はヘタクソじゃないです」

モモがそう言うと。

「へぇ〜? 君たち彼女とかそんな関係? ヒュゥ〜、ませやがって、何?どこまで行ったわけ? A?B?ひょっと最後までとか?ひゃはは」

「あ、あの、モモたちはそう言う関係じゃ・・・・・・」

モモには男が言ってる言葉はほとんど理解できなかったが、良い感じではないようだ。

突然、ダイスケが立ち上がって叫ぶ。

「さっきから聞いてりゃ好き勝手言いやがって。モモ、相手することは無いぜ、こっち来い」

ダイスケがモモを庇うようにして立つ。

「へぇ〜、姫を守るナイトってか?カッコイイね〜」

男たちはゲラゲラと笑う。

「うるせぇ、ゲラゲラ笑いやがって、このサイケのダサダサロリータ野郎っ」

「な、なんだとっ」

「俺が弱いだと? だったらもっと弱いだろ、お前は。このゲームの最強はモモだぜっ」

ダイスケが自身満々でそう言う。

「こ、このクソガキ・・・・・じゃぁ勝負してみるか?言っとくが、俺はこのゲームに何千円も、何万円もかけて極めた男だぜ」

「つーか、それってタダの馬鹿じゃね〜の?」

ダイスケは核心をつく。

核心を突かれ、と言うより真実を突かれ、と言うより事実を突かれ、男が逆ギレする。

「ん・・・だと〜? 俺が勝ったらそんな口叩けないようにしてやるぜっ」

「ついでにその娘も貰っちゃうよ〜ん」

他の男が言う。

「なっ!」

ダイスケは言葉を失う。

「大丈夫です、ダイスケ君は負けません、モモが応援します」

「モモ・・・・よっしゃぁっ、じゃぁやってやろうじゃねぇか」

モモの応援を得たダイスケは、気合十倍で挑戦を受けた。

かくして、人生後ろ向きバックダッシュ衆リーダーと漢ダイスケの格闘ゲームバトルが始まった



ダイスケ操るリョウ。

ヤンキー操るコウガ。

二人は対峙し、ゲームが開始する。

開始と同時に、コウガの蹴りがリョウに当たる。

不意打ちにリョウは吹っ飛ぶ。

が、即座に起き上がり、飛び蹴りをコウガに当てる。

コウガは吹っ飛び、倒れる、しかし即座に起き上がり、両の手から気のような物を放つ。

気牙砲、コウガの得意とする技の一つ。

その気牙砲を、ダイスケ操るリョウの、涼双破で相殺する。

コウガはジャンプし、空中技、

空牙砲を、リョウに向けて連発する。

空中からの攻撃なので、リョウは避け、コウガの真下に移動する。

昇涼破残

リョウが真上に拳を突く、すると拳から生じる衝撃波がコウガにあたり、コウガは吹っ飛ぶ。

その時、コウガのエネルギーメーターがMAXになった。

エネルギーメーター、それは、技を繰り出したり、技を受けたりするとたまるメーターで、

より強い威力の技を繰り出したり、超必殺技と呼ばれる、最強の技を繰り出すことができるのだ。

男がニヤリと笑う。

「ふっふっふ、エネルギ−が溜まったぜ、まぁここまで痛めつけられたのは賞賛するが、ここまでだな」

といって男は、瞬時にコマンドを入力する。

コマンドを入力すると、画面上のコウガから白い湯気のようなものが立ち上り。

竜の形をしたものがリョウに襲い掛かった。

超怒竜牙砲

コウガの持つ超必殺技の一つであった。

「ふっ、これを食らったら体力は残らない」

超怒竜牙砲がリョウに直撃する。

リョウの体力がみるみる減っていく。

ところが、もう少しでゼロ、というところで体力の減少が止まる。

「なにっ!?残った?」

「あぶねぇ〜、でも、今の攻撃でこっちもゲージが溜まったぞ」

リョウの超必殺技が炸裂する。

烈翔

破斬昇翔鏡叶破

リョウの超必殺技2連発が、コウガに命中し、コウガの体力が0になる。

YOU WIN

「うっしゃぁっ!」

「やったぁ〜」

モモも自分のことのように喜ぶ。

「ち、ちくしょう・・・この俺が負けるなんて・・・・・・おいっ、お前等』

人生後ろ向き(略)リーダーがそう言うと、残りの二人がモモとダイスケを囲む。

「な、なんだよ、俺が勝ったんだからもう関係無いだろ」

ダイスケはモモを自分の後ろに庇い、男たちを睨んでそう言う

「あれ?そういうこといったかなぁ?」

男がとぼける。

「き、きたねぇぞ!」

「きたないも何も、僕たちそんなこと言った覚えがガ・・・・・・ガァッ」

男の発言は途中でさえぎられた。

「困りますよお客さん、小さい子供に絡むなんて、それでも大の男ですか?」

「あんちゃん・・・・・」

ダイスケの従兄弟、彼が男の腕をつかんで、背中にひねり上げている。

「困るんですよね〜、私の店の中でそんなことされると、お客さんが入りずらくなるでしょう?」

彼は顔に笑みを浮かべてそう言っている。

しかし、口元は笑っているが、目が全然笑っていない。

「あぁっ、んだとコラっ、邪魔するんじゃ・・・・ギァッ」

殴りかかってきた他の男の腕を開いた手でつかみ、さらに捻り上げる。

彼は、その状態のまま店の外に出て、放り捨てる。

「お引取りお願いいたします」

感情も何もこもっていない、冷たい口調で彼は言った。

「ちぃっ、もうこねえよ!」 

男たちは逃げるようにして店内から逃げていく。

「ふぅ〜、さんきゅ〜、あんちゃん」

安堵したようにふ〜、と息を吐いてダイスケが言う。

「最近ああ言う輩が多くて困りますね。掃除してると思ったのですが、さすがにこぼれているみたいですね・・・・・・・」

溜め息をこぼしながら彼は呟いた。

「あ・・・あの・・・・・・・」

モモがもじもじとしながら何かを言いたそうにしている。

その様子にダイスケが気付いた。

「ん?どうした?モモ」

「そろそろ帰らなきゃ・・・・・・・みんなが心配しちゃう」

モモが言うと、時計を見る。

「あ、そうですね・・・・・・もう六時近いですね。ダイスケ、送っていきなさい」

彼の言葉にダイスケが不平の言葉を言う。

「え〜〜〜?なんで俺が〜?」

「ダ・イ・ス・ケ・ク・ン」

底冷えするような、かつ甘くとろけるような、かつ絶対零度より低い声で彼は言った。

ビックゥッ。

ダイスケの全身に鳥肌が立つ。

ちなみにその鳥肌の原因が喋り方だけではないことは明白である。

「送っていきなさい」

「はい」

彼の軽い殺気の入った発言に、ダイスケすぐ返事をした。





「ふぅ〜、今日はなんだか疲れたな〜、どうだ?面白かったか?」

「はいっ♪」

モモは笑顔を浮かべてそう言う。

「お、おう、そうか・・・・・・んじゃまた来いな、あんちゃんも『またつれて来い』って言ってたから」

「はいっ♪」

モモは再び満面の笑みを混ぜてダイスケに向ける。

無垢な微笑み。

ダイスケの顔は夕焼けと混ざり、とても紅くなっていた。









 

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