心の病気


・ うつ病

もし人間に悲しみも苦しみもなかったら、喜びも幸せもないかもしれません。どんな悲しみの中にあっても、真っ暗な夜がいつかは必ず明けるように、いつかは気持ちは晴れ、新しい朝が訪れるものです。過去の悲しみや苦しみが、 一種の懐かしさとともに思い出されることもあるでしょう。ところが、うつ病の人が経験する暗い気持ちには、光が差すことがありません。夜は永遠に続くのです。励ましやなぐさめは空々しく感じられ、逆に絶望感を募らせるばかりです。うつ病の悲しみはふつうとは質の違うものです。うつ病は病気です。ただし 、

うつ病は治る病気です。

しかも治療は比較的簡単です。薬を中心とした治療で、8割以上の人が2-3週間 で回復に向かいます。つまり、治療さえすれば、うつ病は大した病気ではないのです 。ただ一番の問題は、うつ病の人の半分以上が治療を受けていないことです。その理由はいろいろあります。うつ病になりやすいのは真面目で責任感の強い人が多く、自分の問題は自分で解決しようという傾向が強いこともそのひとつです。また、周囲の人も、心の問題は医療の対象ではないと考えがちです。こうしたことのために、治療が遅れたり、まったく治療されなかったりということが起こるのです。

治療しなければ、うつ病は悲惨な病気です。

うつ病の絶望感はとてもつらいものです。将来には希望がまったく持てないばかりか、過去の自分の小さな行為に大きな罪悪感を持つこともあります。物事に対する意欲や興味は失われ、それまで好きだった趣味も楽しめません。仕事もできず、自分がまったく価値のない人間に思えてきます。イライラが増してくることもあります 。
深い悲しみも時が解決してくれる。うつ病の人を前にして、このように考えること は、本人をさらに苦しめることになります。うつ病の人は、将来の希望を信じること ができないものです。治療しなければ、うつ状態は一年以上続くこともあります。自殺の心配もあります。うつ病による自殺は、適切に治療を受けていればほとんどが避けることができるはずです。

うつ病の症状は全身にあらわれます。

心の不調は体にも影響します。朝早く目が覚めてしまい眠ることができず、そのため十分な休息を取れないことが状況を悪化させます。食欲もなくなり、たとえ食べても味を感じられなくなります。頭痛や全身のひどいだるさを感じ、何かほかの重い病気にかかってしまったと思うこともよくあります。体の不調を自覚しながら、いろいろな検査を受けても何の異常もない時も、うつ病の可能性が大です。

うつ病の原因は脳の中にあります。

脳は、絶えず活発に働いています。脳の中では、化学物質が作られ、その物質が分泌され、電気も起こっています。こうした活動に、体の運動や感覚はもちろん、喜びや悲しみ、そして体の調子を感じとるというような脳の働きが支えられているのです。
うつ病ではこうした化学物質の活動の調子が一時的に乱れていると考えられています。このため、健康な時とは質の違った悲しみや苦しみを経験するのです。
その乱れの根本的な原因はまだよくわかっていません。
ストレスや悲しい出来事が引き金になることもあれば、何のきっかけもなくうつ病になることもあります。もちろん遺伝的な体質も関係します。
はっきりしていることは、うつ病で起こっている脳内の不調は、医学的な治療によって治すことができるということです。


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・ 自律神経失調症

正式な病名ではありません

自律神経失調症という病名は、医学の教科書にはどこにも出ていません。外国にもありません。それなのに誰もがなんとなく知っているという、不思議な病気です。

自律神経とは、自動的な神経のことです

「失調症」をはずした、「自律神経」ということばなられっきとした医学用語です。人間のどんな活動にも神経のはたらきが必要です。手を動かす、言葉を話すなど、自分の意志でコントロールできる神経を体性神経といいます。逆に、心臓や胃を動かしたり、汗をかいたり、などのように、ふつう自分の意志とは関係なく自動的にはたらく神経を自律神経といいます。

たくさんの症状が自律神経に関係します

眠れない、食欲がない、めまいがする、肩が凝る、手足がふるえる、便秘、・・・自律神経に関係する症状は、あげていくときりがありません。むしろ自律神経が関係しない症状はないと言ってもいいでしょう。

本当はほかの病名がつくはずです

自覚症状があるのに、検査してもなんの異常もない時、自律神経失調症と診断されることがよくあります。けれども、症状が自律神経に関係していても、自律神経失調症という病名は医学用語にはないのですから、本当はほかの病名、たとえばうつ病、パニック障害、心身症などの病名がつくはずです。自律神経失調症というのは、とてもあいまいな病名です。

自律神経失調症だと言われたら

まずその先生を信頼するかしないかを決めることです。あいまいな病名をつけることは、いい加減とも、柔軟性があるとも言えます。いい加減な病名として診断された場合、その勢いでいい加減に治療されてはたまりません。逆に、柔軟性のある病名として診断されたのなら、心身両面からの柔軟性のある治療をしてもらえるでしょう。

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ストレスと心身症

ストレスという言葉は最近では聞かない日がないくらい私たちの日常に入りこんでいます。確かにストレスは色々な病気に関係しますから、心身の健康のためにはたくさんの人が関心を持たれるのは当然のことです。ストレスと病気の関係を考えるにあたって、第一に大切なことは、

ストレスは主観的なもの

だということです。同じ状況でも、それをストレスと感じるかどうかは、人によってまちまちです。たとえば、仕事で時間が切迫してきた時、それをストレスと感じる人もいれば、逆にやる気が高まる人もいます。また、まわりに困っている人がいる時、それを面倒なこと、ストレスになることと感じる人もいれば、逆に助けることに喜びを感じる人もいます。どちらになるかを決めるのは、主観的な感じ方です。このことは、実際にストレスにどう対処するかを考える場合にとても重要なことです。ストレスはエネルギー源にもなれば、一方で病気の原因にもなるのです。

ストレスによる病気はたくさんあります

というよりも、ストレスが関係しない病気はないと言っても言い過ぎではないでしょう。こころの状態はあらゆる病気に関係します。その中で、特にストレスとの関係がはっきりしている病気を心身症といいます。胃かいようやぜんそくは代表的な心身症で、ストレスを無視しては治療できません。そのほか、高血圧、過敏性大腸症候群、片頭痛、リウマチ、じんましん、円形脱毛症などもあります。自律神経失調症も、心身症の一種と言えるでしょう。

ストレスと病気の関係は科学的にも証明されています

ストレスをキャッチするのは脳です。脳はストレスに対応しようとして、自動的に神経系に命令を発します。神経系は免疫系と密接につながっていることがわかっています。免疫系とは、病気と戦うために元々からだにそなわっている装置のようなものです。病気への抵抗力は免疫系の状態によって決まります。つまり、外からのストレスそのものではなく、ストレスに対するこころと脳の反応が病気につながるのです。昔の人はそれを経験的によく知っていて、「病は気から」と言ったのです。

病は気からも他からも

ただし、「病は気だけから」ということはありません。「心身症」とか「ストレス性」とかいっても、ストレスだけが原因ということはあまりないことです。他の原因とからみあって病気が発症するというのが正確な表現になります。

また、今の医学のスタンダードな診断手順というのは、身体の検査をしても原因が見つからない時に、ストレスが原因と推測するのが普通です。ということは、本当は身体に原因があって、検査で見つからなかっただけということもあるので、注意が必要です。

それから、こころの病気はストレスによると漠然と考えている方もかなりおられるようですが、それは誤解です。実は、精神医学で正式にストレスが原因とされているのは、PTSD、急性ストレス反応のふたつしかありません。もうひとつ、国際的には認められていませんが、反応性うつ病もストレスが原因と言えます。それ以外の病気は、ストレスが関係するのは確かでも、原因とまでは言い切れないのです。ストレスというものは主観的なものであるということがその理由でしょう。PTSDのように、客観的に誰が見てもストレスによって発症したと認められない限り、なかなか「ストレスが原因」とは言い切れないのです。





パニック障害

パニックに陥ることは誰にでもあることです。どんなに冷静な人でも、予期しない衝撃的な出来事が起これば、ふだんの落ち着きは失われ、別人のように右往左往してしまうものです。判断力も狂い、ふつうなら考えられないようなことをしてしまうこともあります。心臓は高鳴り、息は速くなります。こうしたことは、人間にそなわった、正常な反応です。危機に対して、エンジンを全開してからだ全体を駆動するため、神経や心臓のはたらきが急激に高まるのです。パニック障害は、実際には危機でないのに、脳が幻の危機を感知してパニック発作が起きる病気です。

パニック発作に危険はありません

パニック発作の時は、息苦しくなって、心臓が速く打ち、胸が痛くなるなどの症状が急に出てきます。汗が激しくでたり、からだがふるえたりすることもあります。症状は心臓発作に似ているので、死ぬのではないかと心配することが多く、不安が不安を呼んでいてもたってもいられなくなります。このため救急車で病院にかかることが多いものです。病院では心電図などの検査をしますが結果は何の異常もない。これが典型的なパニック発作です。確かにパニック発作はこわい感じがしますが、もともと人間の正常な反応が急にあらわれたものですから、危険はまったくありません。

決まった場面で起こりやすくなることもあります

電車やバスの中、人ごみの中、家にひとりっきりでいる時など、いつも決まった場所でパニック発作が起こりやすい人もいます。これが何回か起こると、たとえば電車に乗るのがこわいという心理につながります。パニック障害には、このように場所に関係したタイプと、何のきっかけもなく突然発作が起こるタイプのふたつがあります。いずれにしても危険がないという点では同じです。

古くて新しい病気です

ところで、パニック障害(パニック・ディスオーダー)というのは、あまり聞きなれない病名かもしれません。たしかにこの名前は比較的新しいのですが、病気自体は昔からあったものです。不安神経症とか心臓神経症とか呼ばれていたものを現代医学が分類しなおして生まれたのがパニック障害という病気です。その背景にはパニック発作のメカニズムがわかってきたという事実があります。このことはパニック障害の人にとっては朗報です。よりよい治療法が開発される大きな可能性が見えてきたからです。

パニック障害の原因は脳の中にあります

こころの病気は、脳の中のメカニズムがわかるまでは、気のせいだとか性格の問題だとか言われてなかなか理解されないことが多いものです。このことがますます本人を苦しめることになります。最近の研究によって、パニック障害の人は、二酸化炭素や乳酸で発作が起こりやすいことがわかってきました。これをもとにしてパニック発作の解明が進んでいます。発作の症状自体は人間に備わった正常な反応ですから、発作のきっかけのメカニズムさえわかれば病気が克服できることになります。

パニック発作をおそれる気持ちは悪循環につながります

もう一度くり返します。パニック発作の正体は正常な反応です。だから危険はありません。発作が起きた時、こわがる気持ちがあると発作はますますひどくなります。誰でも不安になれば心臓がどきどきしてくる、それとまったく同じことです。こわがる気持ちは悪循環につながります。まして発作が起きる前から心配しても意味がありません。発作は薬でおさえることができます。いまの薬物療法は根本的治療法とは言えませんが、精神療法と組み合わせることによってパニック障害の治療が行われます。





拒食症

ダイエットをきっかけに拒食症になる人が増えています
スリム志向の現代、ダイエットをする人はとても多くなりました。ダイエットをしてもなかなかうまくいかないのがむしろ普通ですが、反対に体重が減りすぎてしまうことがあります。そうして栄養失調の状態になってもほとんど食べることができず、それどころかさらに体重を落とすことにこだわるのが拒食症です。

拒食症は命にかかわる病気です
自分の意志で食べずにいてやせていくのを病気といわれてもピンとこないかもしれません。ご家族が拒食症かな、と思ってもまさかそれが餓死につながるとは考えないでしょう。甘いです。拒食症の数パーセントは飢えのために亡くなります。死には至らない場合でも、成長期の栄養失調はあとあとの障害につながります。拒食症は若い命にかかわる重大な病気なのです。

一見元気にみえても安心できません
外見は重病のイメージとはだいぶ違います。本人は寝込むどころか活動的で、学校の勉強や仕事もふつう以上にやっているので、つい軽く考えてしまいがちです。拒食症の人は体重が増えることへの強い恐怖心があり、少しでもやせようとして積極的に運動することもよくあります。ところが実際には、心臓や血液などにたくさんの障害があり、全身ボロボロといってもいい状態になっています。からだを維持するための基本である食べ物をとらないのですから当然のことです。

拒食症になると自分のからだが見えなくなります
いくら元気に見えても、文字どおり骨と皮のようになったからだは危機感を抱かせます。ところがそれを見ても本人は自分がやせているとは思いません。自分のからだが見えないのです。それどころかもっとやせようとして、食べたものを吐いたり、下剤をたくさんのんだりします。からだは悲鳴をあげています。こころも悲鳴をあげているのかもしれません。それが見えないのです。行動療法や精神療法が必要です。



対人恐怖症

他人に自分がどう見られているかにこだわりすぎる病気です
自分が他人からどう見られているか、どう思われているかを気にしない人はいません。けれども、他人の本当の気持ちはわからないものです。こだわり始めるときりがありません。自分の表情が、視線が、動作が人の目にどう映っているか、それを意識しすぎることから対人恐怖は始まります。赤面、手のふるえ、表情のこわばりなどを心配したり、他人の視線や他人の存在そのものを恐れることが対人恐怖症の症状です。

思春期ころに起こるのが普通です
小さい子供の時は、他人の思惑など気にしないのが当然です。それが成長するにつれて、集団の中での自分の役割というものを意識するようになり、それに伴って他人の目が気になるようになります。ですから、思春期ころに人目を気にするようになるのは健康なことです。ただそれが度を越してしまうと、「対人恐怖」という病気の範疇に入ることになります。

日本人的な病気です
対人恐怖症は日本人に多い病気です。というよりも、アメリカやイギリスには対人恐怖症という病名自体が存在しません。なんでも平均がいいことだとする日本的な考え方がこの病気を発生させているようです。平均からはずれれば目立ちます。目立つことの良さより悪さの方が意識されるのが日本です。自分の特徴が他人に不快感を与えているのではないかという意識が対人恐怖症の原点です。口臭やわきがを過剰に気にする自己臭恐怖や、自分の外見が醜いと心配する醜形恐怖(しゅうけいきょうふ)も同じ種類の病気です。

年齢とともに自然に治ることもあります
他人を気にすることは誰にでもあります。ある調査によると、大学生の50%が対人恐怖の症状を自覚しています。誰でも気にすることなら、気にしていることを気にしても仕方のないことです。そう開き直れれば治ったのと同じことです。大部分の対人恐怖は30歳までに自然に治ります。開き直れなかった場合に、カウンセリングなどの治療が必要になります。

ほかの病気の症状のこともあります
たとえば精神分裂病のはじまりや、うつ病でも他人が怖くなることがあります。その場合は早く薬物治療を行うことが必要です。対人恐怖が長引く時は、診断をつけて方針を決めるためにも、専門家を受診することが必要です。





更年期障害
(A) 更年期とは何才位のことをさしますか?
日本産婦人科学会の定義では「更年期とは生殖器(性成熟期)と非生殖器(老年期)の間の移行期をいい、卵巣機能が減退し始め、消失するまでの時期」にあたるとされています。一般的には閉経の前後数年間をいいます。
現在、日本人の平均閉経年齢は50・5才ですから、更年期とはその前後5年間、つまり45才頃から55才頃までをいいます。



(B) 更年期障害とはどんな病気?
「更年期に自覚される症状のうち、器質的疾患の裏付けに乏しい不定愁訴を主体とする症候群」と定義されています。ですから、診断にはその人が更年期にあたっているということ、そしてその症状を説明できるその他の病気がないということが大事なことです。例えば、めまいがあるとするとそのめまいの原因がメニエール氏病などの耳鼻科の病気ではないことをはっきりさせることが必要です。

(C) 更年期障害はどうしておこるのでしょう?
更年期に入り、卵巣の機能が衰えてくると卵巣から分泌される女性ホルモン、特に卵胞ホルモン(エストロゲン(E))の分泌量が低下します。この卵胞ホルモンの低下が脳の中の自律神経中枢の働きを失調させます。この自律神経中枢の失調が更年期障害の大きな原因ですが、その他にその人の人格(パーソナリティ)や、心理、社会的背景(家庭の問題、子供の巣立ちなど)なども重要な発症原因となります。

(D) 更年期障害にはどんな症状がありますか?
1.初期にあらわれやすい症状
(1) うつ気分(何となく元気が出ない、今まで興味をもっていた趣味などへの関心がうすれる、親しかった友人とあまり会いたくなくなる、出かけたり人に会うのが何となくおっくう、何ごとにも根気が続かない、大事な用事を後回しにするなど)
(2) 物忘れ(人の名前や,地名などの固有名詞がわかってはいるがすぐには口に出せない。)
(3) 不眠(寝つきが悪くなる、一旦寝てもすぐ目がさめてしまう。)

2.早い時期にあらわれやすい症状
(1) のぼせ(hot flash
暑くもないのに体がほてったようにのぼせる。このようなのぼせが一日に何回も繰り返しあらわれる。

(2) 発汗
首や顔にどっと汗をかく。このためしょっちゅうハンカチで顔をふかなければならない。お化粧が不自由になり、困る人が多い。

(3) 顔のほてり
顔がぽっぽとほてって潮紅する。

(4) 不眠
寝つきが悪い。あるいは寝ついても体が熱くなって夜中に何回も目がさめてしまう。

(5) 動悸
心臓に特に問題がないのに急に動悸がする。

(6) めまい
一瞬、床がゆれているような感じ、地震がきたかと思うような瞬間的なめまいがする。寝返りの時めまいがするなど。

(7) 精神的な症状
 ・何となく憂鬱、あるいは抑うつ気分。
 ・怒りっぽい(癇しゃく、イライラ)
 ・気力減退(根気がない、やる気がわかない)
 ・精神不安定(神経過敏)
 ・記憶力減退(もの忘れ、すぐ思い出せない)

(8) 身体障害症状
 ・肩こり、腰痛、関節痛、手のこわばり。
 ・つかれやすい
 ・頻尿(トイレが近い)、残尿感など膀胱炎のような症状。
 ・性交障害

性交時に膣からの分泌が少なくなるため、性交痛が出る。また、日常でも膣の乾燥したような感じ、あるいは入浴や排尿の時、膣の入口や外陰部がしみるなどの症状が出ることもしばしば。卵胞ホルモンの不足で膣や外陰部が萎縮しているサインです。

3.更年期の後半、あるいはそれ以降に出やすい病気
卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌が欠乏したままにしておくと先に述べたいろいろな更年期障害の症状に加え、はっきりとした自覚症状こそあまりないものの全身的な影響があらわれます。
 ・骨量減少 → 骨粗しょう症
 ・高脂血症 → 動脈硬化


以上のような症状があったら更年期障害を疑いご相談下さい。

(E) 更年期障害にはどんな治療法がありますか?
大きく分けると次の2つの方法があります。
1) 心理療法(一般・支持療法)
2) 薬物療法
(1) ホルモン補充療法(HRT)
(2) 抗うつ剤、抗不安剤など
(3) 漢方療法


このようにいろいろな治療法があります。いろいろある症状のうちどの症状が強いか、あるいはその人のパーソナリティなどを分析し、その人に最も適した治療法を選択します。あるいはいくつかの方法を組み合わせて治療します。その中で最近はホルモン補充療法(HRT)が治療の大きなウエイトを占めるようになってきました。このようなことからHRTについて少し詳しく述べたいと思います。

(F) ホルモン補充療法(HRT)とは?
ホルモン補充療法(HRT)とは、hormone replacement therapy の略です。

1.HRTはなぜ効くか?
更年期障害の原因のかなりの部分は卵巣からのホルモンの分泌が減少し、その結果、自律神経が失調するためであることは既に述べました。ですから、自律神経の失調を回復するにはホルモン、特に卵胞ホルモン(エストロゲン(E))を補充してあげればよいわけです。これがHRTの原理です。事実、HRTにより更年期障害の多くがかなり速やかに劇的に改善します。

2.HRTは具体的にどのようにしますか?
基本的にはエストロゲンを補充すれば充分なわけです。しかし、エストロゲンだけを補充すると出血や乳房の張りなど不快な症状を伴います。これらを予防するために黄体ホルモン(プロゲステロン(P))というもう一種の卵巣ホルモンを補充する必要があります。(黄体ホルモンは排卵した後に卵巣から分泌されるホルモンです。)ですからHRTはエストロゲンとプロゲステロンの2種類のホルモンを補充することが基本的な方法です。

1)内服(のみ薬)によるHRT
プレマリンという卵胞ホルモンを含んだ錠剤を服用する方法です。黄体ホルモンも同様に内服します。

2)貼り薬(貼布剤)によるHRT
内服のかわりに“トクホン”のような貼り薬(パッチ剤)をおへその横や腰に貼ります。すると貼った皮膚から卵胞ホルモンが放出され、皮膚の内の毛細血管の内へ吸収されて効果をあらわします。

3)パッチ剤によるHRTの具体的方法
今、日本で使用可能なパッチ剤には2種類あります。一つは1日毎に貼りかえるタイプ(エストラダームM)と週に2回貼りかえるタイプ(フェミエスト)があります。どちらのタイプも入浴後におへその横、あるいは腰に500円玉大のパッチ剤を貼っておくだけです。もちろんパッチをはったまま日常生活は普通にできますし、そのまま入浴してもはがれません。そして2日あるいは3日後に同じものをはりかえるのです。

4)出血(生理)をおこさせない方法と、出血(生理)をおこしながら行う方法の2種類がある。
(1) HRTで補充されたホルモンは当然、子宮にも作用します。ですから、HRTによって月経のような出血があります。しかし、既に閉経した婦人はまた生理(出血)があるのはわずらわしいものです。このような人には出血をこさせないで治療する方法が用いられます。次の図はこの方法です。



パッチ剤(貼り薬)を2〜3日毎に貼りかえながら連続してはりつづけます。また黄体ホルモンの内服薬を1日1錠服用し、これも連続します。すると出血がなく、HRTができます。閉経して2年以上経っている人に向いています。

(2) 出血(生理)をおこしながら行うHRT。パッチ剤の使用のしかたは@と同様に連続して貼り続けます。そして黄体ホルモン(内服プロベラ錠)は月末の10日間だけ1日1錠服用します。すると次の月初めに少量、月経様の出血があります。この方法は閉経前の人や閉経後2年以内の婦人にむいています。



5)HRTは特にどのような症状に効きますか?
HRTでよく改善する症状は顔のほてり(hot flash)、発汗、息切れ、動悸などの血管運動神経症状とよばれる症状でかなり改善がみられます。これに加え、イライラ、不眠、憂うつなど精神症状もかなり軽減します。その結果、身心ともに元気を取り戻し、以前のように元気に日常生活が送れるようになったと感じる人が多いのです。更年期に入り低下していた性欲も向上し、またいわゆる性感も上昇して性生活にも積極的になり、もとの良好な夫婦関係をとりもどせたという方も少なくありません。しかし一方HRTは万能な方法ではありません。寝つきが悪い、あるいは眠りが浅い人や手足の冷えなどはHRTでは充分に治療しにくい症状です。このような人には軽い睡眠剤や漢方薬も併用することがあります。
以上のようにHRTは更年期障害のすべてを改善できませんが、かなりの症状にとても有効であるといっても過言ではありません。

6)HRTがもつその他の効果
(1)骨量の減少を予防する効果
閉経後には1年に約1%ずつ骨塩(骨を形成している成分)が減少していきますが、HRTによりその減少をかなりくい止めることが可能です。ですから骨粗しょう症の予防に有効です。

(2)コレステロールの上昇を抑える効果
更年期になると多くの婦人はコレステロールが上昇することはすでにわかっています。逆に卵胞ホルモンを補充するとこのコレステロールの上昇に歯止めをかけることも可能です。もちろんHRTだけでコレステロールの上昇を完全に止めることはできません。HRTに加え、食事療法や運動も大切です。

(3)アルツハイマー病の予防にも有効か?
最近、卵胞ホルモンの補充によりアルツハイマー病の予防にも効果的であるとの多くの報告があります。

(4)お肌のシワ、たるみの改善
HRTによりお肌にはりが出たり、しわが減りお肌がみずみずしくなったと感謝されることが少なくありません。これはHRTにより皮膚のコラーゲンが増えるためと考えられています。

7)HRTのデメリット
(1)マイナートラブル
更年期障害にHRTはとても効くことは先に述べました。しかしHRTは必ずしも良いことばかりではありません。副作用とはいえないまでもマイナートラブルが伴うことが時にあります。ちょっとした出血、あるいは乳房のはり感、多少の体重増加などですが、その多くは解決が可能です。

(2)癌との関連性について
HRTの中心は卵胞ホルモン(エストロゲン)ですが、エストロゲンは子宮や乳房の細胞を増殖させる作用があります。その結果、子宮体癌の原因になるのではないかと懸念されていました。しかし最近の多数の研究では黄体ホルモンを併用すればそのリスクは増加しないとの報告がほぼ定着しているといえるでしょう。

(a) 子宮癌(子宮体癌)
プロゲステロン(プロベラ錠)を併用すれば子宮体癌のリスクが増加することはないことは証明されています。

(b) 乳癌
日本人の乳癌の発生は欧米人に比較し少ないのですが、HRTを行ない乳癌が増加するのではないかと懸念されるところです。欧米人を対象とした最近の調査結果(WHI2002年)では次のようなことがわかっています。
HRTでは乳癌の発生リスクが25%位増加するかもしれない。
しかしHRTの実施の有無にかかわらず定期的な乳房検診が必要ですし、検診をきちんと実施していればHRTをむやみに恐れることはありません。

8)更年期障害の治療を受けたい方へのアドバイス
更年期障害は決して我慢する必要はありません。先に述べた症状があったら気軽に、早めに御相談下さい。HRTは決してこわい治療法でもありません。単に更年期障害を治すだけではなく骨粗しょう症を予防でき、その後のQuality of Lifeを高める治療法でもあります。これはあなただけの問題ではありません。御主人はもちろん、御家族皆んなのために更年期障害をのり越えて活力に満ちた人生を過ごしていただきたいと願ってやみません。


女性の更年期障害は閉経前後の卵巣の急激な機能停止によって起こると考えられているが、 男性の場合加齢によって血中のテストステロン値の低下がみられるもの。
女性ほど急激ではないことから、男性には更年期障害は存在しないとされてきた。 しかし、近年そうではないことが明らかになった。

更年期障害とという”不定愁訴”という言葉がすぐに連想されるが、不定愁訴とは漠然とした訴えであり 自覚症状を訴えるだけの他覚的所見や器質性疾患の裏付けが認められないものをいう。
この不定愁訴が中高年の男性に多いことが内科医に注目されている。





アルツハイマー病

老人ぼけの極端なものをいいます
誰でも年をとれば体力が衰えます。精神や人格は年とともに充実してきますが、思考の迅速さなどは自然に衰えてきます。これは脳の神経細胞が減っていくためです。極端に神経細胞が減れば脳全体の機能が保てなくなります。これがアルツハイマー病です。

もの忘れで始まります
アルツハイマー病の始まりはほとんどがもの忘れです。物の名前が出てこない、同じことを何回も言ったり聞いたりする、というのが典型的で、さらには以前興味を持っていたことに関心がなくなってきたりします。一時的に幻覚や妄想が出ることもあります。

治る症状と治らない症状があります
脳の神経細胞を再生する方法は今のところありません。したがって、神経細胞が減ったことによる直接の症状は治りません。記憶や判断力の高度な障害などがこれにあたります。一方、アルツハイマー病には一時的にあらわれる症状もあります。脳の機能に余裕がなくなってきたため、一時的に情報を処理しきれなくなって出てくる症状です。これは、うつや不安、幻覚・妄想などで、薬などで治療することができます。

新しい治療が現実的になりつつあります
「治らない症状」というのは、あくまでも現在(1999年3月)のところ治らない、という意味です。アルツハイマー病のメカニズムについての研究の進歩はめざましいものがあり、進行を遅らたり予防したりする方法は現実のものになりつつあります。少数ですが薬が効いたというデータも発表されています。老人の増加に比例してアルツハイマー病が増加することは間違いのないことですから、研究は特に活発に行われています。少なくとも進行を止める薬は近いうちにできると予想しています。



アルコール依存症

生活に潤いをもたらす。ストレスを解消する。人間関係をスムースにする。アルコールには、さまざまなプラスのイメージがあります。しかしその裏には、「酒害」と呼ばれるたくさんの暗い事実が隠れています。アルコール依存症はその代表です。お酒をたくさん飲み続ければアルコール依存症になるのは当然のことです。なぜなら、

アルコールは、合法ドラッグです
医学的には、アルコールは麻薬や覚醒剤と同じドラッグの一種です。世界の歴史を見れば、ドラッグの合法・非合法の区別はまったくまちまちであることがわかります。法律がどうあろうと、ドラッグは脳とからだを破壊していきます。アルコールというドラッグは、現代の日本でたまたま合法化されているにすぎません。

アルコール依存症は、病気です
ドラッグは、いったん習慣性がつくと、なかなかやめることができません。これは、脳の中にドラッグを求める回路ができてしまうためです。この回路は人をあやつり、いかなる犠牲を払ってもドラッグを取らせるようにしむけます。アルコール依存症の人がお酒をやめられないのは、意志や道徳の問題ではなく、脳内にできたアルコール回路の作用によるのです。だからこそ、依存「症」という病名がついているのです。アルコール依存症は病気、それも進行性の病気です。

アルコール依存症は、死に至る病です
お酒を飲み続けることによって、脳のアルコール回路は強化されます。同時に、アルコールというドラッグはからだもむしばんでいきます。破壊されるのは肝臓だけではありません。アルコールは発がん物質でもあり、特に食道や大腸のがんのおもな原因はアルコールです。そのほか、痴呆、糖尿病、膵炎など、ほとんどあらゆる病気がアルコールによって起こされたり悪化したりします。このためアルコール依存症は早く死んだり、長い期間療養生活を送ることになりがちです。自殺や事故も高率です。

お酒をやめる以外の治療法はありません
麻薬や覚醒剤の中毒者に対して、少量とか適量でなんとかやっていかせようと考える人はいないでしょう。完全にやめるか、さもなければ人間をやめるかしかありません。ドラッグであるアルコールも同じことです。お酒をひかえ目に、というのは健康な人のこころがけるべきことで、アルコール依存症ではナンセンスなことです。アルコール依存症の治療はお酒を完全に断つしかありません。まず完全に断ち、それからは再び飲み始めないことです。そのためには家族や社会の協力も必要です。





PTSD(心的外傷後ストレス障害)

トラウマによって起こります

こころの傷のことをトラウマといいます。PTSDの原因となるトラウマは、死に直面するかまたは重傷を負うような出来事や、自分や他人の身体の存在にかかわる危険な出来事です。阪神・淡路大震災や、地下鉄サリン事件などがその実例です。そういう出来事の体験や目撃を原因として、いろいろな症状が続くのがPTSDです。思い出したくないのにそのトラウマを何回も思い出してしまったり、それどころか白昼夢のようにまた同じ体験をしているように感じたりします。逆にトラウマの一部をどうしても思い出せないということもあります。不眠やイライラもよく見られます。

ベトナム戦争が作った病名です
昔はPTSDという病名はありませんでした。PTSDという病名が作られたそもそもの始まりは、ベトナム戦争で極限を超える悲惨な体験をした兵隊の精神的後遺症が、1970年代にアメリカで大きな問題になったことでした。ですから元々はトラウマというのは戦場体験のことを指していました。ところが同じような症状がレイプの被害者や自然災害の被災者にも現れることがだんだんわかってきて、PTSDという病名が正式に作られたのです。最近では心の傷やストレスをなんでもトラウマと呼ぶ傾向があり、それにしたがってPTSDと診断されるものが増えていますが、その結果病気の概念が曖昧になっていることも確かなので、これには賛否両論があるところです。

診断はとてもむずかしいです
こころの病の原因を明らかにすることはとてもむずかしいものです。それはなにもPTSDに限ったことではありません。本人が原因だと信じていることが全く見当違いだったり、極端な場合はそんな出来事はなかったということもあります。逆に、本人がなんでもないと思っていたことや、忘れてしまっていたことが原因だったりすることもあります。特にPTSDではトラウマとなる出来事とのつながりが診断の中心になるので、医師が診断する場合にも自己診断の場合にも、ほかの病気に比べて誤診の可能性はかなり高いといえるでしょう。いったんPTSDと診断すると、トラウマの原因に関わっていたとされる人に少なくとも一部は責任があるということになりますので、誤診の影響はいろいろな人に波及することになります。実際、PTSDに関係した訴訟はたくさんの議論を生んでいます。

こころと脳を結ぶ病気です
PTSDの原因は間違いなくこころの領域、精神的な領域の出来事ですが、その結果として脳にはっきりした変化が現れることがわかっています。脳のMRIで海馬が小さくなっていることが見られたり、ノルアドレナリンやセロトニンの異常、コルチゾールなどのホルモンの変化が現れたりします。PTSDに見られる記憶の症状は海馬に関係している可能性があります。抑うつはノルアドレナリンやセロトニンに、自律神経症状はコルチゾールに関係しているのかもしれません。PTSDでの脳の変化はまだ研究段階なので、診断に使うことはできませんが、PTSDの研究によって、こころと脳の密接な関係が目に見える形で現れていると言えます。また、脳の変化を明らかにすることが有効な治療法の開発にもつながっています。



統合失調症(精神分裂病)

精神が分裂する病気ではありません
「統合失調症(精神分裂病)」といっても、なにも精神が分裂した状態になるわけではありません。この病気に限って言えば、病名と症状には何のつながりもありません。統合失調症(精神分裂病)とは、幻覚、妄想、社会性の低下を主な症状とする病気です。

100人にひとりは統合失調症です
日本を含めたどの国でも、統合失調症の発症率は0.8パーセント程度です。100人にひとり弱の率で発症するということになります。想像以上に多い病気です。あなたの知人の中にも、必ずこの病気の人がいます。発病は若い時が圧倒的に多いので、もしあなたが若ければ、統計的には統合失調症になる率は高いと言えます。

経過は人によってさまざまです
10代、20代の人に、幻聴や被害妄想が現れ、人を避けるようになる。しかし本人はその症状が病気とはなかなか理解できない。これが典型的な統合失調症の発病です。治療しなければまず間違いなく悪化していきます。治療した場合には、比較的すぐによくなる人から、慢性化していく人まで、あらゆるケースがあります。最終的には半数以上の人が治っていきます。

長いフォローアップが必要です
最初の治療ですぐによくなった人でも、残念ながら再発が多いことは事実です。治療が長引くケースもあることや、慢性化するケースもあることを考えると、長いフォローアップが必要です。医療はもちろんのこと、慢性化した場合には福祉的なフォローも必須です。統合失調症の人を支援する福祉の制度はたくさんあります。

原因は不明です
脳の病気であることは確かです。脳の神経細胞と神経細胞の伝達に何らかの異常があることも確かです。それ以外にも何かあるかもしれません。いまのところはわかりません。おおもとの原因は、遺伝と環境の両方によるものでしょう。今は原因不明であるという事実を理解することは大切です。それ以上に大切なのは、原因が不明な病気はほかにもたくさんあり、そのほとんどは原因不明のままでも治療されて治っているということです。統合失調症もそうした病気のひとつにすぎません。





境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害)

感情の不安定さが特徴です
他人に対する感情も、自分に対する感情や評価も、とても不安定なのが境界性人格障害の特徴です。逆に安定している時もあり、その時は冷静で人一倍論理的に話すこともでき、とても病気とは思えません。ところが感情は時間単位、日単位で変化し、まさに人が変わったようになって、他人を攻撃したり自分を傷つけたりします。直前までは尊敬の対象だった人を急に攻撃することもよくあります。圧倒的に若い女性に多いです。

自覚症状は抑うつ感が中心です
境界性人格障害の人は、自覚的には慢性的な抑うつ感で悩んでいることが多く、自分ではうつ病であると信じていることもよくあります。うつ病なら抗うつ薬で治ることがほとんどですが、人格障害には薬はあまり効きません。むしろ薬は自殺の道具として使われがちです。20代の女性で、うつがなかなかよくならずに色々病院を変え、時には自己破壊的な行動に出るというのが、典型的なパターンです。

周囲を困らせることも特徴のひとつです
自己破壊的な行動とは、具体的には自殺が多いのですが、リストカット(手首を切る)、薬をまとめて飲むなど、自殺としては成功率の低い方法が大部分です。しかもそれを繰り返すので、自殺の演技をしているように見えます。また、いい自分・悪い自分をうまく使い分け、他人を思うままに操作する傾向もあります。まるで光をあてる角度によって美しくも醜くもなる、特殊な多面体のようです。このため、家族も友人も医療者も、大いに困らされることになります。

治療の開始は「契約」です
境界性人格障害の治療は、困難です。本人の求める薬物治療にはあまり効果は期待できません。対人関係の形成過程の問題が原因と考えられますので、精神療法の適応と言えます。ところが、病気そのものの症状である対人関係の不安定さは医者との関係にも現れてしまいます。主治医に対する信頼と不信が目まぐるしく入れ替わり、しかも何回も自殺のそぶりをするような状態では、精神療法どころではありません。したがって治療のためにはまず治療をするということ自体を本人と医者ではっきり取り決めるという手続きが必要になります。これには一定の面接時間の設定などを含み、「治療契約」といいます。契約を破れば治療は中止です。冷たいようですが、難治であることを認識し、つらくても最善の治療法に従うべきでしょう。





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