シェフズ・スペシャル
カレー伝道師特製オリジナル・レシピ

第25回 本格マトン・ビリヤニの作り方


 インドの「炊き込みご飯」にして、インド亜大陸の皆が考える「ごちそうメニュー」の代表格。それがビリヤニだ。
 もともと中央アジアの「プラウ」「ピラウ」「ポロ」「ピラフ」といった名称の料理が、イスラームの勢いを借りてインドに定着したのがビリヤニのルーツ。一方、ピラフが西洋の果てに行って成立したのが、スペインの「パエリヤ」「パエージャ」。両者は親戚なのである。
 炊き込みご飯といっても、ビリヤニの真骨頂はイスラーム式の重ね蒸しにある。ここではマトンカレーと、ビリヤニ・ライスを別々に仕込んでから、一体化させる本格レシピをご紹介しよう。おそらく、今の日本で最も正統なビリヤニの作り方の一つといえるはず。 
 


《レシピ》イスラーム式マトン・ビリヤニ


【ステージ1】マトンカレー(ムグライ・スタイル)を作る

《レシピ》ムグライ・マトンカレー(北インドのイスラーム風マトンカレー)
材料(4〜6人分) 骨付きラムやマトン600グラム、タマネギ1ヶ、ショウガとニンニクのすりおろし 合わせて小さじ山盛り1、市販のプレーンヨーグルト 1/2カップ強、自然塩 小さじ1.5、サラダ油2/3カップ程度(フライド・オニオン用を含む)→フライドオニオンを炒めタマネギに変更するときは鍋底ヒタヒタで十分、お湯 計4カップ程度、青唐辛子2本(なければシシトウ4本で代用)、ペパーミントまたはスペアミントの葉 ひとつまみ、刻んだ香菜 適宜
ホール・スパイス グリーン・カルダモン2ヶ、ビッグ・カルダモン1ヶ、シナモン・スティック3センチ、ベイリーフ2枚、粒のブラック・ペパー10ヶ
パウダー・スパイス ターメリック 小さじ1/4、カイエン・ペパー 小さじ1、コリアンダー 小さじ1、ガラム・マサラ(またはグリーン・カルダモンとブラック・ペパー同量を挽いたもの)小さじ1/2〜1(量はお好みで。なければ省略)
【下ごしらえ】
本式ではまずフライドオニオンを作る。ムスリム肉カレーの基本である。

《フライドオニオン》
@タマネギ1ヶの繊維を断ち切るようにして、できるだけ薄くスライスする。
A直径20センチほどの鍋にたっぷり(2/3カップ程度)のサラダ油を入れ、火をつける。すぐにタマネギのスライスをほぐすようにして入れ、かきまぜながら炒めはじめる。当面は強火で。
Bやがて、タマネギのかさが減ってオイルの中で泳ぐような感じになる。徐々に火を弱めながら中火程度にしていき、かきまぜながらフライするように炒めつづける。
Cオニオン・スライスの色がブラウン・カラーに変化しはじめたら、そろそろ佳境。火の強さを加減しながらかきまぜていくと、タマネギ全体が黄金色になる。ここで迅速にオイルから引き上げ、クッキング・ペーパーなどを敷いたバットに空け、広げてさます。

ポイントは引き上げのタイミング。あまり色がつきすぎてから引き上げると、余熱でこげたようになるし、火の通しがわるいとベチャベチャな感じになる。火の通しすぎとベチャベチャでは、まだ後者の方が扱いやすい。とにかくこがさないように。どうせなら少し早めに引き上げよう。まず失敗しない。ベストは黄金色に揚がってクリスピーな感じである(ただし一度使った油だと、なぜか二回め以降はあまりパリッとしない)。

  フライドオニオンが用意できたら、後の準備は簡単だ。
@ショウガとニンニクはすりおろして、いっしょにしておこう。
Aプレーンヨーグルトは分離しないようにかきまぜておく。
Bマトンは水洗いして汚れを取る(においの気になる方はしばらく水につけて血抜きしてもいいし、その後分量外のヨーグルト少量、ショウガとニンニクのすりおろしでマリネしてもいい)。
C青唐辛子はスリットを入れる。シシトウの場合は小口切りに。

【調理】
@フライドオニオンを揚げた油をいったん鍋から上げ、改めて鍋底いっぱいヒタヒタくらいのオイルを鍋に入れる。余ったオイルは揚げタマネギのいい香りがするから、インド料理に限らず、メニューに合わせて使うといい。
Aホール・スパイスを加え、中火で油にスパイスの香りを移そう。
Bグリーン・カルダモンとクローブが油を吸ってふくらんだら、火を弱め、ショウガとニンニクのすりおろしを加えて、さっとかきまぜて香りを出す。油が飛びやすいので気をつけよう。何なら火を止めてもかまわない(初心者は火を止めた方が安全です)。
C続けて青唐辛子、ミントの葉、さらにヨーグルトも加える。分離しないよう、弱い火で30秒ほどかきまぜよう(ここで分量外の香菜の根や茎適宜を加えてもいい)。
Dいよいよフライドオニオンの出番だ。手でもみこむようにパラパラと鍋に加えよう。全量入れたら、タマネギをつぶすようにして全体をミックスする。
※フライドオニオンをつくらず、@Aで、最初からホール・スパイス入りのオイルで生タマネギを炒めていく方法もある。黄金色に炒めたら、スピーディにABの作業を進行させるところが最大のポイント。ここでコガしやすい。Dは省略ということになる。
E続けてガラム・マサラを除くパウダー・スパイスと塩を加える。ひとつずつ加えながら、かきまぜるといい。まだ火は弱くてかまわない。
Fパウダー・スパイスが入ったら、火を強めの中火にする。
G2カップの水かお湯を用意し、1回に1/4〜1/2カップずつ加え、その都度沸騰させる。
H水かお湯が全量入ったら、鍋の表面には赤いスパイス色をした油が浮いているはず。これでカレーのベースであるマサラの出来上がりだ。
I水洗いしたマトンを加え、中火でよく炒めよう。もしこげつきそうだったら、お湯か水をなるべく少しだけ加える。
J十分に炒めてマトンの表面の色が変わったら、お湯をひたひたになるくらい(2カップ程度)加えて沸騰させる(これも数回に分けて加えると、出来映えがよくなる)。
K沸騰したら、フタをして、弱火でマトンが軟らかくなるまで、ときどきかきまぜながらじっくり煮よう(約1時間)。
Lマトンが軟らかになったら(ナイフで切るなり、食べてみればいい)ガラム・マサラ、またはグリーン・カルダモンとブラック・ペパーのミックス・パウダーを加え、さらに数分煮る。
M塩をチェックして、火を止める。深みのある茶色のソースが幾分トロッとした感じになっていればオーケーだ。しばらくしたら浮いた余分な油をとり、香菜を散らそう。


【ステージA】ビリヤニ・ライスを「湯とり法」で仕込む

材料(2人分) バスマティ・ライス1.5カップ、塩 小さじ1弱、お湯2リットル程度
ホール・スパイス グリーン・カルダモン2〜3粒、クローブ1〜2粒、シナモン・スティック3センチ程度、テジパッタ(インドのベイリーフ)2〜3枚、ブラック・ペパー7〜8粒
【下ごしらえ】
・バスマティ・ライスを何度か水洗いしてから30分から1時間ほど浸水させた後、ザルに上げて水切りしておく。
【調理】
@大きめの深鍋を用意したら、カップ1の米に対して1リットル程度の水を入れる。
Aホール・スパイスもすべて鍋に入れ、火をつけ、強火でお湯を沸かす。
Bお湯が沸いたら、塩を入れる。このときの塩加減は比較的しっかりさせた方がいい。
C水切りしておいた米を鍋に入れる。
D沸騰してきたら、沸騰を十分維持できる火加減に落とし、米をゆでる。
Eアルデンテにゆでたら、ザルにバスマティ・ライスをスパイスごとすべて取り、十分にお湯を切る。
Fターリ・プレートのような平たい器にライスを広げ、べたつかないようにしてキープする。


【ステージB】カレーとライスを合体させ、蒸し焼きする。

材料(2〜3人分) 上記マトン・カレーの半量、湯とり法で炊いたバスマティ・ライス1.5カップ分、ギー 適宜、ミントの葉 適量、刻んだ香菜
【調理】
@ピッタリとフタのできる厚手の鍋を用意する。
A鍋の底面に用意したマトンカレーのさらに半量程度を肉ごと敷く(鍋のサイズにより、敷きつめる量は変化する)。
Bミントの葉と香菜を散らす(あればショウガ千切り適量も)。
Cその上にバスマティ・ライスの半量を軽くかぶせるようにしてのせ、ギーを少量たらす。
Dさらにその上に残りのマトンカレーを敷きつめ、先と同じ要領でミントの葉などものせる。
Eその上にまたライスをのせ、ギーをたらす。とにかく一番上はライスにすること。
Fピッタリとフタをしたら、180度のオーブンに入れ、20分ほど加熱する。オーブンがない場合は、ピッタリとフタをしたままガス台にのせ、やはり弱火で30分程度加熱する。
Gオーブン、ガス台とも加熱終了後15分ほど蒸らし、それから全体をミックスする。ライスをつぶさないよう、ていねいにやろう。このとき塩加減をチッェクし、足りないときは全体に塩をふりかけ、さらに極力軽く混ぜる。

【おいしさのヒント】
・カレーはチキンでもいい。野菜や魚、エビのビリヤニもある。
・ビリヤニを作るときは、必ずバスマティ・ライスを用意すること。日本米はダメ。
・カレーとライスの量的バランス、これがなかなか難しい。基準はライスとカレーが半々。
・ちなみに一口に「ビリヤニ」といっても、レシピは千差万別。生米から炊き込むのもある。

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