Music Academy

極私的インドとロック パート11

〜21世紀を代表する王道ロックの継承者はやっぱりインド好き〜

『レッド・ホット・チリ・ペパーズ』の巻

 ビートルズ、ローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリン。グレートなロック・ミュージシャンたちは皆インドに熱いオマージュを抱き、大きな影響を受けてきた。
 そんなロックとインドの濃密な関係を現代に継承しているのがレッド・ホット・チリ・ペッパーズであるといったら、首をかしげる方がいるかもしれない。

私が彼らの存在を知ったのは、ちょうど本格的にインド料理に興味を持ち始めた1985年頃。とにかくバンド名がカレーっぽくインド的でいいじゃないか。これが第一印象。

 音を聞いて、さらなるショックが私を襲った。当時ミクスチャーロックと呼ばれた彼らの音楽はロック、パンク、ファンク、R&B、レゲエ、スカなどさまざまな要素を貪欲に取り込み、斬新な形で創造したもの。こういう音楽を創っていたロックバンドは当時、欧米でもほとんどいなかった(フィシュボーンあたりぐらいか。2つのバンドのメンバーは高校の友人らしい)。いわば、ボリウッドの映画に通ずる何でもありのマサラ感覚が最大の魅力だった。

インドでテレビが活発に普及し始めた1990年代前半、彼らの大ヒット曲「GIVE IT AWAY」のプロモビデオをよくインドの安宿のボロテレビで観た。4人のメンバー全員が裸に全身金粉という格好で登場する奇妙なものだが、「仏像みたいで、何だかインドっぽいな」と思った私の読みは間違っていなかった。

この曲の収録された大ヒットアルバム『BLOOD SUGAR SEX MAGIC』(1991年)発表の後、現在のギタリストであるジョン・フルシャンテ一時脱退という、かなり痛手なメンバーチェンジを経て発表された『ONE HOT MINUTE』(1995年)に収録の「FALLING INTO GRACE」では歌詞にグルGURUという語が登場、敬虔な態度でラブアンドピースな心境を歌っている(このアルバム、ファンの間でも評価が二分されているが、私は好きだ。ギタリストのデイヴ・ナヴァロのジョンとはまるで異なるセンスの重層的なプレーも冴えている)。

 しかもこの曲、冒頭からホーミィ(ホーメイ)あるいは倍音声明を模したかのような奇妙な音声が延々流れ、パーカッションとしてタブラも使用、インドっぽい音階のギターソロの後、インド人たちによるマントラ(真言)朗詠がフィーチュアされるなど、ファンクな曲のくせに、やたらインド色濃厚なサウンドに仕上がっている。さらにはこのアルバムでは、他の曲でもヒンディー語らしき歌詞が使われたりしている。

再びメンバーチェンジ後(ジョンが復帰、やはりこの4人組のコンビネーションと破壊力はバツグンだ)、1999年に発表されたメガヒットアルバム『CALIFORNICATION』では1曲目の「AROUND THE WORLD」という曲で「オレはボンベイから戻ってきたところ」と高らかに叫んでいる。ちょっと自慢げに感じるのは私だけ?

よくよく調べると、オリジナルメンバーでリーダー格のボーカリスト、アンソニー・キーディスはダライ・ラマ師の信奉者でベジタリアン。プライベートでインドにも行っているらしい。なるほどという感じだ。
 音楽的にもドラマーのチャド・スミスはインド的グルーヴの先輩格であるレッド・ツェッペリンのドラマー、ジョン・ボーナムからの影響が著しいし、ギターやベースを含めたサウンドにしても、強烈なパワフルさとともにインド古典音楽にも似た奔放なグルーヴ感が横溢している。

最新作も含め最近の作品では、内省的な歌詞と、無駄をそぎ落とし、しかもなお饒舌という高度な音づくりが目立つ。ボリウッド映画音楽からインド古典音楽へと嗜好が変化していくような変貌ぶりが心地よい。

インドとロックの素敵な関係を継承する彼らの動向には、今後も目が離せないだろう。

                                             (「インド通信」原稿を一部改変)





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