カレーな食材図鑑

第9回 トマトはおいしいサポート役


 できあがったカレーが今ひとつおいしくない。味がのっていないというか、コクがないという感じ。そんなときは、生トマトの粗みじん切りをひとつかみ加えてみることだ。しばらくすると、グッと味がアップしているのに気づくはず。トマトはインドカレーにとって、じつに重宝なアイテムといえる。

 もともとトマトは南米原産、インド亜大陸にはなかった野菜だ。だから今でもトマトを使わないカレー(それらの多くは日本に紹介されていない)がインドにはたくさんある一方で、トマトをうまく使ったカレー(やはり、それらの多くは日本に紹介されていない)もインド亜大陸全土にしっかりとその根を降ろしている。
 表層的な食文化のイメージがずいぶん異なるイタリアとじつは同じように(イタリア料理にとってもトマトは新大陸からの外来野菜だったはずだ)、今やトマトなしではインドの食卓は成り立たない。それくらいに重要な食材なのである。

 本場の代表的なカレークッキングでは、たとえば、たまねぎ、しょうが、にんにくを炒め合わせた後、たまねぎと同量程度の生トマトを加えてつぶすように炒めたところに、ターメリック、カイエン・ペパー、コリアンダーといったスパイスと塩、さらに少量の水を入れ、さらに炒め煮する。するとスパイシーなトマトソース状のものができあがるわけだ。
 これが「マサラ(マサーラー)」と呼ばれるカレーのベースである。
 このマサラに主材料と適量の水を加えて煮込むことでインド流のカレーが完成する。よってカレーのおいしさはベースとなるマサラの良し悪しに左右されるところ大ということになる。
 マサラの各パーツをひとつにつなぐためにもトマトの役割は大きい。トマトが出しゃばりすぎると、カレーらしい風味が失せて、間抜けなトマトソースのようになるし、少ないと味がまとまらず、うまみもまるで出てこない。

 ほかの野菜にはまねのできない独特のうまみと食欲を誘う酸味。これこそがトマトの持ち味だろう。野菜カレーでは、だしやスープストックを使わないところの「うまみ」をトマトが補ってくれる。肉カレーの場合、肉自体のうまみをさらにトマトでどのように引き出すかが、ひとつの大きなポイントとなる。

 インドでは、一年を通して味と香りともに十分な生トマトが安価で手に入るのでよいが、日本ではそうもいかない。だからトマトベースのマサラづくりにはホールトマトを使ったほうがおいしいし、安上がりだ。
 ただしホールトマトは味が濃いので、生トマト1カップ分に対して半量程度の1/2カップ分に換算して使うといい。

 本場のインドカレーは汁気たっぷりの煮込みタイプだけではない。汁気少なめの蒸し煮カレーもあるし、各材料をサックリと炒め合わせるだけの汁なしカレーだってある。
 こうしたカレーにもよくトマトを使うが、ホールトマトでは風味が強すぎるとともに汁気がありすぎて不適。そこで生のトマトを粗みじん切りにして使う。そんなときは、とりわけできるだけ完熟か、それに近いものを使いたい。

 生トマトの活用法はほかにもいろいろある。
 お客様へのおもてなしとしてインドカレーを出すとき、細かく刻んだトマトをできあがったカレーの上にトッピングしてみよう。
 ちょっとしたことだが、いつものカレーがグッとゴージャスになる。本場の高級なレストランやホテルでもよくやる手だ。

 生トマトを具にしたトマトカレーというのもインドにはあるし、おいしいトマトスープだって本場のインド料理ではお手のもの。
 インドカレーに使う野菜でナンバーワンの活躍をしているのは、じつはたまねぎではなく、トマトかもしれない。

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