カレーな食材図鑑

第7回 ショウガとニンニク

 日本の台所で、ショウガとニンニクは香味香辛野菜の代表として、和洋中そしてエスニックといたる場面で出番が多い。それは本場インドのカレー調理でも同様だ。
 ここでは日本でインドカレーをじょうずに再現する際、お役に立ちそうな両者の用い方について、かんたんに説明してみたい。

【ショウガの使い方】
 本場のインド料理では、ショウガはタマネギやニンニクよりも活用の頻度が高い。なぜなら厳格なベジタリアンの場合、日本の一部精進同様、ショウガは使っていもいいが、においが強く活力に満ちたタマネギとニンニクは食べないということがよくあるからだ。
 シンプルながらも汎用性が高いのは、すりおろして使う方法である。無論、おろし金を使えばかんたんだ。すりおろしたショウガは、たいてい油でタマネギやニンニク、スパイスなどといっしょに炒め、十分に香りを引き出す。
 みじん切りにして使うこともある。すりおろしよりも食感が強調され、炒め物やサラダっぽいメニュー(たとえば、ゆでたひよこ豆にショウガのみじん切り、さらにはやはりチョップしたトマト、タマネギ、青唐辛子かピーマン、香菜などをミックスし、塩、レモン汁、ブラック・ペパーかカイエン・ペパーで調味すれば、おいしい露天風のスナックができあがる)に使うと威力を発揮する。
 そうした一方、中華風の煮込み料理やスープのようにショウガをスライスして用いるのは、チャイやジンジャー・ライムのドリンクをつくるときなど、インドでは意外に少数派。
 拙著『ごちそうはバナナの葉の上に』等に出ている使い方として、ショウガを青唐辛子やクミン・シード、あるいはココナッツのフレークといっしょにミキサーに入れ、少量の水を加えてドロドロのペーストにするというのもある。やや高等な調理法といえようか。
 北インドを中心としたレストランでは、千切りのショウガをたっぷり用意しておき、完成したカレーに散らしてデコレーションする。日本のインド料理レストランでもよく見かけるはず。かんたんにまねができ、とくに肉を使ったカレーなどサッパリとおいしくなる。大いに利用したいテクニックのひとつだ。
 香りを最大限に活用するため、インドでは、いずれの場合も極力皮はむかずに使うのがいいとされることをいい添えておこう。

【ニンニクの使い方】
 インドでは、ショウガ同様すりおろして使うほか、みじん切り(日本よりもかなりデカい「超粗みじん」が多い)やスライス、あるいは皮をとっただけの丸ごとをそのまま炒めたり、カレーに入れて煮込んだりもする。フレンチやイタリアンのように中の芯や芽の部分をとるということは、現地ではしないのがふつうだ。
 とくに南インドでは、ニンニクをきかせたスープ状のカレー「ラッサム」、豪快に粗みじん切りにしたニンニクをたっぷり入れた「チキンのチェティナド風マサラ」、あるいはニンニクそのものを具にしたカレーやチャトニなど、ニンニクを効果的に使った料理が多い。

【かんたんでおいしいニンニク・カレーのつくり方】
 皮をむいて2カップ分ぐらいのニンニクを用意したら、フライパンに少量のサラダ油を引き、そこで表面がやや茶色になるまでじっくりころがしながら炒める。それを『カレーな薬膳』138ページに掲載されている「ゆで卵のカレー」のソースでサッと煮てみよう。トマトの酸味とココナッツの甘味がニンニクのホクホク感とマッチしておいしい。ニンニクを炒めず、油で素揚げしてから入れても美味だし、生のまま、じっくりとゆで卵のカレーソースで煮てもいい(このとき、煮つまりを防ぐため、少しずつお湯を足すといい)。

【ジンジャー・ガーリック・ペーストについて】
 拙著『誰も知らないインド料理』にそのつくり方と具体的な活用メニューを載せたが、とくにレストラン流のカレー調理に威力を発揮するのが、「ジンジャー・ガーリック・ペースト(ガーリック・ジンジャー・ペーストともいう)」である。
 つくり方はかんたん。皮をむいたニンニク1房分(1ヶではない)と同量のスライスしたショウガを用意し、それをミキサーに入れる。ニンニクとショウガの入ったところより半量の目盛り弱の水を加えたら、なめらかなペーストになるまでミキシングしてできあがりだ。
 チキンやマトンのカレー、さらには野菜やシーフードなども使い、より濃厚でぜいたくに仕上げた各種の「マサラ」など(『カレーな薬膳』ほかにレシピあり)、随所でこのペーストは活躍する。
 中華や西洋料理にも使える上、日が経つと色が緑っぽく変わるものの一週間から10日は保存がきくので重宝だ。



ショウガとニンニクの風味を生かしたシンプル・メニュー

《レシピ》ニンニク・ショウガ風味のポテト・カレー

材料(4人分)
皮をむいて乱切りにしたジャガイモ 4カップ分、ニンニク1ヶのすりおろし、同量のショウガすりおろし、サラダ油 小さじ3、塩 小さじ1前後、お湯か水 2カップ程度
《ホール・スパイス》
クミン・シード 小さじ1
《パウダー・スパイス》
ターメリック 小さじ1/4、カイエン・ペパー 小さじ1、コリアンダー 小さじ1、クミン・パウダー 小さじ1

【下ごしらえ】
@ジャガイモは皮をむき、2センチ角程度の乱切りにする。
Aまずニンニク1ヶをおろし金ですりおろし、それと同量になるようショウガをすりおろす。両方をひとつの器に入れ、軽く混ぜ合わせておく。

【調理】
@厚手の鍋を用意し、火をつけたら、サラダ油を入れる。
Aすぐにクミン・シードを加え、弱めの中火でこがさぬようにして加熱する。
Bクミン・シードの色が少し濃くなったら、ジャガイモを加える。
C火加減を少し強め、油をからめるようにして1分程度炒める。
Dニンニクとショウガのすりおろしを加えたら、再び火加減を少し落とし、さらに1分ほど炒める。
Eこげつき防止にお湯か水をひとたらししたら、完全に弱火まで火を落とし、パウダー・スパイスと塩を加え、1分程度炒める。
F火を中火まで上げ、お湯か水2カップ弱を足す。
G沸騰したら弱火にし、ジャガイモに火が通るまでふたをして煮込む。
Hジャガイモがやわらかくなったらできあがりだ。塩加減をチェックしよう。

【おいしい組み合わせ】
 本場では、ごはんよりプーリ(全粒粉の無発酵生地を薄くのばして揚げたもの。調理直後プクッとふくらんでいるのがふつう)などのパン類に合うとされる。でも、ごはんで食べてもおいしい。

 このレシピでは、思いのほかニンニクのきいた仕上がりに感じるかもしれない。ニンニクを省略し、ショウガを倍量にすればショウガ風味になるし、ショウガを入れずにニンニク1片のすりおろしだけで仕上げれば、ニンニク風味のポテト・カレーになる。
 お湯や水の量、あるいは火加減次第でポテポテからシャバシャバまで、さまざまな仕上がりになるのもおもしろい。何度か試して、お好きな具合を見つけてほしい。
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