カレーな食材図鑑

第5回 赤唐辛子粉

 最近は脂肪燃焼の効果から、ダイエット食材としても注目される唐辛子。
 もともと血行をよくし、冷え性や肉体疲労、食欲不振などによく効くことから、アジアやアフリカ、南米など熱帯性気候の各国から韓国や中国北部など寒さの厳しい地域まで、世界各地で唐辛子は広く使われる。
 われわれ日本人も暑い夏や寒い冬、あるいは季節の変わり目など、体調管理につまずきやすい時季に、とりわけじょうずに活用したいスパイスのひとつだ。

 赤唐辛子粉は「カイエン・ペパー」「レッド・ペパー」といった名称で市販されている。いわば外国の一味唐辛子だが、和風の一味よりもさらに粒子の細かいのがふつうである。

 一方、カイエン・ペパーやレッド・ペパーと間違えやすいのが「チリ・パウダー」というスパイス。
 これは赤唐辛子粉にクミンやオレガノなどの粉末をミックスした、いわば西洋版七味唐辛子である。よく見ると、色も赤というよりはやや茶色ががっている。これをカイエン・ペパーのつもりで使うと、どうも首をかしげるできあがりになる。絶対にインドカレーにこれを使ってはならない。急いでよく確認せずに買うと失敗する。要注意だ(ただし、一部国内ブランドには、「チリ・パウダー」という名前で正真正銘のカイエン・ペパーを売っているところがある。ややこしい)。

 赤唐辛子粉を文字通り、単なる唐辛子の粉末ということで軽く見てはいけない。
 なるほどインドカレーにおけるカイエン・ペパーやレッド・ペパーの主たる役割は辛味づけだ。しかし素材に辛さを付与するだけでなく、素材の持つうまみやコクも増幅してくれるのである。

 とくに忘れていけないのは赤唐辛子粉と塩の相性。
 両者の量的バランスが相まってピタリと波長が合うと、辛味とうまみがグッと前面に出てくるのだ(「インド料理では味つけの標準は塩と赤唐辛子粉が同量」と憶えておくと、比較的失敗しないだろう)。

 さらに、唐辛子の辛味はレモンやライム、酢、タマリンドといった酸味ともよくマッチする。インド料理はもちろんのこと、トムヤムクンやヤムウンセン、ソムタムなどに代表されるタイ料理も、唐辛子と酸味の相性をうまく引き出した料理体系の典型だろう。

 実際にカイエン・ペパーやレッド・ペパーを使うときは、使用する量だけではなく料理に入れるタイミングを変えることで、カレーの辛さと風味を変化させることができる。
 
 おなじ小さじ1のカイエン・ペパーでも、より鋭角的な辛味を強調したければ、まずレシピ通りのタイミングで(たいていは調理の前半部)、半量の小さじ1/2だけを入れ、できあがり前に残りの半量を加えれば、辛味のエッジが立った感じに仕上がる。要は投入を最後にすればするほど、鋭角的な風味になるわけだ。

 ただし逆にいえば、後になればなるほど、ほかの材料となじまない「生の状態」のままになりやすい。カイエン・ペパーを加えたら、最低でも一煮立ちさせるなりして、きちんと火を入れること。そうしないと、料理全体が粉っぽかったり、辛味が浮いた感じになってしまう。
 
赤唐辛子粉の風味を生かしたシンプル・メニュー

ジャガイモのチリ炒め、レモンがけ

材料(副菜として4人分)
ジャガイモ6ヶ、サラダ油 大さじ3〜4、塩 小さじ1/2、レモン汁 少々
《パウダー・スパイス》
カイエン・ペパーやレッド・ペパー 小さじ1/2

下準備
@ジャガイモは皮をむき、1センチ以下の角切りにする(生のまま炒めるので、あまり大きいと火が通らない)。
Aボールにカットしたジャガイモを入れ、カイエン・ペパーの半量、レモン汁少々をふりかけたら、手でよくもみ込むようにしてそのまま10分ほど放置し、味をなじませる。

調理
@中華なべかフライパンを中火にしたら、サラダ油を入れ、鍋肌全体になじませる。
Aボールのジャガイモを鍋に入れる。ボールの底には水気がたまっているはず。その水分は入れないようにしよう。
B鍋全体を底から返すようにしながら、オイルとジャガイモがよくなじむよう、しばらく炒める。。
Cジャガイモ全体にオイルが回ってツヤが出たら、弱火にし、ふたをしながら蒸し煮にする。底がくっつきやすいので、ときどきかきまぜること。どうしてもくっつきそうなら、お湯か水を一度に大さじ2〜3程度差しながら蒸し煮にする。
Dジャガイモに火が通ったら、残りのカイエン・ペパーと塩を加え、ふたをとったまま全体をザックリと返すようにして、さらに1〜2分炒め合わせる。汁気が鍋底に残っていたら、火加減を強めて水分をとばそう。
E火を止め、さらにレモン汁少々をジャガイモの上からふりかけ、全体をサックリ混ぜたらできあがり。レモン汁はあくまでかくし味程度。しかし、レモン汁をかけることで全体の風味が前に出てくる。

おいしさのポイント
・白いごはんを用意し、よく混ぜ込んで食べると不思議なおいしさだ。
・辛さと塩加減はともにしっかりきかせたい。
・ビールのおつまみにも最適だ。

 これは南インドのポテト・ロースト・カレーをシンプルにアレンジしたもの。カイエン・ペパーと塩、レモン汁の合体から、新たなおいしさが見出せるはずだ。

 
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