カレーな食材図鑑

第4回 ターメリック

 ターメリックの黄色はヒンドゥ教徒にとって最高におめでたい吉祥の色。全世界に広がるカレー粉の黄色も、このターメリックがあるからこそだ。
 日本では黄色の染料や漢方生薬の「うこん」の名でも知られている。
 防腐、消炎、浄血作用などのほか止血効果もあるので、インド料理店の厨房では、ちょっと指先を切ったときなどターメリックを傷口にすり込んで処置する。すぐにピタリと血が止まり、雑菌の侵入も防いでくれるから、傷の治りもはやい。

 さまざまな形でカレーやインド料理に関連のあるターメリックだが、とくに初心者が調理に用いる際、もっとも注意を要するスパイスのひとつである。

 実際、ターメリックを入れすぎる日本人がじつに多い。
 入れすぎるとどうなるか?
 ターメリック本来のきれいな黄色がくすんでしまう。風味もよくない。粉っぽさに似た妙な感覚が舌に残るのだ。
 すべてのスパイスにいえることだが、ことさらターメリックに関しては入れすぎるととりかえしがつかず、目も当てられない。

 適量かどうかは、たとえば私の本を参照するか、あるいはご自分の目で確かめることである。ターメリックを加えてからサッと鍋をかきまわし、各材料やカレーのグレービーが薄い黄色に染まればオーケーだ。4人分のチキンカレーならば、小さじ1/4から1/2でいいだろう(経験則からいえば、南インド流のカレーのほうが使用量は多めだ)。ずいぶんと少ない感じだが、これで風味や色づけの機能をりっぱに果たしている。

 肝心なのは、料理に入れたターメリックの黄色がはっきりと冴えてくるのに、やや時間のかかることである。
 だから、投入した瞬間の印象だけで「色の出がわるいなあ」と思い、さらにターメリックを加えるとすでにもう入れすぎなんてことが多々ある。時間の経過とともに、必要以上にターメリックが自己主張しはじめ、料理全体のバランスを崩してしまうのだ。

 しかも困ったことに、ターメリックは、塩のように仕上げでの調整が効かない。ターメリックが少ないと感じて調理の最後で継ぎ足すと、できあがりがやたらと粉っぽくなるのは、ターメリックを入れすぎたときと同様の「困った症状」である。

 すべてのスパイスにいえることだが、とくにターメリックについては少なめを心がけるべき。さらには、ターメリックはスパイス類の中でも最初に入れるクセをつけることだ。

 インドの名料理人がつくったカレーは、どれもターメリックの黄色が出しゃばっていないのである。

ターメリックの風味を生かしたシンプル・メニュー

切り身魚のソテー、ターメリック風味

材料(4人分)
魚の切り身4枚(メカジキ、黒ムツ、タラ、スズキ、鮭などお好みで)、サラダ油 大さじ2、塩 適宜、レモン汁 少々
《パウダー・スパイス》
ターメリック 小さじ1/4

下準備
@魚の切り身は一度サッと水洗いしてから、一口大の食べやすいサイズにカットし、ボールやバットに入れる。
Aレモン汁を切り身全体にまわしかけたら、そのまま10分から15分放置する。
B時間が経過したら、ペーパータオルなどで余分な水分をふきとり、別の容器に移して、今度は分量のターメリックと塩適宜を全体にまぶしつける。

調理
@中華なべかフライパンを中火にしてサラダ油を入れ、鍋肌全体になじませる。
Aターメリックと塩をまぶした魚の切り身を入れ、全体をきれいに焼き上げる。
B中まで火が通ったらできあがり。パサつかないように仕上げよう。
C器に盛りつけ、ふたたびレモン汁をかけて召し上がれ。

おいしさのポイント
・トマト、きゅうり、ピーマン、セロリといった夏野菜を1センチ程度の角切りにして、塩、レモン汁、オリーブオイル、あればイタリアン・パセリかフレッシュのディルで和えたトルコ風のサラダなどとごいっしょに。
・焼くときに、にんにくのスライスやみじん切り、あるいはしょうがのすりおろし、種を抜いたたかのつめなどを油に加えてもいい。
・サラダ油をバターやギー、オリーブオイルにしても美味である。

 ほんのり黄色に染まった魚を食べてみても、最初は特段味の変化を感じないかもしれない。しかし、もしターメリックなしのものと比較できるならば、やはり両者には歴然とした差のあることがわかるはず。ターメリックの風味とは本来そんなものだ。

 
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