カレーな食材図鑑
第1回 香菜

 香菜、コリアンダー、パクチー、シャンツァイ、シアントロ。どれもおなじ香草を指すわけだが、ともかくこれほど好き嫌いがはっきりと別れ、しかもいったん好きになったら、病みつきといえるくらいに人を熱中させる食材もめずらしい。
 北インドではダニヤdhaniya、南インドではコッタマリkothamalliなどとも呼ばれるコリアンダー・リーフについては、独特の香りや味への興味ばかりが先行して、その豊かな栄養や効用について語られることがあまりない。
 香菜にはビタミンCが豊富に含まれ、かぜや肌荒れ、便秘、虚弱や疲労などに多大な効果がある。
 インドでは発熱、目の疲れ、皮膚炎や発疹、ぜんそく、のどの痛みや吐き気などに効くとされるし、中国では、かぜのひきはじめにたっぷりの香菜をぶちこんだ熱いスープを飲むといった話も聞く。香りが人をとりこにするだけではなく、じつはたいへん体にもいい食材であるのだ。
 本場のインド料理では、きざんだ香菜の葉をできあがったカレーの上にパラリとあしらうだけといった狭量な使い方はしない。
 味つけのための最重要な素材のひとつとして、コリアンダーの葉、茎、さらには根の部分まで捨てずにふんだんに用意して、きざんだりちぎったりしながら、たまねぎやトマト、スパイス類といっしょに炒めたり煮込んだりする。コリアンダーだらけで緑色をしたカレーもあるくらいだ。
 さらには、スパイスやココナッツ、ヨーグルトなどとともにすりつぶしチャトニと呼ばれるたれやソース代わりの料理もつくるし、ペーストにした香菜を肉にまぶして焼いたり、魚の切り身に塗りつけて蒸したりもする。ともあれ、調理の場における活躍の場はみなさんの想像以上に広いのである。本サイトでも、あればぜひとも使っていただきたいという思いを込めながら、ほとんどのレシピに香菜を登場させている。手に入る方はどんどん活用していただきたい。
 さて、写真はチェンナイのノンベジ屋台を撮ったものだ。左の片隅にかすかに見えるのは卵で、左奥のボールに入っているのはパラタと呼ばれるパンの一種をちぎったもの。そして、バットに入っているのは、赤たまねぎとそのみじん切り、トマト、青唐辛子とその輪切り、そしてグリーンに見える部分の多くは香菜をチョップしたものである。
 じつはこのセッティングの横には鉄板がある。オーダーが入ると鉄板の上で卵とちぎったパラタ、たまねぎ、トマト、青唐辛子、そしてこれでもかとばかりのたっぷりな香菜をミックスして炒めるのだ。日本でいえば屋台のソース焼きそばやお好み焼きを想像していただければいいだろう。エッグ・パラタと呼ばれる南インドならではのノンベジ軽食のできあがりである。一口食べれば香菜の風味が鼻と舌を絶妙に刺激してくれる。もちろんコリアンダーなしではイマイチおいしくない。
 タイやベトナム、あるいは中国料理などと同等、コリアンダーは本場インドの味に欠かせない食材の代表である。
                                                                        (2003.4.27)


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