日本式インド料理の味わい方

第8回 私的東京のインド料理店味めぐり 2004年夏から秋編〜ナーンのおいしさに着目してみた

 
 みなさんがインドカレーのお店に足を運ぶ際、お店選びのポイントとして、ナーンNAAN(あるいはナン)のおいしさははずせないだろう。
 私にしても、たとえ元来ナーンを重要視しない南インド料理店であっても、ひとたびメニューに「ナーン」があれば、それは店を評価する上できわめて重要な要件だと考えている。

 そんなわけで、今年の夏から、とりわけナーンのおいしさに神経を使いつつ、都内のいくつかのインド料理店を食べ歩いてみた。
 たまたま入ったところもあれば、評判を聞いて食べに行ったところもある。動機はさまざまだが、食べてみてわかったのは「カレーとナーン両方がおいしい店って、思いのほか少ないな」ということである。
 
 おいしいナーンの私なりの定義については、ここにくわしく書いた

 かんたんにいえば
@右手指でちぎれるやわらかさで、口に入れたときモチモチとした弾力がある。しかも切れのある軽い食感(やたら硬かったり、バサバサはペケ。ただやわらかでフニャフニャもダメだ)。
Aカレーをつけずとも、それ自体がおいしい(甘味や塩味はおろか、味がまるでないというナーンは意外に多い)。
Bもちろんカレーとの相性もいいこと。カレーにつけて食べてみて、相乗効果的に両方のおいしさが互いにうまく引き出されていないといけない。
 といった点に集約されるだろう。

 こうしたポイント自体に異論のある方もいらっしゃるはず。味覚は人それぞれだ。そういう方はご自分自身の舌を信頼すればいい。このレポートはあくまで私の主観である。
 それでは、都内ナーンの味めぐりに出発しよう。


【ケース1】おすすめ! 麹町「アジャンタ」(04.9.2)
「Cペアランチ(1500円)」で食べたナーン。
形も美しく、私の考えるおいしいナーンの定義を見事なまでに体現している。右手でちぎれるやわらかさ、かみしめたときのサクッとした切れとモチモチとした弾力、カレーをつけずともほのかな甘味があっておいしく、もちろんカレーとの相性もバッチリ。これで小麦粉がよりインドっぽく、少し精製度合いが低くなれば、インドで名店とされるムスリムのレストランとまるで同じ。さめてもおいしく、そうした意味でも逸品でもある。
後ろのカレーは右が「サグ・マトン(マトンとほうれんそうのカレー)」、右は「ムング・ダール(南インド風にカレー・リーフも入っている)」。とにかく今、東京でもっともおいしいナーンのひとつだ。

【ケース2】おすすめ! 「アジャンタ」カレッタ汐留店(04.9.22)
同じ「アジャンタ」の汐留カレッタにある支店の「Cペアランチ(1500円)」で食べたナーン。これまた定義を満たして、十分においしく、麹町店同様に形も美しかった。インド料理レストランの場合、同じ店でも場所が異なると料理の質も変わりがちだが、アジャンタ両店のナーンに関しては安心して食べられる。
ナーンの上にのっているのは「タンドゥーリ・チキン」の一部だ。
ここでも、カレーは左が「サグ・マトン」、右は「ムング・ダール」。ガラス瓶はオニオン・アチャールで、左奥のドリンクは「マンゴー・ラッシー」。


【ケース3】おすすめ! 市川「サプナ」(04.6.17)
代わって、これは東京ではなく千葉県のお店。JR市川駅前にある「サプナSAPNA」の「スペシャル・ランチ」(1580円)。この店のナーンもまたバッチリおいしかった。
それも道理で、この店の若きシェフふたりの先輩に当たるのが、アジャンタ各店でナーンを焼くシェフたちなのだ。
ナーンの上、左にチョコンと見えるのが「ムルギ・シーク・カバブ(チキンのシークカバブ)」、右が「タングリ・カバブ(チキンのドラムスティックのタンドゥール焼き)」。これらのカバブ類もおいしかった。
カレーは左から、マトンカレー、サンバル、チキンカレー。プラオとサラダ、チャイもついた。


【ケース4】 御徒町にて(04.8.13)
8月に食べたアメ横近くの店Aのランチ(900円)。見ての通りナーンと「チキンティッカ」の焼き目がやけに強い。ナーンはフワフワとしてなかなかいい味だっただけに惜しい。「シーク・カバブ(マトン)」「サグ・チキン(骨なしチキンとほうれんそうのカレー)」も、店頭に置かれたやや怪しげなメニュー看板よりは、はるかにきちんとしたものだった。
一方、私の知り合いのシェフには「以前行ったけど、ウーム…」というコメントの人もいる。
平日の14時前に行ったが、お店は大盛況。人気があるお店のようだった。

【ケース5】中野にて(04.8.18)
8月に食べた中野Pのランチ・ブッフェ(850円)。
カットしたナーンはペラペラで甘めの味つけ。見た目よりバサつきはなく固くもなかったが、印象に残らない。少なくとも御徒町の方がおいしかった。
カレーは左が「チャナ・ダール」、右は「アル・ビンディ(ポテトとオクラ)」。
とにかくブッフェ・カウンターの周囲が汚いのと、サービスが最悪で閉口。二度と行かない。







【ケース6】高田馬場にて(04.8.19)
皿からはみ出て食べづらいので、思わず折り曲げてしまった(私はよくこうしてから食べはじめる)。
8月、私の好きな「鳥安」本店のある飲み屋街にある店Gのランチ(680円)にて。
ナーンを焼く場合、手などで木の葉状に広げた生地を布製パットにのせてタンドゥールに貼り付けるパターン(私はこのやり方)と、生地をパットなしの素手で貼り付けるやり方があるが、この店は後者(これだと細長いナーンになり、手の指の跡がうっすら残るのが特徴)。
フワフワと弾力ある食べ口のナーンは、激安店ながら味・食感とも好感が持てた。単品でも170円だというから、十分お買い得だろう。

【ケース7】大塚にて(04.8.20)
パキスタン系インド料理店Sのランチ(850円)。
やはり、かなり大きなナーンだ。1人前のドウ(生地を丸めたもの)は200グラム程度か。フワフワした食感でやわらかめだ。味もなかなか。
カレーは骨なしマトン。トマトベースでカシューナッツも少々使われているだろう。濃いブラウンで風味もいいが、しょうがの千切りとともに「わけぎ」の小口切りがトッピングされているのが個人的にマイナスである(ちゃんと香菜を使っていただきたい)。


【ケース8】西麻布にて(04.8.24)
六本木から西麻布の交差点まで歩いて、ちょっとのところにあるお店Kのランチ(900円)。インドのタージホテルにいたシェフがひとりで切り盛りしていた。
カメラのアングルもあるが、やたら丸っこい感じのナーンである。味はやや甘め、フンワリとしてしかも弾力ある仕上がりで、カレーとの相性もよかった。
いっしょに食べた、揚げ気味に炒めたたまねぎとトマトがベースの骨なしチキンカレーは濃い茶色をしており、濃厚かつスパイシー。なかなかイケた。もうひとつの「なすのカレー」というのも、おいしそうだった。

【ケース9】高円寺にて(04.9.6)
北口にあるIというお店。野菜カレーとナーン、それにサラダ(これがスゴくて、生ワカメ、オニオンアチャール、キャベツの千切りなどをいっしょくたにして、サウザン・ドレッシングがかけてあった)、チャイのランチ(894円)。
ペラペラで手応えのないナーンだった。味も香りも薄い。カレーも特徴がなく、わけぎのせ。チャイが薄くて無味。


【ケース10】江古田にて(04.9.16)
駅前にあるお店S。カレー2種類とタングリ・カバブ、サラダ、ライスとナーン、ドリンクなどのランチセット(1140円)。
全体にていねいなつくりで見た目もきれい。「チキンとオクラ」「野菜」の各カレーが私好みの味つけだった一方、ナーンはやや固く、右手指だけではちぎることができなかった。


【ケース11】大久保にて(04.9.24)
大久保通り沿いの「屋台村」にあるインド料理店(バングラ系?)のランチ(880円)。
トマトベースのマトンカレーと供されたナーンはペラペラで味がなく、あまり私の好きなタイプではなかった。むしろ、写真ではナーンの下にほとんど隠れている「イエローライス」の方がおいしく感じられた。


【ケース12】青山にて(04.10.8)
表参道駅近くのGというお店のランチ(900円)から。
ここも手で直接貼り付けるタイプのナーン。形はイマイチだが、やわらかでモチモチとした弾力もあり、風味もなかなか。
いっしょにオーダーした野菜カレーはカスリ・メティも入り、スパイシーかつホットな出来映え。ポテト、にんじん、いんげん、グリンピースといった具材のほか、どういうわけかマッシュルームも加えてあるのが、個人的にはマイナスだった。


【ケース13】阿佐ヶ谷にて(04.10.20)

駅前にあるネパール系のインド料理店Kの2種類カレーがついたランチ(900円)。
ナーンの下側にサラダのサウザン・ドレッシングがベッタリとくっついた状態で運ばれてきた。写真でわかるだろうか。
写真では大きそうだが、ナーンのサイズは小さい。バサつきがあり固く、うまみやコクにも欠けた。
チキンと野菜のカレーもぞんざいな感じだったし、「サフラン・ライス」というのも、実際はターメリック使用。
この店も二度と訪れることはないと思った。


【ケース14】西荻窪にて(04.11.5)
私のホームグラウンドにあって、なかなかの評判だというお店Gのランチ(945円)。
店内にネパール音楽が流れているので、スタッフの方に聞いたら、こちらもネパール系だった。
ナーンは素手タイプ。正直、味がなくてあまりおいしいと思えない。食感はやわらかだが、腰がなくものたりなかった。
「チキン」「アル・ゴビ」という2種のカレーの味わいも凡庸だったが、ディナーのスナックメニューには、ネパール系も含め、おもしろそうなものがあった。
今度は夜行ってみようか。

【ケース15】吉祥寺にて(04.11.9)
またもネパール系のお店Nのランチ(840円)より。
細長いが、ここは素手ではなく、パットを使って貼り付けるナーン。
モチモチとして弾力もあり、やわらか。ただ、なぜか塩が強かったのが玉にキズ。
一方、手前の「ダール」が皮つきウラド・ダールとチャナ・ダールのミックスで、純然たるインドカレー店のダールとは一線を画するおいしさで印象に残った。
ここは、上のネパール系店より、さらにディナーメニューのスナックにおもしろそうなものが多かった。やはり夜、再調査が必要かも。

【番外編】青山にて(04.8月上旬)
この夏、表参道駅近くに新規オープンした高級店Sのランチセットから(1000円)。
見た感じでもそれとなくわかるかもしれないが、これまで見てきたナーンとは別の系列に属するものである。本場に行くと食べられるが、日本で供されるのはめずらしいタイプだ。
カレーは右が「ダヒワラ・ビンディ(ヨーグルト仕立てのオクラ・カレー)」、左は「皮つきウラド・ダール」。これらのカレーも目新しい。
料理のプレゼンテーションや店の内装等も含め、これまでになかった新しいコンセプトとスタイルのインド料理店といえよう。
 
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