日本式インド料理の味わい方

第7回 私がよく行く池袋のパキスタン料理店




「マトンダル」(日替わりカレー)とナーン、サラダのランチ・セット。


「サモサ」と「野菜のパコラ」。上のセットに追加した


ヨーグルトをベースににミントや青唐辛子などをミックスした「グリーン・チャトニ」
 大久保界隈と並んで、東京を代表するエスニックタウン、それが池袋だ。
 横浜の中華街以上に本格的な中国料理、オモニのつくるハートフルな韓国料理、ディープなタイやマレーシア料理、さらにはモンゴル料理なども食べられるこの街で、私がよく訪れるのは「インド料理」店ではなく、「パキスタン料理」店だ。

 ここで今さらながら、私がおすすめする店の基準を申し上げておこう。
・味があくまで本場風で、ブレが少ないこと。
・価格が妥当であること。
・サービスが的確であること。
・店が清潔であること。
 どれも当然といえば当然、当たり前のことだが、それらすべてをなかなか完遂できないのが飲食業の難しさでもある。

 この店、はっきり申し上げて料理の味自体はあくまで「まあまあ」である。
 私自身の評価であるとともに、パキスタン出身の方からも「スパイスをケチッている感じでフレーバーに欠ける」という意見を聞いている。なるほど、そう思わせることが多い。さらには、一年ごとぐらいに調理人がパキスタンのホテルと日本のこの店をはさんで交代するらしく、味が微妙に変化する。

 料理の味自体は「まあまあ」だが、店そのものの評価としては「なかなかいいのでは」というのが、私の考えでもある。
 なぜなら、料理そして店全体が何とも本場っぽいムードを醸し出しているからだ。

 たとえば、主にディナーに供される「チキン・カラヒ」や「マトン・カラヒ」というこの店の名物メニュー。たっぷりの肉をトマトやショウガ、青唐辛子、スパイスなどをミックスした濃厚なソースで蒸し煮のようにして調理するのがカラヒ(カライなどともいう)の醍醐味である(私の知るレシピでは、タマネギを使わないのが正統。また、もともとカラヒというのは「カレー」という意味ではなく、小さな両手式の中華鍋に似た調理鍋そのものの名前に由来する)。
 パキスタンから北インドにまたがるパンジャブ地方の代表的料理だが、本場ではショウガの千切りや青唐辛子、香菜を加えるほか、コリアンダー・シードを粗つぶしにしたものをしのばせることが多い(インドのパンジャブ料理でも、この「コリアンダー・シードの粗つぶし」はカレーのほか、サモサなどにもよく使われる)。私の知る限り、こうした点をきっちり踏襲しているし、もちろん味そのものもなかなか。ナーンではなく、タンドゥールで焼いた全粒粉の薄焼き丸パン「ローティ」で食べるのが、おすすめだ。

 またカレーやカバブの調理法やスパイス使いにおいても、インド料理とは異なる手法を用いている。大ざっぱにいえば、インドよりはシンプルなスパイスのバリエーションで仕上げていくのである。

 上の写真はランチタイムのセットメニューだが、まず「マトンダル」というカレー、これがいかにもムスリムくさい。マトンカレーとチャナ・ダルの煮込みをミックスするのだが、ただ混ぜるのではなく、それなりの調理法がある(ここでは割愛)。とりあえず絶対に南インドのヒンドゥ料理にはない、いかにもイスラム的なメニューなので、こういうのをここで出されると私はニンマリする。
 サモサ、あるいは野菜のてんぷらであるパコラも、インドのヒンドゥ流とは異なるスパイス使いで調理される。
 これらにサラダや食後のチャイがつき、おなかいっぱいになって、たしか900円のはず。これは安いと思う。

 じつは、何よりこの店のランチタイムで私が好きなのは、前述の揚げ物類、あるいはカバブに添えられる「グリーン・チャトニ」である。
 ミントや青唐辛子、ときには香菜をヨーグルトとともにすりつぶして仕上げるが(ココナッツがベースの南インドのチャトニとはかなり風味が異なる。サモサとの相性はこちらのほうが上だ)、運がよければザクロの実をいっしょにブレンドしたヤツに出会える。さらに本場流である。
 
 そもそも、今の日本ではパキスタンやバングラディシュ人経営の店の多くが半ば無理矢理「インド料理店」を名乗っているのに対し、この店は潔く、また誇りを持って「パキスタン料理店」を店の看板に掲げているのが何とも頼もしい。

 この店でもうひとつ記しておきたいのは、まともな「ビリヤニ」を食べられる点である(ビリヤニについては前回の記述を参照していただきたい)。

 日本米ではなく、高価で香り高いバスマティ・ライスをきちんと使い、メースやカルダモンなどのスパイスを混ぜて炊き込んだ「ビリヤニ・ライス」。そこにチキンやマトン、野菜カレーをフライパンでミックスして仕上げている。
 ほんとうは、ライスと具であるカレーを混ぜてから一定時間蒸し上げるのがビリヤニの真骨頂だが、本場のムスリム料理店でもこうした簡易なビリヤニを出すところもあるから、まあ、よしとしよう。とにかく日本のインド料理店ではめったに出さないビリヤニなので、そこは積極的に評価したい。

 最後に、この店では日本人よりもパキスタン人のお客様が圧倒的に多いこと、そしてオーナーの主義としてアルコールは供さないことを申し添えておく。



「マトン・ビリヤニ」。ゆで卵をトッピングするのもむこうでよくやる手。ランチならばドリンク付きで750円程度だったか。
 


これはきわめてめずらしい光景だ。すえつけ前の新品タンドゥールが店内に置いてあった。

  
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