日本式インド料理の味わい方


第4回 煮込んでいないのにトロトロのカレーソース


 インターネットには「カレー好き」な方のサイトも数多い。
 そうしたサイトでインド料理系の店舗レポートを拝見するとき、「カレーソースはよく煮込まれており、たまねぎの影も形も見えない」みたいな表現によくぶちあたる。

 はっきり申し上げて、そのカレーの多くは、よく煮込まれてたまねぎの形がなくなったのではない。単にミキサーで撹拌してつぶしただけである。

 だいたい、日本のインド料理店のカレーはお客様に出す直前、鍋でつくられることは案外少ない。代わりにフライパンでガシャガシャやってハイできあがり、というのがほとんどだ。

 こうしたカレー調理の基本原理は以下の通り。
@まず「グレービー」と呼ばれる基本の万能カレーベースを大量につくる。これはたまねぎにトマト、スパイスなどを鍋で炒めてから、すべてをミキサーにかけてドロドロにしたものだ。
Aで、具になる素材は別に炒めるか、ゆでるなどの下ごしらえをして、別の容器に保管しておく。
Bお客様のオーダーが入ると、フライパンをとりだし、そこでグレービーを適量と具材を混ぜて加熱。カシューナッツのペーストや生クリーム、少量のスパイス類や塩を足して、できあがりとなる。

 この方法の問題点は次のようなもの。
・チキンカレーであっても、素材の鶏肉は別調理。よってカレー全体に鶏肉のコクやうまみが十分にのらない。
・ミキサーがけのソースはそうしないソースよりも濃度が薄く、材料をケチることができる。しかも比較的長持ちするので経済的。その代わり、香りや風味が飛びやすく、おいしくない。
・飛んだ香りや風味を補うため、生クリームなどの濃厚な味を最後にどっと添加する傾向が強くなる。そのため、アンヘルシーで胃への負担も重いし、何より味がワンパターンに陥りがち。
・本来、素材をよく煮込むカレーはこの方式でうまくつくれないし、汁なしのカレーやダール類を使ったカレーも同様。そうしたカレーはインド亜大陸に山ほどあるのに、この方式では無理。日本のインド料理店でメニュー構成がかなり限定されるわけだ。

 ナンとタンドール料理、それにカレーとしては「バター・チキン」「チキン・ティッカ・マサラ」をメインとして置いてある「インド料理店」(カッコをつけたのは、インド人以外がやっていて、じつはパキスタンやバングラデシュの料理の方が得意なところもあるから)、あるいはたまねぎの見えないトロトロのカレーソース、生クリーム系のコッテリカレーばかりを出す店は、こうした調理をしていることが多い。

 もちろんインド本国にもこうした形態の店はたくさんある。しかし彼らの多くは、より変化に飛んだ素材の使いこなしや秘伝の味つけで、お客を飽きさせない努力をしている。当然ながら、そうでもしないと熾烈な競争に生き残れず、食っていけないからだ。
 その点、日本の一部インド料理店はあまりに安易である。客をなめていたり、料理に対するプライドのない連中も多い。

 料理には食べる方と素材双方に対する、愛情、心配り、敬意が重要だ。
 採算偏重で手抜きしやすい「フライパンカレー」はそうした考えとは対極に位置しやすいもの。要注意である。
 



 
南インドのミールスは日本のフライパンカレーとはかけ離れた世界のひとつ(写真はチェンナイのクリシュナ・ホテルのベジ・ミールス)。


 トップページへ戻る