日本式インド料理の味わい方

第3回 日本インド料理界の二大流派

 流派といういい方が適切かどうかは別にしても、中国料理における北京、上海、広東、四川の四大料理と同じような、調理スタイルごとの分類がインド料理にも可能なのをご存知だろうか?

 もっとも代表的なのが、パンジャブ料理である。
 パンジャブとはインド北西部からパキスタンにまたがった地域のこと。インド有数の穀倉地帯であると同時に、タンドールと呼ばれる土窯を使った料理の発祥地としても有名である。日本でおなじみのナンやタンドーリ・チキンはもともとパンジャブの名物料理なのだ。
 現在、日本にあるインド料理店のほとんどがタンドーリ・チキンに代表されるタンドールでのロースト料理とナンを主力メニューに組み込んでいるし、食べに行く側も、タンドールがなければインド料理にあらずという風潮が強い。それほどまでにパンジャブ料理は日本で絶大な力を誇っている。

 パンジャブ料理とともに日本のインド料理界を引っ張っているのが、ムガル料理だ。ムガルとはムガル帝国のこと。宮廷料理の流れを汲む料理法といわれている。
 サフランやカルダモン、メースといった高価なスパイスの豊かでエキゾティックな香りを大事にする一方、アーモンドやカシューナッツをすりつぶしたペーストをたっぷりカレーに加えたり、大量の生クリームを仕上げに使ったりする。ギーもたっぷり。つまりはリッチで濃厚な料理である。
 
 現在、日本のインド料理店はこれらニ系統の寡占状態にある。
 本場インドに行けばニ流派以外の素晴らしい料理が待ち構えているにも関わらず、こと日本では、それらはほぼ完全に無視された形だ。

 なぜ、パンジャブ料理とムガル料理だけが日本のインド料理として定着しているのか?
 かんたんにいえば、インド本国、とくにデリーやムンバイの一流ホテルや外国人も出入りする高級レストランのメニューが、パンジャブとムガル料理主体で構成されていること、日本に現地の料理人がやってくる場合、こうしたホテルやレストランから招聘されるのがふつうであること、さらには、日本におけるインド料理店経営者(多くは非日本人)が「インドの高級店と同様、パンジャブやムガル料理を出しておけば無難に儲けられるだろう」と妄信していることなどが、主な理由として考えられる(こうしたメカニズムについては拙著『誰も知らないインド料理』にくわしい)。

 インド料理店で食事をした後、胃がもたれるという感覚を持った方も少なくないだろう。レストラン式のパンジャブやムガル料理にそうしたメニューが多いのも、ひとつの事実ではある。
 しかし、インドに行けばそうしたカレーもあるものの、同時にサッパリアッサリ系の未知なる美味にもたくさん遭遇できることを、ぜひ憶えておいていただきたい。
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