Taste of India

第7話 辛さに弱いインド人はいるか


 人を困らせたいのか、たまにこういうことを聞いてくる方がいる。
 辛さの基準があくまで個人的レベルであることからすれば、少なくとも辛味への適応力が私と同程度、あるいはへたすると私以下と思われるインド人は実際にいる。ちなみに私自身、日本人のうちめっぽう辛さに強いほうである自信はない(テレビの「激辛選手権」的番組には、とてもじゃないけれど出られません)。

 インドでは、離乳食レベルの乳幼児はともかく、日本でいえば幼稚園児ぐらいの子どもになれば右手だけうまく使って辛いカレーをたいらげるので、やはり小さいときから鍛えられているのだなとも思う。

 おなじインドでも、一年を通じて暑いマドラスなど南インドのほうが、デリーやボンベイ、カルカッタなどの北インドより相対的にカレーが辛い。やはり暑さというのはカレーの辛さに影響するらしい。
 だから、日本で働く名うてのインド人調理人たちも、夏場になればつい自然と唐辛子の量が増える傾向にある。

 いくら辛い辛いといっても、インド・カレーはタイ料理には遠くおよばない。タイの料理こそホットなことでは世界一だとずっと思っていた。
 が、ハイデラバードを中心とした南東インド、アーンドラ・プラデシュ州の料理を食べると、こうした認識を改めざるを得ない。
 
 とにかくアーンドラ料理には異常と思えるくらいに辛いものがある。私の場合、辛すぎて食べきれなかったのは唯一アーンドラ料理のレストランだけだ。そのとき、なかば放心状態で隣のテーブルを見たら、地元の人らしきおじさんがひとり、私とおなじ料理を平然とうまそうにたいらげているのが目に入った。驚きとともに、尊敬のまなざしでおじさんの顔をながめてしまったのを、今でもよく憶えている。

 さすがのインド人も、辛いものを敬遠するときがある。たとえば風邪をひいたときがそうだ。いったん風邪をひくと回復するまで何も食べないという人もいる。絶食して風邪を追いだすつもりらしい。
 また、腹具合がよくなかったり、体がだるいときもスパイスのきいたものは食べないという人が多い。見ていると、白いご飯に野菜とヨーグルトの和え物「ライタ」をかけて食べたりしている。

 インドの道ばたを歩いていると、のら犬やのら猫(余談ながら、人に飼われているものも含め、インドでは猫より犬のほうが圧倒的に数が多い気がする)が残飯をあさっている光景をよく目にする。さらにしげしげと観察するに、彼らはカレー味の残飯を平気な顔で食べている。
 もともと人の食べるものがほとんどみなスパイシーなのだから、その残飯もスパイシーなのは当たり前ではあるが、それにしてもという感じもする。インドでは犬も辛いものオーケーらしい。

 南インドに行くと、皿代わりのバナナの葉の上に各種カレーとご飯を盛り合わせたミールスという定食がある。食べ終わってカレー汁のベッタリついたバナナの葉が路上のゴミ入れに捨ててあるのを、道行く牛がめざとく見つけてムシャムシャとうまそうに食べているのを目撃する。
 どうやら南インドでは、犬どころか牛までもが辛いカレーを好きなのだ。                

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