Taste of India

第4話 北と南、まったく異なる料理世界


 
さまざまな民族文化に彩られた多様性の国家、インド。この深遠な国を大きく南北に分け、
ふたつの地域性として対比的に語ることは多い。

 南インドといったら、インド四大都市のひとつチェンナイ(旧マドラス)を擁する政治経済文化の中心タミル・ナドゥ州、風光明媚で独特の個性あふれるケララ州、激辛料理も多いアーンドラ・プラデーシュ州、ハイテク都市バンガロールや古都マイソールのあるカルナータカ州の四州をいう。
 だから、日本からの旅行者がよく訪れるアーグラー、ジャイプル、バラナシなどをはじめ、デリー、ムンバイ、コルカタ(旧カルカッタ)などすべて「北インド」ということになる。

 気候風土、文化、生活習慣から街の雰囲気、人の顔つきに至るまで北と南で異なることが多いが、料理や食文化についても同様である。まったくの別の料理体系が存在するように思われることもしばしばだ。

 まず誰にでもわかる大きな違いといえば、やはりカレーの辛さだろうか。
 総じて南のほうがストレートで、辛み自体もきつめに感じられることが多い
(これは、単に使っている唐辛子やこしょうの量が多いからといった
単純な理由からだけではない。念のため)。

 それからスパイスの使いこなし。
 北ではまずクミン・シードでオイルに香りをつけ、
仕上げにガラム・マサラの風味を付与することがよく行われる。
 南はクミンに加え、マスタード・シードやフェヌグリーク・シード(現地ではメティ・シードといわれる)、フェネル・シードを頻繁に使うし、ガラム・マサラ不要の料理もたいへん多い。代わりにサンバル・パウダーやラッサム・パウダー、チェテイナド・マサラといった独自のミックス・スパイスが活躍する。

 生ハーブなどの副食材で目立つのは、北ではまず香菜の使い方、これがじつにうまい。
さらにはカスリ・メティ(フェヌグリークの葉)、乾燥ザクロ、カシューナッツやアーモンドのペースト、
揚げたまねぎ、生クリームなども北の得意技。
 対する南インドは、何といってもカレー・リーフが絶妙なかくし味。加えてココナッツやタマリンドも南インドのお家芸といえる(誤解しないでいただきたいのは、カレー・リーフ、ココナッツ、タマリンドなどが北でまったく使われないというのではないということ)。

 米や豆を挽いてから発酵させ、クレープや蒸しパン、お好み焼きのような一見不思議な料理に変身させるのも南インドならでは。北ではもっぱら煮込みによく使われるダールを生のままカリカリに炒め、その独特の風味をスパイス同様に活用するのもおもしろい。

 カレーの濃度、これも違う。
 きわめて大さっぱにいえば北はトロリ系、南はシャパッとしたあっさり派がそれぞれ主流。
だから北のカレーの多くはチャパティ、プーリ、ローティ、パラタといった小麦粉パンで食べるとおいしいし、
南はパラリと軽い食感のご飯がよく似合う。
 
 味つけにしても、北はトマトやヨーグルトのマイルドなコクと酸味をメインに、
多めのたまねぎをじっくり深めに炒める。
 南インドではココナッツの甘味やタマリンドの酸味を活用し、たまねぎの量は少なめ、炒めも一般に浅い。

 日本での状況をいえば、全国の「インド料理レストラン」で食べられるインド料理のほとんどが
北インド料理かその亜流である。 
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