Taste of India

第3話 本場のガラム・マサラ


料理好き、とくにかなりカレー好きな人でも、ガラム・マサラを辛味付けのスパイスだと信じていることがある。
 また実際「辛味付けにどうぞ」と用途を説明しながら、別袋にガラム・マサラを付属したカレー・ルーを売っている食品メーカーもいる。どちらも間違いだ。

 ガラム・マサラは料理全体に独特の「風味」を付与するための混合スパイスである。ブラック・ペパーなどが入ることはあっても、その役割は決して辛味付けではない。

 いうまでもなく、本場インドにおけるガラム・マサラの配合はじつにさまざま。調理人や各家庭それぞれに秘伝かつ自慢のガラム・マサラがある。
 他方、最近では利便性を考慮した調合済みの既製品も、スパイス屋などの店頭で多くの種類が売られている。
 そうしたもののどれもが個性豊かで、ひとつとして同じ香りがないのがおもしろい。
 
 肝心の配合だが、もっともシンプルなものではわずか三種類のスパイスだけでも、きわめて優秀なガラム・マサラができる。
 三種類のスパイスとは、シナモン・スティック、クローブ、グリーン・カルダモンだ。
 当然、いずれもパウダーではない原形のものを使う。
 これらを大さじに山盛り1杯ずつ同量にすくいとり(シナモン・スティックについてはポキポキと細かく折って計りやすくしよう)、まったく油をひかないフライパンに入れたら、ごく弱火でこがさぬように空炒りする。時間にすれば5分程度で十分だろう。
 こうして余分な水分を飛ばしていったん粗熱をとったら、ミルやミキサーなどで微細な粉末にしよう。密閉できる容器に入れて、なるべく早く使い切ることだ。
 もともとはコルカタ(旧名カルカッタ)などベンガル地方等でよく使われるシンプルなガラム・マサラだが、わずか三種類のスパイスで十分な役割を果たしてくれる。

 通常ガラム・マサラに使われるスパイスとしては、ほかに、クミン・シード、ベイリーフ、ブラック・ペパー、コリアンダー・シード、フェネル・シード、ビッグ・カルダモン、ナツメグ、メースなどが挙げられる。
 だから極端な話、これらのホール・スパイス(しつこいようだが、パウダーではない原形のスパイスを使う)をお好みの配合で粉末にすれば、ご自分だけのオリジナル・ガラム・マサラが完成する。ミルやミキサーをお持ちの方はぜひやってみるといい。

 ガラム・マサラに使われるスパイスのほとんどは、原形のままオイルに加えることでも十分な香りを発揮してくれるものばかり。専門的には、数種のホール・スパイスをそのままオイルに入れて香りを出す手法を「ホール・ガラム・マサラ」と呼ぶ。粉末にしない原形のガラム・マサラというわけだ。おだやかな香りがジンワリ持続するので重宝だが、同じ材料を同一比率で使っても、香り自体は粉末と微妙に異なる。粉末にすることではじめて生ずる風味もあるのだ。

 ガラム・マサラは説得力のあるミックス・スパイス・パウダーの代表格だが、やたらに使うとできたカレーの風味がワンパターンに陥りやすい。
 この点だけには十分に注意しつつ、うまく活用しよう。

 ☆究極ともいえる、いい香りのガラム・マサラの具体的配合については拙著「誰も知らないインド料理」に詳しく解説してある。

☆新刊「カレーな薬膳」ではガラム・マサラを使用したカレーはひとつも紹介しなかった。ガラム・マサラなしでも、おいしいカレーはいくらでもできるのである。
                  

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